肝胆相照のティーシポネー

人の心無いんか?

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本編3 殺戮令嬢-キリングドーター-

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 あたしはあの白髪の彼女と同じ部隊になったのだが、彼女は一度も部隊に顔を出さない。
 彼女はとにかく自由人だった。
 部隊には参加せず毎日ブラブラと入り組んだ戦時下の基地の様な拠点内を徘徊し、手あたり次第、人に話しかけていた。

 また彼女は独り言の多い子で、食堂で見かけたときは「美味しい、美味しい♪」と、『ニヘラ~』と独り上機嫌で顔を緩ませ、何かを頬張っていた。
 あたしも見てるだけで幸せになるくらいだった。
 そんな様子だったので話が出来そうかな?と、つい話しかけたのだが、見る見るうちに顔が険しくなり、「入ってくんな、雑魚。」と視線だけで人を殺しそうな目で射貫かれた。
 あの時は本当に殺されるかと思った。

 彼女はそんな生活だったので、部屋ではもぬけの殻か、布団を被って寝ているか、しか見たことが無かった。
 そのような状態で一週間が過ぎようとしていた。


「おい、新入り。」

「は、はい・・・」
 話しかけてきたのは部隊長だった。顔を見れば青筋が立っている。あたしは部隊では何とかやっているので、おそらくは・・・

「お前と同室の新入り、どうなってんだ!!もう一週間だぞ!!お前、明日引きずってでも連れてこい!!」

「え・・・?い、いや・・・それが、あの子、居たり居なかったり・・・どこで何しているか分からないんです。それに・・・すごく怖くて。」

「は?何言ってんだ?いいから連れてこい。」
 
 問答無用。部隊長はブチギレていて取り付く島もなかった。




 翌日、運良く・・・いや、運悪く彼女は布団を被って寝ていた。リコちゃんが居てくれればよかったけど、部隊が遠征しているのか、一昨日から帰ってきていない。
 
(どうしよう・・・。神様!もし死んだら、今度こそまともな世界でエンジョイさせてください!いや・・・そもそも神様のせいでこんな転移者だらけの世界に放り込まれたんだっけ?じゃあ、神様にお願いしてもダメか・・・ははは・・・)

 あたしは彼女を恐る恐る揺すった。しばらく揺すっていると彼女がゆっくりと身体を起こす。
 そしてあたしを刃物のような目で睨みつけ、

「なに?雑魚。天秤の神を見つけたの?」

「い、いや・・・部隊長があなたを連れてきてって・・・」

「部隊?何それ?」

「え?知らない・・・の?」

「知らない。」

「あ、あの・・・私たち神様に、この狭間世界に閉じ込められて転移者同士で戦争してるんだよ?現世に帰還するか、もう一度、転移世界に帰るかで・・・」

「ふーん・・・で?」

「で?・・・って。だから、あなたもこちら側の・・・つまり転移世界に帰るために戦って貰わないと・・・」

「興味ない。雑魚どもでやってればいいわ。」
 そう言って布団を被って二度寝しようとする彼女。
 あたしは彼女を起こそうと、もう一度揺すると、布団から蹴りが飛んできて、それが顎に当たり、気絶してしまった。




「はっ!」

 目が醒める。部屋の時計を見ると夕方になっていた。

(まずい!どこに行ったの!?いや・・・それよりも、あたしもさぼちゃった!)

 血の気が引く。昨日でもあれだけ怒っていた部隊長だ。今日のこの一件でもうどうなるか予想もつかなかった。

(とにかく二人で謝りに行かないと!)

 あたしは部屋を出て、拠点内を走り、彼女を探し回る。ちょうど食堂内を探そうと立ち寄った時だった。

「てめぇ!!ふざけんなよ!!!」

 部隊長の声だ!あたしは声の方角へ向かう。そこはすでに人だかりが出来ていて、あたしは、人をかき分け前に出た。すると、ブチギレている部隊長と隊員たちがテーブルに座ってニコニコと笑っている彼女を取り囲んでいた。彼女の前には空のお皿と少し離れてエクレアが乗ったお皿があり、彼女は剣呑な雰囲気の中、そのエクレアを見つめ頬杖をつきニコニコとしていた。

「おい・・・いい加減にしろ・・・」

「何だか騒がしいね~♪」
 ニコニコしながら、隊長の静かな怒りも物ともせず・・・というより、隊長たちを”全く居ないもの”として彼女は扱っていた。

 バリンッ!!!!!!!!!!!!!

