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第14話
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◇――第2水曜日 PM4時40分――◇
部屋の奥、隅っこでうずくまる。ベッドの上で身を抱えて、ただじっと下を見つめる。かわいらしい飾り付けが今はうっとうしくて片隅に置いた大きなクマのぬいぐるみの目が今は怖くって。未来は今日一日、何もしゃべらず、この部屋で過ごし続けていた。
外へ出れば人に見られる。おそらく自分の裸をネットで見た人の、気持ちの悪い視線。頭の中で「そんなことない」と理解しつつも、未来は部屋から出ようとは思えなかった。ドアを見ると体が震える、動こうとすると体が震える。部屋から出てリビングで食事をするときが、一番の恐怖。未来はもう、なにもかもをどうでもいいと思っていた。
と、下の階から扉が開く音がする。母親が開けたのだろう、きっと今日もまた怜斗が来たのだろう。必死に無視を決め込んだのに、何度も何度も関わってきて。彼の厚意が未来にはひどく、うっとうしかった。
「未来ー、お友達来てるわよー」
母親の声が聞こえてきた。知らない、知らない。未来はジッと動かなかった。
階段を上る音が聞こえて。ドアの前まで足音がすると、トントンと。
「白雪。来たぞ」
怜斗の声が、聞こえた。未来はでも、聞きたくないというふうに目を閉じて、ベッドの中で耳を塞いで、ジッと彼の声を無視し続けた。
未来はもう、嫌だった。どうせ、どうせ、もう終わり。もう無駄。もう何もしたくない。そんな陰鬱な気持ちがずっと続いて、未来は無気力になっていた。
そして、どれくらいか、時間が流れた。いつの間にか、眠っていた。こんなにも心は疲れているのに、眠ることはできてしまう。未来は少しぼさついた頭を揺らして、ゆっくり体を起き上がらせた。
と、トントンと。ノックの音が、未来の頭を覚醒させた。
「白雪ー、ごめんな。俺、そろそろ帰るからさ。また明日も来るよ」
怜斗の声だ。未来はうんざりしながら、なぜかふっと時計を見た。
現在時刻は午後の8時。未来はこんな時刻までいた怜斗に呆れかえった。
「――バカな、人」
その日、初めて。未来は初めて、まともな声を出した。
◇――第3土曜日 AM10時00分――◇
家のピンポンが鳴り響く。未来は部屋から出ようとせず、誰かが家を開けるのを待っていた。
ガチャリ、扉の開く音がする。聞こえてきたのは、自分の母親と怜斗が話す声。未来はそれを無視して、無視して。
ダンドンドン、スタ、スタ、スタ。階段を上がって、部屋に近づいてくる。
トントン。ノックが、響いた。
「白雪。今日も来たぞ」
怜斗の声。これで6日連続だ。未来はしばらく返事もしなかったら、「よいしょっとぉ」と気楽な声が聞こえて、そのままドスンと音がした。
何も、言わない。何も、喋らない。何も聞こえないのじゃない、何も、音がしない。時が止まったようで、確かに時間が過ぎていく。未来はジッと座ったまま、カーテンを閉め切った暗い部屋でドアを見つめていた。
時間が過ぎていく。時間が過ぎていく。未来はしばらくして、ぐぅ、とお腹が鳴るのを感じた。ああ、そうか、もうお昼か。
「白雪、もう昼だ。腹、減らねーか?」
怜斗が察したように声を出す。未来は黙って顔を膝にうずめて、何も、答えなかった。
「――そうか。まあ、減るっちゃ減るわな。待ってろよ、飯持ってきてやる」
怜斗がそう言って下へ降りていく。未来はドアをなんとなしに、見つめていた。
◇――第3土曜日 PM5時21分――◇
あれから何時間も過ぎていて。怜斗はそれでも、ジッとドアの前に座っていたようだ。すぐ横のトイレに入る時くらいしか、動いた気配はない。未来は怜斗のその様子が、なぜかすごくイライラした。
「――わかやま、くん?」
声には若干の怒りを含ませて。怜斗が「ん?」と聞き返してきた。
