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第4話
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◇――第1火曜日 AM7時10分――◇
その後1日が経ち、未来は学校へ来ていた。
昨日、契約を結んだ後にあの啓吾という男は未来に指示を出した。
『火曜日の早朝に御手洗(みたらし)高校の1―A教室へ行ってください。そこに協力者がいます』
御手洗高校とは、未来の通っている私立の学校のことだ。朝早くに学校へ行くことに慣れている未来は、特に苦もなく指示通りに動いていた。
しばらく走って、校門をくぐる。生徒玄関で靴を履き替え、そのまま廊下を歩いて教室に向かう。
そして教室の前に立ち。未来は、緊張した面持ちでゆっくりと扉を開けた。
ガラガラガラ。朝の静かな学校に音が響く。そして未来が見たのは、一番窓際に座る1人の少年だった。
最前列の席。黒く短い髪の童顔なその少年は、白い封筒をなにやら不思議そうに見つめていた。
「あ、あの……」
未来は声を上げる。少年がそれに気付いてこちらを見た。封筒を机の中に入れた後、立ち上がってこちらへ向かってくる。
「ああ、あんたが依頼してきた人?」
初対面にも関わらず生意気な口を働く。未来はこの男子に苦手意識を感じた。
「あ、あなたが協力者ですか?」
「ん? あー、うん。そうだよ。俺が、あんたの協力者」
未来が同時に感じていたのは、どうしようもないくらいの頼りなさだった。
何と言っても小さい身長。未来の身長は150代後半ほどの平均的な物だが、目の前の男子は自分よりも握り拳1つ分低かった。とても男子高校生とは思えない。
体はかなり筋肉質だが、釣り合わない童顔。顔だけで考えるならピカピカの新中学生な彼を見て、未来は苦笑いが止まらなかった。
「あ、あはは。あ、えっと、わ、私は白雪未来です。あなたは?」
「俺? 俺は若山(わかやま)怜斗(れいと)だ。よろしく」
怜斗と名乗った男子はそう言うと、「にしてもよ~」と言いながらジロジロとこちらを観察してきた。
な、なに? 未来が言いようもない気持ち悪さを感じていると、突然怜斗はニコリと笑いだした。
「いやぁ、いくらバイトっつってもこんなかわいい子が俺に会いに来てくれたとか、すっげぇ嬉しいなー!」
「あ、は!? かわ、いぃ!?」
何を言ってるんだこの人? 未来はひどく困惑していた。今までの会話の流れでなぜそうなるのかがわからなかった。
「いんやぁ、憧れてたんだよね。かわいい子が俺のために走ってくる光景に。まあ望みとはちょっと違うけどこれは良しとするか。にしても、あんたの苗字変わってるよな。白雪って。後でりんごでもあげようか? 未来ちゃん♪」
気持ち悪いから下の名前で呼ぶのはやめてほしい。未来は頬を引きつらせて気付かない間にどんどん進んでいく会話を見送っていた。
いやいや、見送ってる場合じゃない!
「そ、それよりも! 昨日、啓吾さんに言われた事を……」
「お? ああ、そうだな。そんじゃあまず確認しよう。昨日、何か渡されたよな?」
未来はそう言われてしっかりと頷いた。スカートのポケットに手を入れて、そこから昨日渡された物を出す。
携帯録音機(ボイスレコーダー)。怜斗はそれを見て満足したようにウンと頷いた。
「よし。使い方はわかるよな?」
「必要になったら、さりげなくスイッチを押す」
「そうだ。後は簡単だ。それ使って、どんどん証拠を作ればいい。お前の場合は、えっと、その……」
怜斗が明らかに言葉に詰まった。未来はその先に何が言いたいかを理解して、彼の言葉をつないだ。
「……いじめ、ですね」
「あ、ああ。そう、そうだ。確かにそう……。
あ、安心しろ! 大丈夫だって! 高校生のいじめなんてかなりやりやすいって啓吾言ってたしよ! それに、いざとなったら俺がいる! なんかあったら俺が守ってやるからよ! 俺を頼れって、な?」
怜斗は無理に笑ったが、それが未来にとってはむしろ嫌な物で、そのまま暗い表情になりうつむいてしまった。怜斗がそれを見て大慌てで身振り手振りを大きくする。
「元気出せって! うまくやりゃなんとかなるって! まあ、確かに、バレたらとか考えると怖いだろうけどさ……。で、でも俺もいるしよ! だから大丈夫だって! な?」
怜斗はそう言って、未来の肩をバンと叩いた。未来が顔を上げる。
「……うん、わかったよ。大丈夫」
未来はそう言って笑う。怜斗がそれを見てどこかホッとした顔をした。
――単純な人だ。未来は彼を、小さく見た。
「それじゃあ、私、自分のクラスに戻るね」
「おう! そういやお前何組だっけ?」
