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本編2 強豪校の寮ってどんなとこ?
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転移が完了したのか意識が覚醒してくる。目を開けると縦穴の大空間。
自然窟を利用して居住化したような場所の最下層に立っていた。
周りを見ると次々と人が転移してきていた。
(あの闘技場に居た人数よりも多い・・・他の場所でも同じようなことが行われているのか。)
きょろきょろ見渡していると見知った顔があった。向こうも気づいたようで駆け寄ってくる。
「やあ!剣士君。先ほどぶりだね。こっちだったのか。」
「女騎士さんもこちらだったんですね。ということは転移者ですか?」
「あー・・・実は違うんだ。私はあの重戦士の仲間でね。彼が転移者だった。」
とても寂しそうな顔をする女騎士。僕と聖女様のようにこれまで色々な事があったのだろう。
「そうですか・・・残念な事でした。でもそれならどうしてこちらに?」
すると彼女はハンカチを取り出し広げて見せた。
「彼の骨だ。これだけしか残らなかった。立派な男だったよ・・・彼を故郷に返してやりたい。」
良い人だな。話や仕草からも誠実さが感じられた。
ふと不意に服の裾を引っ張られる。
「あ、あの・・・こちらの方は?」
「あー・・・と。あのカエルの戦いで一緒に協力して倒したんだ。」
「そ、そうだったんですか。は、はじめまして騎士さん。すみません気絶して何もできなくて・・・」
「いやいや、あなたのおかげで勝ったようなものですよ、可愛らしい聖女さん。」
女騎士さんが聖女様に向かってはにかむ。
金髪ロングに整った顔立ちの美人さん、なのになんだこのイケメンオーラは!!
聖女様も眼が潤んでるしなにこれ?百合タワーが建っちゃうの?
「ゴホンっ!えーと・・・これからよろしく!女騎士さん。」
握手を求めると気さくに応じてくれる。
「おっと!こちらこそよろしく。機転の利く剣士君。」
しかも、ウインク付きで!何この人。めちゃくちゃ可愛いんだけど。惚れちゃいそう。
あと、『むー』と頬を膨らまし、ふくれっ面しながら足蹴ってくるのやめてもらえませんかね?聖女様。あなたもさっきデレてましたよね?
「はーい!みなさーん!お話してるところすみませーん!これから、は・ん・わ・け・発表でーす!!」
さっきの陽気な男。こちら側の人間だったのか。次々と所属を発表していく。皆緊張した顔持ちで聞いている。どうやら全て第10以降の所属だ。後方なのだろうか。
「えーと、そこのピンクの可愛い子ちゃんと金髪美人のねーちゃんは第18中隊ね」
「よかった。女騎士さんと一緒です。」
聖女様が安堵した顔を見せる。女騎士の方も「よろしくね」と笑顔を見せてる。見てると姉妹のようだ。
「んで、その横に居る野郎はーっと・・・、は?」
陽気な男が固まった。隣に居る人も覗き込んで固まっている。
「えーと・・・そこの野郎は第1連隊・・・です。」
は?一瞬時が止まった。ナンダッテ?