「どうしてあなたは、そこで何もしないで、ジッとしているの?」
未来は部屋の隅で苦々しく顔を歪めた。怜斗が答えてくる。
「俺がお前を、支えるって約束しちまったから」
彼の声は笑っていた。だから余計に、イライラする。
「なんで、そんなバカなことするの? 今日一日、もっと有意義に過ごせたんじゃない? なんで私なんかに、構おうとするのよ」
「それが俺にとって有意義だからだよ。お前に何もしてやれなかった、そのせめてもの罪滅ぼし。――いろいろ考えてたけどよ。何もしなくていいって、教えられて、気づかされて。俺はだから、ここでお前が出てくるのを待とうって、そう決めたんだ」
怜斗の声ははっきりしていた。未来はその、はっきりした声を聞いた瞬間に、
「バカじゃないの!」
反射的に叫んでいた。
「私は、私はもう自分のことなんかどうでもいいの! だからみんなもどうでもいいの! そんな私に一体あなたは、何を期待しているの!? 私はもう消えちゃいたいの! それなのにどうして、あなたは私に関わるのよ! もういいのよ! 誰も来ないで、誰も私に気が付かないで! あなたが来るたびに、私は……! すごく、迷惑に……!」
混乱は大きく。未来は立ち上がっていて、ドアの真ん前に立って身を振り乱し。何を言っていたのか、何が言いたかったのか、それをもう忘れて、そればかりを考えていた。未来がひとしきり言い終えた後。怜斗は、「そうか」と呟いた。
「――そんじゃ、俺はもう帰るとするよ」
未来はそれを聞いて、動きを固めてしまった。どうでもいい、どうでもいい、どうでもいい。
「んじゃーな、白雪」
未来は声を絞っていた。ただそれは、ほんのわずか自分の耳にだけ届いた程度。トントンと、怜斗が階段を下りる音が聞こえた。未来はその音が遠ざかったのを認識して、床へとぺたり、尻もちをついて。
「……」
暗いカーペットを見つめ続けていた。
◇――第3日曜日 AM10時00分――◇
カチコチと時計の音が鳴る。今日は7時には起きていた、寝る前から今の時間まで、ずっとじっと考えた。
昨日の言葉は、最悪だった。私の言いたいことは絶対に違っていたけれど、でも、あの言葉がつい出てきてしまっていた。ずっとじっと考えて、私が出した結論は1つ。
自分が嫌だった。迷惑をかけている自分こそが、なによりも嫌な存在だった。未来の中でその真実が大きくなって、それは自然と、彼女を泣かせていた。
怖い、怖いよ。狭くて苦しい、誰か助けて。未来のその気持ちを占めた圧迫感は、全て昨日の言葉が原因。「誰か」で浮かんだのは、なぜか怜斗ばかりだった。
もう、来ないかもしれない。未来の漠然とした不安が大きくなって、ぐす、ぐすとすすっていると。
「白雪、大丈夫か?」
あの声が、聞こえた。未来は直ぐに、ドアの前に歩いて行って、ドアノブに、手を――。
――触れられ、なかった。
「――大丈夫、だよ。若山くん。昨日は、ごめんね。あんなにも、怒鳴っちゃって」
「いいよ。お前が今混乱しているのはわかってる。俺も空気読めねーで来ちまってるしさぁ」
ははは、と怜斗が笑った。未来は唇を、噛みしめて。
「ごめん、ごめんね、若山くん。私、自分のことばかり……」
「謝んなくていいって。俺は好きでこうしてるんだから、お前の愚痴を聞くのも好きでやっているんだ。まあそれでお前が元気になれるんなら、俺は全然、かまわねーぜ」
へっへっへ、とまた笑った。未来は目を、ドアから逸らした。
「ねえ、若山くん。本当になんで、私なんかに関わるの?」
ドアを通した声の投げ合い。未来は次に帰ってくる言葉を受け止められるか不安で仕方なかった。そして、怜斗が言ったのは。
「俺が、お前の、友達だからっしょ」
怜斗の声が笑った。未来は言葉が強く、胸にぶち当たって。
「……ふぇ、ぇ……えぇ……ん――」
情けない声を出して、泣いていた。怜斗はなんでか、何も言わなかった。でも、扉の向こうから伝わる想いは暖かくって。未来の中で、怜斗が友達なんかより大きな存在になっていたのを、未来は感じていた。
