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キリちゃん視点
本編8 肝胆相照のティーシポネー その3
しおりを挟む「ご、ごめん・・・キリちゃん。ありがとう。」
私にお礼を言う”それ”
(なんだよ・・・なんなんだよ!”それは!”)
カルディアの左腕はナイフで傷ついていた。しかしその皮膚の下から見えていたのは人間の血肉や骨ではない・・・金属製の物質が見えていた。
(何・・・だよ・・・それ!私は!・・・・私は・・・人間じゃ無い、生き物でも無い、モノを助けて・・・最初で最後のチャンスを不意にしたの・・・)
目の前のカルディアを見ていると怒りや悲しみが湧いてきて感情がぐちゃぐちゃになり気持ちがパンクしてしまった。
その気持ちの逃げ場を求めて、私はカルディアを押し倒し馬乗りになって殴る。
「キリちゃん!やめ・・・やめて!どうして!」
殴られているカルディアは怯え悲しんでいた。
「どうしてだって!!!お前!!ずっと騙していたのかよ!!!」
私は膨らんだ気持ちをカルディアにぶつけた。そうでもしないと破裂してしまいそうだった。
「な、何?何の・・・こと?」
カルディアは言われて、ただただ混乱していた。
気づいてないのか?こいつ!!
「お前!その腕!自分の左腕見てみなさいよ!!」
言われてようやく私の拳から身を守るために、ガードしていた自分の腕をまじまじと見るカルディア。
「なん・・・で・・・」
カルディア自身呆気にとられていた。その様子に嘘はなく初めて知った、そんな顔だった。
私は両手で『どんっ』とカルディアの胸を叩き、カルディアの胸に顔を埋めて涙した。
「何が”カルディア”よ・・・あんた人間じゃ無いじゃない・・・!ただの物じゃん!最初で・・・最期のチャンスだったのに・・・」
私は酷いことを言っている。あの様子じゃカルディア自身も知らないことだったんだ。でも・・・止められない。気持ちの逃げ場が無くて、暴走してしまっている。そしてそのやり場のない気持ちを、友達に八つ当たりしている、友達に甘えているんだ!自分だけが辛いみたいに!・・・最低だ・・・私は最低だ!!!でも、止められないんだ!!苦しい・・・悔しい!!
「ごめ・・・ごめんね・・・キリちゃん。」
カルディアが泣きながら謝る。
違う・・・違うんだ!私の方こそ謝らないといけないのに・・・
そこにウキウキの上機嫌の糞神が真横、息のかかるような距離にやってくる。
「いや~。大博打だったわ~。ね?言ったでしょ~。”私だけを見てなきゃ駄目”って。あそこで攻撃されてたら終わってたわ~。流石、私の最高傑作。共同だけど。」
糞神はペラペラと泣いてるあたしたちに語っていく。武勇伝を語るかのように。
「あ~因みに、この子、カルディアはね~。私が用意したのよ~。最近の大人のおもちゃ、ラブドールって凄いわね~。本当にリアル!それをベースに『ちょちょい』と弄ってね~。人の心の働きを模倣するように作ったのよ~。あと記憶領域と、この世界に来るまでの偽の記憶もね。表情だって動くようにしたわ~。あとあと~!体液とか体温とかそう言う細かいとこも・・・
まぁ、そうしてここであんたの友達になるように作ったのよ~。ね~?キ~リちゃん。」
名前を呼ばれカッとなって糞神に殴りかかるが簡単に避けられる。
「おお~怖い怖い♪純粋にあんたへのプレゼントでもあったんだけどさ~。もしもの保険も兼ねてたのよ。あんたのアキレス腱になりうるかな~?って。あんたのジャイアントキリングはどんな相手にも勝てるわ。逆に能力の特性上、素体の力が弱けりゃ弱いほど発揮するみたいね~。そして身体の負担を度外視して無尽蔵に能力を引き上げ、対峙した相手に絶対勝つ。必ず勝利をもたらす、たとえそれが神相手だって。でも・・・それは最期の一振り。武器は守る為の物じゃない。攻撃するための物。誰かの”守りに”入った瞬間に能力は終了する。そして同じ相手には二度と発動は出来ない。まさにそれは鉛刀一割の一閃。上手くいったわ~。この瞬間がギャンブラーとして最高に脳汁が出る瞬間よね~。くうぅ~!!」
糞神が一人で恍惚としている。
そう・・・私の最も重大なデメリットは同じ相手に二度と能力が発動しないこと・・・
対峙した相手は殺すか、二度と歯向かわないようにするかどちらかしなければならなかった。
そしてこのデメリットは重大な欠陥で誰にも知られてはいけないものだった。もう・・・隠す必要もなさそうだが・・・。
「あんたさー。カルディアの首絞めたことあるじゃん?あの時、能力が発言しなかったのは能力がカルディアをあくまで道具だと識別したからでしょうね~。もしかして友情で『お友達に酷いことできないからだわ~』とか思ってたかもしれないけど~。」
こいつはどこまで私を、私達をいたぶれば気が済むんだろう・・・どうしたらもう私を苦しみから解放してくれるんだろう。謝れば許してくれるのか?幸せな日々に帰してくれるのだろうか・・・
