愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

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恋人編

第1話「恋と性欲は紙一重」②

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 私こと姫川詩子は、彼氏の河野真白と共に、自室でゲームに勤しんでいた。


「そっち投げるから、横スマ合わせて」

「ん、オーケー」


 私は言うと、画面に映るキャラクターを真白の扱うキャラクターへと投げる。真白はそれを受け、いい感じのタイミングで大技を決め、対戦相手のキャラクターが画面外へと吹き飛んでいく。


「おしっ、ストック有利。いけるいける」

「ん、ナイス~」


 私と真白はそんな感じの掛け声をしながら、うまく相手を翻弄していく。

 ――どこにでもある、仲の良いカップルの何気ない日常。おおよそ誰もが、この光景を見るとそう思うだろう。

 間違いではない。大いに正しい。真白と私は、おおよそ私の望み通り、こうやって、友達のような恋人と言う関係を築くことに成功している。

 私としては、そりゃあ幸せだ。幸せなのだが、ひとつ、このかけがえのない関係にも、問題が発生していた。

 それは、だ。


 ――やっべぇ。スッッッゲーセックスしたい。


 私は隣に座る真白に、情欲の入り交じった視線を向けた。

 そう。私と真白は、付き合ってもう半年以上が経過しているのにも関わらず、未だ一線を越えていなかったのだ。


◇ ◇ ◇ ◇


 6月中旬。クーラーの効いた自室の中で、私は、布団の取り払ったこたつ机に座る優花里と玲菜に話しかけた。


「いやもう……おかしいだろ……普通男だったら、もう1度や2度くらいは手ぇ出してるだろ……」

「……なんっつーか、色々大変ね、詩子……」


 優花里は頬杖を着いて、私の言葉に苦笑いを浮かべた。


「去年の12月に付き合って、これで半年だっけ? それで1回もえっちしてないって、ちょっと遅くない?」

「だよね? 私の感覚間違ってないよね?」

「私の周りだと、3ヶ月以内に済ませちゃう人が多いね」

「はぁ~、羨ましい! なんでアイツはあんなにもマジメなのよ、クソッタレ!」


 私は冗談半分に悪態をつきながら、コップに入った麦茶を飲む。と、優花里の隣に座る玲菜が、私と優花里の会話に割って入った。


「でもさ、毎回えっち求めてくる男よりは良くない? 正直私さ、詩子の話聞いてて、河野君の評価めっちゃ上がってるんだけど」

「いやいや。玲菜はわかってない。いい、して欲しい時にしてくれないって言うのは、こっちとしては嫌なの。何でもそうじゃない?」

「えー、でもさ、あんまりえっちなのも嫌じゃん。河野君はさ、本当に、体目当てじゃないんだなってわかるし。プラトニックラブって言うの? 特にアンタ胸デカイんだしさ、そう言うの、貴重だと思うよ?」

「それは確かに。けど、これはそう言う健全か不健全かって話じゃないの。需要と供給って言うか」

「私、そう言う難しい話わかんない」


 私は玲菜に「えぇ……?」と呆れた。今の発言のどこに難しい内容があったのか、マジでわからない。


「てかさ、詩子、」


 と、優花里が私に話を振る。優花里は私の返事を待たずして、私に疑問を投げた。


「ごめんだけど、まじめに理解出来ないんだけどさ。……なんで河野君とえっちしたいって思えるの?」


 私は優花里の言葉に、「はぁ? どういうこと、それ」とやや不快感を露わに聞き返した。


「やさ。ごめんだけど、河野君、ぶっちゃけ、ちょっと、そんなにカッコよくないって言うか。アレと抱き合うとか、私はちょっとキツいなって思うからさ」

「人の彼氏になんてこと言うんだよ」

「見た目の話ね、見た目の。良い奴なのはわかってるから。……詩子的には、アイツのどう言う所が、そんな気持ちにさせられんの?」


 優花里が首を傾げる。私は腕を組んで、「ん~」と唸ってから、優花里の疑問に答えた。


「……まあ、アンタの言う通り、見た目はまあ、アレだよ。けどさぁ、なんっていうか……アイツと過ごしてみたら、わかるって」

「……どういうこと?」

「例えばさぁ。私が生理の時とか、辛いって言うと、すっ飛んで来て、看病してくれるし。私が嫌なこと愚痴ると、でも、それ真剣に、優しく聞いてくれるし。あとアイツなよってしてるけど、なんか、案外いざって時男らしいって言うか」


 私は電車内で痴漢にあった時のことを思い出す。

 あの時のアイツは、本当に『私を守ってやる』と言う気概が感じられて、とにかく素敵だった。その後の対応も良かったし、相手の威圧に物怖じしていなかった所も格好良かった。

 そう。河野真白は、漫画の主人公の如く、いざ私が危ない立場になったら、すぐに私のために牙を剥いてくれるような、そう言う男なのだ。安易に暴力で解決しようとしない所もまたグッドだ。


「なるほどね~。つまり、詩子はそう言うのの積み重ねで河野君に惚れたってわけだね」


 私は優花里から相槌を打たれ、ハッと現実に引き戻される。咳払いをしながら、「う、うん。そういうこと」と私は頷いた。


「……アイツ、案外女の扱い上手いんだな」

「や。 アイツのアレは誰にでもやることだから。女の扱いって言うと、ちょっと違う」

「あー、誰にでも優しい男か。それは……ちょっと嫌だね」

「いや……それは別にいいの。だってそっちのが信頼出来るし」

「え? ……そう?」

「だって、私以外に優しくない奴って、たぶんいつか、私にも優しくなくなるから。でも、みんなに優しい奴は、根っこから優しいから、よっぽどの事しない限りは私にも優しくし続けるじゃん」


