肝胆相照のティーシポネー

人の心無いんか?

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キリちゃん視点

本編3 ダブルチェイサー

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 この拠点に来た翌日。私は拠点内部を探索していた。
(かなりの人数が居る。こいつら全員が神から能力を与えられた転生者・転移者なのか・・・。ただ・・・見ただけでわかる。どいつもこいつも雑魚ばかりだ。私に力を与えた”あのクズ”は「お前は特別製だ」と言っていたが本当みたいだな。)

『凄い人だな~。こりゃ、手あたり次第いくしかないか~?』
 お兄ちゃんが楽しそうに額の近くに手を掲げ、覗くような仕草をする。
 何が楽しいのやら・・・でも、そうね・・・仕方ない・・・お兄ちゃんの言う通りそれでいくしかないか。

「おい、そこの雑魚。」
 私は近くを通り過ぎようとした雑魚をおもむろに捕まえる。そしていつものように聞くのだ。
「天秤の神を知らないかしら?」





 私は廊下に備えられていたベンチに座って休憩している。
 あれから3時間、手あたり次第聞いて回ったが、誰もライブラ神を知らない。
 ついでに力を貰った神を尋ねてみたが”太陽、月、美、知、金、獣”の六神しか答えが返ってこない。天秤は一人もいない・・・。どうなっているんだ・・・こんなにも転移者が居るのに・・・

『かすりもしないな~。』
 ニコニコとお兄ちゃんは笑いながら言う。

「なんで楽しそうなのよ?」
 私はすでにげんなりしていた。

『お前は昔から重く考えすぎなんだって。気楽に行こうぜ?』

 はぁ~。お兄ちゃんのこう言うところ羨ましいし、それにありがたいと思っている。
 能天気に振舞えるところ。それが自分の気持ちを押し込めているとしても・・・
 昔もこう言うところに何度も気持ちを助けられたな・・・
 このまま不貞腐れていても仕方ないし・・・

「ま、やるしかないわよね!」

『お?じゃあ再開するか!』

 私は聞き込みを再開する為に立ち上がり、また拠点内をうろつく。
 聞き込みをしながら歩いていると、いつの間にか周りの景色はお店が連なるモールになっていた。
 私の視界は普段色が薄くモノクロ調なので気づかなかった。
 ふと一軒のお店が目に留まる。そこだけかつて幸せだった頃の私の視界と変わらず色があったからだ。
 そこは小さな洋菓子店。遠目からでもキラキラと輝いて見える。
 私は誘蛾灯に吸い寄せられる虫のようにフラフラと洋菓子店に引っ張られ、お店のガラスに張り付く。私の視線は一際色鮮やかに見えるショーケースのある部分に釘付けになっていた。

『お前、昔から好きだよなぁ~。太るぞ?』
 お兄ちゃんがからかうように言ってくる。
 私はギロリとお兄ちゃんを睨みつけると
『こっわ!冗談だよ!冗談。真に受けるなよな。』

 お兄ちゃんの軽い調子に助けられたことは何度もある。何度もあるが・・・ムカついた事も何度もある!
 お兄ちゃんは分かってない!女の子に体重のことは冗談でも言ってはいけないって!
 それに、今の私は”あれ”以外、味がしないのだ。

(ああ・・・食べたい!私が飛ばされた異世界には”あれ”が無かったんだ!食事はずっと無味で苦痛だった。ああ・・・食べたい・・・。でも、ここでの支払いとかどうすればいいのかしら?)

『めっちゃ食べたそうだな。でも、お前ここでの支払いとか分かってるのか?』
 
 ぐ・・・今まさに思っていたことをお兄ちゃんに指摘される。あの真面目そうなパティシエさんを脅して奪う訳にもいかないし・・・どうしたら・・・。
 ああ・・・どこかの優しい紳士が私にプレゼントしてくれないかしら?そう思っていた時だった。

