愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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サブストーリー2【私は弁えない】

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 時刻は10時37分。当時中学生だった私、松田真紀は、急ぎ足で町の中を歩いていた。


「やっべぇ~、遅くなった」


 私はスマートフォンをポケットから取り出しつつ、苦々しい顔で厚底のヒールを鳴らす。小規模な店舗が並ぶ路地を進むと、八階建てのショッピングビルと、その傍らの、この辺りの待ち合わせスポットである青い時計台が見えて来る。

 そして私は、その時計台の前でスマホを見ている、黒く短い髪をした、爽やかな男子へと目を移した。


「あっ、」


 私は彼を発見すると、そそくさと足を速めて駆け寄った。


「ごめ~ん、純一~。遅くなっちゃった~」


 私は申し訳ない雰囲気を醸しながらぺこぺこと言うと、純一は舌打ちをしてから、険しい表情で私を睨み付けてきた。


「30分」

「え?」

「いやだから、30分遅刻。お前さ、時間管理どうなってんの?」


 純一がイライラと私に言う。私は彼のその様子に反射的にイラッとして、「えぇ~、そんぐらい良いじゃん」と言い返す。


「それくらいって……お前さ、この前も、その前もこれくらい遅れて来たよな。しかも連絡もなしで。なに、俺のこと舐めてんの?」

「はぁ? なにその言い方」

「いやなに、じゃなくて。言いたくもなるだろ、これくらい」


 純一がやや声を荒らげると、私はそれに舌打ちをして、同じく声を低くして言葉を返す。


「なんだよ、男の癖にみみっちい奴ね。あのね、女の子って言うのは、髪の毛のセットとか、化粧とかで色々時間が掛かる物なの。これくらいの遅刻くらい、大目に見てあげるべきだと思うけど?」

「いや、朝めっちゃ早いとかならともかく、10時だぞ、集合時間。それなら間に合わせられるだろ」

「はー? じゃあなに、私だけめっちゃ早起きして、アンタのために準備しなきゃダメなの? 不公平じゃん、そんなの」

「そう言う話じゃなくってさあ。遅刻すんなって言ってんの。10分とかならともかく、30分だぞ。てかもう40分だし」

「うっせぇな、男にはこの辛さがわからんでしょうが。つーか、どうでもいいでしょ。やっちまったモンはしょうがねぇんだよ」


 私が不機嫌にそう言うと、純一は信じられない物でも見たかのように目を見開いて、やがて、舌打ちをしてから私に言い放った。


「お前さぁ……ちょっとは弁えろよ」


 彼はそう言うと、「もういい。帰るわ、俺」と私に背中を向けた。


「ちょっと! 帰るって、映画は?」

「冷めた。お前とはもう別れる」

「は? ちょっと、何それ、おい!」


 私は純一に追い縋る。と、彼は私の手をやんわりと退けると、ため息を吐いて言った。


「遅刻したこと開き直って言い訳ばっかする女とは付き合えねぇよ。ンじゃ」


 純一はそう言うとまた踵を返し、そのままとことこと私の前から去っていった。私は何度も彼に声をかけたけど、純一は振り向きもせず、私の前から去っていった。

 しばらくして、私は彼に振られてしまったことが悲しくなって、人目に触れない裏路地で泣きじゃくっていた。次の日には友達にこの事を愚痴って、それから純一のクラス内での女子評価が悪くなった気がする。

 あれからしばらくが経ったが、今にして思うと、私はアイツと付き合わなくて正解だったと思う。

 なにせ、アイツは私に「弁えろ」と言ってきたのだ。だけど、そんなのはおかしい。だって、私にだって、自分らしく生きる権利はあるはずだ。

 世間に弁えてなんかいたら、自分らしさと言うのは無くなってしまう。だから、私は弁えない。それが私の強さと言う物なのだ。


◇ ◇ ◇ ◇


 そこそこの広さの座敷部屋で、何人もの男女がわいわいと話しをしている。3つほど並べられた長机には、ビールやカクテル、海鮮系の料理や焼き鳥などのつまみが置かれ、統一感もなくごちゃごちゃとしている。

 1月の初旬。私は高校時代のクラスメイトたちと、同窓会に来ていた。

 何人かは参加しなかったが、それでも大半の人数がやって来ていて、長机を境に男女のグループに分かれて思い思いに話をしている。

 学校を卒業して3年が経つが、あの頃から変わっている者、変わっていない者等様々だ。一見なにも変化していないように見えても、話をしてみると、色々と事情が変わって、あの頃予定していた進路とは違う道を歩んでいる人も結構いた。

 私はお酒を飲みながら、隣にいる元クラスメイトの女子に話しかける。高校時代は黒髪だったが、今は髪の一部をピンク色に染めていて、かなりパンクな雰囲気が漂っている。


「ねぇ、今アンタって何してるの?」

「あー、実は大学やめちゃってさぁ。今は美容師の専門学校行くために、バイトでお金貯めてるとこ」

「えー、ヤバいね」


 私はそう言いながらケラケラと笑った。

 コイツ、大学やめたのか。親に学費払ってもらったのに卒業もせず美容師の専門学校って、しょうもないな。私は自分がコイツより上であることにほっとしながら、コップに入ったカルーアミルクをストローで飲む。


