103 / 151
サブストーリー2【私は弁えない】
7
しおりを挟む
目の前で行く手を阻む女。周囲を取り囲む男たち。私は、今の状況に心底焦り切っていた。
後ろを振り返ると、憎々しく私を睨みつける田中がいる。その両サイドには、切迫した面持ちの漫研部員のオタク共が、カメラを構え立っている。
「お――お前ら、狂ってんだろ。女の子一人を寄って集って取り囲んでって、こんなの犯罪じゃんか」
「お前を黙らせるためだよ。田中君から話を聞いた感じ、お前はいざとなると『女』を使って逃げたり被害者面をする輩だと思った。後で喚き散らされても面倒くさいから、今日一日、裏でお前を追って、田中君に何が起きていたのかを説明できるようにしていたんだ。……お前が『デート』って言っていた瞬間も、音声付きでカメラに収めてある。お前が彼に気があったのは、誰から見ても明白だ」
眼鏡のもじゃもじゃ頭が私に言う。私は奥歯を噛み締め、後ろへ一歩、二歩と下がる。
と。私の背後で、「酷いよ」と、幽霊みたいな声が響いた。
「松田さん、覚えているよ。3,4か月前の同窓会にも出てたよね。昔から、あまりいい噂の無い子だったけど……他人を脅して、食事やブランド品をたかるなんて、いくらなんでも正気じゃないよ」
私が後ろを振り向くと、鬼戸川がこちらを禍々しい目で睨みつけていた。
「昨日、全部聞いたよ。悠くん、凄く申し訳なさそうに私に謝ってたよ。悪いのはアンタなのに。アンタも、女の子ならわかるでしょ? 男の人はね、こういう立場が女性より悪いの。それを利用して良い様に使うなんて、まともな子なら思い付きさえしないよ」
一歩、また一歩と、鬼戸川は私に迫って来る。私は一歩後ろへと下がり、そして、背後にいる三人の男の気配に、それ以上後ずさる事も出来ず、迫る圧から逃れられずに。
「こんなのはね、わざわざ言わなくてもいい常識なの。聞いててずっと意味がわからなかったよ。アンタみたいな人間が、ガチで存在しているなんて。どうりで、世の中犯罪が無くならないわけだよ」
「な、なんだよ、人を犯罪者みたいに。別に、大したことねぇだろ。ちょっと奢ってもらったり、プレゼントもらう位、誰だってしてもらうだろ。それをお前――」
「アンタのは奢りでもなければプレゼントでもないよ! 脅迫なんだよ!」
鬼戸川は私の言葉にぎゃんと大声で喚き散らしてきた。
「そう言うのはね、相手が納得して、『別にいい』って思うからやってもらえるんだよ! それをアンタは、わ、私と悠くんの関係を人質にして、無理矢理迫ったんだよ!」
「あ、ハァ? いや、その、合意……合意だっただろ! だって、何も言わなくても金出してくれてたし! 大体、男だったら無理矢理払わねぇとかだってできたはずなのに、それしなかったってことは、それは結局合意なんだよ! 無理矢理なんかじゃ――」
「そんなわけないでしょ! なんでそんな意味のわからない理屈でまくしたてられるの? 自分がなにやったか、わかってるの?」
「う、うるせぇ! なんだよ、くどくどくどくど、情けねぇ! 男ならもっとスカッとしてろよ!」
「そうやっていちいち性別を引き合いに出して、自分を正当化しないでよ! 卑怯だよ、そう言うの! 立場の違いで金品を要求するなんて、人として恥ずべき事だよ!」
鬼戸川は止まろうとしなかった。とてつもない怨嗟と迫力を感じて、私はまた一歩後ろへ下がって、そして、ふと田中の方へと振り返る。
「あ――た、田中! お前、どうなんだよ! 本当の所、私と一緒にいて楽しかったんだろ! だって、お前、私が階段で転びそうになった時、助けてくれたし! 嫌いな奴助けるとか普通しないだろ! その後もなんだかんだ会ってくれたし! コイツより私の方が顔良いし! わかってんだよ、男なんてみんなそうなんだろ! 自分の彼女が地味で垢抜けねぇブ女だから、私と付き合ってくれてたんだろ! なんとか言ったらどうなんだよ!」
私が懇願するように彼に言うと、田中は、すりつぶされたゴキブリでも見るかのように、私を見下し吐き出した。
「そんなわけねぇだろ」
私は彼から返ってきた言葉に、「あっ、」と声を詰まらせて、動きを固める。
「お前、マジでどういう思考回路してたらそうなるんだよ。普通に考えればわかるだろ。お前みたいなのに付きまとわれて、迷惑しねぇ人間はいないって」
「っ……そ、そこまで言わなくても……」
「言うに決まってるだろ。昨日、音々とのデートドタキャンしろって言われた時、俺が何考えてたかわかるか?