上層から笑い声が降ってきて我に返る。
「ギャハハハハハハ!!!!こいつ死んだわ!」
「よお!ルーキーお前の初任務は墓穴堀りだな!」
「ルーキーが何日生きれるか賭けしようぜ!」
「馬鹿。賭けになるかよ!」
「おい!隣の彼女たち!今夜慰めてやれよ!今生の別れだからよぉ!!」
言われたい放題だ。
そんな中、上層から弓を携えた一人の女性が降ってくる。
「ちょっと待ってヴォイス。なんでルーキーが最前線の第1なのよ。」
(あの陽気な男、ヴォイスって言うのか。)
「そんなの俺っちだって聞きてーよ。でもミスじゃないみたいよー。」
「代表はこの子を無駄死にさせる気なの!?」
「俺っちに聞かれても困るっちゃー。そんなに言うならヘッドシューターが面倒見てやればー。」
「はぁ!?私の所は中遠距離部隊よ!?この子どうみても近距離じゃない。隣の子達と一緒にやってきたみたいだから18中隊に組み替えてあげなさいよ!」
「いやだから、俺っちにそんな権限ないってばー。代表に直談判してこればー。どうなっても知らんけど。」
代表の名を出した途端ヘッドシューターと呼ばれた女弓使いが大人しくなる。
「まー。あれだ。ヘッドシューターのとこでもさー、荷物運びとかあるでしょ?そういうので使ってやれば?俺っちもこの兄ちゃんあんまり嫌いじゃないしさー。」
そう言われて女弓使いは『うーん・・・』と考えを逡巡させ、『よし!』と何かを決めたかと思うと、
「あんた、私のところに入れるようにしてあげるから感謝しなさい!もし集合場所で迷子になったら『ヘッドシューターのお姉さまのとこはどこですか?』って聞くのよ?いい?」
そう言うだけ言って自称お姉さまは身軽に飛ぶように上層へ昇って行った。
それにしても登場の時といい、去る時もすごい身体能力だ。まるでパルクールを見てるみたいだ。
容姿も釣り目にボブカット、残念な二つの天保山にツンデレとはモリモリだな。まあ弓引くのにチョモランマは邪魔になるもんな、うん。
あとさっきから死角で足蹴るのやめてください聖女様。
そんなにふくれてばっかりだと可愛らしいお饅頭になっちゃいますよ。
「では、皆さーん。これから部屋を割り当てるから、、その後、自由時間、食事、部隊でミーティングということで。部屋の鍵と当面の生活費の金券を渡すので取りに来てねー。自由時間中に生活に必要なものモールに買いに行けよー。」
それぞれ鍵を受け取る。ヴォイスの兄ちゃんはニヤニヤしながら『まあ頑張れよ』と声をかけてくれた。
鍵を見ると”青銅の4242”
何だろう、そこはかとなく悪意を感じる。いじめかな?
女騎士と聖女様は4220番で同室のようだ。部屋は最下層から螺旋階段を少し昇った所だった。
(ルーキーの方が底の方なんだな。だから皆、上から覗いていたのか)
「4201~4300・・・ここだな。」
扉と開けると両側にずらりと部屋が。100部屋ずつ横穴を掘っているのかな?
何にせよ二人と同じ並びなのはありがたかった。
「薄暗いし、じめじめしていますね。」
「下っ端だから仕方がないさ。」
女騎士は平気そうだが聖女様はげんなりしている。3人で歩きながら部屋を探していく。
「4242・・・ここか。二人ともまた後で。」
二人に別れの挨拶して部屋に入る。
「四人部屋か・・・」
「よおー!最前線ー!ご愁傷様!」
いきなり不躾に絡んできたのは同じ闘技場に居たカエルに腰を抜かしていた軽戦士の男だ。
無理やり肩を組んできて鬱陶しい。
「やめろ。そういうのは好きじゃない。」
ぶっきらぼうにそう言ったのは影のある木こり風の大男。ベッドに腰かけて自分の獲物だろうか?斧を磨きながらこちらも見ずにそう言った。
軽戦士の男は『ちぇー』と言いながら興味を失い自分の寝床にゴロンと転がった。
後の一人は・・・あの膨らみだろうか・・・ベッドに毛布で包まった物体があった。
「そいつは心が弱い。この部屋に入ってからずっと布団を被って震えている。」
さっきと同じ体勢で木こりがこちらの意図を見透かしたようにそう言うと、毛布玉から反応があった。
「ぼぼぼぼぼぼぼくは強いんだ!!最強なんだ!!!勝手なこと言うな!!!今に見てろ・・・クソ・・・クソ!!!」
部屋・・・変えてくれないだろうか。本気でそう思ったが、これから一緒の部屋で生活する4人だ。挨拶しておくか。
「あー、と・・・皆さん。よろしくお願いします。」
「いや、挨拶とか要らないでしょ?特にお前、明日死ぬとか言われてたじゃん。」
軽戦士が笑いながらそう言うと、毛布玉が「死」という単語に過剰に反応して泣き喚き出した。
もう色々と駄目かもしんない。乾いた笑いが漏れた。
荷物を置き素早くモールで最小限の買い物を済ませる。
その後ラフな恰好で食堂に来ると聖女様とモデルさんが入口に居た。
え?誰?と思ったけど、わかってます、わかってます。女騎士さんでしょ?
