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塔内編
塔内編その60
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朝日がまだ見えぬ、澄んだ空気広がる時間。
私は茶色のコルセットをグッと締めて、ベルトのナイフホルダーを確認する。
「・・・よし・・・っと。」
最後に壁にかけてあったフード付きマントを手に取り被る。静かに部屋を出て玄関へと向かう。
(後はこれをどうするかよね・・・)
ごそごそと衣服のポケットをまさぐり取り出したのは昨日夜中に書いた手紙だ・・・。その手紙を見つめながら皆を起こさぬよう静かに歩いていた時だった。
「こんな朝早くにどこへ行くんです?」
静かに、でもよく通る凛とした声で後ろから呼び止められた。
(手紙に気を取られ過ぎて全く気付かなかった!)
「ええっと・・・お手洗いに~・・・。」
「随分物騒なお手洗いですね、アーセナル様。」
「ははは・・・。アドミラル、今日は随分調子良さそうじゃない?」
「あの子、言っても聞かないので今日だけでも身体を動くようにして貰いました。薬で。」
「大丈夫なの?そんな事して。」
「さあ?それよりも質問に答えてください、アーセナル様。」
「・・・」
彼女の目は誤魔化しを許さない。そんな射貫くような目をしている。かつての拠点に居た全盛期のあの頃の鉄面皮の女の顔がそこにある。そんな彼女の表情を見たせいか、私もかつての第七独立部隊の副長のだった頃の緊張感が蘇った。
「悪いけど言えないわ。」
「私にも?一人でやるより良い結果が出るとは思いませんか?」
「一人も悪くないわよ?私は元々少数精鋭部隊の出よ?単独の方が成功率が上がるわ。」
嘘だ。正直そこまでの高い成功率は予想していない。
ジッと見つめられる。その黒鉄の冷徹で硬い、高圧的な瞳に・・・。その硬質の視線だけ押しつぶされそうな感覚があるが表には出さない。
しばらく互いに見つめ合っていたが、彼女は私が折れないと見ると『はぁ・・・』と溜息を付き、愚痴るように言ってくる。
「頑固者ばかりです。好きになさい。・・・ちょっとくらい手伝わせてくれてもいいじゃないですか。」
そう言う彼女はこの街で見た実に人間らしいアドミラルの顔だ。
「ごめんなさい・・・。そうだ。これ・・・。もし私の用事が長引いてライブに間に合わなかったら、開けてください。間に合ったら返してください。あなたなら約束を必ず守ってくれそうだから・・・。それとあの子の事よろしく。」
私はポケットの手紙を取り出し、差し出す。
「ええ、解りました。元々そのつもりで薬を使ったんですから。いつでもいけますよ。」
彼女は腰のレイピアをポンポンと叩き、ニヤリと笑った。私の差し出す手紙を受け取り大事にメイド服のポケットに仕舞いこむ。それを確認して私は家を後にしようとした。
「アーセナル様!」
扉を開けて出ようとした瞬間、彼女に呼び止められ振り返る。
「あれだけ言ったんです。最高のパフォーマンスをしますよ。あの子は。絶対間に合わせて帰ってきてください。約束ですよ。」
「ええ。必ず・・・。」
そう言い残し私はドアを閉めて皆の居る家を後にした。
______________________________
「ええ!?アーセナル来れないの!?」
「来れないとは言っていません。用事を済ませてから来ると言ってるんです。」
「もう!私の晴れ舞台なのに私より優先すべき事って何よ!もう!」
プンプン起こりながら私の作った朝食を頬張るアイスエイジ様。
「いいですから。早く片づけてください。出発の時刻が迫ってきているのですから。」
「へへ~。はぁ~い。」
にへらと笑ってパクパクと朝食を詰め込む。昨日、私がライブの中止を提案したときは壊れそうなくらい落ち込んで居たのに、私がしぶしぶでも承諾したらこの有様だ。
「昨日は随分荒れていたって聞いたけど、調子良さそうじゃない?」
今日の護衛をお願いしたヘッドシュータ様が一緒に朝食をお召し上がりになりながらそう言う。
「この子は元々こう言うアップダウンが激しい子なんです。」
「あー・・・私も多くの部下見てきたからだけど、なんとなくわかる気がするわー・・・。」
彼女は『ははは・・・』と曖昧に笑ってトーストに噛り付いた。
「そう言えばヴァリオラ様。」
私はテーブルの脇で朝食を済ませてコーヒーを飲みながら煙草をふかして本を呼んでいるヴァリオラ様を呼んだ。
「ん?なんだいアドミラル君。」
「昨日の薬、もう一錠いただけますか?」
「それは君の主治医としておすすめ出来ないなぁ~。あの薬は治療薬じゃない。単に脳と身体をバグらせてるだけだ。麻薬みたいなもんだよ。あんまり使うと薬が切れた時の反動が怖いなぁ。」
「ちょっと!アドミラル!どういう事よ!?」
アイスエイジ様が口にモノを入れたまま私に詰めかけてくる。メイド服が汚れかねないので遠慮していただきたいのですが・・・。
「余計なこと言わないでください。私の仲間は神経質なんですから・・・。」
「知ってる。ここ数日でね。今のはなんて言うか、その子への意趣返しさ。」
彼女はそう言うとふともものあたりをポンポンと叩いた。
「まだ根に持ってるの!?陰湿な奴!」
アイスエイジ様が眉を潜めてヴァリオラ様を睨む。
「私の身体の事ですから私が一番よく知っていますので、出していただけますでしょうか?」
「あー!出たー!そのセリフ~。病院勤務時代でも一番嫌いだったセリフ~。頑固ジジイとかが言ってくるの。」
「アドミラル頑固ジジイだって!ぷぷー。」
アイスエイジ様がからかってくるので無言でそのモチモチした頬をつねって差し上げる。
「いひゃひゃひゃ!顔はやめて顔は!私アイドルなのよ!」
「化粧でどうとでもなりますので。それと隠れて笑っているのバレてますからね?ヘッドシューター様。」
「・・・くくく・・・ごめんごめん!あなたでこんなに笑う日が来るとは思わなかったわ!・・・ぷくく・・・。」
『はぁ~~~』と深い溜息をつく。・・・まぁでも悪い気はしない・・・。これも最後の想い出になるのだから・・・。
私は茶色のコルセットをグッと締めて、ベルトのナイフホルダーを確認する。
「・・・よし・・・っと。」
最後に壁にかけてあったフード付きマントを手に取り被る。静かに部屋を出て玄関へと向かう。
(後はこれをどうするかよね・・・)
ごそごそと衣服のポケットをまさぐり取り出したのは昨日夜中に書いた手紙だ・・・。その手紙を見つめながら皆を起こさぬよう静かに歩いていた時だった。
「こんな朝早くにどこへ行くんです?」
静かに、でもよく通る凛とした声で後ろから呼び止められた。
(手紙に気を取られ過ぎて全く気付かなかった!)
「ええっと・・・お手洗いに~・・・。」
「随分物騒なお手洗いですね、アーセナル様。」
「ははは・・・。アドミラル、今日は随分調子良さそうじゃない?」
「あの子、言っても聞かないので今日だけでも身体を動くようにして貰いました。薬で。」
「大丈夫なの?そんな事して。」
「さあ?それよりも質問に答えてください、アーセナル様。」
「・・・」
彼女の目は誤魔化しを許さない。そんな射貫くような目をしている。かつての拠点に居た全盛期のあの頃の鉄面皮の女の顔がそこにある。そんな彼女の表情を見たせいか、私もかつての第七独立部隊の副長のだった頃の緊張感が蘇った。
「悪いけど言えないわ。」
「私にも?一人でやるより良い結果が出るとは思いませんか?」
「一人も悪くないわよ?私は元々少数精鋭部隊の出よ?単独の方が成功率が上がるわ。」
嘘だ。正直そこまでの高い成功率は予想していない。
ジッと見つめられる。その黒鉄の冷徹で硬い、高圧的な瞳に・・・。その硬質の視線だけ押しつぶされそうな感覚があるが表には出さない。
しばらく互いに見つめ合っていたが、彼女は私が折れないと見ると『はぁ・・・』と溜息を付き、愚痴るように言ってくる。
「頑固者ばかりです。好きになさい。・・・ちょっとくらい手伝わせてくれてもいいじゃないですか。」
そう言う彼女はこの街で見た実に人間らしいアドミラルの顔だ。
「ごめんなさい・・・。そうだ。これ・・・。もし私の用事が長引いてライブに間に合わなかったら、開けてください。間に合ったら返してください。あなたなら約束を必ず守ってくれそうだから・・・。それとあの子の事よろしく。」
私はポケットの手紙を取り出し、差し出す。
「ええ、解りました。元々そのつもりで薬を使ったんですから。いつでもいけますよ。」
彼女は腰のレイピアをポンポンと叩き、ニヤリと笑った。私の差し出す手紙を受け取り大事にメイド服のポケットに仕舞いこむ。それを確認して私は家を後にしようとした。
「アーセナル様!」
扉を開けて出ようとした瞬間、彼女に呼び止められ振り返る。
「あれだけ言ったんです。最高のパフォーマンスをしますよ。あの子は。絶対間に合わせて帰ってきてください。約束ですよ。」
「ええ。必ず・・・。」
そう言い残し私はドアを閉めて皆の居る家を後にした。
______________________________
「ええ!?アーセナル来れないの!?」
「来れないとは言っていません。用事を済ませてから来ると言ってるんです。」
「もう!私の晴れ舞台なのに私より優先すべき事って何よ!もう!」
プンプン起こりながら私の作った朝食を頬張るアイスエイジ様。
「いいですから。早く片づけてください。出発の時刻が迫ってきているのですから。」
「へへ~。はぁ~い。」
にへらと笑ってパクパクと朝食を詰め込む。昨日、私がライブの中止を提案したときは壊れそうなくらい落ち込んで居たのに、私がしぶしぶでも承諾したらこの有様だ。
「昨日は随分荒れていたって聞いたけど、調子良さそうじゃない?」
今日の護衛をお願いしたヘッドシュータ様が一緒に朝食をお召し上がりになりながらそう言う。
「この子は元々こう言うアップダウンが激しい子なんです。」
「あー・・・私も多くの部下見てきたからだけど、なんとなくわかる気がするわー・・・。」
彼女は『ははは・・・』と曖昧に笑ってトーストに噛り付いた。
「そう言えばヴァリオラ様。」
私はテーブルの脇で朝食を済ませてコーヒーを飲みながら煙草をふかして本を呼んでいるヴァリオラ様を呼んだ。
「ん?なんだいアドミラル君。」
「昨日の薬、もう一錠いただけますか?」
「それは君の主治医としておすすめ出来ないなぁ~。あの薬は治療薬じゃない。単に脳と身体をバグらせてるだけだ。麻薬みたいなもんだよ。あんまり使うと薬が切れた時の反動が怖いなぁ。」
「ちょっと!アドミラル!どういう事よ!?」
アイスエイジ様が口にモノを入れたまま私に詰めかけてくる。メイド服が汚れかねないので遠慮していただきたいのですが・・・。
「余計なこと言わないでください。私の仲間は神経質なんですから・・・。」
「知ってる。ここ数日でね。今のはなんて言うか、その子への意趣返しさ。」
彼女はそう言うとふともものあたりをポンポンと叩いた。
「まだ根に持ってるの!?陰湿な奴!」
アイスエイジ様が眉を潜めてヴァリオラ様を睨む。
「私の身体の事ですから私が一番よく知っていますので、出していただけますでしょうか?」
「あー!出たー!そのセリフ~。病院勤務時代でも一番嫌いだったセリフ~。頑固ジジイとかが言ってくるの。」
「アドミラル頑固ジジイだって!ぷぷー。」
アイスエイジ様がからかってくるので無言でそのモチモチした頬をつねって差し上げる。
「いひゃひゃひゃ!顔はやめて顔は!私アイドルなのよ!」
「化粧でどうとでもなりますので。それと隠れて笑っているのバレてますからね?ヘッドシューター様。」
「・・・くくく・・・ごめんごめん!あなたでこんなに笑う日が来るとは思わなかったわ!・・・ぷくく・・・。」
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