3 / 20
第3話
しおりを挟む
◇――第1月曜日 AM10時30分――◇
あの後――竜輝に裏切られ、服を脱がされた後。未来は裸を写真で撮られたり汚いモップで体をいじられたりと散々な目にあった。
そんな出来事にあった後だからか、彼女は学校へ行く気にはなれなかった。不幸にも自分をいじめるグループは自分と同じクラス。
学校へ行けば鉢会うことは間違いない。今はとにかく彼女たちと顔を合わせるどころか、視界に入れることさえ嫌だ。
怒り。それだけではない。屈辱と、悔しさ。そしてなによりも大きいのが悲しさと不安、恐怖。弱みを握られた恐ろしさ。
あの顔を見た途端。今日一日はずっとその感情を味わわねばならない。もちろん会わなくても味わうのだが、それでも会ってしまうよりかは何倍も苦味が少なかった。
未来は町を歩く。この町は自分が住んでいる県では3番目に大きい程度だが、それでも様々な店が並んでいる。未来の目的はそれらの店ではなく、ある1つの探偵事務所だった。
しばらく歩いてたどり着く。季節の変わり目で不安定な天候の時期。そんな曇天の中で確かに存在感を放つ、窓に書かれたその大文字。
赤坂探偵事務所――。一階のソラマメハウスという店の上に構えられた地味な探偵事務所。未来にとってその事務所が大きな存在感を放つのには理由があった。
仕返し屋。未来の学校で噂されていた復讐代行業者だ。赤坂探偵事務所という名前を聞きそれと仕返し屋を合わせて検索すると、この住所が出てきたというわけだ。
未来の心臓は鳴っていた。復讐代行。どう考えても「そっち」の仕事だ。アウトなことは簡単に見て取れる。ネット検索では「復讐を依頼したら詐欺だった」という話まである。どうやら「復讐を依頼すること自体が犯罪なのでお前は文句言えねーよなぁ?」という脅し文句を使い泣き寝入りさせているのだという。
赤坂探偵事務所。ここも「仕返し屋」だと言うのなら――。未来はその可能性が頭に浮かび上がるたび喉をゴクリと鳴らした。
ソラマメハウス脇にある階段を上り、二階へ。そして「赤坂探偵事務所」の扉の前に立ち、緊張の面持ちでゆっくりドアをノックする。
トントン、その音が未来の耳に入った途端。
「入ってきていいですよ」
少し気の抜けた声が聞こえてきた。未来はあまりの早さに戸惑うが、それでも意を決して事務所の中へ入る。
中に入って、彼女の目に飛び込んできたのはあまりに汚い部屋だった。
しっかりしているのは家具の置き場所だけ。来客用のソファーの上には何やら本が無造作に積み上げられて、棚などには何か適当な物が適当に乱雑に置かれていた。唯一綺麗と言えば床だけで、そこだけには清潔にしようという努力の跡がよく見られていた。
未来は少し引いてしまっていた。いかにもオーナーという男は本を顔にかぶせて椅子の背もたれに完全にもたれかかってだらしない雰囲気を全力で出していたからだ。
「予定の時間は午後って言ってたのにもう来てしまったのですか。お客さんが来るかもしれないのに涼子(りょうこ)さんは本当にせっかちですね」
声が少し笑っている。口では文句たらたらだが何やら嬉しそうだ。しかし未来はその嬉しさの理由も彼の態度もまったくわけがわからないと言った感じで、ただ固まったまま何も言わなかった。
しばらくして、男は何やら怪しむような様子を見せながら顔にかぶせた本を軽くあげる。
その瞬間男は突然居住まいを正して全力の営業スマイルで未来を見た。
「どうも、どんな依頼もすぐさま解決、謙虚堅実誠実がモットーのスーパー赤坂探偵事務所です。以後お見知りおきを」
「え? あ、はぁ」
男は全力の営業スマイルでまくしたてた。早口だ。音速の口を持つ男。
未来はやせ細って髪の毛がボサボサのその男を引きつった笑みで見つめながら、背負ったリュックの紐を右手でギュっと握りしめ、左手では履いている制服用スカートを握りしめた。
すごく不安だ。未来の心に闇が生まれた。
するとその痩せた長身の男はジロジロと未来を観察しだした。眼球がすごく動いている。そしてしばらく未来を舐めまわすように見た後――
「いじめの依頼ですか?」
男は何の脈拍もなく、未来が来た理由を言い当ててしまった。
「な、なんで……」
「制服を着ているということは君は学生です。そして今は10時30分を回ったぐらいの月曜日、つまり学生はもう既に学校でお勉強をしている時間帯です。つまり君は学校をサボってここへ来たということ。おそらく朝早く来るのは非常識だとこの時間まで暇を潰していたのでしょう。
そして中身が入っていそうなリュックを持っているということは、学校へ行く準備はしっかり整っている。ただサボるのならそんなものを用意しなくてもいい、つまり用意する必要のある理由があったということです。
そこまでの周到な用意をして、なぜあなたは学校へ行かず、“仕返し屋”の業務を受け持つ僕の探偵事務所へやってきたのか?