ここで誰?とかやったら「お前なー」とかそういう展開でしょ?大丈夫です。わかってます、わかってます。
「聖女様!女騎士さ→ん↑?」
はい、やっちゃった。いやだって
「酷いです。剣士様。先ほどまでご一緒でしたのに。」
近づいて聖女様と談笑している姿を見たら完全に貴族の社交場何だけど。どこの令嬢?
聖女様よりお姫様っぽいんだが、今度から姫騎士様と呼んだ方が良いのだろうか?
あれかな?剣持っちゃうと性格変わるタイプなのかな?
女騎士を見つめながら、そんなことを考えているとさっきから隣でピンクの饅頭が僕を蹴ってくる。真っ白な頬を雪見大福にして怒る聖女様も可愛くて素敵です。
というか、何も言ってないのにエスパーか何かだろうかこの人。
ともあれ3人揃ったので食堂に入る。
「聖女様。しばらく”お祈り”は控えましょう。」
入る際に聖女様に耳打ちする。聖女様も解っておられたのか『こくり』と頷いた。
食堂はどうやら注文制のようだが、おお!こ、これは・・・!!
日 本 食 が あ る ! ! !
「はは!ボウズ!驚いたか?まぁ、大抵の奴はメニュー見てボウズと同じマヌケ面するよ。」
『ポカーン』とあほ面かましていると食堂のシェフらしき人に話しかけられた。
「な、なんで日本食が!?他にも中華やイタリアン、フレンチ、エスニックまで。」
「転移者の中にはファーマー系の奴も居る。そいつらのスキルで元居た世界の野菜や香辛料が育てられるんだよ。ま、非戦闘員ってやつだ。俺たち調理師もな。」
「肉や魚はどうしてるんですか?」
「あー、そこは…聞くか?」
「イエ、シラナイホウガイイヨウナキガシマス。」
「まー毒じゃないから。」
シェフのおっさんは苦笑いしながらそう言った。
「あの…どうしてそんなに驚いているのですか?」
僕の反応に疑問を感じたのか聖女様が問うと、シェフさんが答えた。
「お嬢さん方は転移者についてきた方ですね。ここにある食堂のメニューは転移者の故郷の料理なのです。そのことに感動しているのかと。場合によっては十数年口にしていない者も居ますから。お嬢さん方にしてみれば異国の料理ですので、お口に合うかわかりませんが、要望があればおっしゃってください。」
「まぁ!それは楽しみです!」
目を輝かせ、聖女様のアホ毛がピョコピョコ動いているように見えるが、気のせいだろう。
女騎士さんが静かだなと思ったら、メニューの写真を見ながら目を輝かせ、口はだらしなく垂れ下がり、口端からは涎が垂れていた。
ダメです!お嬢様!さながら沢山の駄菓子に目を輝かせる、わんぱくガキンチョみたいな面になってますよ!カッコいい姫騎士で且つお淑やかなご令嬢のイメージがアメリカのビル解体のごとく一瞬で崩壊した。
しかし、このまま公然の場でこの顔を公開させておくのは騎士の名誉に関わるかもしれない、現実に引き戻してあげよう。
「女騎士さん、女騎士さん!涎!涎!」
そっと耳打ちする。声を掛けながら揺すると『ハッ』として顔面の筋肉が元に戻った。
「まぁ、話は食事をしながらしましょうか。」
ニッコリと女騎士さんのご令嬢スマイル。うん、顔は戻ったけど涎拭こうね。
二人は僕の世界の料理に興味があると言うので、すき焼きと天ぷらの定食をおすすめしておいた。
外人と言えばスシー、スキヤーキ、テンプラ~、だもんな。
寿司もあったが頼まなかった。だって異界の魚の生だよ?カエルがあんなにデカい世界の。生は絶対ヤダ。
3人で食事を受け取り、適当な場所に陣取る。
僕はお袋の手作りカレーを注文した。微妙に素人感があって人気らしい。因みに鶏肉のカレーだ。そういえばカエル肉って鶏に近いって言うよな…いや、これ以上考えるのはよそう、うん。
「あの?この白い球体のものは何に使うのでしょうか?」
3人とも色々あって空腹だったので話よりも先に食事を取ることにしたが、食事が始まると、すき焼きを頼んだ女騎士さんがそう聞いてきた。
はい、忘れてました。久々でね。定食は運悪く配膳時には炊きあがってるタイプで火を通すのは無理だろう。なんとか誤魔化さないと・・・
「き」
「き?」
「・・・嫌いな相手への投擲武器です。」
ある意味間違ってはいない。・・・いないが全国のジャパニーズ、すみません!と心の中でジャンピング土下座。
「まぁ、なぜそのような物がこちらについているのでしょう?」
「か、かつて恋に冷めた恋人同士がすき焼きを食べながら別れ話をしたという逸話に因んで・・・」
悲しいお話があるのですね、と目を細める女騎士に罪悪感たっぷり。お袋のカレーってこんな苦かったかな?
二人はとてもおいしいと目を輝かせながら食事を楽しんでいた。
あんなに涎を垂らしていたのに、がっつかず、食べ方が美しい女騎士さん。やっぱりいい所のお嬢様なのかな?
因みに嫌いな相手が居ないのでこれは食器と一緒にお返しします、と食器と一緒に返却したが、その際にシェフに声を掛けられ、すぐ嘘がばれた。ご令嬢モードで優しく怒られましたが、身体を案じて異界の生卵を食べさせたくなかった、と言ったら許して貰えた。チョロイン。
食事と今後の話が終わって食堂を出るとヘッドシューターさんに呼び止められた。
「あ、これから部隊ミーティングだけど、あんた初めてだし、ちょっと部隊の方もさ、ルーキーが入るっていうのでその・・・」
サバサバしているお姉さまにしては歯切れが悪い。それで、なんとなく分かってしまった。
「あー・・・とりあえず明日どうしたらいいかだけ教えてもらえますか?」
「ごめんね。明日はドンパチの予定入ってないわ。まぁ、向こうさんが攻めてこなければの話。
それで、うちの部隊は狩りの予定なのよ。もともと私の部隊は第一連隊の中でも特殊独立部隊だしね。」
特殊とは諜報や斥候が任務なのだろうか?
「というわけで明日は楽しい原生生物狩りに出かけまーす。イエイイエイ!」
全っ然楽しくない。げんなりしたのが顔に出てたみたいだ。
「だ、大丈夫よ!今まで狩りで死人出してないし。」
それは普通ちょっとづつ昇進して猛者になった者しか第一に所属できないからでは?
「ま、まぁ。明日そんなわけで朝の5時に最上階地上出入口に集合ね!・・・あっ!言っとけど4時には昇り始めないと間に合わないわよ。」
「え?エレベーターあるじゃないですか?」
そう、壁際にエレベーターらしきものが何基か備わっているのを事前に確認済みなのだ。
ヘッドシューターさんは悪い笑みを浮かべながら
「エレベーターは常に長蛇の列よ。新人に使用権が回ってくると思う?新人は皆、朝から階段ダッシュしてるわ。ま、体力作りの一環と思って頑張んなさい。」
まじかよ・・・
手をヒラヒラ振りながら去っていくお姉さま。
因みに可愛い子は優しくお願いすると譲ってくれる人も多いそうだ。何だ、このルッキズム!反逆したい。
最後に『寝る前に事務所で野戦装備貰っときなさいよ。朝に回したら遅刻するわよ』と言われたので言われた通り事務所で野戦装備一式を受け取っておく。あの人おかんかな?
自然窟を利用して居住化したような場所の最下層に立っていた。
周りを見ると次々と人が転移してきていた。
(あの闘技場に居た人数よりも多い・・・他の場所でも同じようなことが行われているのか。)
きょろきょろ見渡していると見知った顔があった。向こうも気づいたようで駆け寄ってくる。
「やあ!剣士君。先ほどぶりだね。こっちだったのか。」
「女騎士さんもこちらだったんですね。ということは転移者ですか?」
「あー・・・実は違うんだ。私はあの重戦士の仲間でね。彼が転移者だった。」
とても寂しそうな顔をする女騎士。僕と聖女様のようにこれまで色々な事があったのだろう。
「そうですか・・・残念な事でした。でもそれならどうしてこちらに?」
すると彼女はハンカチを取り出し広げて見せた。
「彼の骨だ。これだけしか残らなかった。立派な男だったよ・・・彼を故郷に返してやりたい。」
良い人だな。話や仕草からも誠実さが感じられた。
ふと不意に服の裾を引っ張られる。
「あ、あの・・・こちらの方は?」
「あー・・・と。あのカエルの戦いで一緒に協力して倒したんだ。」
「そ、そうだったんですか。は、はじめまして騎士さん。すみません気絶して何もできなくて・・・」
「いやいや、あなたのおかげで勝ったようなものですよ、可愛らしい聖女さん。」
女騎士さんが聖女様に向かってはにかむ。
金髪ロングに整った顔立ちの美人さん、なのになんだこのイケメンオーラは!!
聖女様も眼が潤んでるしなにこれ?百合タワーが建っちゃうの?
「ゴホンっ!えーと・・・これからよろしく!女騎士さん。」
握手を求めると気さくに応じてくれる。
「おっと!こちらこそよろしく。機転の利く剣士君。」
しかも、ウインク付きで!何この人。めちゃくちゃ可愛いんだけど。惚れちゃいそう。
あと、『むー』と頬を膨らまし、ふくれっ面しながら足蹴ってくるのやめてもらえませんかね?聖女様。あなたもさっきデレてましたよね?
「はーい!みなさーん!お話してるところすみませーん!これから、は・ん・わ・け・発表でーす!!」
さっきの陽気な男。こちら側の人間だったのか。次々と所属を発表していく。皆緊張した顔持ちで聞いている。どうやら全て第10以降の所属だ。後方なのだろうか。
「えーと、そこのピンクの可愛い子ちゃんと金髪美人のねーちゃんは第18中隊ね」
「よかった。女騎士さんと一緒です。」
聖女様が安堵した顔を見せる。女騎士の方も「よろしくね」と笑顔を見せてる。見てると姉妹のようだ。
「んで、その横に居る野郎はーっと・・・、は?」
陽気な男が固まった。隣に居る人も覗き込んで固まっている。
「えーと・・・そこの野郎は第1連隊・・・です。」
は?一瞬時が止まった。ナンダッテ?
上層から笑い声が降ってきて我に返る。
「ギャハハハハハハ!!!!こいつ死んだわ!」
「よお!ルーキーお前の初任務は墓穴堀りだな!」
「ルーキーが何日生きれるか賭けしようぜ!」
「馬鹿。賭けになるかよ!」
「おい!隣の彼女たち!今夜慰めてやれよ!今生の別れだからよぉ!!」
言われたい放題だ。
そんな中、上層から弓を携えた一人の女性が降ってくる。
「ちょっと待ってヴォイス。なんでルーキーが最前線の第1なのよ。」
(あの陽気な男、ヴォイスって言うのか。)
「そんなの俺っちだって聞きてーよ。でもミスじゃないみたいよー。」
「代表はこの子を無駄死にさせる気なの!?」
「俺っちに聞かれても困るっちゃー。そんなに言うならヘッドシューターが面倒見てやればー。」
「はぁ!?私の所は中遠距離部隊よ!?この子どうみても近距離じゃない。隣の子達と一緒にやってきたみたいだから18中隊に組み替えてあげなさいよ!」
「いやだから、俺っちにそんな権限ないってばー。代表に直談判してこればー。どうなっても知らんけど。」
代表の名を出した途端ヘッドシューターと呼ばれた女弓使いが大人しくなる。
「まー。あれだ。ヘッドシューターのとこでもさー、荷物運びとかあるでしょ?そういうので使ってやれば?俺っちもこの兄ちゃんあんまり嫌いじゃないしさー。」
そう言われて女弓使いは『うーん・・・』と考えを逡巡させ、『よし!』と何かを決めたかと思うと、
「あんた、私のところに入れるようにしてあげるから感謝しなさい!もし集合場所で迷子になったら『ヘッドシューターのお姉さまのとこはどこですか?』って聞くのよ?いい?」
そう言うだけ言って自称お姉さまは身軽に飛ぶように上層へ昇って行った。
それにしても登場の時といい、去る時もすごい身体能力だ。まるでパルクールを見てるみたいだ。
容姿も釣り目にボブカット、残念な二つの天保山にツンデレとはモリモリだな。まあ弓引くのにチョモランマは邪魔になるもんな、うん。
あとさっきから死角で足蹴るのやめてください聖女様。
そんなにふくれてばっかりだと可愛らしいお饅頭になっちゃいますよ。
「では、皆さーん。これから部屋を割り当てるから、、その後、自由時間、食事、部隊でミーティングということで。部屋の鍵と当面の生活費の金券を渡すので取りに来てねー。自由時間中に生活に必要なものモールに買いに行けよー。」
それぞれ鍵を受け取る。ヴォイスの兄ちゃんはニヤニヤしながら『まあ頑張れよ』と声をかけてくれた。
鍵を見ると”青銅の4242”
何だろう、そこはかとなく悪意を感じる。いじめかな?
