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塔内編
塔内編その59
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「つっかれーた。つっかれーた。つっかれ~た~。」
「その割には元気じゃないですか・・・。」
アイスエイジの練習が終わり、私達はその帰路についている。彼女は散々身体を動かしたというのに随分と足取りも軽く元気だ。
「ん~?気持ちのいい疲れって言うの?もう後は本番に備えるだけだし。あー、動いたらお腹空いた~。ねぇ!何か食べて帰ろ!」
「ほら・・・もう遅いからお家でご飯にしましょうねー。」
「えー!いいじゃん!ちゃんと家でも食べるし!」
ぷくっと頬を膨らませて拗ねる様子は子供そのものだ。
「あー!あれ!香草焼き!前、アドミラルが買って来てくれたやつ!あれにしよ!」
「もう!」
言うや否や走って良い匂いのする屋台に走って行く。私は呆れながらも彼女の後を追った。
そこは屋台と言うより小さな店舗になっており、道に出っ張った屋台部分の脇を通って中で簡単な机と椅子を置いて飲み食いが出来るようにしてあった。
「おじさん!くださーい!二本ね!それとビール!勿論キンキンに冷えたやつね。・・・それっと・・・アドミラルのでしょ、てっちゃんと、ヘッドシューターのと、ぼんぼん君の分か・・・あと4本はテイクアウトでお願いしまーす!」
「ちょっと!食べていくつもり!?しかもお酒まで!?帰りましょうよ?」
「お腹へったもん。身体動かしたからキンキンに冷えたビールが飲みたの!」
「あー・・・嬢ちゃん・・・悪いね。今テイクアウトのみなんだ。お酒も提供してないんだよ。」
「え~~・・・そんなぁ~~・・・。」
「悪いね・・・こんな時だからさ。」
そう言う屋台のおじさんはマスクを付けていた。そんな彼にアイスエイジがそのマスクを指摘する。
「おじさん。それ暑くないの?」
「暑いけど今は怖い病気が流行っているからね。」
「そんなのもう終わったわよ!私達が解決したんだから!」
「ちょ、ちょっとアイスエイジ!」
胸を張って自慢げに言う彼女を窘める。ゴールドラッシュには誰が解決したか言わないように言っているからだ。
「ははは・・・凄いね嬢ちゃん。ゴールドラッシュは能力者による攻撃だった、解決したって言ったけど、これは自然発生した病気って言われてるよ。あれは初動の対応に遅れたゴールドラッシュの言い訳って言われてるさ。」
「え?本当に能力者だよ?ヴァリ・・・むぐぐ・・・」
「す、すみません。この子ちょっと疲れてて~。(ヴァリオラの事は秘密でしょ!?)」
余計なことを言う彼女の口を手でふさぎ、耳打ちする。
「???まぁ、まだ大勢の人が体調悪そうにしてるからね。君らもうつされないように気を付けるんだよ。」
「は、はい~気を付けます~。」
その時、私達の脇から口を大きく布で覆って顔を隠した男が入って来る。
「ちっ・・・あまり騒ぐんじゃねえよ。・・・親父、二本だ。」
「は、はい!すぐ用意します。」
男は苛立った様子で私達を一瞥してから店主に視線を向けた。
「例の件、分かってるな?」
「え、ええ・・・。」
僅かな問答だったが、店主が少し顔を引きつっているのが気になった。
「何!あいつ!私達が先だったのに!・・・おじさん大丈夫?顔色良くないよ?」
アイスエイジが私の手から逃れて去っていく男に対して毒づいてから、店主を気遣う。
「ご、ごめんよ。嬢ちゃん、あの人、先に予約にしていたんだ。」
「ふーん・・・そうなの?おじさん何か・・・」
じーっとアイスエイジは店主を見る。
「ほ、ほら。お詫びにアツアツ入れといたから。はい、串焼きね。」
「ありがとうございます。ほらもう行こう。」
手渡される串焼きの紙袋を受け取りアイスエイジを引きずって帰る。
アイスエイジは私に引きずられながらも串焼きの店主に向かって大声で言う。
「ありがとー!おじさん!今度、私ライブに出るんだ~。先の事件の解決を祝ったライブなのよ!良かったらおじさんも見に来てね~。私のライブ見たら元気になるよー♪」
「え・・・?あ・・・ああ。・・・そうだね・・・考えとくよ。」
テンション高く、ポーズまで取って見せるアイスエイジに対して店主の反応は薄い・・・。それもそのはずだろう・・・だって・・・。
店主は彼女に対して曖昧に笑って固まるもんだからアイスエイジが不思議そうな顔をしている。
「すみません、ご店主。騒がしくして。もう!行くよ。」
私は誤魔化すかのようにアイスエイジの手を引っ張って歩いて行く。
「え?ちょ・・・!?なになに?」
「・・・お、お腹ペコペコだから早く帰りたいのよ。」
「なーんだ!アーセナルもそんな事言うんだ~。ぷぷー。」
「い、いいから!早く帰るわよ!」
勘の良い彼女に感づかれるかと思ったが何とか誤魔化せたようだ。恥ずかしさを誤魔化すようにアイスエイジを置いてずんずん進んでいくと、後ろからニヤついた顔で追いかけてくる。腹が立つが結果オーライだ。
さて・・・問題はそう・・・彼女のライブなのだ・・・。
_____________________________________________
「むー・・・むぐむぐ・・・」
数日が経ちいよいよライブの前日の日。アイスエイジのライブへのモチベーションは日に日に増していき、昨日も夜遅くまで頑張っていた。その所為で今まさに半分寝ながら朝食を食べている。
「ほらもう!卵が垂れてますよ!」
パンの上に乗せた半熟の卵が彼女の口から垂れるのをハンカチで拭ってあげる。
「もう・・・私はあなたのお母さんじゃ無いんですよ!」
「へへへ~。アーセナルママ~。」
寝ぼけ眼で”にへら”と笑いからかってくる。
「あなたみたいな手のかかる子いりません!もう!」
「いつもありがとうね!明日だね!」
「そ、そうね・・・」
どうしたものか・・・”あの手紙”・・・病気で臥せっているアドミラルには心労かけたくないし、隊長にだけでも言うべきか・・・。いや・・・それで隊長の身に何かあれば、私はぼんぼんさんになんて言えばいいんだ・・・。ここはやはり単独行動しか・・・。
考えに耽っているとガチャリとドアが音を立てて入って来たのはアドミラルだった。壁に手を付きながらよろよろと私達の元に歩いてくる。その様子にアイスエイジは慌てて彼女を支えに行き、一緒にテーブルに連れてくる。
「ありがとうございます。アイスエイジ様。」
「もう!寝てなきゃ駄目じゃない!」
「すみません。ちょっと大事なお話があって・・・。」
「何よ?改まって・・・。あ・・・もしかして明日のライブの秘策でもあるの!?そうなんでしょ!」
目を輝かせるアイスエイジに対してアドミラル無表情で微笑むこともしない。アイスエイジはそれを体調のせいだと思っているだろう。
「ライブは辞退致しましょう。」
「・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・?」
カチンコチンに固まるアイスエイジ。私はただ静かに目を閉じた。
ぼんぼんさんを使って街の様子を調べさせていたアドミラルの口からその言葉が出てきても、なんら不思議ではなかったからだ。
「・・・え?・・・なん・・・て?」
アイスエイジは信じられないという様子で辛うじて言葉を発して聞き返す。
「ですから・・・明日のライブは辞退しましょう。」
「ふ、ふざけんじゃ無いわよ!!!!いやよ!!何でよ・・・何でそんなこと言うの!!」
信頼していた人に裏切られた・・・そんなやるせない表情を浮かべ彼女はアドミラルを怒鳴る。
「危険だからです。」
「何がよ!!!」
「ライブ会場が襲撃される危険性があります。」
「はぁ?なんでよ!」
アドミラルは目を閉じ、一呼吸置いてから口を開いた。
「先だっての事件。あれは完全に解決したとは言えません。」
「解決したじゃない!!私とアーセナルと、いけ好かないあの職人とで!犯人もとっ捕まえて能力を解除させて!今ここでずっと監視してるじゃない!何が解決してないのよ!」
「あの病気の影響はまだ続いています。今も病を患ってる人々が・・・。」
「だから!それも徐々に治っていくじゃん!明日のライブはその終息を祝ったものでもあるのよ!なんでよ・・・。」
泣きそうになりながらアドミラルに訴えかける。
「人々の心は治っていません・・・。今も病魔が巣くっています。」
「そんなんじゃ訳わかんないよ!!もういい!!絶対私は出るから!!一人でも出るんだから!!!」
アイスエイジは言うだけ言うと走って出て行ってしまう。私が後を追おうと立ち上がった時、アドミラルから声をかけられる。
「アーセナル様は驚きませんでしたね。」
「・・・え?」
「まるで知っていたかのようです。街が危険なことを。」
「それは・・・。」
「何か・・・知っていますね?」
彼女の何でも見透かすようなその黒い瞳に飲まれそうになる。
「きゅ、急な話で面食らったのよ・・・。驚いている暇もなかったわ。」
「そうですか・・・。」
そう言う彼女の黒い瞳は私の答えに全く納得していなかった。
____________________________
外に出た私はあたりを見渡しアイスエイジの姿を探す。
(ああ見えて戦闘職でだいぶ腕が立つから本気で走られたら分からないわ!)
そう思っていたが以外にも彼女は家のすぐ近くの木に手をついて下を向いている。
「アイスエイジ・・・?・・・え?ちょっと・・・あなた!!!大丈夫!?」
後ろからゆっくりと声をかけながら近寄ると彼女は泣きながら朝食べたものを全部嘔吐していた。
慌てて駆け寄り背中をさすってあげる。
無理も無いか・・・。さんざん無茶なスケジュールで働かされたけどアドミラルの手腕は凄かった。何のツテも無い私達を短期間で結構な知名度まで引き上げたのだ。アイスエイジも文句を垂れながら彼女の事は凄く信頼していた。その彼女からの否定の言葉だったのだ・・・。ショックだったのだろう。
嘔吐が収まると彼女は私の胸に飛び込みズルズルとへたり込みながらわんわん泣き始めた。
「大丈夫・・・大丈夫よ。私が必ずあなたをステージに立たせてあげるから・・・大丈夫だから・・・。」
私は彼女の青く綺麗な髪を梳くように頭を優しく撫でて言葉をかけると、次第に彼女は落ち着いていき、やがて泣き疲れて寝息を立てていった。木陰の下で膝枕してあげ、そのあどけない顔を優しく見つめる。同時に視界に移る残念なものがあった・・・。
「この白のブラウス・・・お気に入りだったのになぁ・・・」
彼女の安息と引き換えに私のお気にのブラウスは彼女の嘔吐物と涙と鼻水で前衛的なデコレーションされてしまっていたのだった。
「その割には元気じゃないですか・・・。」
アイスエイジの練習が終わり、私達はその帰路についている。彼女は散々身体を動かしたというのに随分と足取りも軽く元気だ。
「ん~?気持ちのいい疲れって言うの?もう後は本番に備えるだけだし。あー、動いたらお腹空いた~。ねぇ!何か食べて帰ろ!」
「ほら・・・もう遅いからお家でご飯にしましょうねー。」
「えー!いいじゃん!ちゃんと家でも食べるし!」
ぷくっと頬を膨らませて拗ねる様子は子供そのものだ。
「あー!あれ!香草焼き!前、アドミラルが買って来てくれたやつ!あれにしよ!」
「もう!」
言うや否や走って良い匂いのする屋台に走って行く。私は呆れながらも彼女の後を追った。
そこは屋台と言うより小さな店舗になっており、道に出っ張った屋台部分の脇を通って中で簡単な机と椅子を置いて飲み食いが出来るようにしてあった。
「おじさん!くださーい!二本ね!それとビール!勿論キンキンに冷えたやつね。・・・それっと・・・アドミラルのでしょ、てっちゃんと、ヘッドシューターのと、ぼんぼん君の分か・・・あと4本はテイクアウトでお願いしまーす!」
「ちょっと!食べていくつもり!?しかもお酒まで!?帰りましょうよ?」
「お腹へったもん。身体動かしたからキンキンに冷えたビールが飲みたの!」
「あー・・・嬢ちゃん・・・悪いね。今テイクアウトのみなんだ。お酒も提供してないんだよ。」
「え~~・・・そんなぁ~~・・・。」
「悪いね・・・こんな時だからさ。」
そう言う屋台のおじさんはマスクを付けていた。そんな彼にアイスエイジがそのマスクを指摘する。
「おじさん。それ暑くないの?」
「暑いけど今は怖い病気が流行っているからね。」
「そんなのもう終わったわよ!私達が解決したんだから!」
「ちょ、ちょっとアイスエイジ!」
胸を張って自慢げに言う彼女を窘める。ゴールドラッシュには誰が解決したか言わないように言っているからだ。
「ははは・・・凄いね嬢ちゃん。ゴールドラッシュは能力者による攻撃だった、解決したって言ったけど、これは自然発生した病気って言われてるよ。あれは初動の対応に遅れたゴールドラッシュの言い訳って言われてるさ。」
「え?本当に能力者だよ?ヴァリ・・・むぐぐ・・・」
「す、すみません。この子ちょっと疲れてて~。(ヴァリオラの事は秘密でしょ!?)」
余計なことを言う彼女の口を手でふさぎ、耳打ちする。
「???まぁ、まだ大勢の人が体調悪そうにしてるからね。君らもうつされないように気を付けるんだよ。」
「は、はい~気を付けます~。」
その時、私達の脇から口を大きく布で覆って顔を隠した男が入って来る。
「ちっ・・・あまり騒ぐんじゃねえよ。・・・親父、二本だ。」
「は、はい!すぐ用意します。」
男は苛立った様子で私達を一瞥してから店主に視線を向けた。
「例の件、分かってるな?」
「え、ええ・・・。」
僅かな問答だったが、店主が少し顔を引きつっているのが気になった。
「何!あいつ!私達が先だったのに!・・・おじさん大丈夫?顔色良くないよ?」
アイスエイジが私の手から逃れて去っていく男に対して毒づいてから、店主を気遣う。
「ご、ごめんよ。嬢ちゃん、あの人、先に予約にしていたんだ。」
「ふーん・・・そうなの?おじさん何か・・・」
じーっとアイスエイジは店主を見る。
「ほ、ほら。お詫びにアツアツ入れといたから。はい、串焼きね。」
「ありがとうございます。ほらもう行こう。」
手渡される串焼きの紙袋を受け取りアイスエイジを引きずって帰る。
アイスエイジは私に引きずられながらも串焼きの店主に向かって大声で言う。
「ありがとー!おじさん!今度、私ライブに出るんだ~。先の事件の解決を祝ったライブなのよ!良かったらおじさんも見に来てね~。私のライブ見たら元気になるよー♪」
「え・・・?あ・・・ああ。・・・そうだね・・・考えとくよ。」
テンション高く、ポーズまで取って見せるアイスエイジに対して店主の反応は薄い・・・。それもそのはずだろう・・・だって・・・。
店主は彼女に対して曖昧に笑って固まるもんだからアイスエイジが不思議そうな顔をしている。
「すみません、ご店主。騒がしくして。もう!行くよ。」
私は誤魔化すかのようにアイスエイジの手を引っ張って歩いて行く。
「え?ちょ・・・!?なになに?」
「・・・お、お腹ペコペコだから早く帰りたいのよ。」
「なーんだ!アーセナルもそんな事言うんだ~。ぷぷー。」
「い、いいから!早く帰るわよ!」
勘の良い彼女に感づかれるかと思ったが何とか誤魔化せたようだ。恥ずかしさを誤魔化すようにアイスエイジを置いてずんずん進んでいくと、後ろからニヤついた顔で追いかけてくる。腹が立つが結果オーライだ。
さて・・・問題はそう・・・彼女のライブなのだ・・・。
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「むー・・・むぐむぐ・・・」
数日が経ちいよいよライブの前日の日。アイスエイジのライブへのモチベーションは日に日に増していき、昨日も夜遅くまで頑張っていた。その所為で今まさに半分寝ながら朝食を食べている。
「ほらもう!卵が垂れてますよ!」
パンの上に乗せた半熟の卵が彼女の口から垂れるのをハンカチで拭ってあげる。
「もう・・・私はあなたのお母さんじゃ無いんですよ!」
「へへへ~。アーセナルママ~。」
寝ぼけ眼で”にへら”と笑いからかってくる。
「あなたみたいな手のかかる子いりません!もう!」
「いつもありがとうね!明日だね!」
「そ、そうね・・・」
どうしたものか・・・”あの手紙”・・・病気で臥せっているアドミラルには心労かけたくないし、隊長にだけでも言うべきか・・・。いや・・・それで隊長の身に何かあれば、私はぼんぼんさんになんて言えばいいんだ・・・。ここはやはり単独行動しか・・・。
考えに耽っているとガチャリとドアが音を立てて入って来たのはアドミラルだった。壁に手を付きながらよろよろと私達の元に歩いてくる。その様子にアイスエイジは慌てて彼女を支えに行き、一緒にテーブルに連れてくる。
「ありがとうございます。アイスエイジ様。」
「もう!寝てなきゃ駄目じゃない!」
「すみません。ちょっと大事なお話があって・・・。」
「何よ?改まって・・・。あ・・・もしかして明日のライブの秘策でもあるの!?そうなんでしょ!」
目を輝かせるアイスエイジに対してアドミラル無表情で微笑むこともしない。アイスエイジはそれを体調のせいだと思っているだろう。
「ライブは辞退致しましょう。」
「・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・?」
カチンコチンに固まるアイスエイジ。私はただ静かに目を閉じた。
ぼんぼんさんを使って街の様子を調べさせていたアドミラルの口からその言葉が出てきても、なんら不思議ではなかったからだ。
「・・・え?・・・なん・・・て?」
アイスエイジは信じられないという様子で辛うじて言葉を発して聞き返す。
「ですから・・・明日のライブは辞退しましょう。」
「ふ、ふざけんじゃ無いわよ!!!!いやよ!!何でよ・・・何でそんなこと言うの!!」
信頼していた人に裏切られた・・・そんなやるせない表情を浮かべ彼女はアドミラルを怒鳴る。
「危険だからです。」
「何がよ!!!」
「ライブ会場が襲撃される危険性があります。」
「はぁ?なんでよ!」
アドミラルは目を閉じ、一呼吸置いてから口を開いた。
「先だっての事件。あれは完全に解決したとは言えません。」
「解決したじゃない!!私とアーセナルと、いけ好かないあの職人とで!犯人もとっ捕まえて能力を解除させて!今ここでずっと監視してるじゃない!何が解決してないのよ!」
「あの病気の影響はまだ続いています。今も病を患ってる人々が・・・。」
「だから!それも徐々に治っていくじゃん!明日のライブはその終息を祝ったものでもあるのよ!なんでよ・・・。」
泣きそうになりながらアドミラルに訴えかける。
「人々の心は治っていません・・・。今も病魔が巣くっています。」
「そんなんじゃ訳わかんないよ!!もういい!!絶対私は出るから!!一人でも出るんだから!!!」
アイスエイジは言うだけ言うと走って出て行ってしまう。私が後を追おうと立ち上がった時、アドミラルから声をかけられる。
「アーセナル様は驚きませんでしたね。」
「・・・え?」
「まるで知っていたかのようです。街が危険なことを。」
「それは・・・。」
「何か・・・知っていますね?」
彼女の何でも見透かすようなその黒い瞳に飲まれそうになる。
「きゅ、急な話で面食らったのよ・・・。驚いている暇もなかったわ。」
「そうですか・・・。」
そう言う彼女の黒い瞳は私の答えに全く納得していなかった。
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外に出た私はあたりを見渡しアイスエイジの姿を探す。
(ああ見えて戦闘職でだいぶ腕が立つから本気で走られたら分からないわ!)
そう思っていたが以外にも彼女は家のすぐ近くの木に手をついて下を向いている。
「アイスエイジ・・・?・・・え?ちょっと・・・あなた!!!大丈夫!?」
後ろからゆっくりと声をかけながら近寄ると彼女は泣きながら朝食べたものを全部嘔吐していた。
慌てて駆け寄り背中をさすってあげる。
無理も無いか・・・。さんざん無茶なスケジュールで働かされたけどアドミラルの手腕は凄かった。何のツテも無い私達を短期間で結構な知名度まで引き上げたのだ。アイスエイジも文句を垂れながら彼女の事は凄く信頼していた。その彼女からの否定の言葉だったのだ・・・。ショックだったのだろう。
嘔吐が収まると彼女は私の胸に飛び込みズルズルとへたり込みながらわんわん泣き始めた。
「大丈夫・・・大丈夫よ。私が必ずあなたをステージに立たせてあげるから・・・大丈夫だから・・・。」
私は彼女の青く綺麗な髪を梳くように頭を優しく撫でて言葉をかけると、次第に彼女は落ち着いていき、やがて泣き疲れて寝息を立てていった。木陰の下で膝枕してあげ、そのあどけない顔を優しく見つめる。同時に視界に移る残念なものがあった・・・。
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