――いくらなんでも、気持ち悪すぎる。あん時、なんとなくお前がどういう気持ちなんか察してしまって、マジで、どういう理屈でそうなっているのか、意味がわからなかった。最初からやべぇ奴だっては思ってたけど、ここまで頭のネジが飛んだ奴だとは思ってなかったよ」
私はぽかんと、彼からの言葉を受けて立ち尽くしてしまった。
なんだよ、それ。それがアンタの本音だったの?
ちょっと、待てよ。じゃあ私は、私の気持ちは一体なんだったんだよ。
ふざけんな。これじゃあまるで、私の方が頭がおかしいみたいじゃねぇか。
なんだよ。なんなんだよその目は。化け物でも見るような目しやがって。電車で叫んでる異常者でも見ているかのような顔しやがって。
ふざけんな。ふざけんな。私は、私は何もおかしくないだろ。私は呼吸を小刻みに震わせ、徐々に、徐々に息を切らして、
「――な、なんだよ。まさか、お前、私がアンタのこと、好きだったって思ってんの?」
私は、笑顔を吊り上げて、彼の言葉を嗤って見せた。
「そんなわけないだろ。ちょっと遊んでやろうって思っただけだっつの。それを、お前、察したって、バカじゃねぇの? アンタみたいなキモイオタクを好きになる女なんかいないっつの。よほどキモイ奴じゃない限り。なに勘違いしてんだよ。キモイんだよ。そういう所が、マジで、キモイって言われるんだよ!」
そうだ。私は別に、コイツのことなんか好きになっていない。
こっちが遊んでいただけだ。ちょっと、それで、熱くなっちまっただけだ。
それだけのことで、別に、なにもおかしくなんかない。それをコイツが、勝手に勘違いしただけだ。
私はこんな奴、好きだったわけじゃない。こんな奴を好きになるなんて、ありえない。
何度も、何度も、頭の中で繰り返した。そうやって、自分の気持ちを、何度も何度も再確認した。
私はおかしくない。私はおかしくない。おかしいのはお前らだ。気持ち悪いのはお前らだ。
大体、そうだろ。こんな人通りのない場所で、女を連れ込んで、男で囲んで。こいつらはそう言うことをする異常者で、犯罪者なんだ。
お前らみたいな異常者の言う言葉なんか、全部頭がおかしいに決まってる。
お前らなんか誰も信用しない。だって、お前らは異常者なんだから。
常識も弁えられない人間が、真っ当な顔して生きてるんじゃねぇよ。心の中で吐き捨て、私は、自分の中の気持ちを、確固たる物にしていく。
「……キッッッモ」
と、途端。私の背後で、鬼戸川が、ゲロでも吐くように私に言った。
私は声に反応して、後ろを振り向くと。鬼戸川は、嫌悪でも、怒りでもない表情で、私を、ただ見下していた。
とてつもない違和感のある表情だった。敢えてそれを表現するのなら、“哀れみ”と言うのが一番近かった。
怒りも、憎悪も、嫌悪感ですらも通り過ぎてしまった状態。およそ人間じゃない存在に対して向けるような、数ある感情の中でも、きっと、最上位にあるような、見下しの目。
私は鬼戸川のその感情を察した途端、何か、自分の中の感情が大きく爆発して、「おい」と声を震わせてしまった。
「なんだよ、その目。なんでアンタみたいなクソ陰キャが、私にそんな目を向けるんだよ」
私は鬼戸川を睨みつける。だけど、彼女は一切動じずに、変わらず哀れんだ目で、私を見下していた。
「ふざけんなよ。お前、調子に乗ってんじゃねぇぞ。アンタみたいな、世間の中心にもいられねぇカスが、私にそんな目を向けんなよ」
だけど鬼戸川は、その目をやめなかった。あまつさえコイツは、肩を落として、大きく、深く、ため息まで吐いて見せた。
その瞬間に、私は奥歯を噛み締めて、
「なんだよテメェ、その態度!」
鬼戸川に向けて、勢いよく掴みかかっていた。
途端、「おい!」と、後ろで男共の声がした。私はそれに構わず、鬼戸川の胸倉を掴む。
けど、その瞬間、鬼戸川は私の顔を手でつかんで、ガッと私を引き離した。
「やめた方がいいよ。体格が全然違うんだから」
