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魔王はとってもいい人
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古ぼけた広い王室が、轟く雷に照らされた。俺は床に座り込み、玉座の前に立つ魔王を睨みつけた。
コウモリのような羽。頭から生える2本の角。そして、悪魔とも言える恐ろしい顔貌。ロープで体を縛り付けられた俺は、そのあまりの威圧感に思わず喉を鳴らした。
「貴様が、異世界から召喚されし者――ムダ・カツヒトか」
魔王の着ているマントが大きくはためき、その下のローブが顔を見せる。明らかな人外を前にした俺は、不適に笑い、
「ああ、そうだよ、おっさん」
といきがることしかできなかった。
俺はこの世界に来てからの自分の運命を呪っていた。こうなってしまったのには、少し込み入った事情がある。
端的に説明すると――俺は異世界に召喚されたのだ。
あれは2日前か。コンビニでカップラーメンを買った帰り、俺は不可解な現象に遭遇した。
空から降ってきた光に飲み込まれ、気付けば今までとは全く違う景色にいたのだ。
中世ヨーロッパ風とでも言おうか。そんな石造りの城の中で、よくわからない魔法陣の中心に立っていた。
俺の目の前には、王様やらお姫様やら魔導師たちやらがいて、何やら異世界――つまりは、俺のいた現代。そこから勇者の適正に合う奴を召喚しようとしたらしい。
ここまでは、俺が勇者となり、魔王を打ち倒す流れとなるはずなのだが……現実には、そうはならなかった。
まず、現代から異世界に召喚されたのは、俺だけじゃなかった。もう一人、俺以外に男がいた。
そいつは高校時代の俺の友人で、今は大学に通っている。ちなみに俺は高卒で20歳のフリーターだ。
さらにおかしかったのは、勇者として召喚したのはその友人だけで、俺は手違いでこの世界に飛ばされたらしい。
何がムカつくかと言うと、俺はそこから元の世界へ帰してもらえなかったのだ。手違いで呼んだ俺には勇者としての適正がないらしく、異世界転移により付属するらしい魔力とやらも、平均以下の能力でしかなかったとか。
それがわかるや否や、奴らは俺を城から、いや、城のあった町から追い出した。そして、2日間外をさまよい歩き、魔物と言える存在に捕まり、今に至るという訳だ。
目の前にいる魔王は、俺を品定めするかのように見下す。
と、奴は突然「ははははは!」と笑い出し、興味を失ったかのように俺に背を向けた。
「魔力も並の人間以下、知恵も勇気も無さそうな若造だ。これが異世界から召喚されし勇者だと? 笑わせる。人間もとうとう万策尽きたと言うわけか」
ちなみに、魔王率いる魔王軍と、人間達が立ち上げた連合軍は対立している。俺は詳しくはわからないが、その辺の情報は来た際に説明された。
しかしこいつ、大きな勘違いをしているな。俺はこの世界へ来てからの自分の経緯を思い出して、思わず鼻で笑ってしまった。
「ところで、勇者カツヒトよ――」
やばい、今の笑いが聞こえてしまったか!? 俺は迫る命の危機に心臓が縮んだ。
そして魔王は、こちらを振り返りながら――
小さな絵を、何枚か取り出した。
「この子を、どう思う?」
「――は?」
見せつけてきたのは、小さな魔族の女の子の絵だった。魔族は人の形に近い魔物と言える存在で、かなり上位のモンスターらしい。
肌は青白く、髪はブラックパープル。赤ちゃんだろうか、俺は少し可愛らしい女の子に微笑した。