「もう・・・」
カルディアが絞りだすようにポツポツと言葉を発する。
「ん~?」
「もう・・・やめてください。なんでそんなに酷いのですか?神様なのに・・・」
「ごめんね~。楽しくってさ!それに私は別に道徳や倫理観が優れていて神になったわけじゃないから~。そういうのは、そういう方向で神様になった人に言ってね~。」
カルディアの懇願を糞神は楽しくてたまらない、と言った様子で一蹴した。
「それでも、それでも・・・普通じゃない!」
カルディアは尚も食い下がった。しかし・・
「いや~。私たちからしたらさ~。アリみたいなもんだから。ほら?昔やらなかった?アリの巣に水攻めー、とか言って水流し込んだりするの?ってカルディアに言っても仕方ないか・・・。
あ、そうこう言ってるうちに見て見て!向こうもクライマックスだよ~。やっぱアイツら運命を捻じ曲げる気だわ。全く惚れた女くらいちゃんと守りなさいよね~。私の信者減ったじゃない。ったく、本当にキリちゃんの兄貴って無能だわ。」
はは・・・そうか・・・アリか・・・私たちは。じゃあしょうがないのか・・・気まぐれで踏みつぶされる存在なのか。
空中の映像に目をやるとそこには致命傷のピンク髪の女の子をテーブルに乗せて、魔女風の女の子がキリちゃんのお兄さんに何やらしゃべっていた。
お兄ちゃんの目にはピンク色の髪の女しか映っていなかった。
「やめて・・・やめてよ!お兄ちゃん!私ここだよ!ここに居るんだよ!」
私は泣きながら叫んだ。
「ぷぷ・・・・くくくく・・・はははははっはははははは!!!!あのマヌケ、ムカつくけどバカみたいに何も知らずに妹を殺そうとしてる。おもしろ~。ねぇ、知ってる?あのバカ、アンタの病気治ったこと知らずに異世界からアンタの元に帰ろうとしていたのよ。それが、・・・ぷぷ・・・自分で殺すなんて・・・くくく・・・」
糞神が笑い転げる。
「あ~、おかし~。・・・あ、そうそう。それと、あの儀式で生贄になったら全ての存在の記憶から抹消されるから♪」
なに・・・いって・・・
「何、どういう・・・」
どういうこと・・・なの?存在が・・・消える?はは・・・噓でしょ?最初から居なかったことにされるの?
「いや、だから、誰にも記憶されない。皆からも忘れさられるの。あんたは誰にも記憶されずにあそこに横たわるピンク髪の女の子に代わって死ぬのよ。
きっとアイツらきょとんとするわよ。テーブルに横たわるあんたを見て『誰だ!コイツは!』みたいになるんでしょうね~。」
「・・・やだ・・・・やだ!!!!!!!」
お兄ちゃんの妹でもカルディアの友達でもない。私は・・・無になるの?
私は蹲り頭を抱えて泣き出す。
(寂しい・・・怖い寒い怖い寒い怖い怖い怖い怖いやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!)
涙が止まらない。頭がおかしくなりそうだった。頭に糞神の笑いが響く。私は完全に折れた。折れてしまった。もう立てない・・・。
やめて・・・もうやめて・・・もう終わらせて・・・苦しいの、もう耐えられない。
もう・・・許してください。復讐なんてもうしません。もう楯突きません。だから・・・どうかもう終わらせて・・・もう・・・もう・・・疲れた・・・。
「・・・してやる。」
小さく、それは本当に小さいカルディアの呟き。横を見るとカルディアの身体から紅いオーラが立ち上っている。そのオーラはまるで身体を纏うように発せられており、真紅のドレスのようだった。
「あははははははははは~、最っ高~!聖女ちゃん死んだ分はストレス発散できt・・・・」
「ぶっ殺してやる!!!!このクズ神がーーー!!!!」
カルディアの咆哮。
その叫びでカルディアの様子に気づいた糞神は見るからに焦り、私との戦いで使った身体能力を向上させ力と、私との距離を稼いだ天秤の力をフル活用してカルディアから距離を取ろうとする。
しかし距離を稼いでもカルディアは目で追えない、瞬間移動したかと思うようなスピードで距離を詰めた。
糞神の表情が引きつる。
(あんなライブラの表情・・・初めて見た。)
「防御結界!!!」
必死な表情で防御を固める糞神。
カルディアは距離を詰めた時の運動エネルギーを乗せて糞神に拳を連続で叩き込む。
その目には涙を溜めていたが、濁りの無い透き通った真紅の目をしていた。
そしてその顔には憤怒を携えて、相手をうち滅ぼす誓いが見て取れた。
私にはそのカルディアの姿が復讐の女神ティーシポネーに見えた。
私のために怒ってくれる、心優しき、私だけのティーシポネー・・・
カルディアのパンチを食らった糞神はソニックブームを発生させて吹っ飛び、壁にめり込み止まった。
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