その理由は簡単です。周到な用意をしたのは、親を欺(あざむ)くため。仕返し屋に来たのは誰かに何かをやり返したいため。この2つを合わせると――“いじめ”が一番可能性が高いのですよ。何よりも、君の見た目は地味で根暗でいじめにあいやすそうですから」
痩せた男はすさまじい速さで次々と言葉を投げつけた。未来はその言葉1つ1つを全て聞き、ただ舌を巻いていた。
――全部、当たっている。制服を着たのも、学校へ行く準備をしたのも、地味で根暗でいじめにあいやすそうな見た目をしているのも……
「って、いじめにあいやすそうな見た目って何ですか!」
「あ、ごめんなさい。つい口走ってしまいました」
「それがもう余計なんですよ! 口走ったって完全に初見からそう思っていたってことじゃないですか!」
男は「ぐふっ」と言いながら笑顔を固める。
「ま、まあとにかく僕の前に座ってください」
「ソファーが汚いのですけど」
「むぐぐ……」
そう言って男は立ち上がり、窓から景色を見つめだした。
「とりあえず、事情を話してください。――それを聞かない限りは僕はあなたに依頼するかどうかは尋ねません」
男がくるりと振り返る。その眼差しは真剣だった。
未来の心臓がビクリと跳ねる。彼のその目、それは明らかに何かを判断しようと頭を働かせる目だったからだ。
緊張感が高まる。心臓の鼓動が速くなる。未来はそれを滲ませながら、ゆっくり口を開き、
声が、出なかった。
なんで、なんで、なんで? その理由は本人自身が一番わからなかった。ただ何か、漠然とした大きな不安が、恐怖が。最初の一歩を踏み出すことを止めていた。
しばらくの時が流れる。時計の針が鳴り出す。それを見つめていた男は、突然ため息を吐いて、
「嫌ならやめた方がいいですよ」
未来に優しく語り掛けた。
「仕返し屋、という仕事もしている僕が言うのも変ですが……そもそも復讐なんてのはしない方が健全なんですよ。だって復讐しなかったら、相手と自分、お互いが仲良くなってお互いハッピーエンド。そんなことだってあるのですからね」
その声は優しかった。優しかったけど、納得いかなかった。
未来の心に残った一言。「お互いハッピーエンド」。そんなのは、彼女の選択肢に無かった。
あいつらは、自分を窘(たしな)め笑っていた。自分を見下し笑っていた。終いにはあんなことをされ、そんなことがあってもなお「ハッピーエンドを迎える」。
あってはならないことだった。そんなことは、社会倫理上起こってはいけない。善が悪に尽くし、悪を笑わせる。善も笑えたとしても、結局悪のボロ儲け。奴らは対価を払わず利益を得る、逆に対価を払うのは善の人たち。
そんなことは、絶対に、あってはならなかった。
「――聞いてください。私の、話を」
未来は怒りにも似た声をあげ、男をジッと睨んだ。男はそれを見て、どこか不適な笑みを浮かべた。
「わかりました。事情を聞きましょう。
あ、僕の名前を言っておきます。僕は“赤坂啓吾(あかさかけいご)”、見ての通り探偵事務所のオーナーです」
痩せた男は細い目をさらに細め、未来をどこか優しく見ていた。
あの後――竜輝に裏切られ、服を脱がされた後。未来は裸を写真で撮られたり汚いモップで体をいじられたりと散々な目にあった。
そんな出来事にあった後だからか、彼女は学校へ行く気にはなれなかった。不幸にも自分をいじめるグループは自分と同じクラス。
学校へ行けば鉢会うことは間違いない。今はとにかく彼女たちと顔を合わせるどころか、視界に入れることさえ嫌だ。
怒り。それだけではない。屈辱と、悔しさ。そしてなによりも大きいのが悲しさと不安、恐怖。弱みを握られた恐ろしさ。
あの顔を見た途端。今日一日はずっとその感情を味わわねばならない。もちろん会わなくても味わうのだが、それでも会ってしまうよりかは何倍も苦味が少なかった。
未来は町を歩く。この町は自分が住んでいる県では3番目に大きい程度だが、それでも様々な店が並んでいる。未来の目的はそれらの店ではなく、ある1つの探偵事務所だった。