「どうだ、かわいいだろう? これはな、我が娘ラキアが生まれてまもない頃の絵でな。どうだ、このプリプリの肌、サラサラとした髪。そして青く純粋な瞳。ふははは、流石我の子だ、もう可愛くて可愛くて仕方がないとしか言いようが――」
「魔王様」
と、俺の近くにいた狼人間の魔族が、魔王に話しかけた。
「ラキア様の話は今、関係ございません。それよりも本題を」
「貴様、我が娘の自慢を止めるのか?」
「はい。今は関係ございませんので」
「むぅ……。かわいいのに」
なんだこの魔王面白いぞ。俺は思わず吹き出してしまった。
と、それを聞いた魔王が「ぐふん!」と大きく咳払いをした。たかだか咳払いだが、大気を震わすほどの威力があった。
「本題に入ろう、勇者カツヒト。貴様は今から処刑される。勇者さえ死ねば、我らの勝利は確実。我ら魔族たちのために、貴様は命を――」
「あの、悪いけど。俺、勇者じゃないんだけど?」
魔王は「え?」と素っ頓狂や声を上げた。
「いや、あのな……」
俺はそう言って、事の経緯を説明した。すると魔王はプルプルと震えだし、酷く憤った様子で禍々しいオーラを噴出させ始めた。
「おのれ人間共、何たる無礼を。関係の無い異世界人を巻き込んでおいて、あまつさえ元の世界へ帰さないだと? 非道にも程がある」
「いや、あんたさっき俺のこと殺そうとしたじゃん。何、勇者は例外なの?」
「勇者は死ねば元の世界へ帰れるのだ。元々この世界との結び付きが強いのでな。ついでに死ねばここでの記憶もなくなる」
えぇ……つまりローリスクな異世界旅行かよ。クソ、アイツだけずるいぞ。
あれ? てことは俺はどうなるのよ? 異世界に召喚された、結び付きの弱い俺は?
魔王にそれを尋ねると、奴は覚えている事を自然と語るように答えた。
「貴様が死ねば、元の世界へは帰れず死ぬ。元々来るはずのない存在だったのだ、そもそも召喚の際に死ななかっただけでも運がいい」
なんだよそれ、俺危うく死んでたってことかよ!? 俺は魔王の説明を聞いて血の気が引いた。
「ちょ、俺どうなるの!? 魔王の城で、人間が、1人で! 死亡フラグ以外立ってないじゃん!」
「まあ待て人間よ。勇者でもなんでもない異世界人Aの貴様を、無下に扱うなどせぬわ。こちらの申し訳が立たぬ」
「はぁ……そっすか」
何この魔王、凄くいい人。俺は安堵のあまりため息を漏らした。
「しかし、そうなると貴様の住処が必要だな――。そう言えば、ラキアの隣の部屋が空いていたな」
「はぁ、娘さんの部屋……。え? つまり、どういうこと?」
「すまぬが、貴様を我が元の世界へ帰すことは叶わぬのだ。人間の魔術により召喚されし者は、人間の魔術によってしか帰ることが出来ぬ」
「え、じゃあ、俺、頼むしかないの? 俺を見捨てたあいつらに?」
「まず無理だろうな。そこで、貴様には――我が魔王軍が人間共を屈服させるまで、この城にいてもらうことにする!」
「……は?」
「人間共を屈服させたあかつきには、貴様を元の世界へ返そうではないか! 大丈夫だ、衣食住の保証は完膚無きまでしてやろう! それが異世界人を巻き込んだ、我らこの世界の民の責任と言えるだろう!」
「いやいやいやいや、おかしいっす! だいたい、あんたらが責任取る必要ねーだろ! 住まわせてもらえるのはありがたいけどよ――」
「貴様にとっては、我らも人間共も等しく異世界人であろう? ならば我らにも責任はあるのだ」
何この魔王、めっちゃいい人。俺はあまりにいい人すぎる魔王様に、思わず気が引けてしまった。
「ダメダメダメ! そういうのは、ちゃんとしなきゃダメなの! わかる!? なんで人間の不手際のしわ寄せをあんたらが食らわなきゃならない! 責任を取るってのなら、俺は出ていくぞ!」
