羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編1 これが僕らのセカンドライフ

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「勇者よ。どうしても、行ってしまうのか・・・」

「すみません、王様。僕のここでの使命は終わりましたし、元居た世界に家族を・・・病気の妹を残して来ているんです。」

「そうか・・・残念じゃが引き留められんな。・・・さぁ、そなたも挨拶をしなさい。」

 名残惜しそうな王様は隣に立つ孫であり、共に旅をしたピンク髪の女の子を促す。
 彼女は僕について来たがったが、僕の居た世界からこちらの世界に帰ってこれる保証は無いので、固く断った。
 それ以来、ずっと不貞腐れて口を聞いてくれない。
 僕はずっと一緒に旅をしてきた彼女に惹かれていたし、苦楽を共にしてきた。このまま喧嘩別れは悲しいな・・・

「聖女様。今まで何度も助けていただいて・・・支えてくれて感謝しきれません。どうかお元気で・・・ありがとうございました。」

(駄目か・・・相当怒らせちゃったな。)
 僕は彼女の前に立ち、別れを告げたが彼女は俯き目も合わせてくれなかった。
 ちゃんとお別れできないのは辛かったが、こればかりは仕方がない。

「それでは。王様。」

「うむ、達者でな。帰還方法が見つからなかったら何時でも羽を休めに来なさい。」

 僕が二人に背をむけ、歩き出した。

「・・・・あなたは・・・簡単に行ってしまわれるのですね。」

「え?」
 振り向くと、聖女様が僕の方を見てぼろぼろ泣いていた。

「私は・・・こんなにも辛いのに!あなたは簡単に置いて行けるのですね!」

「そ、そんなことは・・・」
「だったら!!!・・・だったら、・・・私も連れて行ってください。」
 全部を言う前に聖女様に遮られる。

「それは!!!・・・もう二度と帰ってこれないかもしれないんですよ・・・」

「構いません!!!」

「ひ、姫よ、それは困るぞ。」

「おじいさまは黙っててください!!!」
 王様が口を挟み、聖女様を窘めるが、それを跳ね返すように聖女様はぴしゃりと言い放ち、その迫力に負けて、一国の王だというのに可愛らしく『しゅん』となった。

 僕もこれからも聖女様と一緒にいたい。でも、僕は決断できないでいた。聖女様の人生に関わることだ。おいそれと『ついてきてほしい』と言えなかった。
 僕が迷っていると、急に足元に魔法陣が浮かび上がり、光り出した。
 それは僕がこの世界にやって来たときと似たような転移魔法陣だった。
(と、飛ばされるのか!?)

「勇者様!!!」
 聖女様がこちらに向かって走ってきていた。

「き、来ちゃ駄目だ!」
 僕は聖女様を言葉で制止したが、聖女様は止まらず、その光は僕と聖女様を巻き込み収束していく。
(くそ!こうなったら・・・)
 僕は既の所で聖女様の手を握り、そのまま意識が遠くなった。






 だんだんと意識がはっきりしてくる。右手に暖かく柔らかな感触。
 目を開け右を見ると一緒に手をつないだ聖女様の姿。離れ離れにはならなかたようだ。

 周りを見渡す。ここは…どこなんだ!?


 周りを見渡すと大勢の人たちが居る。ぐるりと円を描くように観客席。その中心は大きく窪むような構造、所謂闘技場のような形だ。
 そして僕たちが居るのは観客側ではなく剣闘士側の立場だ。
 そして観客席からは舐めるような視線を感じる。

「ゆ、勇者様。」
 聖女様が腕を控えめに掴み不安そうに見上げてくる。
 周りに居る人たちも皆一様に戸惑っている様子だ。

「ようこそ~!!!地獄へ~~!!!」
 観客席にライトが当たり、こんがり焼けた肌にチャラチャラとした派手な服とサングラス。それにマイクらしきものを持った陽気な男が語りかけてくる。

「皆さん!チュートリアルクリアお疲れちゃーん。」
 チュートリアル?どういうことだ!?

「えー、皆さんの転生、転移はここからが本番でーす。では、まず神様の…」

「おい!ちょっと待て!ここはどこなんだ!お前たちはなんなんだ!?」
 若い侍風の男が口をはさむ。

「おい、お前。俺っちが今説明してんだろうが。」
 男の感情の入っていない平坦な声。聞いただけで圧倒され、その場にいた全員が息を飲んだ。

「えー。皆、邪魔しないでね。大変なことになるからさ。では続きを・・・」
 再び笑顔で話始める。
 ガンマン風の男が陽気な男に向かって銃を構え、撃とうとした瞬間、ガンマン風の男の頭が潰れたトマトのようにはじけ飛んだ。

「あーあ、だから邪魔すんなって言ってんのに。この付近では人同士の戦闘は駄目だよ。あんな風に死ぬからねー。そいじゃ、ここはどこなのか?皆さんご存じ、おファックな神野郎から説明がございまーす。では傾聴しやがれ~」

 空中にだらしない女性の映像が写し出された。神様…なのだろうか?僕が転移したときに会った奴とは別人だ。

「あーテステス。皆さん救世お疲れ様でしたー。そこに居る皆さんは世界を救った勇者さんや英雄さんでーす。んでもってぇ、ここは世界の狭間ですー。えー、お仕事が終わった皆さんを転移で元の世界に返してあげようと当初頑張ってたんですが、皆さん、帰りたいだの、帰りたくないだの、クッソ面倒なのでこういう場所を用意しましたぁー。そういう経緯で出来たんですここはぁー。さぁ好きなだけ皆さん意思統一してくださーい。
ある程度できたら呼びかけてくださーい。用事なく呼んだらぶっ殺しまーす。じゃ」

「ちょっと待ってください。私は世界など救ってはいません。ただ異世界でのんびりと薬師をしていただけで・・・」
 優男が映像を切ろうとする神を呼び止めた。

「ああ、そっち系ね・・・はぁ~めんどくせぇ。えーと何だったっけな?なんか元の世界にちょっと帰ってみたいなー、とか元の世界どうしてるかなー、とか考えたやつもぶち込んでまーす。というかそう言う奴もいないとこの世界回んないでしょ?そゆことでよろしくー。じゃ」
 最後は欠伸して映像が消えた。

「はーい。というわけで糞みたいなお言葉でした~!では皆さん、どちらに帰りたいか所属する側を決めてくださーい。」

 気弱そうな狩人風の男が口を開いて、司会のように進行を務める陽気な男に問いかけた。

「ちょ、ちょっと待ってください。神様は意思統一してほしいと言っていたのに二手に別れたら元も子もないじゃないですか。話し合って意見を取りまとめないと…」

「は?お前、まじで言ってんの?そんなの不可能に決まってるだろ?頭お花畑かよ。」
 陽気な男から笑顔が消えた。

「え?じゃあ何のために…」
 狩人風の男が震えた声で聞く。

 その先の言葉は皆、薄々気づいているんだ。
 やめろ…やめてくれ!その先は!!!
 聞いた狩人は顔が真っ青だ。周りの者もみんな蒼白な顔をしている。
 隣に居る聖女様は今にも倒れそうなほど血の気が引き、僕の腕にしがみついて何とか立っているような状態だ。


「何のためにって察しの悪い奴だな~。」
 ニコニコしながら男が答える。
 だがそれも束の間、男から笑みが消え、冷たい感情のない声で答える。
「そんなの殺し合うために決まってるだろ。」


 空気が凍った。誰も動かない。
 頭が真っ白になったのは僕だけじゃないはずだ。
 どれぐらいそうしていただろう。
 一人の男の声で呆然としていた意識が呼び戻された。

「ふざけるな!!俺は従わないぞ!!!」
 若い侍風の男が啖呵を切った。

「んー。まぁ、毎回こういう生きのいい奴居るんだよなぁ。じゃあいつものアレ、いきますか!」

 陽気な男がパチンと指を鳴らす。
 すると音を立てて片側の闘技場の入場門が開いた。
 居る・・・・何かが!!!!
 周りの者も気づいたのか全員警戒体制に入る。
 呪文を使えるものは詠唱を始めるものもいた。
 とてつもなく嫌な予感がする。

「聖女様、僕の後ろに、そしてゆっくりと下がってください。」

「わ、わかりました。」

 聖女様がゆっくりと下がるのを確認して僕も入場門から距離を取る。

 刹那の一瞬、僅かに見えた紐のような物体。それを目で追い、気づいたときには侍男のパーティの女術師が消えた。かろうじて目で追えたがかなりの速さだ。

「サクラ!通路奥に光術を放て!」
 侍男が仲間の桃色髪の巫女に指示を飛ばす。

「は、はい。大いなる太陽神よ。ここに力を顕現し、敵をうち滅ぼせ!」

 高出力の光属性の魔法か?巫女から光の球が放たれ、通路奥で爆発し、砂塵が舞う。
 砂煙に巨体の影が移る。で、でかい2mはあるか。
 砂煙の中から、また長い鞭のような攻撃が繰り出される。

「あっ」
 避ける間もなく侍パーティの巫女の子が消えた。

 今度は見えた。あれは…

「舌だ!!!」

 砂煙から出てきたのは巨大なカエル。

 巫女の子はかろうじて足だけが口から見えていた。

「サクラを返しやがれ。この糞ガエル。」

 侍男がでかい腹に切りにかかる。カエルの動きは鈍く避ける動作もなく侍の攻撃がクリティカルヒットする。
 切った腹からは炎が噴出する。あの刀の特性だろうか

「はは!見たか!カエル野郎!太陽神様のお力は効くだろう!」
 カエルはグエっと鳴き、咥えていた物体を吐き出した。
「え…」

 その物体は足首から先がすでに無かった。
 侍男はかつて仲間だったそれを呆然自失で眺めていた。
 炎が収まったカエルは侍男を見定める。

「い、いかん!」

 別のパーティの巨大な盾を持った重戦士風の男がガシャガシャと音を立ながら走って侍男とカエルの間に入り盾を構える。

 カエルは口を膨らませると重戦士に向かって体液を吐きかけると
「ぐああああああああああ!!!!!」

 重戦士の頑強そうな鎧と盾がフライパンで熱したバターのように溶けていく。
 あっという間に屈強な重戦士がどろどろの肉塊へと変貌した。

「い、いやあああああああああ!!!!」

「うわあああああああああああ!!!!」

 闘技場内はパニックと化した。
 叫ぶ者、吐く者、蹲って泣き出す者、腰を抜かす者、武器を投げ捨て無防備に背中を向けて逃げ出す者。
 無理もない。神から強力なチートのような能力や武具を与えられ、世界を救った者が瞬く間に三人死んだのだから。

「アローレイン!!!」
 無数の矢がカエルに降り注ぐ。放ったのは遠近どちらでもいけるのだろう剣と弓を携えたボウナイトの男だった。男は弓を掲げ大声で会場の皆を勇気づけた。

「みんな、逃げるな!武器を取れ!このままじゃ全員全滅だ!相手の動きは緩慢だ。足を使ってかき回せ!」
 男は会場の者を鼓舞しながら、走り、弓を放っていく。矢自体は命中するがカエルの正面の皮膚に当たると柔らかく跳ね返るように弾かれ刺さらない。

「くっそ!神からもらった伝説の弓矢だぞ!金属でも豆腐みたいに貫くのに!どうなってんだよ!」
 ボウナイトの男は愚痴を漏らすが、彼の鼓舞が効いたのか、遠距離攻撃が出来る者の何人かは戦闘に参加し共にカエルを攻撃していく。

(斬撃も刺突も有効じゃない・・・打撃なら通るのだろうか?)

 ボウナイトの男はそのまま走りながら回り込むように次々と弓を射っていく。ちょうどカエルの側面に差し掛かった時、火球を放っていた魔法使いを狙っていたカエルが向きを変えボウナイトの男を正面に捕らえ、喉が微かに動く。

「舌が来るぞ!」

 僕はボウナイトの男に向かって叫んだ。

「分かっている。こいつ予備動作があるな!それさえわかれば・・・楽勝だ!」

 カエルの舌は素早くボウナイトの男に飛んでいくが、それを男は横っ飛びで難なく躱す。しかし・・・

(さっきは舌がすぐに引っ込んだのに・・・何かおかしい!)

「気を付けろ!まだ何かあるぞ!」

 カエルは頭を振り舌を鞭のようにしならせ横薙ぎに薙ぎ払う。

「そ、そんな!うわあああああああああ!!!た、たすけ・・・・」
 ボウナイトの男は予想外の横薙ぎに対応できずに舌に絡み取られ無残にもカエルの腹の中に収まってしまった。

「う、うわあああああああああ!!!ダメだ!!死にたくない!!!お願いだ!ここから出してくれ!!」
 折角まとまりかかっていたのにリーダーシップを見せた男があっさり居なくなった途端、僅かに攻撃していた遠距離部隊は瓦解し、逃げ出して、あるものは闘技場の出入口で、あるものは壁際で叫ぶ。

「お、俺は美味しくないって!こ、こいつだ!コイツにしろ!」
 カエルに見つめられているフルプレートの男が軽戦士の男をカエルに向けて突き飛ばす。

「お、おま・・・!ふざけるな!!や、やめ・・・こっち見るな!見るんじゃねえよぉ・・・」
 
「悪いな!!俺様の為に犠牲になってくれよ!!!あははははははははは!!!・・・って、ちょ!なんでだあああああああ!!」
 涙目になってへなへなへたり込む軽戦士に向かってカエルの舌が伸びたかと思うと、その舌は軽戦士を掠めて、後ろで高笑いをしているフルプレートの男を絡め捕り飲み込んだ。

(今の・・・どういうことだ!?何故近くの軽戦士じゃなく奥のフルプレートの男だったんだ?)
 僕が違和感を覚えていると、カエルは続けて軽戦士を狙うのかと思いきや『ギュンっ』こちらを向き、僕らに狙いをつけてくる。

「聖女様。僕から離れないで・・・聖女様?」
 気付けば、隣に居た聖女様は目の前の惨状に過呼吸状態に陥っている。
 
 もしかすると・・・
(聖女様すみません。)

 何も言わず、限界近い聖女様を当身で気絶させると。
 こちらを見定めていたカエルが向きを変え、腰を抜かしている男軽戦士に向きを変更した。

(やはり・・・!)

「呼気だ!あいつ呼吸を感知してるぞ!浅く息をしろ!!!」
 僕の声に会場が『シン・・・』と静まり返る。カエルはキョロキョロと辺りを一周見回してから、一番近い軽戦士の方を向き直った。

「お、おい!!そこの剣士!ダメじゃねえかよおおお!!!」
 軽戦士が僕に向かって泣きじゃくりながら怒鳴る。

「大声出すな!殺られるぞ!・・・ああ、もう!!!やるしかねぇ!!」
 僕はカエルに向かって走り出し、叫ぶ。

「こっちだ!カエル野郎!かかってこい!!」

 カエルは喉を鳴らし僕に向かって舌を飛ばしてくる。しかし、予備動作さえ分かれば早くとも避けれないことはない。おまけに敢えてインファイトに持ち込むことによって舌の薙ぎ払いをさせない狙いもあった。狙い通りカエルはピンポイントでしか舌を撃ってこない。

「今のうちに誰か後ろから攻撃してくれ!!」
 呼びかけるが、みんな戦意喪失か恐慌状態に陥り、誰も呼応しない。

(ダメか・・・このままじゃジリ貧だ・・・。)
 その時だった。

「私がやる!!!」
 金色の髪を靡かせた女性の騎士が剣を抜いて名乗り出る。

「頼んだ!!!おら!カエル野郎!!こっちだぜ!!!」
 ヘイトを稼ぐために走り、叫ぶ。

(よし・・・引き付けられている。)

 僕も走って女騎士が背面を取れるようにカエルを引き付けながら向きを位置調整してゆく。そして僕がカエルの正面、彼女がカエルの背面に来たとき、彼女は静かに腰を落として剣を構え、力を一気に開放するかのように走り出した。僕も呼応して剣を構えて突撃する。その僕の動き合わせるようにカエルの口が膨らんだ。

「!?・・・あっぶねぇ」
 僕の突撃に合わせて僅かに掠るだけでも致命傷であろう溶解液を吐いてくるのを横っ飛びで何とか躱すが、その着地点に向けて続けて舌を繰り出そうとする。

(まずい・・・避けれない!)

「せええええええい!!!」
 女騎士の刺突がカエルの後頭部に突き刺さる。その衝撃で舌は僕を外れてあらぬ方向に伸びていった。
 カエルが頭を大きく振り、女騎士が剣から引き剝がされて吹っ飛ぶ。カエルは吹っ飛んだ彼女に狙いを付け、喉が動く。

(まずいぞ!彼女、まだ体勢を立て直せていない!このままじゃ・・・!)

「くそ!!間に合ええええええええ!!!」
 僕はカエルに向けて目一杯走り込む、後頭部に刺さった剣を掴んだ。カエルの口が開く。視界の向こう側に片膝をついて覚悟を決めた女騎士の顔が見えた。

「武器効果範囲二倍だ!」

 カエルの舌は彼女に伸びたが、再び巻き戻ることは無かった。
 舌が伸びきったままゆっくりと倒れこむカエル。その頭はパックリと裂けて体液が流れ出ている。会場を恐怖に陥れた怪物は再び動き出すことは無かった。

「ブラボー!!!全滅するかと思ったけど、いや~中々優秀優秀!」
 カエルが倒れたのを見て、今まで静かだった陽気な男が口を開く。

「こいつはこの世界のポピュラーな原生生物でしてね。外にはうじゃうじゃしてまーす。原生生物は何かしら特徴や習性持ってるんでね。それを理解して対処しなきゃ、あの世行きよ。」

「さーて、そこでへたり込んでいる侍クーン。従わないんだっけ?もうお仲間みんな死んじゃったけど。頑張って強く生きてねー。お そ と で 」

 固まっていた侍がビクッと肩を震わせ、真っ青な顔で消え入りそうな声を発した。

「・・・・てください・・・」

「あーん!なんだって?」

「た、助けてください。なんでもします。」

 その姿を見た観客席からゲラゲラ、クスクスと笑い声がこぼれる。

「いやー、ゆうて俺っちは司会者で、この観客席に居る両代表が決めることですしー。俺っちに言われてもねぇ。えーと皆さんの希望を聞いて、んで代表が欲しい人材なら雇用契約?みたいな?ま、これ自体がアレよ。トライアウトみたいなもん。 そゆわけなんで、これから1パーティづつ呼ぶんで皆さーん、最後のアピール、がんばっちょ!!」

 陽気な男が言い終わるとカエルが出てきた入場門とは逆方向の門が開き、そこからメイド姿の女性たちが出てきてパーティを案内しはじめた。




(聖女様、起こすべきだろうか)

 軽くゆすってみるが起きる気配がない。
 そうこうしてるうちに僕にもメイドさんが案内をしにきた。

「剣士様、こちらへどうぞ。お付きの方も。」

「あ、はい。」
 しょうがない。聖女様はおぶっていくか。

「剣士様はどちらの所属を希望なのですか?」

「僕は元の世界への帰還希望です。」

「ではこちらへ。」

 希望を確認されてからドアの前に案内される。

(緊張するな。)

 ノックをしてから部屋に入る。
 部屋には小柄な中世的な顔立ちの人がいた。この人が代表なのか?

「やあ!君か。見てたよ、さっきの。中々の機転だったね。君があのカエルの習性に気づいて無かったら今頃、背中の彼女は死んでるね。」

「あ、ありがとうございます。人の呼吸・・・であってますか?あのカエルが感知しているの。」
 ニコニコと虫も殺しそうに無い顔なのに、この人を見ているとさっきから冷汗が止まらない。

「そうそう。あのカエルは視力も聴力も良くない。獲物が排出する二酸化炭素を感知して狩りをしてると言われている。それと、そんなに緊張しないでよ。君みたいな優秀な子は大歓迎なんだから。ところで君と背中の彼女は何ができるんだい?」

「僕は…斬撃を飛ばすようなことが出来ます。彼女は簡単な怪我の治療が。」

「ような?正確には違うのかい?」

「射程が伸びるだけのちんけな能力ですよ。ハハハ・・・。」

「ふぅーん・・・他には?」

「えっと…それだけです。」

「ふむふむ・・・はぁ!?」

 一瞬重苦しい威圧感が薄れた。後ろで控えてる、あまり表情の動かないメイドさんも『嘘でしょ!?』という目で見てる。

「えーと・・・本当に?」

「は、はい。」

「君、よくそれで生き残ったね。というか、それでよく世界救えたね。ちょっと背中の彼女にもお話聞きたいから起こしてくれるかい?」

「さっき起こそうとしたのですが…聖女様、聖女様!」
 呼びかけながら、おぶってる聖女様を揺らす。

「う…ううん。」
 うっすらと聖女様の目が開く。

「おはようございます。聖女様。今、元の世界への帰還希望側の組織の面接中なのですが、聖女様にもお話を聞きたいそうで。」

「え、は・・・わ、私、す、すみません!」
 自分がどういう状態か認識した聖女様が顔を真っ赤にして背中で暴れだした。

「っわ、い、今下ろしますから。」
 そっと床に立たせてあげると、恥ずかしさからなのか、恐縮して随分と小さく見える。顔も真っ赤のままだ。可愛いなぁ。

「やあ、可愛らしい聖女様。ちょっと聞きたいことがあるんだがいいかな?」
 ニヤニヤしながら代表が話しかける。
 しかし次の質問で笑みは消え顔が鋭くなった。
「君と隣の剣士君は何ができる?特別な装備は持っているか?」

 疑われているのか…同じ質問をされる。緊張が走った。

 聖女様は僕の横顔をチラッと見てから、

「えっと…私は怪我の修復とかが出来ます。彼は・・・攻撃を飛ばすことが出来ます。特別な装備と言いましても、彼の持ってる剣は私の王家に伝わる宝剣ということぐらいで、特別な力とかは・・・」

「怪我はどの程度直せるんだい?欠損して失った部分を生やしたりとかできるのかい?」

「あの…それはちょっと難しいです。」

 代表は『ふぅ…』とため息を付き、僕の方に向き直り懐疑的な目で探りを入れてくる。

「転生の時に君に姿を見せた神様はどんなだった?」

「えーと…神様って複数居るのですか?」

 答えを聞いた代表は暫くじっと僕たちを見つめてから、

「はぁ~。まぁいいや。判断力もあるし採用って事で。組織のルールとかは追々メンバーに聞いてね。」
 答えながら後ろに控えてるメイドに目配せする。

「お二方、こちらへ。拠点に案内します。」

 メイドさんに促され、僕たち二人は代表に会釈してから部屋を後にした。
 薄暗い廊下をメイドさんは僕たちを先導し、こちらを見ずに語りかけてくる。

「代表はルールと言いましたが、至って簡単です。縦社会であること。そして組織への貢献度が大きいものは全てを得て、貢献度が少ないものは全てを失います。」

「えっと、それはどういう…」

「言葉通りです。これ以上のことをここで説明する権限を頂いて居りませんので、これ以上は拠点に着きましたらお尋ねください。」

 縦社会というのが透けて見えるな。
 たがこれだけは聞いておかねば・・・

「あの、すみません。どのように貢献が決まるのですか?」

「毎月、貢献度が神様よりポイント・ランキング形式で発表されますのでそれを参照にしています。個人で累計がたまれば個別で帰還できるなどと言う噂もございますが確認されておりません。」

「その貢献度は相手を…その…殺したりとかで溜まるのですか?」

「ダメージ、殺害、回復、バフ、デバフ、諜報、荷運び、生産・・・多くのことで溜まりますが戦闘関連が多いです」

(意思統一をしろと言った神様が戦闘関連で貢献度を図ってると言うことは、つまり元から…)

 メイドさんが扉を開き小部屋に案内する。

「さあ、こちらのポータルへどうぞ。」

 通された小部屋には青白く光る魔法陣がある。隣にいる聖女様の手を取り目配せしてから一緒に魔法陣の上に立った。魔法陣の光が強くなり身体が転移する感覚がある。

「これからどうなるんでしょう。殺し合い…しなければならないのでしょうか…」
 聖女様がつぶやく。その質問に僕は答えられない。

 最後、転移する瞬間、案内してくれた殆ど表情が動かなかったメイドさんの表情が気になった。

(あれは・・・憐れみ?)

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