 ついに怒りが限界を迎えたのか隊長はエクレアが乗った皿ごと叩き潰してしまった。
 潰れたエクレアのクリームが彼女の頬と服にかかる。

「死にたいようだな。新人。ちょっと原生生物を一人で蹴散らして、【殺戮令嬢キリングドーター】なんて呼ばれてるからっていい気になってんじゃねぇのか?おい?」

 限界点に達した殺意をもった静かな怒りを彼女に向ける。しかし、次の瞬間、周りに居た全員が戦慄していた。
 今までエクレアから目線を外さなかった彼女が隊長を見つめていた。その目は紅く、ひどく冷たく、それでいて瞳の奥には地獄の業火でも灯っているかのような怒りが内在していた。その瞳を見ているだけで心臓が止まりそうな、そんな目つきだった。
 あれほどの怒りを抱えていた隊長はすでに”飲まれていた”。

「な、なんだよ・・・なんなんだよ!おまえはぁ!!!!!」

 隊長がパンチを繰り出すが、そのパンチを片手で受け、

 そのまま隊長の拳を握り潰した。隊長の拳は潰れ指はあらぬ方向にひん曲がり、皮膚は破れ、血が激しく吹き出ていた。

「あああああああああああああああああああああ!!!!!」

 隊長が泣き叫びながら拳を押さえへたり込む。そこに彼女は無事な方の腕を、

 無造作に蹴り飛ばした。聞いたこともないような鈍い音がして隊長の腕は折れ、血が飛び散り、肉を突き破って骨が見えている。
 その光景に嘔吐する者、ガタガタと震えながら失禁する者、立ったまま気絶している者も居た。
 しかし、誰も逃げ出さない。正確には見ている者、誰も逃げれなかった。
 動けなかったのだ。怖くて。誰しもが恐怖で足が動かなかったのだ。

 彼女は隊長の前にしゃがみ
「ねぇ、雑魚。私のエクレア、どこ?」
 魂を震えあがらせる紅い瞳で見つめ、そう言った。
 隊長は何か言おうとしたが、もう恐怖に支配され歯がガチガチと鳴り、言葉を発せられない。

「ねぇ?私のエクレア・・・」
 同じ言葉を無表情で問う彼女。返事ができない隊長の頭を掴み、

「どこぉ!!!!!!!!!!」
 床に打ち付けだした。

 何度も

 何度も

 執拗に

 鼻が折れ、歯が折れ、周りに血しぶきが飛び、見ている者の顔に飛び散るほどだった。しかし、彼女は止まらない。

 その彼女の後頭部に鋭い蹴りが入る。その蹴りで彼女は止まり、前のめりに倒れる。

「お、お前・・・いいいい、いい加減にしろ・・・」
 震える声で何とか言葉を絞りだしたのは、隊長と同じく実力者の隊員だった。

 蹴られた彼女は頭から血を流し、暫く倒れていたが、ゆっくり立ち上がると、今度はその隊員に向かって、
「あなた、キャンディは好き?」
 白い髪は流血で赤く染まり、その赤く染まった髪の奥で紅い目を光らせながらニコニコと屈託のない笑顔で突拍子もなくそう聞いた。

「な、なに言って・・・」
 
「ねぇ・・・好き?」

 その異常な光景に、ふり絞って動いた隊員も動きが止まる。

「あ・・・・あ・・・・・」

 見つめられ完全に飲まれる隊員。
 次の瞬間。その隊員の顔・・・いや正確には目を目掛けて打拳が飛び、ヒットしたときには彼女の手の中には隊員の目玉が握られていた。

「ああああああああ!!!!わた、わたしの目ぇーーーー!!!!!」

 殴られた衝撃で仰向けに倒れこみ、抉られた目を押さえ叫ぶ隊員。

 彼女は隊員に馬乗りになり、
「はい。あ~ん♡」
 甘い声で隊員に笑いかけながら目玉を差し出した。
 隊員はもうその光景に完全に戦意喪失しており、泣きながらイヤイヤしている。