部屋の奥、隅っこでうずくまる。ベッドの上で身を抱えて、ただじっと下を見つめる。かわいらしい飾り付けが今はうっとうしくて片隅に置いた大きなクマのぬいぐるみの目が今は怖くって。未来は今日一日、何もしゃべらず、この部屋で過ごし続けていた。
外へ出れば人に見られる。おそらく自分の裸をネットで見た人の、気持ちの悪い視線。頭の中で「そんなことない」と理解しつつも、未来は部屋から出ようとは思えなかった。ドアを見ると体が震える、動こうとすると体が震える。部屋から出てリビングで食事をするときが、一番の恐怖。未来はもう、なにもかもをどうでもいいと思っていた。
と、下の階から扉が開く音がする。母親が開けたのだろう、きっと今日もまた怜斗が来たのだろう。必死に無視を決め込んだのに、何度も何度も関わってきて。彼の厚意が未来にはひどく、うっとうしかった。
「未来ー、お友達来てるわよー」
母親の声が聞こえてきた。知らない、知らない。未来はジッと動かなかった。
階段を上る音が聞こえて。ドアの前まで足音がすると、トントンと。
「白雪。来たぞ」
怜斗の声が、聞こえた。未来はでも、聞きたくないというふうに目を閉じて、ベッドの中で耳を塞いで、ジッと彼の声を無視し続けた。
未来はもう、嫌だった。どうせ、どうせ、もう終わり。もう無駄。もう何もしたくない。そんな陰鬱な気持ちがずっと続いて、未来は無気力になっていた。
そして、どれくらいか、時間が流れた。いつの間にか、眠っていた。こんなにも心は疲れているのに、眠ることはできてしまう。未来は少しぼさついた頭を揺らして、ゆっくり体を起き上がらせた。
と、トントンと。ノックの音が、未来の頭を覚醒させた。
「白雪ー、ごめんな。俺、そろそろ帰るからさ。また明日も来るよ」
怜斗の声だ。未来はうんざりしながら、なぜかふっと時計を見た。
現在時刻は午後の8時。未来はこんな時刻までいた怜斗に呆れかえった。
「――バカな、人」
その日、初めて。未来は初めて、まともな声を出した。
◇――第3土曜日 AM10時00分――◇
家のピンポンが鳴り響く。未来は部屋から出ようとせず、誰かが家を開けるのを待っていた。
ガチャリ、扉の開く音がする。聞こえてきたのは、自分の母親と怜斗が話す声。未来はそれを無視して、無視して。
ダンドンドン、スタ、スタ、スタ。階段を上がって、部屋に近づいてくる。
トントン。ノックが、響いた。
「白雪。今日も来たぞ」
怜斗の声。これで6日連続だ。未来はしばらく返事もしなかったら、「よいしょっとぉ」と気楽な声が聞こえて、そのままドスンと音がした。
何も、言わない。何も、喋らない。何も聞こえないのじゃない、何も、音がしない。時が止まったようで、確かに時間が過ぎていく。未来はジッと座ったまま、カーテンを閉め切った暗い部屋でドアを見つめていた。
時間が過ぎていく。時間が過ぎていく。未来はしばらくして、ぐぅ、とお腹が鳴るのを感じた。ああ、そうか、もうお昼か。
「白雪、もう昼だ。腹、減らねーか?」
怜斗が察したように声を出す。未来は黙って顔を膝にうずめて、何も、答えなかった。
「――そうか。まあ、減るっちゃ減るわな。待ってろよ、飯持ってきてやる」
怜斗がそう言って下へ降りていく。未来はドアをなんとなしに、見つめていた。
◇――第3土曜日 PM5時21分――◇
あれから何時間も過ぎていて。怜斗はそれでも、ジッとドアの前に座っていたようだ。すぐ横のトイレに入る時くらいしか、動いた気配はない。未来は怜斗のその様子が、なぜかすごくイライラした。
「――わかやま、くん?」
声には若干の怒りを含ませて。怜斗が「ん?」と聞き返してきた。
「どうしてあなたは、そこで何もしないで、ジッとしているの?」
未来は部屋の隅で苦々しく顔を歪めた。怜斗が答えてくる。
「俺がお前を、支えるって約束しちまったから」