細い体のどこにそんなパワーがあるんだ、と言う位の力だった。私はすぐに後ろへとよたよた下がって、そのままつまずいて尻もちを着いた。
「……ねえ、もう、やめよう? なんかさ、どうでもよくなっちゃったよ」
鬼戸川は、呆れた顔で、私以外の面子に淡々と言った。
いや、ふざけんな。こんなところで終われるかよ。私がそう思って、立ち上がろうとした瞬間、ゆっくりと、田中が私の目の前に立って、そして、大きくため息を吐いた。
「……そうだな。こんな、顔以外の全部がブサイクな女、相手にするだけ無駄だよ」
田中は鬼戸川の手を取りつつ、もはや私なんか眼中にない感じで、目線を私から切った。
その瞬間に、思い出してしまった。鬼戸川やコイツが見せた目が、一体何なのかを。
――あの時と同じだ。中学生の頃付き合っていた彼氏と別れた、あの瞬間と。
――いや。それだけじゃない。私は、この目を、何度も見ている。
付き合っていた彼氏から。仲の良かった友人から。親から。先生から。誰かわからないクラスメイトから。
この目をした後は、決まって、みんな、私のことを見限った。最低限の会話はしてくれるけれど、どこか壁があって、まるで、こう言っているようだった。
『ああ、コイツはもう、ダメだ』
そんな、諦めと言うよりかは、拒絶に近い反応。もう自分たちの領域に、コイツは絶対に入らせないという、強固な諦観。
――やめろよ。そんな目を、私に、向けるんじゃねぇよ。私は彼からの視線に息を切らすと、やがて、恐怖に駆られるように走り出した。
頭の中がパニックになった。嫌な事をいくつも思い出してしまって、感情がもう限界だった。
心の中で叫びながら、私は走った。だけど、後ろからは、もう、誰の話し声も聞こえては来なかった。
後ろを振り返ると、憎々しく私を睨みつける田中がいる。その両サイドには、切迫した面持ちの漫研部員のオタク共が、カメラを構え立っている。
「お――お前ら、狂ってんだろ。女の子一人を寄って集って取り囲んでって、こんなの犯罪じゃんか」
「お前を黙らせるためだよ。田中君から話を聞いた感じ、お前はいざとなると『女』を使って逃げたり被害者面をする輩だと思った。後で喚き散らされても面倒くさいから、今日一日、裏でお前を追って、田中君に何が起きていたのかを説明できるようにしていたんだ。……お前が『デート』って言っていた瞬間も、音声付きでカメラに収めてある。お前が彼に気があったのは、誰から見ても明白だ」
眼鏡のもじゃもじゃ頭が私に言う。私は奥歯を噛み締め、後ろへ一歩、二歩と下がる。
と。私の背後で、「酷いよ」と、幽霊みたいな声が響いた。
「松田さん、覚えているよ。3,4か月前の同窓会にも出てたよね。昔から、あまりいい噂の無い子だったけど……他人を脅して、食事やブランド品をたかるなんて、いくらなんでも正気じゃないよ」
私が後ろを振り向くと、鬼戸川がこちらを禍々しい目で睨みつけていた。
「昨日、全部聞いたよ。悠くん、凄く申し訳なさそうに私に謝ってたよ。悪いのはアンタなのに。アンタも、女の子ならわかるでしょ? 男の人はね、こういう立場が女性より悪いの。それを利用して良い様に使うなんて、まともな子なら思い付きさえしないよ」
一歩、また一歩と、鬼戸川は私に迫って来る。私は一歩後ろへと下がり、そして、背後にいる三人の男の気配に、それ以上後ずさる事も出来ず、迫る圧から逃れられずに。
「こんなのはね、わざわざ言わなくてもいい常識なの。聞いててずっと意味がわからなかったよ。アンタみたいな人間が、ガチで存在しているなんて。どうりで、世の中犯罪が無くならないわけだよ」
「な、なんだよ、人を犯罪者みたいに。別に、大したことねぇだろ。ちょっと奢ってもらったり、プレゼントもらう位、誰だってしてもらうだろ。それをお前――」
「アンタのは奢りでもなければプレゼントでもないよ! 脅迫なんだよ!」
鬼戸川は私の言葉にぎゃんと大声で喚き散らしてきた。