「ならば魔王命令だ。ここで暮らせ。さもなくば死ね」
魔王はぎらりと爪を光らせた。何この魔王超怖い。俺はぶるってしまい、魔王の言葉に従ってしまった。
コウモリのような羽。頭から生える2本の角。そして、悪魔とも言える恐ろしい顔貌。ロープで体を縛り付けられた俺は、そのあまりの威圧感に思わず喉を鳴らした。
「貴様が、異世界から召喚されし者――ムダ・カツヒトか」
魔王の着ているマントが大きくはためき、その下のローブが顔を見せる。明らかな人外を前にした俺は、不適に笑い、
「ああ、そうだよ、おっさん」
といきがることしかできなかった。
俺はこの世界に来てからの自分の運命を呪っていた。こうなってしまったのには、少し込み入った事情がある。
端的に説明すると――俺は異世界に召喚されたのだ。
あれは2日前か。コンビニでカップラーメンを買った帰り、俺は不可解な現象に遭遇した。
空から降ってきた光に飲み込まれ、気付けば今までとは全く違う景色にいたのだ。
中世ヨーロッパ風とでも言おうか。そんな石造りの城の中で、よくわからない魔法陣の中心に立っていた。
俺の目の前には、王様やらお姫様やら魔導師たちやらがいて、何やら異世界――つまりは、俺のいた現代。そこから勇者の適正に合う奴を召喚しようとしたらしい。
ここまでは、俺が勇者となり、魔王を打ち倒す流れとなるはずなのだが……現実には、そうはならなかった。
まず、現代から異世界に召喚されたのは、俺だけじゃなかった。もう一人、俺以外に男がいた。
そいつは高校時代の俺の友人で、今は大学に通っている。ちなみに俺は高卒で20歳のフリーターだ。
さらにおかしかったのは、勇者として召喚したのはその友人だけで、俺は手違いでこの世界に飛ばされたらしい。
何がムカつくかと言うと、俺はそこから元の世界へ帰してもらえなかったのだ。手違いで呼んだ俺には勇者としての適正がないらしく、異世界転移により付属するらしい魔力とやらも、平均以下の能力でしかなかったとか。
それがわかるや否や、奴らは俺を城から、いや、城のあった町から追い出した。そして、2日間外をさまよい歩き、魔物と言える存在に捕まり、今に至るという訳だ。
目の前にいる魔王は、俺を品定めするかのように見下す。
と、奴は突然「ははははは!」と笑い出し、興味を失ったかのように俺に背を向けた。
「魔力も並の人間以下、知恵も勇気も無さそうな若造だ。これが異世界から召喚されし勇者だと? 笑わせる。人間もとうとう万策尽きたと言うわけか」
ちなみに、魔王率いる魔王軍と、人間達が立ち上げた連合軍は対立している。俺は詳しくはわからないが、その辺の情報は来た際に説明された。
しかしこいつ、大きな勘違いをしているな。俺はこの世界へ来てからの自分の経緯を思い出して、思わず鼻で笑ってしまった。
「ところで、勇者カツヒトよ――」
やばい、今の笑いが聞こえてしまったか!? 俺は迫る命の危機に心臓が縮んだ。
そして魔王は、こちらを振り返りながら――
小さな絵を、何枚か取り出した。
「この子を、どう思う?」
「――は?」
見せつけてきたのは、小さな魔族の女の子の絵だった。魔族は人の形に近い魔物と言える存在で、かなり上位のモンスターらしい。
肌は青白く、髪はブラックパープル。赤ちゃんだろうか、俺は少し可愛らしい女の子に微笑した。
「どうだ、かわいいだろう? これはな、我が娘ラキアが生まれてまもない頃の絵でな。どうだ、このプリプリの肌、サラサラとした髪。そして青く純粋な瞳。ふははは、流石我の子だ、もう可愛くて可愛くて仕方がないとしか言いようが――」
「魔王様」
と、俺の近くにいた狼人間の魔族が、魔王に話しかけた。
「ラキア様の話は今、関係ございません。それよりも本題を」
「貴様、我が娘の自慢を止めるのか?」
「はい。今は関係ございませんので」
「むぅ……。かわいいのに」
なんだこの魔王面白いぞ。俺は思わず吹き出してしまった。
と、それを聞いた魔王が「ぐふん!」と大きく咳払いをした。たかだか咳払いだが、大気を震わすほどの威力があった。
「本題に入ろう、勇者カツヒト。貴様は今から処刑される。勇者さえ死ねば、我らの勝利は確実。我ら魔族たちのために、貴様は命を――」
「あの、悪いけど。俺、勇者じゃないんだけど?」
魔王は「え?」と素っ頓狂や声を上げた。
「いや、あのな……」
俺はそう言って、事の経緯を説明した。すると魔王はプルプルと震えだし、酷く憤った様子で禍々しいオーラを噴出させ始めた。
「おのれ人間共、何たる無礼を。関係の無い異世界人を巻き込んでおいて、あまつさえ元の世界へ帰さないだと? 非道にも程がある」
「いや、あんたさっき俺のこと殺そうとしたじゃん。何、勇者は例外なの?」
「勇者は死ねば元の世界へ帰れるのだ。元々この世界との結び付きが強いのでな。ついでに死ねばここでの記憶もなくなる」
えぇ……つまりローリスクな異世界旅行かよ。クソ、アイツだけずるいぞ。
あれ? てことは俺はどうなるのよ? 異世界に召喚された、結び付きの弱い俺は?
魔王にそれを尋ねると、奴は覚えている事を自然と語るように答えた。
「貴様が死ねば、元の世界へは帰れず死ぬ。元々来るはずのない存在だったのだ、そもそも召喚の際に死ななかっただけでも運がいい」
なんだよそれ、俺危うく死んでたってことかよ!? 俺は魔王の説明を聞いて血の気が引いた。
「ちょ、俺どうなるの!? 魔王の城で、人間が、1人で! 死亡フラグ以外立ってないじゃん!」
「まあ待て人間よ。勇者でもなんでもない異世界人Aの貴様を、無下に扱うなどせぬわ。こちらの申し訳が立たぬ」
「はぁ……そっすか」
何この魔王、凄くいい人。俺は安堵のあまりため息を漏らした。
「しかし、そうなると貴様の住処が必要だな――。そう言えば、ラキアの隣の部屋が空いていたな」
「はぁ、娘さんの部屋……。え? つまり、どういうこと?」
「すまぬが、貴様を我が元の世界へ帰すことは叶わぬのだ。人間の魔術により召喚されし者は、人間の魔術によってしか帰ることが出来ぬ」
「え、じゃあ、俺、頼むしかないの? 俺を見捨てたあいつらに?」
「まず無理だろうな。そこで、貴様には――我が魔王軍が人間共を屈服させるまで、この城にいてもらうことにする!」
「……は?」
「人間共を屈服させたあかつきには、貴様を元の世界へ返そうではないか! 大丈夫だ、衣食住の保証は完膚無きまでしてやろう! それが異世界人を巻き込んだ、我らこの世界の民の責任と言えるだろう!」
「いやいやいやいや、おかしいっす! だいたい、あんたらが責任取る必要ねーだろ! 住まわせてもらえるのはありがたいけどよ――」
「貴様にとっては、我らも人間共も等しく異世界人であろう? ならば我らにも責任はあるのだ」
何この魔王、めっちゃいい人。俺はあまりにいい人すぎる魔王様に、思わず気が引けてしまった。
「ダメダメダメ! そういうのは、ちゃんとしなきゃダメなの! わかる!? なんで人間の不手際のしわ寄せをあんたらが食らわなきゃならない! 責任を取るってのなら、俺は出ていくぞ!」
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