女騎士と聖女様は4220番で同室のようだ。部屋は最下層から螺旋階段を少し昇った所だった。
(ルーキーの方が底の方なんだな。だから皆、上から覗いていたのか)
「4201~4300・・・ここだな。」
扉と開けると両側にずらりと部屋が。100部屋ずつ横穴を掘っているのかな?
何にせよ二人と同じ並びなのはありがたかった。
「薄暗いし、じめじめしていますね。」
「下っ端だから仕方がないさ。」
女騎士は平気そうだが聖女様はげんなりしている。3人で歩きながら部屋を探していく。
「4242・・・ここか。二人ともまた後で。」
二人に別れの挨拶して部屋に入る。
「四人部屋か・・・」
「よおー!最前線ー!ご愁傷様!」
いきなり不躾に絡んできたのは同じ闘技場に居たカエルに腰を抜かしていた軽戦士の男だ。
無理やり肩を組んできて鬱陶しい。
「やめろ。そういうのは好きじゃない。」
ぶっきらぼうにそう言ったのは影のある木こり風の大男。ベッドに腰かけて自分の獲物だろうか?斧を磨きながらこちらも見ずにそう言った。
軽戦士の男は『ちぇー』と言いながら興味を失い自分の寝床にゴロンと転がった。
後の一人は・・・あの膨らみだろうか・・・ベッドに毛布で包まった物体があった。
「そいつは心が弱い。この部屋に入ってからずっと布団を被って震えている。」
さっきと同じ体勢で木こりがこちらの意図を見透かしたようにそう言うと、毛布玉から反応があった。
「ぼぼぼぼぼぼぼくは強いんだ!!最強なんだ!!!勝手なこと言うな!!!今に見てろ・・・クソ・・・クソ!!!」
部屋・・・変えてくれないだろうか。本気でそう思ったが、これから一緒の部屋で生活する4人だ。挨拶しておくか。
「あー、と・・・皆さん。よろしくお願いします。」
「いや、挨拶とか要らないでしょ?特にお前、明日死ぬとか言われてたじゃん。」
軽戦士が笑いながらそう言うと、毛布玉が「死」という単語に過剰に反応して泣き喚き出した。
もう色々と駄目かもしんない。乾いた笑いが漏れた。
荷物を置き素早くモールで最小限の買い物を済ませる。
その後ラフな恰好で食堂に来ると聖女様とモデルさんが入口に居た。
え?誰?と思ったけど、わかってます、わかってます。女騎士さんでしょ?
ここで誰?とかやったら「お前なー」とかそういう展開でしょ?大丈夫です。わかってます、わかってます。
「聖女様!女騎士さ→ん↑?」
はい、やっちゃった。いやだって
「酷いです。剣士様。先ほどまでご一緒でしたのに。」
近づいて聖女様と談笑している姿を見たら完全に貴族の社交場何だけど。どこの令嬢?
聖女様よりお姫様っぽいんだが、今度から姫騎士様と呼んだ方が良いのだろうか?
あれかな?剣持っちゃうと性格変わるタイプなのかな?
女騎士を見つめながら、そんなことを考えているとさっきから隣でピンクの饅頭が僕を蹴ってくる。真っ白な頬を雪見大福にして怒る聖女様も可愛くて素敵です。
というか、何も言ってないのにエスパーか何かだろうかこの人。
ともあれ3人揃ったので食堂に入る。
「聖女様。しばらく”お祈り”は控えましょう。」
入る際に聖女様に耳打ちする。聖女様も解っておられたのか『こくり』と頷いた。
食堂はどうやら注文制のようだが、おお!こ、これは・・・!!
日 本 食 が あ る ! ! !