「D組」
未来はそう言って、足音を立てながら自分のクラスへと急いだ。
その後1日が経ち、未来は学校へ来ていた。
昨日、契約を結んだ後にあの啓吾という男は未来に指示を出した。
『火曜日の早朝に御手洗(みたらし)高校の1―A教室へ行ってください。そこに協力者がいます』
御手洗高校とは、未来の通っている私立の学校のことだ。朝早くに学校へ行くことに慣れている未来は、特に苦もなく指示通りに動いていた。
しばらく走って、校門をくぐる。生徒玄関で靴を履き替え、そのまま廊下を歩いて教室に向かう。
そして教室の前に立ち。未来は、緊張した面持ちでゆっくりと扉を開けた。
ガラガラガラ。朝の静かな学校に音が響く。そして未来が見たのは、一番窓際に座る1人の少年だった。
最前列の席。黒く短い髪の童顔なその少年は、白い封筒をなにやら不思議そうに見つめていた。
「あ、あの……」
未来は声を上げる。少年がそれに気付いてこちらを見た。封筒を机の中に入れた後、立ち上がってこちらへ向かってくる。
「ああ、あんたが依頼してきた人?」
初対面にも関わらず生意気な口を働く。未来はこの男子に苦手意識を感じた。
「あ、あなたが協力者ですか?」
「ん? あー、うん。そうだよ。俺が、あんたの協力者」
未来が同時に感じていたのは、どうしようもないくらいの頼りなさだった。
何と言っても小さい身長。未来の身長は150代後半ほどの平均的な物だが、目の前の男子は自分よりも握り拳1つ分低かった。とても男子高校生とは思えない。
体はかなり筋肉質だが、釣り合わない童顔。顔だけで考えるならピカピカの新中学生な彼を見て、未来は苦笑いが止まらなかった。
「あ、あはは。あ、えっと、わ、私は白雪未来です。あなたは?」
「俺? 俺は若山(わかやま)怜斗(れいと)だ。よろしく」
怜斗と名乗った男子はそう言うと、「にしてもよ~」と言いながらジロジロとこちらを観察してきた。
な、なに? 未来が言いようもない気持ち悪さを感じていると、突然怜斗はニコリと笑いだした。
「いやぁ、いくらバイトっつってもこんなかわいい子が俺に会いに来てくれたとか、すっげぇ嬉しいなー!」
「あ、は!? かわ、いぃ!?」
何を言ってるんだこの人? 未来はひどく困惑していた。今までの会話の流れでなぜそうなるのかがわからなかった。
「いんやぁ、憧れてたんだよね。かわいい子が俺のために走ってくる光景に。まあ望みとはちょっと違うけどこれは良しとするか。にしても、あんたの苗字変わってるよな。白雪って。後でりんごでもあげようか? 未来ちゃん♪」
気持ち悪いから下の名前で呼ぶのはやめてほしい。未来は頬を引きつらせて気付かない間にどんどん進んでいく会話を見送っていた。
いやいや、見送ってる場合じゃない!
「そ、それよりも! 昨日、啓吾さんに言われた事を……」
「お? ああ、そうだな。そんじゃあまず確認しよう。昨日、何か渡されたよな?」
未来はそう言われてしっかりと頷いた。スカートのポケットに手を入れて、そこから昨日渡された物を出す。
携帯録音機(ボイスレコーダー)。怜斗はそれを見て満足したようにウンと頷いた。
「よし。使い方はわかるよな?」
「必要になったら、さりげなくスイッチを押す」
「そうだ。後は簡単だ。それ使って、どんどん証拠を作ればいい。お前の場合は、えっと、その……」
怜斗が明らかに言葉に詰まった。未来はその先に何が言いたいかを理解して、彼の言葉をつないだ。
「……いじめ、ですね」
「あ、ああ。そう、そうだ。確かにそう……。
あ、安心しろ! 大丈夫だって! 高校生のいじめなんてかなりやりやすいって啓吾言ってたしよ! それに、いざとなったら俺がいる! なんかあったら俺が守ってやるからよ! 俺を頼れって、な?」
怜斗は無理に笑ったが、それが未来にとってはむしろ嫌な物で、そのまま暗い表情になりうつむいてしまった。怜斗がそれを見て大慌てで身振り手振りを大きくする。
「元気出せって! うまくやりゃなんとかなるって! まあ、確かに、バレたらとか考えると怖いだろうけどさ……。で、でも俺もいるしよ! だから大丈夫だって! な?」
怜斗はそう言って、未来の肩をバンと叩いた。未来が顔を上げる。
「……うん、わかったよ。大丈夫」
未来はそう言って笑う。怜斗がそれを見てどこかホッとした顔をした。
――単純な人だ。未来は彼を、小さく見た。
「それじゃあ、私、自分のクラスに戻るね」
「おう! そういやお前何組だっけ?」
「D組」
未来はそう言って、足音を立てながら自分のクラスへと急いだ。
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