「え~!? 音々ちゃん、彼氏できたのぉ!?」


 と、その時、突然部屋の端っこの方から、アニメっぽい感じの叫び声が聞こえてきた。

 声の方へと目を向けると、クラスの陰キャ女子の2人が、向かい合って、互いの世界で話をしていた。


「ちょっ、マナちゃん、声大きいって……」

「あっ、」


 マナちゃん、と呼ばれた背の小さいおかっぱ頭の女が、ハッと辺りを見回す。会場にいる面々が、一気にマナちゃんと話をしている女へと目を向ける。

 視線の先には、長くぼさっとした髪をたずさえた背の高い女がいた。

 鬼戸川きどがわ音々ねね。全身から暗い雰囲気を漂わせる、見た感じでわかる陰キャ女子だ。

 自信の無さそうな目つきに、ひどいくま。顔にはそばかすが浮いていて、ちゃんとした手入れはされていないであろうことが見て取れる。
 肌は確かに色白だが、綺麗な白と言うよりかは、病的と言った方が良い。痩せた体つきがますますその印象を強くする。それでいて背だけは男子並みに高いため、裏ではよく、朽木だとか、細枝だとか、そんなあだ名で呼ばれていた。

 いじめられこそしていなかったが、不気味なオーラ故に一部を除いて誰も話しかけなかった、青春時代の敗北者。おおよそ異性と縁が無いであろう女だったが、そんなアイツに、彼氏ができた。

 そんな話を聞きつければ、盛り上がらないわけがない。と、クラスメイトの女子が、すっと鬼戸川に近づいて、「え~! 鬼戸川さんに彼女!?」と騒ぎ始めた。


「マジで、ちょっと見た~い! どんな人なの?」


 鬼戸川に近づいた女子は、そう言いながら、鬼戸川が持っているスマートフォンをスッと取り上げた。鬼戸川は「あっ、」と運ばれるスマホを目で追いながら、焦ったように立ち上がる。


「か、返して……」

「え~、これが鬼戸川さんの彼氏? なんか、鬼戸川さんらしいね!」


 鬼戸川からスマホを取り上げた女子は楽しそうに笑うと、途端、別の女子が「えー、私も見たい!」と声をあげた。鬼戸川からスマホを取り上げた女子は、「ん」と声をあげた女子へとスマホを渡す。


「あはっ、ホントだ! なんか鬼戸川さんっぽい!」


 スマホを受け取った女はそう言ってきゃぴっと笑った。と、マナちゃんが「ちょっと、やめてよ!」と声を出してきたが、それに割り込むようにして、私も「ちょっと、私も見たいんだけど」と話しかける。

 と、「見て、ほら!」と言いながら女子がスマホを渡して来る。私はそれを受け取ってから、画面に映った男に目を丸くした。

 ――コイツ、漫研にいた奴じゃん。
 この片目が隠れたダサい髪型。運動不足がわかりやすいほっそい体付き。捻くれ者であるのがなんとなくわかる表情。
 私がアイツらと絡んだ時に、ずっと何も言わずに下を向いてた奴。めちゃくちゃわかりやすい陰キャで、なんかキモイのがいるな、位にしか思っていなかったが。

 なんだ、彼氏ってこんな奴か。私はスマホの画面を見ながら、「ぷっ、」と小さく笑った。

 と、傍らから、「なあ、ちょっと、俺にも見せてくれよ」と、茶髪の男子が話しかけて来た。私は「はい」と言いながら男子にスマホを渡すと、ソイツは「あれ?」と怪訝そうに眉をひそめた。


「コイツ、田中じゃん」

「え、知ってんの、ソイツ?」

「おお。小学生の頃同級生だったんだよ。親が町のデカい会社の社長でさぁ、よくゲーム買ってもらったって自慢してきたんだよ」


 私は男子の話を聞いて、「えっ」と目を丸くした。しかし途端、別の女子が、「えぇー、社長の子!?」と大声をあげ、わいわいとはしゃぎ始めた。


「すごいじゃん鬼戸川さん! 玉の輿って奴じゃん!」

「えー、羨ましい! どうやって狙ったの?」

「今度私にも紹介してよ!」


 嘲りの雰囲気が、一気に羨望へと変わる。鬼戸川は周りが詰め寄って来るのに困惑して、「べ、別に、そんなんじゃ……」と下を向く。

 と、途端、


「やめなよ、みんな」


 さっき、私と話をしていた、美容師志望の女子が全員に呼びかけた。


「鬼戸川、迷惑してるじゃん。人のスマホ取って回すとかさ、非常識だよ」


 美容師志望の女子はそう言うと、ぽかんとしている男子からスマホを取り上げ、そのまま画面を見もせず、「はい」と鬼戸川へ渡す。


「ごめんね。嫌だよね、彼氏の写真見られるとかさ」

「……あ、あり、がとう……ございます……」


 鬼戸川がほっとしたように息を吐く。クラスの雰囲気が一気に悪くなり、気まずい盛り下がりが漂う。

 なんだよ、コイツ。空気読めねぇな。私は声に出さず、美容師女の迷惑さに引いてしまう。

 ――それにしても、社長の息子か。私はチラリと、鬼戸川の方へと目を向けた。

 ……なんだよ、コイツ。ブスの癖に。どうせ金目当てで男を選んだ癖に。私は誰にも聞こえないよう、「ッチ」と舌打ちをした。
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