しばらく歩いてたどり着く。季節の変わり目で不安定な天候の時期。そんな曇天の中で確かに存在感を放つ、窓に書かれたその大文字。
赤坂探偵事務所――。一階のソラマメハウスという店の上に構えられた地味な探偵事務所。未来にとってその事務所が大きな存在感を放つのには理由があった。
仕返し屋。未来の学校で噂されていた復讐代行業者だ。赤坂探偵事務所という名前を聞きそれと仕返し屋を合わせて検索すると、この住所が出てきたというわけだ。
未来の心臓は鳴っていた。復讐代行。どう考えても「そっち」の仕事だ。アウトなことは簡単に見て取れる。ネット検索では「復讐を依頼したら詐欺だった」という話まである。どうやら「復讐を依頼すること自体が犯罪なのでお前は文句言えねーよなぁ?」という脅し文句を使い泣き寝入りさせているのだという。
赤坂探偵事務所。ここも「仕返し屋」だと言うのなら――。未来はその可能性が頭に浮かび上がるたび喉をゴクリと鳴らした。
ソラマメハウス脇にある階段を上り、二階へ。そして「赤坂探偵事務所」の扉の前に立ち、緊張の面持ちでゆっくりドアをノックする。
トントン、その音が未来の耳に入った途端。
「入ってきていいですよ」
少し気の抜けた声が聞こえてきた。未来はあまりの早さに戸惑うが、それでも意を決して事務所の中へ入る。
中に入って、彼女の目に飛び込んできたのはあまりに汚い部屋だった。
しっかりしているのは家具の置き場所だけ。来客用のソファーの上には何やら本が無造作に積み上げられて、棚などには何か適当な物が適当に乱雑に置かれていた。唯一綺麗と言えば床だけで、そこだけには清潔にしようという努力の跡がよく見られていた。
未来は少し引いてしまっていた。いかにもオーナーという男は本を顔にかぶせて椅子の背もたれに完全にもたれかかってだらしない雰囲気を全力で出していたからだ。
「予定の時間は午後って言ってたのにもう来てしまったのですか。お客さんが来るかもしれないのに涼子(りょうこ)さんは本当にせっかちですね」
声が少し笑っている。口では文句たらたらだが何やら嬉しそうだ。しかし未来はその嬉しさの理由も彼の態度もまったくわけがわからないと言った感じで、ただ固まったまま何も言わなかった。
しばらくして、男は何やら怪しむような様子を見せながら顔にかぶせた本を軽くあげる。
その瞬間男は突然居住まいを正して全力の営業スマイルで未来を見た。
「どうも、どんな依頼もすぐさま解決、謙虚堅実誠実がモットーのスーパー赤坂探偵事務所です。以後お見知りおきを」
「え? あ、はぁ」
男は全力の営業スマイルでまくしたてた。早口だ。音速の口を持つ男。
未来はやせ細って髪の毛がボサボサのその男を引きつった笑みで見つめながら、背負ったリュックの紐を右手でギュっと握りしめ、左手では履いている制服用スカートを握りしめた。
すごく不安だ。未来の心に闇が生まれた。
するとその痩せた長身の男はジロジロと未来を観察しだした。眼球がすごく動いている。そしてしばらく未来を舐めまわすように見た後――
「いじめの依頼ですか?」
男は何の脈拍もなく、未来が来た理由を言い当ててしまった。
「な、なんで……」
「制服を着ているということは君は学生です。そして今は10時30分を回ったぐらいの月曜日、つまり学生はもう既に学校でお勉強をしている時間帯です。つまり君は学校をサボってここへ来たということ。おそらく朝早く来るのは非常識だとこの時間まで暇を潰していたのでしょう。
そして中身が入っていそうなリュックを持っているということは、学校へ行く準備はしっかり整っている。ただサボるのならそんなものを用意しなくてもいい、つまり用意する必要のある理由があったということです。
そこまでの周到な用意をして、なぜあなたは学校へ行かず、“仕返し屋”の業務を受け持つ僕の探偵事務所へやってきたのか?
