羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その58

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「それで、連れてきちゃったんですか!?」

「まぁ、私も聞いた話なんだけどね・・・。」

「連れて来られちゃった!てへっ♪」

 舌を出して可愛くウインクするヴァリオラを白い目でぼんぼんさんが見ている。
 事件解決から一週間が経ち、私ことアーセナルは復調。ゴールドラッシュにはトータルワークスと共に犯人は殺したと報告を入れた。彼の信用もあり、死体等の証拠は追及されなかったのが救いだ。
 しばらくして街に掛けられていたロックダウンは解除されたが、ヴァリオラが言うようにちょっとそっとではいかないようで、街の人達も回復した人も多くいるが、未だ体調が戻らない者も居るらしい。今この部屋のベッドで横になっているアドミラルもその一人だ。その所為でどこか街の雰囲気は良くない。

「ぼんぼんさん・・・街の様子はどうですか・・・。」

 アドミラルが上半身を起こしぼんぼんさんに問いかける。私はすかさず彼女の背を支えて上体を起こすのを助けた。


「アドミラルさん!寝てなきゃ駄目ですよ。」

「いえ・・・今日は少し調子がいいんです。だから皆さんの顔を見て話がしたいのです・・・。それで街の様子は・・・。」

「それが・・・。」

「ありのまま、見たままでいいですから。」

 アドミラルがジッと何かを見透かすようにぼんぼんさんを見据える。それに耐えかねるように彼が口を開こうとした瞬間だった。

「たっだいま~!」

 あっけらかんとした能天気な声で勢いよく部屋に飛び込んできたのは今回の事件の功労者であるアイスエイジ。

「アイスエイジ・・・」

「ん?どしたの?アーセナル?」

「病人の部屋には静かに入るようにいつも言ってるでしょう!それにあなたボイストレーニングに行くって言っていたのに、何ですかそれは!」

 私は彼女が咥えている物と胸元に抱える紙袋を指さす。

「ん~?ふぉれ?っんぐ・・・。トカゲの丸焼き!屋台で買ったの。みんなの分もあるよ!」

 いや・・・どう見てもまともなトカゲじゃない・・・。イグアナぐらいの大きさあるし色は紫だし・・・食べて大丈夫なのだろうか?

「アドミラルもどうぞ!昔からトカゲは元気になるって言うし。」

 ニッコリと笑顔で毒々しい串焼きをアドミラルに差し出すと彼女は表情を崩さずに、

「ありがとう。あとで頂くわ。それよりもこれからダンスの練習じゃないの?」

「そーだった!せっかくスタジオ押さえてくれてるんだもんね。行ってきまーす!」

 言われてアイスエイジは忙しなく部屋を出ていく。

「アーセナルも彼女に付いてあげて。」

「わかりました。絶対安静にしててくださいよ。」

「分かってます。もう少ししたら私物を取りに行ったヘッドシューターも帰ってくるでしょうし。」

「じゃ、私も診察終えたし部屋に帰らせてもらおうかなー。」

「・・・それじゃ、ぼくが監視に付いておきます。」

 私を皮切りに部屋に居たアドミラル以外の人が全員席を立ちぞろぞろと部屋を出だ時だった。

「ぼんぼんさんだけちょっと部屋に残ってもらえますか?」

「ぼく?」

「ええ・・・少しだけ・・・。」

 アドミラルに呼び止められたぼんぼんさんがヴァリオラをチラリと見る。
 彼女がフリーになるのを気にしているのか・・・。

「私が少し見ていますよ。アイスエイジも子供じゃありませんから迷子にはならないでしょうし、もう流石にアーカイブからの襲撃は無いでしょうしね。」

「すみません、それじゃ少しお願いします。」

 彼だけ再び部屋に戻り、廊下にはヴァリオラと私だけが残る。彼女は白衣から煙草を取り出し、火を付けふかし始めた。

「私がやられたのはあの足の傷薬かしら?」

「はは。よく効いたろ?二重の意味で。」

「チッ・・・。」

  ニヤリと忌々しい笑いを見せるヴァリオラに対し自然と苦々しい舌打ちが出た。

「わお!アーセナル君でも舌打ちするんだねぇ~。」

「あの看護師はどこにいったの?」

「ああ~、あいつか~。君らが嗅ぎまわっていると知らせを受けてアーカイブの所に帰したよ。報告もかねて。」

「誰から聞いたのよ!?」

「それは言えないな~。私も命が惜しいからね~。」

「この!」

「まあでも~。薄々気付いてるんじゃないか?ふふ・・・」

 拳を振り上げそうになったが、殴ったところでこいつは吐かないだろう。そんな予感がある。

「・・・坂下美久という名前は?」

「偽名に決まってるだろ?この世界で本名名乗るアンポンタンは居ないでしょ?こんな世界じゃどこかで怨み買うんだからさ。」

「恨まれてる自覚はあるのね。」

「あるさ~!勿論!何?それすら分からないとでも?おいおい、心外だな~。」

「異常者が・・・アドミラルの体調さえなければ殺してるのに・・・。」

「おお!アドミラル君には感謝だな!足向けて寝れないわ~。」

 そう言うと彼女はおどけながらアドミラルの部屋に向かって手を合わせた。

「このっ!」
 
 人を馬鹿にしたあまりの言い草とその表情にに手が上がった瞬間だった。彼女は突然神妙な顔つきになり語りだした。

「私もね・・・申し訳ないと思ってる・・・。人はね。皆、自分の幸せという名の欲求の為に生きているんだ。自分の幸せを求めて結婚もするし、子供も作る、趣味を持つ・・・欲求の奴隷だな。私はね・・・その自己の幸せが人より歪んでいたのさ・・・。それにこの世界は毒だ。そう言った歪んだ欲をあまりにも簡単に実現してしまう。抗い難い魅惑の世界さ。」

「ヴァリオラ・・・。」

「だからと言って他人の幸せ壊していい理由にはならないんだけどね~。あはははは~。」

 神妙になったかと思えば歪んだ顔で馬鹿笑いする。トータルワークスが言っていたらしいがこいつは本当に殺しておいた方が良いのかも知れない・・・。

「聖人君子の様に自己の欲求というと思えるなら、どんなに良かっただろう・・・。どんなに幸せだっただろう・・・。だが、私にはその素質は無かったな・・・。」

 彼女は煙草を咥え大きく吸う。明るい光を灯しながらジジジッっと音を立ててタバコの先が灰へと変わっていく。その煙草の灯りを目を細めて見つめる彼女の表情は随分と寂しそうに見えた。

「・・・お待たせしました。あれ?何か話してました?」

 随分といいタイミングで部屋から出てきたぼんぼんさんが私とヴァリオラを交互に見る。彼の手にはトカゲの串焼きの紙袋がある。

(アドミラルに言い包められて押し付けられたな・・・)

「いや、何も。さあ!監視員君!私は部屋に戻るから存分に監視したまへよ!あっはっは~!」
 
 ヴァリオラは煙草の火を携帯灰皿で消し、ぼんぼんさんの背中を押しながら二人して行ってしまった。
 力を授けたるは神の御業。だが不完全で未熟な精神に余りある力を授けるのは悪魔の所業としか考えられないな。ならばそんな奴らが集まるここは地獄で間違いないだろう。

「私って地獄に落ちるほど悪い人だったかな・・・?」



 思い返しても強く否定できないのが悲しいところだ。私は呟きながらアイスエイジ所へ向かうためドアを開けると

「・・・ん?手・・・紙?」

 ドアに挟んでいたようだ。アイスエイジもここを通っただろうから、アイスエイジが出て行って私が開けるまでの僅かな間に挟んだのか・・・。
 手紙を裏返すとそこには・・・。

「これ・・・は・・・。」
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