「そう言うのはね、相手が納得して、『別にいい』って思うからやってもらえるんだよ! それをアンタは、わ、私と悠くんの関係を人質にして、無理矢理迫ったんだよ!」
「あ、ハァ? いや、その、合意……合意だっただろ! だって、何も言わなくても金出してくれてたし! 大体、男だったら無理矢理払わねぇとかだってできたはずなのに、それしなかったってことは、それは結局合意なんだよ! 無理矢理なんかじゃ――」
「そんなわけないでしょ! なんでそんな意味のわからない理屈でまくしたてられるの? 自分がなにやったか、わかってるの?」
「う、うるせぇ! なんだよ、くどくどくどくど、情けねぇ! 男ならもっとスカッとしてろよ!」
「そうやっていちいち性別を引き合いに出して、自分を正当化しないでよ! 卑怯だよ、そう言うの! 立場の違いで金品を要求するなんて、人として恥ずべき事だよ!」
鬼戸川は止まろうとしなかった。とてつもない怨嗟と迫力を感じて、私はまた一歩後ろへ下がって、そして、ふと田中の方へと振り返る。
「あ――た、田中! お前、どうなんだよ! 本当の所、私と一緒にいて楽しかったんだろ! だって、お前、私が階段で転びそうになった時、助けてくれたし! 嫌いな奴助けるとか普通しないだろ! その後もなんだかんだ会ってくれたし! コイツより私の方が顔良いし! わかってんだよ、男なんてみんなそうなんだろ! 自分の彼女が地味で垢抜けねぇブ女だから、私と付き合ってくれてたんだろ! なんとか言ったらどうなんだよ!」
私が懇願するように彼に言うと、田中は、すりつぶされたゴキブリでも見るかのように、私を見下し吐き出した。
「そんなわけねぇだろ」
私は彼から返ってきた言葉に、「あっ、」と声を詰まらせて、動きを固める。
「お前、マジでどういう思考回路してたらそうなるんだよ。普通に考えればわかるだろ。お前みたいなのに付きまとわれて、迷惑しねぇ人間はいないって」
「っ……そ、そこまで言わなくても……」
「言うに決まってるだろ。昨日、音々とのデートドタキャンしろって言われた時、俺が何考えてたかわかるか?
――いくらなんでも、気持ち悪すぎる。あん時、なんとなくお前がどういう気持ちなんか察してしまって、マジで、どういう理屈でそうなっているのか、意味がわからなかった。最初からやべぇ奴だっては思ってたけど、ここまで頭のネジが飛んだ奴だとは思ってなかったよ」
私はぽかんと、彼からの言葉を受けて立ち尽くしてしまった。
なんだよ、それ。それがアンタの本音だったの?
ちょっと、待てよ。じゃあ私は、私の気持ちは一体なんだったんだよ。
ふざけんな。これじゃあまるで、私の方が頭がおかしいみたいじゃねぇか。
なんだよ。なんなんだよその目は。化け物でも見るような目しやがって。電車で叫んでる異常者でも見ているかのような顔しやがって。
ふざけんな。ふざけんな。私は、私は何もおかしくないだろ。私は呼吸を小刻みに震わせ、徐々に、徐々に息を切らして、
「――な、なんだよ。まさか、お前、私がアンタのこと、好きだったって思ってんの?」
私は、笑顔を吊り上げて、彼の言葉を嗤って見せた。
「そんなわけないだろ。ちょっと遊んでやろうって思っただけだっつの。それを、お前、察したって、バカじゃねぇの? アンタみたいなキモイオタクを好きになる女なんかいないっつの。よほどキモイ奴じゃない限り。なに勘違いしてんだよ。キモイんだよ。そういう所が、マジで、キモイって言われるんだよ!」
そうだ。私は別に、コイツのことなんか好きになっていない。
こっちが遊んでいただけだ。ちょっと、それで、熱くなっちまっただけだ。
それだけのことで、別に、なにもおかしくなんかない。それをコイツが、勝手に勘違いしただけだ。
私はこんな奴、好きだったわけじゃない。こんな奴を好きになるなんて、ありえない。
何度も、何度も、頭の中で繰り返した。そうやって、自分の気持ちを、何度も何度も再確認した。
