言霊の魔造師~低ランクパーティさえ追放された劣等の僕が、オリジナルの魔術で英雄になるまでの話~

オニオン太郎

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第8話『フィオナ・レインフォード 4』

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「それでですね、私、武闘大会の時に騎士様達の戦いを見て、すっごく憧れちゃいましてね! 凛々しくて、気高くて、格好良くて、私もああなりたいって思いまして! それで必死に勉強して、必死に頑張って、いつか絶対高名な騎士になるんですよ! そりゃあ今は上手くいってないけど、頑張ればいつか、夢が叶うって私、信じてるんです!」


 フィオナはあれ以降、矢継ぎ早に自身の夢や名高い騎士達の話をし続けていた。

 どうやらその憧れは本物らしい、彼女の目は無邪気な子供のように輝き、表情も終始緩みきっていた。エルはそんな彼女の姿に、やはり、自分自身の姿を、重ねてしまっていた。


「きっとエルさんとの出会いも、頑張っている私に、神様が寄越してくれた運命なんだって思ってるんですよ。あなたは私の未来を、きっと変えてくれる。あなたと1週間過ごして、そんな予感が、確信になってるんです!」

「――君は、どうして僕をそんなに持ち上げるの? わかってるでしょ、僕も君と同じDランクだよ。少し、君や他の同じランクの人には悪いけど、言っちゃなんだけど底辺ランクの人間だよ? ……貶されこそすれど、崇められるのは本当に、よくわからないよ」

「でもでも、あなたは実際問題凄いじゃないですか。ランクが低いのもきっと、何かの間違いですよ。私が見たところ、あなたは普通にSランクくらいの実力はありますよ、ええ!」


 だから、僕はそんなに凄い人じゃない。エルは苦味を噛み潰すような思いに駆られ、しかし、その一言を言うことはなかった。


 ――と。


「あっ! フィオナじゃない」


 突如後ろから声が聞こえた。明らかにフィオナの声ではない。そのさらに後ろにいる何者かの声だ。


 エルとフィオナは後ろを振り向き、声の主が誰なのかを確認する。

 彼らの目の前にいたのは、1人の、青い髪をした少女だった。

 腰にシンプルな剣を下げ、少しばかり高価そうな鎧で身を包んでいる。髪型はフィオナと瓜二つだが、少しばかり髪質が固いのか、後ろ髪がところどころ外にはねていた。

 エルは思わず、この少女の瞳にたじろいでしまった。迫力があるわけではない。むしろ彼女は、フィオナと同じくらいには子供らしい見た目をしている。ただ、そのあまりに真っ直ぐな、どこまでも汚れを知らない純粋な瞳が、エルには眩しすぎたのだ。


「やっぱりフィオナだ! うわあ、3年ぶりだ! 元気してた? まったく連絡くれないから凄く心配したんだよ!」

「ちょ……リネア! あ、あなたなんでここにいるの!? 学校はどうしたの!?」

「ああ、今日は外で実戦訓練をするから、ここに来ているんだけど……」

「えっ……てことは、みんな・・・来てるの!?」


 フィオナが狼狽した。エルはその様子に違和感を覚え、瞬間、彼女がどうして自分を師事しようとしたのかを思い出した。


『私、共鳴、できないんですよ』
『それが明らかになった途端に除籍を言い渡されました』


 彼女は自分と同じく、落ちこぼれたから除籍処分になったんだ。エルは彼女が辿ったであろう人生の軌跡を想像した途端、思わずフィオナの手を掴んでいた。


「行きましょう、フィオナさん」

「あ、え、えっと、は、はい……」

「ちょ、ちょっとまって!」


 途端、エルはリネアと呼ばれた少女に呼び止められてしまった。


「あ、あなたは誰ですか? えっと、ふぃ、フィオナとは、一体どういう……」

「答える必要はないよ。とにかく急いでここを離れましょう、フィオナさん。学校の奴らともしも鉢合わせたら……」


 途端、少し離れた位置から「おい、待て、リネア」と、リネアを呼ぶ凛とした声が聞こえてきた。


「まったく、元気がいいのは良いが、だからと言って先走るな。いくらBランクに上がったからって、お前はまだまだ未熟なんだから」

「あ、ごめんなさい、師匠マスター。えへへ、つい、活躍したくって……」

「意欲的なのは結構だが、だからと言って統率は乱すな。集団から離れては、思わぬ事に食い殺されてしまうぞ」

「ご、ごめんなさい……。あ、そう言えば師匠マスター! フィオナがね、フィオナがいましたよ! ほら!」


 リネアは無邪気な声でエルたちを指差した。エルはキュッと胃を握られた気分になり、心の中で『やめてくれ、彼女に嫌な思いをさせないでくれ』と呟いた。

 エルは「行こう」とフィオナの手を再度引っ張る。しかし、凛とした美しい声が、エルの動きを止めさせてしまった。


「お前――まさか、エル・ウィグリーか?」


 エルは困惑した。なぜ、この声の主は、自分の名前を知っているのだと。

 エルはゆっくりと後ろを見る。

 そこにいたのは。


『何の努力もしないからそうなったのだ』


 13年間、何度も何度も苛まれた、あの言葉を言った張本人。エルにとっては、もっとも、会いたくない人物。


「……ラザ、リア、さん……」


 名前を忘れたことは片時もない。エルが最もされたくなかった、『努力の否定』をした人物。

 艶やかな緑髪をなびかせた、高潔な女騎士。彼女こそが、その昔、自身と同級生だった女生徒――ラザリア・ヴァーミリオンだった。
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