愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

文字の大きさ
98 / 151
サブストーリー2【私は弁えない】

しおりを挟む
 暖かなオレンジ色の光が灯る夜のカフェ。お洒落なジャズが響く店内で、私は、男と共にカップルシートの席に座って食事をしていた。

 机の上には、コース料理の最後であるデザートの盛り合わせが入っていた大皿が2つ置かれている。私はハーブティーを飲みながら、隣の席に座る男に話しかける。


「すごくいいお店だね、悠司」

「うん。頑張ってリサーチしたんだ。君に楽しんでほしくて、ね」


 高級なスーツに身を包んだツーブロックの男が、爽やかな笑顔を向ける。私は彼の言葉にとろんと表情を緩めた。

 彼は高橋悠司たかはしゆうじ。少し前に、マッチングアプリで知り合い、付き合い始めた男だ。

 曰く、全国規模で事業を展開している大企業に勤めていて、企画系の仕事をしているらしい。若手ながらに実績をあげ周りから期待されている、未来を背負うホープらしい。

 普通なら出来過ぎた話だと疑ってしまうが、ブランド物のスーツや腕時計を身に着けている所を見るに、おそらくウソではない。見た目もかなりキッチリと整っていて、常日頃から気を使っているのが伺える。

 人は余裕が無くなると、見た目に気を使えなくなる(とネットで見たことがある)。つまり見た目にきっちりと気を使えている男と言うのは、それだけ私生活で余裕があるということでもある。

 人は余裕が無くなると、他人に対してきつく当たるようになる(とネットで見た)。余裕があるということは、それだけ心が広いと言うことであり、包容力があると言うことだ。

 だからこそ、できる男ほど見た目が整っているし、良い男ほどスマートだ。彼はそれをまさに体現したような人間で、いつも私が楽しめるように気を使ってくれているし、だからこそ、一緒にいると楽しい。

 少し前に、色々あって彼氏と別れてしまったけれど。今にして思えば、きっとあれは、この人と出会うための試練のようなものだったのだと思う。

 あの時の彼氏だった雄也は、確かに良い奴だったけれど、髪の毛を金髪に染めて、パーマを当ててチャラチャラしていた。子供みたいな無邪気な笑顔がかわいらしかったけれど、アイツはいくらなんでも子供過ぎた。

 その点、今の彼氏は言動の節々からエレガントな雰囲気が漂っている。26歳、私よりも若干年上なこともあり、大人の魅力と言うのが溢れている。

 雄也とは別れてよかったのだ。まあ、他にも絡んできた男とかいたけど、今はこの人だけで満足している。

 運命の赤い糸――私はロマンチックな雰囲気にあてられて、そんな言葉が脳裏をよぎった。

 しばらくお店の雰囲気を堪能してから、悠司はレジで支払いを終え、私たちは外へと出る。

 季節はもう春。外の気温は夜であってもあまり肌寒くはなく、私たちは、大通り沿いの道を並んで歩く。


「ご飯、すごくおいしかったよ。ありがとう」

「別に、いいよ。真紀のためだから」


 悠司は優しく言いながら、私の手をゆっくりと握る。私は甘い雰囲気に醸され、彼の肩に頭を乗せる。

 彼に連れられるままに私は歩みを進める。と、少しずつ、煌びやかな電灯が辺りに灯るホテル街へと入り。


「ねえ、真紀」


 悠司は私の手を一層強く握り、語り掛ける。私は彼がどういう気なのかを察し、ギュッとその手を握り返す。


「もう少しだけ、君といたいのだけど――」


 私は彼の言葉に、「うん」と答える。私はドキドキと胸を高鳴らせながら、彼の腕に抱き着く。

 この人となら――。私はそして、悠司のリードに身を任せて、綺麗なホテルの中へと入った。


◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝。私はお洒落な部屋の中で目を覚まし、ベッドの上でゆっくりと上体を起こす。


「おはよう」


 と、悠司は既にスーツに着替えて、部屋のテーブルに座り、朝のコーヒーを飲んでいた。


「疲れてない? 大丈夫?」

「ん……うん。大丈夫」


 私はそう言うと、ゆっくりとベッドから這い出た。

 春とは言え、早朝の時間は流石に肌寒い。下着姿の私は、立ち上がってぐっと伸びをして、ため息を吐いて悠司を見る。


「……あれ、私の服は?」

「ああ、あそこに置いてあるよ」


 悠司はそう言って、床に乱雑に置かれた服を指さす。

 ……畳んだりしなかったんだ。私はぐちゃぐちゃとしわになっている服を手に取りながら、まあ、まあと眉間にしわを寄せた。


「ああ、そうだ。昨日の食事代だけど、」


 と、悠司が更に言葉を発する。私は「えっ」と目を丸くして、思わず彼の方を見つめてしまった。


「食事代って、え? 奢りじゃないの?」

「あ、ああ。ごめん。実はちょっと、今月は厳しくて。だから割り勘にしてほしいのだけど」


 私は彼の言葉を聞き、内心で「はぁ?」と呟いた。

 いや、お前。割り勘って、それならそうと先に言えよ。レジでスッと2人分払ってたから、勘違いしたじゃねぇか。

 それを今更払えって、ふざけんなよ。ホテルにまで来て、やることやっておいて。私は徐々にイライラとした感情が募っていった。


「ねえ、そう言うのは早く言ってよ」

「ごめん。俺が悪かった。ホテル代は俺が持つからさ」


 悠司がそう言って手を合わせる。私は「ッチ」と舌打ちをしてから、彼をジトッと見つめる。

 なんだよ、マジでダセェ。見栄だけ張って後からこれなら、最初からカッコつけんなよ。

 私は呆れて首を振りつつ、「わかったよ」と、ぶっきらぼうに答えた。


◇ ◇ ◇ ◇


 悠司とは別れて、そのまま私は、自宅へと帰るためにバス停に並んでいた。

 本当なら、家に(安物だけど)バイクがあるから、別にバスなんかは使わなくてもいいのだが。昨日はお酒を飲む予定だったから、流石に飲酒運転はまずいと徒歩での移動にしていたのだ。