彼の声は笑っていた。だから余計に、イライラする。
「なんで、そんなバカなことするの? 今日一日、もっと有意義に過ごせたんじゃない? なんで私なんかに、構おうとするのよ」
「それが俺にとって有意義だからだよ。お前に何もしてやれなかった、そのせめてもの罪滅ぼし。――いろいろ考えてたけどよ。何もしなくていいって、教えられて、気づかされて。俺はだから、ここでお前が出てくるのを待とうって、そう決めたんだ」
怜斗の声ははっきりしていた。未来はその、はっきりした声を聞いた瞬間に、
「バカじゃないの!」
反射的に叫んでいた。
「私は、私はもう自分のことなんかどうでもいいの! だからみんなもどうでもいいの! そんな私に一体あなたは、何を期待しているの!? 私はもう消えちゃいたいの! それなのにどうして、あなたは私に関わるのよ! もういいのよ! 誰も来ないで、誰も私に気が付かないで! あなたが来るたびに、私は……! すごく、迷惑に……!」
混乱は大きく。未来は立ち上がっていて、ドアの真ん前に立って身を振り乱し。何を言っていたのか、何が言いたかったのか、それをもう忘れて、そればかりを考えていた。未来がひとしきり言い終えた後。怜斗は、「そうか」と呟いた。
「――そんじゃ、俺はもう帰るとするよ」
未来はそれを聞いて、動きを固めてしまった。どうでもいい、どうでもいい、どうでもいい。
「んじゃーな、白雪」
未来は声を絞っていた。ただそれは、ほんのわずか自分の耳にだけ届いた程度。トントンと、怜斗が階段を下りる音が聞こえた。未来はその音が遠ざかったのを認識して、床へとぺたり、尻もちをついて。
「……」
暗いカーペットを見つめ続けていた。
◇――第3日曜日 AM10時00分――◇
カチコチと時計の音が鳴る。今日は7時には起きていた、寝る前から今の時間まで、ずっとじっと考えた。
昨日の言葉は、最悪だった。私の言いたいことは絶対に違っていたけれど、でも、あの言葉がつい出てきてしまっていた。ずっとじっと考えて、私が出した結論は1つ。
自分が嫌だった。迷惑をかけている自分こそが、なによりも嫌な存在だった。未来の中でその真実が大きくなって、それは自然と、彼女を泣かせていた。
怖い、怖いよ。狭くて苦しい、誰か助けて。未来のその気持ちを占めた圧迫感は、全て昨日の言葉が原因。「誰か」で浮かんだのは、なぜか怜斗ばかりだった。
もう、来ないかもしれない。未来の漠然とした不安が大きくなって、ぐす、ぐすとすすっていると。
「白雪、大丈夫か?」
あの声が、聞こえた。未来は直ぐに、ドアの前に歩いて行って、ドアノブに、手を――。
――触れられ、なかった。
「――大丈夫、だよ。若山くん。昨日は、ごめんね。あんなにも、怒鳴っちゃって」
「いいよ。お前が今混乱しているのはわかってる。俺も空気読めねーで来ちまってるしさぁ」
ははは、と怜斗が笑った。未来は唇を、噛みしめて。
「ごめん、ごめんね、若山くん。私、自分のことばかり……」
「謝んなくていいって。俺は好きでこうしてるんだから、お前の愚痴を聞くのも好きでやっているんだ。まあそれでお前が元気になれるんなら、俺は全然、かまわねーぜ」
へっへっへ、とまた笑った。未来は目を、ドアから逸らした。
「ねえ、若山くん。本当になんで、私なんかに関わるの?」
ドアを通した声の投げ合い。未来は次に帰ってくる言葉を受け止められるか不安で仕方なかった。そして、怜斗が言ったのは。
「俺が、お前の、友達だからっしょ」
怜斗の声が笑った。未来は言葉が強く、胸にぶち当たって。
「……ふぇ、ぇ……えぇ……ん――」
情けない声を出して、泣いていた。怜斗はなんでか、何も言わなかった。でも、扉の向こうから伝わる想いは暖かくって。未来の中で、怜斗が友達なんかより大きな存在になっていたのを、未来は感じていた。
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