私はおかしくない。私はおかしくない。おかしいのはお前らだ。気持ち悪いのはお前らだ。
大体、そうだろ。こんな人通りのない場所で、女を連れ込んで、男で囲んで。こいつらはそう言うことをする異常者で、犯罪者なんだ。
お前らみたいな異常者の言う言葉なんか、全部頭がおかしいに決まってる。
お前らなんか誰も信用しない。だって、お前らは異常者なんだから。
常識も弁えられない人間が、真っ当な顔して生きてるんじゃねぇよ。心の中で吐き捨て、私は、自分の中の気持ちを、確固たる物にしていく。
「……キッッッモ」
と、途端。私の背後で、鬼戸川が、ゲロでも吐くように私に言った。
私は声に反応して、後ろを振り向くと。鬼戸川は、嫌悪でも、怒りでもない表情で、私を、ただ見下していた。
とてつもない違和感のある表情だった。敢えてそれを表現するのなら、“哀れみ”と言うのが一番近かった。
怒りも、憎悪も、嫌悪感ですらも通り過ぎてしまった状態。およそ人間じゃない存在に対して向けるような、数ある感情の中でも、きっと、最上位にあるような、見下しの目。
私は鬼戸川のその感情を察した途端、何か、自分の中の感情が大きく爆発して、「おい」と声を震わせてしまった。
「なんだよ、その目。なんでアンタみたいなクソ陰キャが、私にそんな目を向けるんだよ」
私は鬼戸川を睨みつける。だけど、彼女は一切動じずに、変わらず哀れんだ目で、私を見下していた。
「ふざけんなよ。お前、調子に乗ってんじゃねぇぞ。アンタみたいな、世間の中心にもいられねぇカスが、私にそんな目を向けんなよ」
だけど鬼戸川は、その目をやめなかった。あまつさえコイツは、肩を落として、大きく、深く、ため息まで吐いて見せた。
その瞬間に、私は奥歯を噛み締めて、
「なんだよテメェ、その態度!」
鬼戸川に向けて、勢いよく掴みかかっていた。
途端、「おい!」と、後ろで男共の声がした。私はそれに構わず、鬼戸川の胸倉を掴む。
けど、その瞬間、鬼戸川は私の顔を手でつかんで、ガッと私を引き離した。
「やめた方がいいよ。体格が全然違うんだから」
細い体のどこにそんなパワーがあるんだ、と言う位の力だった。私はすぐに後ろへとよたよた下がって、そのままつまずいて尻もちを着いた。
「……ねえ、もう、やめよう? なんかさ、どうでもよくなっちゃったよ」
鬼戸川は、呆れた顔で、私以外の面子に淡々と言った。
いや、ふざけんな。こんなところで終われるかよ。私がそう思って、立ち上がろうとした瞬間、ゆっくりと、田中が私の目の前に立って、そして、大きくため息を吐いた。
「……そうだな。こんな、顔以外の全部がブサイクな女、相手にするだけ無駄だよ」
田中は鬼戸川の手を取りつつ、もはや私なんか眼中にない感じで、目線を私から切った。
その瞬間に、思い出してしまった。鬼戸川やコイツが見せた目が、一体何なのかを。
――あの時と同じだ。中学生の頃付き合っていた彼氏と別れた、あの瞬間と。
――いや。それだけじゃない。私は、この目を、何度も見ている。
付き合っていた彼氏から。仲の良かった友人から。親から。先生から。誰かわからないクラスメイトから。
この目をした後は、決まって、みんな、私のことを見限った。最低限の会話はしてくれるけれど、どこか壁があって、まるで、こう言っているようだった。
『ああ、コイツはもう、ダメだ』
そんな、諦めと言うよりかは、拒絶に近い反応。もう自分たちの領域に、コイツは絶対に入らせないという、強固な諦観。
――やめろよ。そんな目を、私に、向けるんじゃねぇよ。私は彼からの視線に息を切らすと、やがて、恐怖に駆られるように走り出した。
頭の中がパニックになった。嫌な事をいくつも思い出してしまって、感情がもう限界だった。
心の中で叫びながら、私は走った。だけど、後ろからは、もう、誰の話し声も聞こえては来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる