肝胆相照のティーシポネー

人の心無いんか?

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 あの事件から数日が経った。彼女は暫くベットから出てこなかった。
 彼女はあれ以来、拠点で有名人になり、【殺戮令嬢キリングドーター】とか”ピットブル”なんて呼ばれ方もしていた。
 あたしの部隊は隊長と目がくり抜かれた隊員は即入院。あの現場を目撃した多くの隊員が心的障害で動けなくなり、活動停止となっていた。
 動けるあたしは拠点の人達が生活に利用するモールで生産職の方のお手伝いをしながら過ごしていた。

 あの事件以来、彼女、キリングドーターと少しづつだがコミュニケーションが取れるようになった。
 特にエクレアを持っていくと目を輝かせて喜ぶので、こちらも嬉しくてついつい餌付けしてしまっていたが、その甲斐あってか『キリちゃん』と馴れ馴れしく呼んでも怒られたりしないまでには関係が進んだ。

 今日そんな彼女を偶然モールで見かけたのだ。それもなんと下着姿で胸には紙袋を抱いてウロウロしている彼女を。
 そんな恰好でいるもんだから変な男が寄ってくる。あたしは慌てて駆け寄ろうとする。
 
「彼女~。見かけない子だね~。いくらで遊んでくれるの~?」

「ねえ。この辺で腕のいいクリーニング屋さん知らない?」
 ニコニコとしながら下着姿でそういうキリちゃん。

「え~?クリーニング屋?そんなことよりお兄さんとキレイキレイ洗いっこしようよ!」

「え?お兄さんが綺麗に洗ってくれるの?」

「そうそう。綺麗に洗っちゃうよ~。」
 鼻を伸ばしながらそう言うナンパ男さん。
 
 あたしが近づく頃には変な方向に話が行こうとしていた。

「キリちゃん!駄目だって!変な人に付いて行っちゃ!」

「え?キリちゃん・・・?ちょっと待て、こいつの名前なんて言うの?」
 ナンパ男さんがあたしに尋ねてくる。

「えっと・・・本名は知りませんけど、ここじゃキリングドーターとか言われてる子です。」

「う、嘘だろ・・・こいつがピットブル・・・」
 見る見るうちに顔が青くなるナンパ男さん。

「ねぇ、お兄さん。早く洗いに行こ♪」
 ニコニコの笑顔でそう言うキリちゃん。
 ナンパ男さんは腰を抜かして腕で顔を覆い「ごめんなさい、ごめんなさい。許してください!殺さないで!」とガタガタ震えながらうずくまってしまった。

「ねぇ・・・洗いっこは?・・・」
 そんなナンパ男さんに無邪気に話しかけるキリちゃん。
 自業自得だが、もうあまりに気の毒なので、

「き、キリちゃん。クリーニング屋さんこっちだよ。」
 助け舟を出した。

「え?でも・・・お兄さんが・・・」

「プロの人の方が絶対良いって!行こ行こ。」
 あたしはキリちゃんの手を引いてクリーニング屋さんに向かった。
 後ろを振り返るとナンパ男さんが蹲りながらあたしたちに向かって手をすり合わせて拝んでいた。




「ね、ねぇ・・・どうして下着姿なの?服はどうしたの?」
 あたしは慎重に質問する。多少コミュニケーションを取れるようになったとはいえ、あの惨劇を起こした張本人だ。いつ地雷を踏み抜くか分からない。踏み抜いたとき、それはあたしの命が終わるか、良くて車いす生活の始まりだろう。

「服はこれ。」
 そう言って胸に抱いている紙袋を見せる。そこにはいつもキリちゃんが着ていた、お淑やかな制服が入っていた。原生生物と人間の血でまみれた制服が・・・

「汚れちゃったから綺麗にしたいの。」

「ほ、他の服は無いの?」

「ん?無いよ。」

「そ、そっかー。早くクリーニング屋さんに行かないとね。」
 服買わないの?と口から出そうになった言葉を飲み込む。
 以前に「この服以外着ない」と言っていたからだ。
 下手なこと言うとあたしが殺されかねない。
 まだどこに話の地雷があるか分からないキリちゃんとの会話はそう言った恐怖心を抱えながらの慎重な会話にならざるを得なかった。



 クリーニング屋さんに着いて、制服を出す。しかし・・・

「あの~、すみません・・・昨日今日ではない大昔のシミもあって完全に綺麗にするのは難しいかと・・・」
 クリーニングの受付の女の子が恐々説明する。

「え?駄目なの?」
 キリちゃんの目が見開き、無表情で店員さんを見つめる。

 定員さんはキリちゃんの事を知っているのか、もう目に涙を溜めて、口が震えていた。

「き、キリちゃーん。落ち着いて。服のデザインが気に入っているの?」

「可愛いでしょ~?」

「で、デザインが一緒ならおっけー・・・かな?」
 慎重に言葉を選んでいく。
 キリちゃんは『コクリ』と頷いた。

「じゃあさ!服屋さんにオーダーしてみるのはどうかな?同じデザインで作ってくださいって」

 キリちゃんはあたしの意見を聞いてニコーっと笑い
「じゃあそうする。ありがとう。”エクレアさん”。」

「だからあたしカルディアなんだけど・・・いや・・・もういいや。じゃあ服屋さんに行こう!」

 キリちゃんの手を引いてクリーニング屋さんを後にすると店員さんがペコペコ頭を下げていた。
 それは店がお客さんに対して行う行為ではなく、『命を助けてくれて、ありがとう』のお辞儀だった。

 服屋さんに移動しながら彼女を見る。ニコニコと上機嫌で歩く彼女。 
 あの事件以降、何度あたしが名前を名乗ってもキリちゃんはいつもあたしの事を”エクレアさん”と呼ぶ。
 餌付けしすぎた所為だろうか?名前で呼んでほしいんだけど今日も失敗のようだ。
 というか、あたしもそろそろ根負けして諦めかけて来ていた。
(いつか、あたしの事”カルディア”って呼んでくれる日がくるのかな?・・・まぁ、あたしもキリちゃんって呼んでるしな、本人が気に入ってるならいいか・・・)




 あたし達は服屋さんが軒を連ねる通りに着くと、その内の一軒に尋ねて服を作って貰えないか確認してみる。しかし、

「う、うちはそう言うのやってないんです・・・あ、あの・・・お迎えの所はやってますよ。」

「そうですか・・・ありがとうございます。行こう、キリちゃん。」
 キリちゃんにそう言って移動を促そうとした時だった。

「ねえねえ!エクレアさん!この服可愛くない?」
 ニコニコと服を選んでいるキリちゃん。なんというか・・・それって所謂いわゆるロリータ服ってやつだよね。

「えっと・・・キリちゃん。この制服以外着ないんじゃないの?」

「え?そうだっけ?着れるよー。でも、その服はなんか・・・とても大事だからちゃんと直したいの。」

 あ、あれ~?前言ってた事と違うような・・・?でも、他の服でも良いなら話は早いか。

「そ、そっかー。じゃあオーダーしてから服選ぶ?」

「選ぶ!」
 ニッコリ笑うキリちゃん。こんなに良い笑顔初めて見た。
 店員さんにお礼を言ってキリちゃんと一緒に向かいのお店に行く。

 お迎えのお店にオーダーを依頼すると、
「え、えーと・・・私共はやってなくて・・・お迎えのお店なら~・・・」

 ああ・・・そう言うことね。
 
「すみません。あたしたちお迎えの店で同じことを言われて来たんです。」
 睨みながらそう言う。

「ひ・・・!あんた・・・その子を連れてもう帰ってくれ。お願いだ!帰ってくれ!」

「どうして受けてくれないんです!?」

「もし、失敗したり希望の品が出来なかったら俺たちの命が無いじゃないか!!もう帰ってくれ!」

「この子、この服を直すの楽しみにしているんです!お願いです!受けてください!あたしが暴れさせませんから!」

「あんた!その子の暴走止めれるのかよ!?止められないだろ!?」

「そ、それは・・・」

「お願いだ!帰ってくれ!もう帰ってくれ!」
 最後の方は店主は泣きながら懇願こんがんするようにそう言った。
 どうしよう・・・キリちゃんのあの事件で悪評がこんなに広まっているなんて・・・
 こんな調子じゃどこに行っても受けてくれないだろう。
 キリちゃんはさっきから俯いて何も言葉を発さなくなっていた。

「おい、兄ちゃんよ。受けてやれや。」

 言葉が聞こえた後ろを見てみると、あたしたちをこの拠点に案内したスタンピードさんが立っていた。

「す、スタンピードさん・・・そう言われましても・・・」

「こいつが仕上がりに不満を漏らして暴れるようなら俺が止めてやるからよ。」
 
「スタンピードさんがそうおっしゃるなら・・・」

 店主はそう言ってキリちゃんの紙袋を受け取り、デザインや寸法を確認していく。

「おそらく可能だと思います。こちらは暫く預かっても・・・」
 恐る恐る確認を取る、店主さん。
 あたしはキリちゃんに目線を送ると、ニコニコしながら

「いいよ!」
 元気よくそう言った。



 お店の外であたしはスタンピードさんにお礼を伝える。
「ありがとうございます。スタンピードさん。助かりました。」

「構わないぜ。それよりも支払いはいけんのか?結構するぜ?」

「あー・・・まだ考えてないんです。」

「それじゃ、俺の部隊に来るのはどうだ?俺の部隊で仕事してくれたら俺が立て替えるが?」

「えっと、キリちゃん、どうする?」

「いいよー。おじさんの部隊で働いても。」

「お、おじ・・・。”お兄さん”な。」
 ささやかな抵抗をするスタンピードさん。

「わかったわ!おじさん!」
 無邪気に笑いながら、キリちゃんは何も分かっていなかった。

「ごめんなさい、スタンピードさん。」
 あたしが代わりに謝る。

「いや・・・もういいや。そいじゃ明日からな。あと・・・服はなんか着て来いよ?」
 苦笑いするスタンピードさん。

「すみません!すみません!」
 今日のあたしは謝ってばかりだな・・・いや、今日も・・・か。

(あたし、ストレスで倒れないかな・・・)



 スタンピードさんと別れてから、キリちゃんとさっきの服屋さんに戻る。

「エクレアさん!エクレアさん!これ!この服可愛い!」
 目を輝かせながら、服を持ってくる。ずいぶんと、なんというか甘ロリファッションの服だ。
 (なんだかキリちゃんのイメージでは無いような・・・?)

「か、可愛いんじゃない?付けてみたら?」

「そうするー。」

 試着室に入っていき、暫くして

「どうかしら?」
 滅茶苦茶どや顔のキリちゃん。可愛い顔というよりも整った美しい顔のキリちゃんが可愛らしい甘ロリ服を着ているのは、なんというかこれはこれで・・・・

(か、可愛い~~~~~~)

「いい・・・」

「ん?」

「すごく良いです!」

「ホント!これください!」
 ウキウキで店員さんを呼ぶ。

(素晴らしいです、神様・・・。ごっつぁんです。)
 あたしはキリちゃんで初めて嬉し涙を流していた。

 しかし・・・

「あ、あの~・・・」
 トリップしているあたしに恐る恐る話しかけてくる店員さん。

「はい?なんです?」

「御代金の方をお願いしたくて・・・」
 申し訳なさそうにそう言う店員さん。

「え?・・・き、キリちゃーん?」
 あたしは少し離れたお店の鏡の前で服を摘まみ、回転しているキリちゃんを猫なで声で呼ぶ。

「なにー?エクレアさん。」
 呼ばれて駆け寄ってくるキリちゃん。

「あのー・・・キリちゃん。お金は・・・?」

「???」
 純朴そうな顔で首を傾げクエスチョンマークが浮かんでいた。
(あかんやつやこれ)

「店員さん・・・」

「はい・・・」

「おいくら万円でしょうか?」
 あたしは心の中で血の涙を流していた。
 
 店員さんは滅茶苦茶気の毒な顔をあたしに向けていた。
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