「うーん。お口開けれないのかな~?」
 本当に困ったような顔をする彼女。

「しょうがない。手伝ってあげるね♪」
 そう言って、立ち上がりトテトテと一旦離れたかと思ったら、テーブルの上にあった分厚いガラスの灰皿を持って戻ってきて、それで隊員の口を目掛けて殴りだす。殴るごとに血と共に歯が折れ、飛び散った。
 そして・・・
「これでよし!はい!あ~ん♡」
 彼女はニコニコしながら歯の無くなった隊員の口にくり抜いた目玉をねじ込み、放り込んだ。
 彼女がマウントポジションで殴っているとき、目玉を口にねじ込んでいるとき、全くの無防備だったが、もう誰も彼女に襲いかかろうという者は居なかった。

「美味しい?ねぇ?美味しい?」
 
 そう聞かれても恐怖で何も言葉を発せない隊員。

「美味しくないのかな?」 

 そう言いながらもう片方の残った目に手を伸ばそうとする彼女。

 何をしようとしてるのか感づいた隊員は泣きながら、
「お゛い゛じい゛でず!!!!お゛い゛じい゛でず!!!!お゛い゛じい゛でず!!!!」
 口に自分の目玉を入れられたまま必死でそう叫んだ。

「良かったぁ~。それじゃ~・・・」
 そう言って彼女は立ち上がり意識の無い隊長の元へ行く、

(まさか・・・まさか!噓でしょ!?)

 そしてニコニコと笑いながら隊長の頭を掴み、また床に打ち付けだした。
 周りのギャラリーは逃げることも、止めることも出来ずに、ただ泣きながら立ち尽くしている。
 あたしは勇気をふり絞り、足を動かした。
 最初はよたよたと、でも慣れてくるとともに駆けていき、最後は全力疾走した。
 一秒でも早くと目的の場所へと。
 そして彼女の止める術をあるだけ手に入れて食堂に急いでとんぼ返りする。
 彼女も周りのギャラリーもさっき離れた時のままだった。
 床は血まみれで、隊長の顔は完全に潰れて『ヒュー、ヒュー』と辛うじて息をしている状態だった。

 あたしはもう、ちびりそうになりながら彼女の元へ行き、彼女の止める術を差し出そうとする。

「あ、あの・・・」
 話しかけると、鋭い目が返ってくる。見つめられるだけで、首筋に死神の鎌が当たっているようだった。
(怖い!でもやらなきゃ・・・)

「こ、これ・・・え、エクレア・・・です。」
 
 あたしの言葉を聞いた彼女はすぐさまあたしから箱をふんだくると、箱を開け、目を輝かせながら笑顔になり、
「わあ!くれるの!?ありがとう!3つあるじゃない。あなたも一緒にお茶しましょ!」

 そう言って、もう隊長のことは興味を失ったのか放り出し、食堂からお茶とお皿を貰ってきてテーブルにテキパキと並べる。その血まみれの手で。
 
「さぁ!食べましょ~。」
 ニコニコしながらそう言う彼女。
 あたしの席は彼女の対面にあった。
 そこには血の付いたエクレアと、血が混ざった紅茶。
 あたしは顔を引きつらせながら、席につき、ニコニコと上機嫌で頬杖をつく全身血まみれの彼女に見つめられながら”お茶をした”

「どお?美味しい?」
 そう聞く彼女はあたしの感想を心待ちにするかのような様子だった。

 あたしは半べそをかきながら無理矢理笑顔を作り、鉄の味がするエクレアを頬張りながら

「とっても・・・おいしいよ。」
 何とか適切な言葉をふり絞った。

 あたしはもう二度とエクレアを食べれないかもしれない・・・あの時は本当にそう思った。
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