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塔内編
塔内編その62
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ゆっくりと暗い会場、静かな円形の壇上へ向かう。チラリと振り返るとアドミラルが小さく頷く。その脇には先程去っていった聖夜とその腰巾着も戻ってきており、あのローレライもこちらを見ていた。
(見てなさい、度肝を抜いてやるわ!)
舞台の中心に立つと徐々に喧騒が止む。
曲が流れるまでの少しインターバル、スポットライトの熱とシンと静まり返る暗闇の中に混ざる皆からの視線、張り詰めた空気、それらを肌で感じながら私は目を閉じて静かに集中する。
どれぐらい経っただろう?スタッフさんの『OKでーす』の言葉と共に目を開き、曲が始まる。さぁ!いよいよ歌い出し!という時だった。
「今すぐ中止しろ!!!すぐに家に帰って大人しくしていろ!!!!」
出入口が開け放たれて暗闇に僅かに光がさす。マスクをして横断幕と棒切れや中には武器を持った人達がなだれ込んできて、横断幕にはライブへの誹謗中傷が書かれてある。
「まだウイルスはそこら中にある!!病気の脅威は終わていない!!!折角、患者が少なくなったのにお前らのせいでまた増えるぞ!!!馬鹿どもが!!!」
彼等は棒切れを振り回しながら脅して回る。
逃げまどう者、それを追う者。応戦する者、隠れる者。
暗く静まり返っていた会場は一瞬にして大パニックになった。
「なによ・・・これ・・・なん・・・なのよ・・・。」
呆然として掠れた声が出る。視界の端にメイド服が見える、アドミラルだ。彼女が素早く対処に当たっていたが、人員が足りない。暗い会場であっても彼女の焦りに満ちた顔がステージから伺えた。
「機材を潰してしまえ!!」
リーダー格の男が棒切れを持った男に指示する。ヘルメットを被りマスクを付けた男が機材に向かって棒を振りかぶる。
「やめて!!!!」
私の絶叫空しく男は一瞬躊躇してから棒を振り降ろした。その衝撃で曲が歪む。
「やめて・・・やめて・・・」
もう一度、躊躇い気味に振り降ろすと曲が途切れ途切れになる。
「やめ・・・。」
もう一度、振りかぶった時・・・
「やめろ!!!!!!!!!!!!!!」
マイクがキーンとハウリングする。
私は爆発した。手をかざして氷のミサイルを機材を壊していた男に向かって発射していた。
氷のつららは彼の顔を掠め、男は腰を抜かして尻もちをつく。
ヘルメットが脱げ、マスクの紐が切れてはらりと落ちる。暗いけど見えた。見えてしまった・・・。あの串焼きの店主さんだった。彼と目が合う。青くなって泣きそうな顔だった・・・どうしていいのか、自分でも分からないような・・・。
彼を見つめる私もきっと同じ顔をしているだろう・・・。
「あの女をやれ!!!!!!!!!」
リーダー格の男が大声で指示を出すとそれぞれ動いていたメンバーが一斉に私の方に突っ込んでくる。 興奮に身を委ねた嬉々とした表情。そこには知っている顔も多くいた。
(ああ・・・あれおかみさんの宿で働いていたウェイターさんだ・・・。あれは食品店の店長さん・・・あれはパン屋お兄さん・・・。)
「これで・・・こんなのでどうやって歌えって言うのよ・・・。今日までずっと頑張ってきて、みんなが手伝ってくれて、今日を迎えたのに・・・」
「なんであんたらに無茶苦茶にされなきゃならないのよ!!!!!!!!!!!」
私は怒りに任せてその場で片足上げて大きく踏み鳴らす!!!!四方八方に氷が走り、会場全体が氷の世界へと変貌する。私に向かってきていた者たちは全員足が氷漬けになり動きが止まった。
あまりの出来事に全員が沈黙し、静寂が訪れる。
私は敵等に向かって手をかざす。先程の私の攻撃を見ているからか、見知った顔が恐怖に歪む。その顔を見てハッとする。
『アイスエイジ様は力で相手に勝ちたいのですか?』
彼女の言葉を思い出すと、伸ばした手から生成されつつあった氷が霧散する。
もう一度彼等の様子を見る。ある者は腰を抜かし、ある者は蹲って頭を抱えて震えている。彼等のその様子を目の当たりにすると自分の中の怒りの炎が止み、冷水をぶっかけられたように頭が冷える。
(違う・・・こんなの・・・こんなの私がやりたいことじゃない・・・!!)
私は足元に冷気を込めて靴の裏にエッジを作り出していく。
どうしてだろう・・・。あんなにも恐れて、恐怖していたのに・・・。もう二度と人に見せはしないと抵抗があったのに・・・。今ならやれそう・・・。もう何年もしていない、錆ついているはずなのにかつての全盛期の自分よりも良いパフォーマンスが出来る。そんな確信があった。
そして私は静かに目を閉じて佇む。
(彼女が・・・彼女がきっとやってくれる・・・)
その時をただじっと待つ・・・仲間を信じて。
(見てなさい、度肝を抜いてやるわ!)
舞台の中心に立つと徐々に喧騒が止む。
曲が流れるまでの少しインターバル、スポットライトの熱とシンと静まり返る暗闇の中に混ざる皆からの視線、張り詰めた空気、それらを肌で感じながら私は目を閉じて静かに集中する。
どれぐらい経っただろう?スタッフさんの『OKでーす』の言葉と共に目を開き、曲が始まる。さぁ!いよいよ歌い出し!という時だった。
「今すぐ中止しろ!!!すぐに家に帰って大人しくしていろ!!!!」
出入口が開け放たれて暗闇に僅かに光がさす。マスクをして横断幕と棒切れや中には武器を持った人達がなだれ込んできて、横断幕にはライブへの誹謗中傷が書かれてある。
「まだウイルスはそこら中にある!!病気の脅威は終わていない!!!折角、患者が少なくなったのにお前らのせいでまた増えるぞ!!!馬鹿どもが!!!」
彼等は棒切れを振り回しながら脅して回る。
逃げまどう者、それを追う者。応戦する者、隠れる者。
暗く静まり返っていた会場は一瞬にして大パニックになった。
「なによ・・・これ・・・なん・・・なのよ・・・。」
呆然として掠れた声が出る。視界の端にメイド服が見える、アドミラルだ。彼女が素早く対処に当たっていたが、人員が足りない。暗い会場であっても彼女の焦りに満ちた顔がステージから伺えた。
「機材を潰してしまえ!!」
リーダー格の男が棒切れを持った男に指示する。ヘルメットを被りマスクを付けた男が機材に向かって棒を振りかぶる。
「やめて!!!!」
私の絶叫空しく男は一瞬躊躇してから棒を振り降ろした。その衝撃で曲が歪む。
「やめて・・・やめて・・・」
もう一度、躊躇い気味に振り降ろすと曲が途切れ途切れになる。
「やめ・・・。」
もう一度、振りかぶった時・・・
「やめろ!!!!!!!!!!!!!!」
マイクがキーンとハウリングする。
私は爆発した。手をかざして氷のミサイルを機材を壊していた男に向かって発射していた。
氷のつららは彼の顔を掠め、男は腰を抜かして尻もちをつく。
ヘルメットが脱げ、マスクの紐が切れてはらりと落ちる。暗いけど見えた。見えてしまった・・・。あの串焼きの店主さんだった。彼と目が合う。青くなって泣きそうな顔だった・・・どうしていいのか、自分でも分からないような・・・。
彼を見つめる私もきっと同じ顔をしているだろう・・・。
「あの女をやれ!!!!!!!!!」
リーダー格の男が大声で指示を出すとそれぞれ動いていたメンバーが一斉に私の方に突っ込んでくる。 興奮に身を委ねた嬉々とした表情。そこには知っている顔も多くいた。
(ああ・・・あれおかみさんの宿で働いていたウェイターさんだ・・・。あれは食品店の店長さん・・・あれはパン屋お兄さん・・・。)
「これで・・・こんなのでどうやって歌えって言うのよ・・・。今日までずっと頑張ってきて、みんなが手伝ってくれて、今日を迎えたのに・・・」
「なんであんたらに無茶苦茶にされなきゃならないのよ!!!!!!!!!!!」
私は怒りに任せてその場で片足上げて大きく踏み鳴らす!!!!四方八方に氷が走り、会場全体が氷の世界へと変貌する。私に向かってきていた者たちは全員足が氷漬けになり動きが止まった。
あまりの出来事に全員が沈黙し、静寂が訪れる。
私は敵等に向かって手をかざす。先程の私の攻撃を見ているからか、見知った顔が恐怖に歪む。その顔を見てハッとする。
『アイスエイジ様は力で相手に勝ちたいのですか?』
彼女の言葉を思い出すと、伸ばした手から生成されつつあった氷が霧散する。
もう一度彼等の様子を見る。ある者は腰を抜かし、ある者は蹲って頭を抱えて震えている。彼等のその様子を目の当たりにすると自分の中の怒りの炎が止み、冷水をぶっかけられたように頭が冷える。
(違う・・・こんなの・・・こんなの私がやりたいことじゃない・・・!!)
私は足元に冷気を込めて靴の裏にエッジを作り出していく。
どうしてだろう・・・。あんなにも恐れて、恐怖していたのに・・・。もう二度と人に見せはしないと抵抗があったのに・・・。今ならやれそう・・・。もう何年もしていない、錆ついているはずなのにかつての全盛期の自分よりも良いパフォーマンスが出来る。そんな確信があった。
そして私は静かに目を閉じて佇む。
(彼女が・・・彼女がきっとやってくれる・・・)
その時をただじっと待つ・・・仲間を信じて。
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