「よお、ねーちゃん。お前さん・・・何だっけ?点心の神を探しているんだってな?」
 後ろを見ればガラの悪い大男と、その男にゴマすりしているチビが立っている。

「兄貴!違いますよ~。天秤ですって~。」

「あーそうそう!天秤ね。情報を教えてやるからあっちで話そうぜ?」

 下品な笑い。お前らの自己紹介は必要無いみたいね。

『おいおい・・・分かりやすすぎだろ・・・』
 お兄ちゃんが呆れかえっている。
 お兄ちゃんも同じことを思っていたらしい。
 でも・・・よかった。本当に。

「見た目は紳士じゃないけど奢ってくれる人が見つかったみたい。」
 私は自然と笑みがこぼれた。

『え?妹よ・・・まさか・・・』

「何?ブツブツ言ってるんだ?へへ・・・こっちだぜ。」
 下卑た笑みを浮かべながら、人気の無い路地へ先導する雑魚。
 あたしはその背中にホイホイついてゆく。
 ああ・・・ありがとう、奢ってくれるなんて。なんて素敵な紳士なのかしらね。人は見た目によらないって本当だわ。ご馳走様♪



 あれから数日、聞きこんでみたが、当たりは無し。かなりの人数に聞きこんだせいか、たまに
「えっと・・・この前に聞いてきた人だよね?」
 そう言われる始末。

 沢山の人に声をかけすぎて、誰に声かけたか、もう分かんないのよ!
 
 私は今、休憩のために食堂に来ていて、席について頬杖をついている。
 ここは出入りも、利用も無料なのでありがたい。
 そして私の前には・・・
 じゃじゃーん!!!洋菓子店の箱が、もちろん中身は~

 私の大好きなエクレア!

 ああ~、頬ずりしたくなるわぁ~。唯一味が楽しめる代物。不思議と一緒に飲むお茶の味まで分かるから、ここに来てからの唯一の楽しみなのだ。毎日決まってこの時間は私のティータイムだった。

『お前さ・・・。いい加減許してやれよ。』
 
「そんなに高いものじゃないし、いいじゃない。」

『言っておくけど犯罪だからな・・・』
 お兄ちゃんが咎める。

「いいじゃん。あのイソギンチャクが自分からプレゼントしてくれるんだから。」

『腰巾着な。お前、通学再開したんだよな?』
 
「したよ~。だからお兄ちゃんが褒めてくれたこの制服着てるでしょ?まぁ、すぐにあのクソ天秤に転移させられたんだけどね。」
 私はお兄ちゃんと話しながらお茶を入れて、エクレアをお皿に並べる。準備している間に涎が垂れてしまいそうだ。

「ああ~!!もう駄目!!いただきまーす!」
 今の私は目を輝かせていることだろう。大きく口を開けかぶりつく。口いっぱいに広がる・・・かつての幸せだった、お兄ちゃんと一緒に食べた子供のころの、あの幸せが・・・

「美味しい、美味しい♪」
 周りの空気が春の陽だまりのようにさえ感じる!最高だ! 
 子供に帰ったみたいに私ははしゃぐ。そこに・・・

「わあ~、凄くおいしそうだね。何食べてるの~?」
 一瞬にして空気が真冬のようになる。
 後ろを振り向くと同室の雑用係がニコニコと立っていた。
 最悪だ・・・折角お兄ちゃんと二人っきりのお茶会。最高に幸せな時間なのに・・・何邪魔してくれてんだ?こいつ!!

「入ってくんな、雑魚。」
 同室のショートボブの雑魚を思いっきり睨みつける。イライラは隠せそうにもなかったし、隠す気もさらさら無かった。
 雑魚は『ひっ』と小さく叫び声をあげて、顔をしかめてそそくさと逃げていった。

『お前。友達大事にしろって。』
 お兄ちゃんが呆れながら私を窘める。

 だから友達じゃないって!!!

「次、やったらケ●の穴から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやる!!」
 雑用が去った方向を見て、私は吐き捨てるように言うと、

『ね、ねぇ?妹?・・・お前、俺より本当に年下だよね?どこで覚えてくるの?そんなの?てか・・・なんで知ってるの?あと年頃の女の子が●ツとか言っちゃいけません!』
 お兄ちゃんは何故か私に対して恐々としていた。
 なんで?あの決め台詞、超楽しくない?この間みたいな雑魚を脅すときの名乗り口上にしようと思ってるくらいなのに。
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