Revenge 仕返し屋―復讐の代理人―

オニオン太郎

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第13話

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◇――第2火曜日 AM7時50分――◇

 インターホンを押すとピンポンと鳴り響く。機械から「はい」と声がする。

「あ、白雪のお母さんですか? ……あの、迎えに来たんですけど……」
≪あら、この前の……怜斗くんだっけ?
 ……そう、来てくれたの。でも、ごめんね。未来、学校に行きたがらないから≫

 怜斗はその言葉を聞いて、「そう、ですか……」と呟いて、諦めたようにその場を後にした。

 日曜日。啓吾から、ネットに画像が流出したことが告げられた。午後の3時ごろに呼び出されてその事を伝える時、啓吾はひどく苦しそうで、彼は未来に頭を下げた。
 それから、未来は自分の部屋に閉じこもって、外へ出ようとしなかった。怜斗は月曜日、そして今日とこの家へやって来たが、結局彼女を外に出す事は出来なかった。

◇――同日――◇

 その後。怜斗は学校へ行って、机に突っ伏して、陰鬱な感情をずっと抱えていた。しばらくそうしていると、隣のBクラスから誠治の怒声が聞こえてきた。竜輝を責めているような内容だった。
 怜斗は、Bクラスへ行き竜輝をなんとか止めた。だが、それでもクラスからの白い視線を、止める事は出来なくなっていた。水野雄が、どこか申し訳なさそうな顔でこちらをずっと見ていた。

 クラスに戻って、昼休みにでもなると。どうやら噂が立っているらしく、自分の名前が度々上がっていた。怜斗はそんなもの、とずっと机に突っ伏していた。

 放課後、誠治は部活をサボって自分についてきた。校門で加奈を待つ時、彼はなぜかそわそわしていて。加奈が来た時、彼女は体操服を着ていて、髪はなぜか濡れていて、バッグは少し埃かぶっていて。誠治は何があったかを悟り、加奈から事情を聞きだしてひどく憤っていた。

 未来の家へ行き、その後の様子を尋ねると。彼女は相も変わらず、部屋から出てこないらしかった。3人は、何かをしようと考えたが、なにもできなかった。
 なにも、できなかった。怜斗はその言葉を頭の中で反芻し、そして何度も実感した。

 自分たちは負けた。自分たちは負けたのだ、と。

◇――第2水曜日 PM12時45分――◇

 今朝も未来の家へ行って、なにもできずに学校へ来て。そんな陰鬱な時間を過ごして、怜斗はやはり机に突っ伏していた。
 なにもできない。なにもできない。怜斗は自分の力不足が、どこまでも呪わしかった。

 と、背中になにやらくしゃくしゃの紙が当たる。必要のない紙を当ててクラスの誰かがからかっているだけ、怜斗はそれでも机に突っ伏していた。なにも、反応したくない。なにもしたくない。
 そしてしばらくそうして過ごすと。

「――れいと、くん?」

 なにか、かわいらしい声。怜斗は顔を上げて、その主を見た。
 三つ編みおさげに地味な銀メガネ。少し恥ずかしそうに、不安そうにおろおろする彼女。

「ああ、ウッちゃんか」
「覚えてくれてたね。えっと、大丈夫? 月曜からずっと元気がないけど……」

 消えそうな声でそう尋ねる彼女。怜斗は、ゆっくり口を開いて。

「今俺に関わんない方がいいよ。……お前がメンドーになるだけだ」

 そう、ため息まじりに答えてまた突っ伏した。

「わかってるよ、そんなの。でも、放っておけないし……」
「なんで? 俺、お前と大して話したことないはずだけど」
「えっと……怜斗くんは知らないと思うけど、わたし、怜斗くんのおかげでちょっと救われてるし……」

 怜斗はそれがよくわからなかった。頭に疑問符を浮かべながら、「なんで?」と尋ねる。と、詩恵は少し笑って。

「怜斗くんが、わたしのことかわいいって言ってくれたから。自信がついて、それで……」
「……あんな言葉で俺に気を持ったのか?」
「い、いや、そんなんじゃないよ! 本当に、怜斗くんには恩人って気持ちしか……。うん、でも。実はね。先週の火曜日に、わたし告白されて」

 怜斗はまさかの言葉に思わず食いついた。

「告白された?」
「う、うん。呼び出されてね。今までのわたしなら、きっと、『こんなのウソだ』って受けなかったと思う。だって、ブスに告白なんて……って。でも、怜斗くんが言ってくれた言葉でわたし、自信がついて。それで、わたし生まれて初めて彼氏ができて。嬉しくってさ、自分が認められた気がして」
「……口ぶりが、なんか断れなかったって感じだけど」
「うっ……。ま、まあそうでもあるけど……。でも、わたしにとっては大きい一歩。彼、良い人だし。日曜には家にも入(い)れたし」

 照れたように怜斗から視線を逸らした。怜斗はその惚気話には引きつった笑みを浮かべるしかなく、そのまま机にまた突っ伏した。

「あ、ご、ごめんね! こんな自慢話聞きたくないよね?」
「……うん。それで、ウッちゃんはなんで俺に関わるの?」
「あ、ごめんね。話が遠回りしちゃって。だ、だからね、その。
 ……わたしに大きな一歩を踏み出させてくれた。そんは恩人の怜斗くんが困っているんなら、わたしも、力になりたいなって。これは、わたしの恩返しだよ」

 怜斗は、それを聞いて顔を上げた。自分に協力してくれる、そう言ってくれる人がいる。その実感は、彼の中に1つ、大きな一歩を踏み出せそうな何かを生んで。怜斗は、彼女をしっかり見て、一番に聞きたいことを尋ねた。

「――落ち込んで、本当にどうしようもなくて、なにもしたくないってほどにまで気が沈んだ時。なにを、して欲しいって思う?」

 その言葉は自分でもひどく笑えるような、おかしなものだった。でも、その気持ちは真っ直ぐで、心にはそれだけが満たされた。しばらく詩恵は考えて、そして、やがて。

「――なにも、しなくていい」

 そう、微笑みながら答えた。

「わたしが落ち込んだらね。なにもしなくてもいい。なにもしようとしなくていい。ただ、わたしの側にジッといて、わたしを支えてくれたら、それでいい。わたしを安心させてくれて、わたしを想ってくれたなら。それでわたしは、また元に戻れると思う」

 詩恵の言葉は心に響いた。そうか、そうか。なにもしなくて、よかったんだ。特別なことは、なにも。怜斗は足から頭にまで湧き上がる震えを感じて、ニッと笑った。

「あんがとよ、ウッちゃん。……そうだよな。俺はあいつを、支えるって決めたんだ。だったら、それをするだけだ。
 すまねーな。俺、見失ってた。お前がいなかったら、俺、ダメだったかもしんねー。本当に、ありがとうな」

 怜斗が顔を向けると、詩恵は驚いたように目を大きくしたが、すぐに。

「うん!」

 明るく、かわいく笑った。怜斗はそれを見て「うしっ」と言って立ち上がり。

「放課後、また白雪の家に行こう。そんで……まあ、そん時考える!」

 そう大きく宣言した。
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