 と言うか、そうか。この交通費も私持ちなのか。私は徐々に悠司の言動にイライラとしてきた。

 そもそも、女に飯代払わせるだけでも論外なのに、なんだよあの変な見栄の張り方。なんやかんやでホテルに連れ込まれてしっぽりとヤッちまったし、雰囲気でゴム付けなかったし。
 周期はまだ来てないし、ピルも飲んだからまあ大丈夫だとは思うけど。まあ、仮に何かあっても病院行けばいいだけだし。その時はアッチに費用持たせればいいし。

 つーか、冷静に考えたら別にヤル気なんてなかったし。なんか雰囲気に流されて、それでああなっちまったんであって。これ、訴えたら勝てるだろ。私は悶々と歯ぎしりをする。


『お前さぁ、自分が愛されてるって思ってるかもしんねぇけど、それただ都合良く利用されてるだけだから』


 ふと、私の頭の中に、以前の彼氏の言葉が浮かんできた。

 別れる時に喧嘩になって言われた言葉だ。雄也は優しかったけど、あの時は珍しく怒って、私にそんな酷いことを言ってきたのだ。

 うるせぇ。なんだよ、ちょっと別の男と会ってただけで浮気とか言いやがった癖に。別にあるだろ、男友達と会いに行くくらい。男女の友情ってのは存在するんだよ。
 都合よく利用されてるって、んなわけないだろ。私はちゃんと良い男を選んでる。少なくとも、悠司はそんな感じの男じゃない。

 ――ああ、クソ。なんか色々イライラするな。私ははぁ、とまた大きくため息を吐いた。

 と、


「……うわっ、」


 隣で、誰かが呟いた。なぜか私に向けられているような気がして、私はふと、その隣の声に目を向ける。

 そこにいたのは、痩せた体つきで、平均的な男の背丈をした、前髪で片目の隠れた陰キャ臭い男だった。

 何の捻りも無い、全身黒の服を着てこちらを見ている。私はふと、ソイツが何者なのかを思い出した。

 そうだ、コイツ、漫研のアイツじゃん。なんか、あの時、ずっと下向いてた、しょうもねぇ奴。

 そう言えば、3か月くらい前、同窓会に行った時、確かコイツが、町の社長の息子だなんだって、聞いていた気がする。私はじっと隣の男を見つめ返す。


「なに?」


 私が尋ねると、男は何も言わずに私から2歩、3歩と距離を置いた。

 露骨に私のこと毛嫌いしてんな。私は男の態度に腹が立って、なお彼に詰め寄った。


「アンタ、名前は?」

「は? え、田中です……」

「何してんの、こんなところで」

「いや別になんでもよくないっすか……」


 田中はそう言って更に私から距離を取った。私は密かに1歩距離を詰め、更に田中に話しかける。


「……アンタさ、今から暇?」


 ふと、私はなぜか、そんなことを聞いていた。田中は案の定、「は?」ときょとんとした顔で、私の方を呆然と見つめている。


「え、なんで?」

「いや、いいから」

「ひ、暇じゃないけど。買い物行く……」

「へぇ。じゃあ、暇じゃん。なら、私に付き合ってよ」

「は? な、なんでそうなるの?」

「い、いいじゃん別に。私も暇してて、相手が欲しかった所なんだよ」


 我ながら意味がわからない。なんと言うか、自分が物凄く恥ずかしく思えて来る。

 だけど、一度変な事を言ってしまった手前、もう引き下がるわけにもいかなかった。私はずっとこちらを訝しむ田中に、ずいっと迫った。


「ねぇ、付き合ってよ。私みたいなイイ女が話しかけてんだから、別にいいでしょ?」


 ちょっと前かがみになり、胸元を指で引っかけ、谷間を彼に見せる。田中はスッと目を逸らすと、「別にいい女じゃねぇだろ」とぼそりと呟いた。

 んだとコイツ。私は更に田中に詰め寄る。


「いいから、暇なんだろ? 買い物くらい付き合って」

「いや、なんで俺が付き合わなきゃなんないんっすか」

「じゃあ、付き合ってくれないなら、今から痴漢って叫ぶから」


 口から出まかせに、思い付いたことを言い放つと、田中はその瞬間に「ハァ!?」と露骨に動揺し始めた。お、コレ効くな。


「ちょっと、待てって。俺、お前のこと触ってないだろ。どういうことだよ」

「アンタ、遅れてんね。今時、痴漢って触んなくても成立すんの。見たりだとか、匂い嗅いだりとか」

「いや、してねぇだろ」

「でも今私の谷間見たよね?」


 田中はそう言われると、「ぐっ、」と私から目を逸らした。

 なるほど。コイツ、ウソが苦手なタイプか。私は田中を見上げながらニヤリと笑った。


「見たのね。ほら、いいの? アンタの人生終わらせることもできるけど」

「お前、いや、でも、証拠ねぇだろ。大体、なんだよ、触らない痴漢って」

「バーカ。痴漢ってのは私が不快に思ったかどうかで決まるのよ。んで、どうすんのよ?」


 私が彼を追い詰めると、田中は悩むように歯を食いしばり、やがて、大きな舌打ちをしてから言い放った。


「……少しだけだぞ」


 ――っしゃ。掴んだ。私は心の中でガッツポーズをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...