その理由は簡単です。周到な用意をしたのは、親を欺(あざむ)くため。仕返し屋に来たのは誰かに何かをやり返したいため。この2つを合わせると――“いじめ”が一番可能性が高いのですよ。何よりも、君の見た目は地味で根暗でいじめにあいやすそうですから」
痩せた男はすさまじい速さで次々と言葉を投げつけた。未来はその言葉1つ1つを全て聞き、ただ舌を巻いていた。
――全部、当たっている。制服を着たのも、学校へ行く準備をしたのも、地味で根暗でいじめにあいやすそうな見た目をしているのも……
「って、いじめにあいやすそうな見た目って何ですか!」
「あ、ごめんなさい。つい口走ってしまいました」
「それがもう余計なんですよ! 口走ったって完全に初見からそう思っていたってことじゃないですか!」
男は「ぐふっ」と言いながら笑顔を固める。
「ま、まあとにかく僕の前に座ってください」
「ソファーが汚いのですけど」
「むぐぐ……」
そう言って男は立ち上がり、窓から景色を見つめだした。
「とりあえず、事情を話してください。――それを聞かない限りは僕はあなたに依頼するかどうかは尋ねません」
男がくるりと振り返る。その眼差しは真剣だった。
未来の心臓がビクリと跳ねる。彼のその目、それは明らかに何かを判断しようと頭を働かせる目だったからだ。
緊張感が高まる。心臓の鼓動が速くなる。未来はそれを滲ませながら、ゆっくり口を開き、
声が、出なかった。
なんで、なんで、なんで? その理由は本人自身が一番わからなかった。ただ何か、漠然とした大きな不安が、恐怖が。最初の一歩を踏み出すことを止めていた。
しばらくの時が流れる。時計の針が鳴り出す。それを見つめていた男は、突然ため息を吐いて、
「嫌ならやめた方がいいですよ」
未来に優しく語り掛けた。
「仕返し屋、という仕事もしている僕が言うのも変ですが……そもそも復讐なんてのはしない方が健全なんですよ。だって復讐しなかったら、相手と自分、お互いが仲良くなってお互いハッピーエンド。そんなことだってあるのですからね」
その声は優しかった。優しかったけど、納得いかなかった。
未来の心に残った一言。「お互いハッピーエンド」。そんなのは、彼女の選択肢に無かった。
あいつらは、自分を窘(たしな)め笑っていた。自分を見下し笑っていた。終いにはあんなことをされ、そんなことがあってもなお「ハッピーエンドを迎える」。
あってはならないことだった。そんなことは、社会倫理上起こってはいけない。善が悪に尽くし、悪を笑わせる。善も笑えたとしても、結局悪のボロ儲け。奴らは対価を払わず利益を得る、逆に対価を払うのは善の人たち。
そんなことは、絶対に、あってはならなかった。
「――聞いてください。私の、話を」
未来は怒りにも似た声をあげ、男をジッと睨んだ。男はそれを見て、どこか不適な笑みを浮かべた。
「わかりました。事情を聞きましょう。
あ、僕の名前を言っておきます。僕は“赤坂啓吾(あかさかけいご)”、見ての通り探偵事務所のオーナーです」
痩せた男は細い目をさらに細め、未来をどこか優しく見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる