羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その61

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「もう始まっちゃうよ~。」

 控室でソワソワするアイスエイジ様。それに、護衛でヘッドシューター様が出入口付近で警戒しておられます。順番はアイスエイジ様が一発目で聖夜様の所が最後となっている。
 アイスエイジ様が待つ彼女、アーセナル様はもう・・・間に合わないでしょう・・・それはつまり・・・。私は彼女との約束を果たすべくポケットから手紙を取り出そうとした時だった。

「あの・・・」

「ちょっと、私ライブステージを見に行ってみる。」

「もう、あんまり出歩かないでよ!」

「ちょっとだけ!」

 そう言って二人で飛び出してしまった。仕方がない、私も舞台袖に行きますか・・・。
 ステージは円形で観客は上から演者を見下ろすような、一見すると闘技場のような作りになっている。
 舞台袖に行くとそこにはアイスエイジ様とヘッドシューター様以外に聖夜様もおられました。
 その彼の横には派手なブラウスとスカートを着た少女・・・所謂地雷系と言う奴でしょうか?その少女が聖夜様の腕に手を絡ませて笑顔を携えて一方的に抱きついていました。

(なんだか、隣の女の子の熱量に対して聖夜様は素っ気ないわね・・・。)

 私が二人に近寄ると彼は私に気付き、目が合ったので目礼だけしておく。対する彼は私に対して気付くと私に話しかけてきました。

「今回は相当宣伝しましたから沢山の人がやってきますよ。前回みたいに惨めな事になる前に帰った方がいいんじゃないですか?今回も私の方が観客の声援も売り上げもいただきますよ。」

 私がそれに相手にせず無視していると、アイスエイジ様が反応した。

「あれ~性病の人じゃない~。どう?あれから治ったの~?クスクス。お薬まだ要るなら頼んであげよっか~?」

「お、おま・・・おま・・・!」

 嫌味たっぷりにそう言うと見る見るうちに聖夜様の顔が赤くなる。その様子を見て聖夜様に腕を絡めていた少女がアイスエイジ様を睨みつけ口を開きました。

「聖夜様、何このブス。」

「あんた・・・前に一回会ったでしょ?病院の前で。」

「そんなの知らな~い。つーん」

「何こいつ・・・。見た目通り頭に詰まる物が詰まって無さそうね!」

「あ゛?なに?喧嘩売ってんの?お前・・・」

 地雷系の少女がアイスエイジ様に歩みより、アイスエイジ様と地雷系の少女が近距離で睨み合う。そんな一触即発の雰囲気に急いで間に入って止める。

「失礼しました。ええと・・・。」

「ライカよ・・・。」

「当方の者が失礼しました、ライカ様。どうか怒りの矛を収めてください。」

 謝罪と共に頭を下げる。

「ちょっとなんでそんな奴に・・・むぐっ!むーむー!」

 どうやら後ろでヘッドシューター様がアイスエイジ様の口を塞いだようだ。

「まあ良いわ・・・。そのメイドに免じて聖夜様への侮辱は許してあげるわ。聖夜様から聞いてるわよ~?聖夜様が用意した子に手も足も出なくて泣いて帰ったって。」

 ライカと言う少女はアイスエイジを指さしながら笑うと、彼女は『むー!むー!!』と激しくうなりながらヘッドシューター様の拘束を逃れようと顔を真っ赤にして怒りながらもがいた。

「どうせ、前回みたいに泣きべそ掻きながら帰るでしょうよ。ブスだし。いこ?聖夜様~♥」

 ライカと名乗った地雷系の少女は聖夜様の腕を引っ張って通路の奥へと去っていった。

「ぷはっ!ちょっと何すんのよ!」

「折角アドミラルが丸く収めようとしてるのに余計なことしないの!」

 ヘッドシューター様がアイスエイジ様を窘める。

「だって・・・あんなの腹立つじゃん!それに・・・私・・・。」

 前回こっぴどく負けたのを言われて思い出したのか、俯いて小さくなる。私は彼女の頭をそっと優しく撫でながらゆっくりと問いかける。

「アイスエイジ様は力で相手に勝ちたいのですか?」

「え?・・・ち、違うけど・・・」

 弱弱しくアイスエイジ様が顔を上げる。今にも泣き出しそうな顔を見せて・・・。

「ならばあそこで勝ちなさい。」

 凛とした声で舞台袖からステージを指さす。

「ええ・・・そう・・・そうね!」

 彼女はその言葉を聞いて目を見開き、ジッとステージを見据えて力強く答えた。その表情に迷いや不安は既に無く、瞳に闘志が宿っていた。

「な~んか、親子みたいね~」

 ヘッドシューター様がしゃがんで頬杖をつき、茶化してくる。

「なら、ヘッドシューターは私の妹ね!」

 その言葉に『ズルッ!』っと頬杖状態からずっこけ反論する。

「なんでよ!せめて私がお姉さんでしょうが!!」

 二人して笑い合っている。うん・・・とても良い状態だ。これなら・・・。
 私はポケットに手を入れる。そこにはアーセナル様からの手紙が入っているが・・・。

(本当に・・・渡すべきなのだろうか・・・)

「アーセナルも見に来てくれたら良かったのに・・・」

 寂しそうに呟くアイスエイジ様の顔を見て私は意を決して手紙を出すことにした。

「・・・アイスエイジ様。実はアーセナル様から手紙を預かっていたのです。もしかしたら”こんな事に”なるかもしれないからって・・・。」

「ホント!どれ!?見せて!」

 私はアイスエイジ様宛ての手紙を抜き出し、彼女に与える。彼女は勢いよく開封して、中身を集中して目読し始めた。

「それ・・・まだあるわよね?随分な束だった。後のは?」

 ヘッドシューター様がそっと小声で聞いてくる。その顔は訝しんだ顔で私の隠していることを見透かすような・・・。

「後ほどでよろしいでしょうか?そろそろ始まりますので・・・。」

 私は平静を装いながら彼女に告げる。大丈夫・・・鉄面皮なんて言われてましたから・・・読み取られないはず。

「ライブが始まったら詳しく聞かせてちょうだい。」

 だが、ヘッドシューター様の顔は依然として険しいままだった。互いの視線が交錯する気まずい雰囲気を破ってくれたのは手紙を読み終えたアイスエイジ様だった。

「ねぇ!アーセナル来てくれるって!ちょっと遅れるけど、私のライブが終わるまでに見に来るって!打ち上げは私の好きなお店でしようって!え~?どうしようかな~?お肉かな~?」

「では、お肉料理のおいしいお店を押さえておきます。」

「ほんと!ありがとうアドミラル!あ・・・。そろそろみたい!それじゃ、行ってくる!」

 少しの緊張と不安を抱え、堂々とステージの方へと力強く歩んでいく。あれなら大丈夫でしょう。後は彼女次第。

「いってらっしゃいませ・・・アイスエイジ様」

 小さくなる背中に呟く。彼女の栄華を願って。
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