 優花里はきょとんと私を見つめる。私は自分の感性が理解されなくて、ちょっとだけ優花里の反応を残念に思った。

 と、優花里が「まあ、とにかく」と沈黙を打ち破った。


「詩子は、河野君ともう一歩先のステップに進みたい……ってことね」

「ん、うん。ソレ。……別に、ムラムラするからってよりは、そっちのが重要ってか」

「そうよねぇ。河野君、童貞臭いから、えっちをするってことは、相当特別な関係ってことになるからね」

「特別って……ま、まあ、そういうことになる……のかな?」


 私はちょっとだけ頬を染めながら答える。

 と、優花里の傍らの玲菜が、突然、とんでもないことを口走った。


「じゃあ、詩子は河野君と結婚するつもりってこと?」


 私と優花里は、「え?」と玲菜を見つめる。玲菜は「あれ、なんかおかしいこと言った?」と首を傾げ、目を丸くしていた。


「……玲菜、アンタねぇ。別にセックスしたからって、ソイツと結婚するってわけじゃないでしょ」

「えー、普通そういうもんじゃないの?」

「でもアンタ初体験の男と別れたじゃない」

「あの時はするつもりだったの!」

「アンタも存外、重い女よなぁ。嫌いじゃないけど、そういうの」


 優花里が玲菜の肩を小突く。玲菜が「なに、もう」と頬を膨れさせる。

 私はそんな2人を目にしつつ、「う~ん……」と唸り声をあげた。


「あれ、マジで悩んでるじゃん、詩子」

「……いや、まぁ。でも、結婚……かぁ」

「……そういや、河野君とその辺の話ってしたことあるの?」

「いや。……1回、その……誘った時に、その辺ちゃんと言われた」

「アンタ、えっち誘ったことあんのね」

「ん、うん。……そしたらアイツ、スッゲー真面目な顔でさ、『ちゃんと働けるようになってからじゃないと、そういうことをしちゃダメだと思う』って言ってきてさ」

「ハァ~? なにそれ、つまんな~。大体、結婚するかどうかわかんないのにんなこと言うとか、重ッ。テンションの違いで引くわ」

「まあ、それで、私も『え、結婚するってこと?』って聞いちゃったら、アイツは、『ごめん、重たいのはわかってる』って言ってさ」

「求められてなくても気持ちが重い時点で気が引けるんだけどね」

「や。私はそんな思ってないってか。……別に、アイツが重たいのは、私のことを思ってくれてるからだって理解してるからさ」


 私が優花里の言葉におずおずと言うと、優花里はじっとこちらを見つめて、やがて、ニヤリと口角を吊り上げた。


「詩子~。アンタ、結構乗り気でしょ?」

「へ?」

「相当河野君のこと気に入ってんだね。アンタ、『結婚、してもいいかも』って顔してたよ」

「ちょっ――! そ、そこまでは流石に、早いってか。ま、まだ先のことなんか考えらんないし。大体、アイツと一緒に暮らすとか……想像……」


 ――できる。なんか、今までみたいに、案外普通にだらだら過ごしてそうな情景が。ありありと。

 私は言葉を失い、黙り込む。と、優花里は楽しそうに笑いながら、「ほら。やっぱそうじゃん」と言った。


「……い、いいじゃん。別に……」

「いや。詩子、かわいい~って思って」

「うぐぅ……。…………もしそうなったら、真白の親とも会うのかな」

「あ~……まあ、そうなるよね」


 優花里が私の言葉に頷く。私は顔を赤くして、頭を抱えて机に突っ伏した。


「えぇ……アイツの親に会うとか、恥ずい。ど、どんな顔で会えばいいの……?」

「まあ少なくとも、その格好はやめた方がいいね」


 優花里が私を指差し、ちょっとだけまじめな声で言う。私は服装を指摘され、「うぐっ、」とまた声を詰まらせてしまった。


「……やっぱ、そう?」

「服は自由とか自分らしさとか言うけど、ある程度のTPOも弁えられない奴とか普通に地雷だかんね。そういう印象持たれないためにも、絶対にその格好はやめた方がいい」

「……まあ、だよね」


 私は小さくため息を吐いた。

 まあわかっている。そもそも、私がよくする格好が、巷では地雷系ファッションとも呼ばれているわけだし。

 言っていることは単純だ。ようは、他人の葬式に、ディスコみたいな姿で行くのか、と言うことだ。


「……久々に普通の服出すかぁ」

「え、詩子、ちゃんとしたの持ってるの?」

「うん。高校の頃はまともな格好してたんだからね?」

「へー、意外。あ、ごめん、意外って別に、変な意味じゃなくてね」

「普段しない格好だからねぇ。まあ、そういう印象になるのも仕方ないよ」


 私は優花里の反応に苦笑する。

 まあ、好きでやっていることなのだし、この格好でもこうやって付き合ってくれるだけ万々歳だ。特に女子の社会は、やたらこう言う格好に関するマウントが甚だしい物だし。

 私たちはその後も、くだらない話をして、今日はそのまま解散した。
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