「はは!ボウズ!驚いたか?まぁ、大抵の奴はメニュー見てボウズと同じマヌケ面するよ。」
『ポカーン』とあほ面かましていると食堂のシェフらしき人に話しかけられた。
「な、なんで日本食が!?他にも中華やイタリアン、フレンチ、エスニックまで。」
「転移者の中にはファーマー系の奴も居る。そいつらのスキルで元居た世界の野菜や香辛料が育てられるんだよ。ま、非戦闘員ってやつだ。俺たち調理師もな。」
「肉や魚はどうしてるんですか?」
「あー、そこは…聞くか?」
「イエ、シラナイホウガイイヨウナキガシマス。」
「まー毒じゃないから。」
シェフのおっさんは苦笑いしながらそう言った。
「あの…どうしてそんなに驚いているのですか?」
僕の反応に疑問を感じたのか聖女様が問うと、シェフさんが答えた。
「お嬢さん方は転移者についてきた方ですね。ここにある食堂のメニューは転移者の故郷の料理なのです。そのことに感動しているのかと。場合によっては十数年口にしていない者も居ますから。お嬢さん方にしてみれば異国の料理ですので、お口に合うかわかりませんが、要望があればおっしゃってください。」
「まぁ!それは楽しみです!」
目を輝かせ、聖女様のアホ毛がピョコピョコ動いているように見えるが、気のせいだろう。
女騎士さんが静かだなと思ったら、メニューの写真を見ながら目を輝かせ、口はだらしなく垂れ下がり、口端からは涎が垂れていた。
ダメです!お嬢様!さながら沢山の駄菓子に目を輝かせる、わんぱくガキンチョみたいな面になってますよ!カッコいい姫騎士で且つお淑やかなご令嬢のイメージがアメリカのビル解体のごとく一瞬で崩壊した。
しかし、このまま公然の場でこの顔を公開させておくのは騎士の名誉に関わるかもしれない、現実に引き戻してあげよう。
「女騎士さん、女騎士さん!涎!涎!」
そっと耳打ちする。声を掛けながら揺すると『ハッ』として顔面の筋肉が元に戻った。
「まぁ、話は食事をしながらしましょうか。」
ニッコリと女騎士さんのご令嬢スマイル。うん、顔は戻ったけど涎拭こうね。
二人は僕の世界の料理に興味があると言うので、すき焼きと天ぷらの定食をおすすめしておいた。
外人と言えばスシー、スキヤーキ、テンプラ~、だもんな。
寿司もあったが頼まなかった。だって異界の魚の生だよ?カエルがあんなにデカい世界の。生は絶対ヤダ。
3人で食事を受け取り、適当な場所に陣取る。
僕はお袋の手作りカレーを注文した。微妙に素人感があって人気らしい。因みに鶏肉のカレーだ。そういえばカエル肉って鶏に近いって言うよな…いや、これ以上考えるのはよそう、うん。
「あの?この白い球体のものは何に使うのでしょうか?」
3人とも色々あって空腹だったので話よりも先に食事を取ることにしたが、食事が始まると、すき焼きを頼んだ女騎士さんがそう聞いてきた。
はい、忘れてました。久々でね。定食は運悪く配膳時には炊きあがってるタイプで火を通すのは無理だろう。なんとか誤魔化さないと・・・
「き」
「き?」
「・・・嫌いな相手への投擲武器です。」
ある意味間違ってはいない。・・・いないが全国のジャパニーズ、すみません!と心の中でジャンピング土下座。
「まぁ、なぜそのような物がこちらについているのでしょう?」
「か、かつて恋に冷めた恋人同士がすき焼きを食べながら別れ話をしたという逸話に因んで・・・」
悲しいお話があるのですね、と目を細める女騎士に罪悪感たっぷり。お袋のカレーってこんな苦かったかな?
二人はとてもおいしいと目を輝かせながら食事を楽しんでいた。
あんなに涎を垂らしていたのに、がっつかず、食べ方が美しい女騎士さん。やっぱりいい所のお嬢様なのかな?
因みに嫌いな相手が居ないのでこれは食器と一緒にお返しします、と食器と一緒に返却したが、その際にシェフに声を掛けられ、すぐ嘘がばれた。ご令嬢モードで優しく怒られましたが、身体を案じて異界の生卵を食べさせたくなかった、と言ったら許して貰えた。チョロイン。
食事と今後の話が終わって食堂を出るとヘッドシューターさんに呼び止められた。
「あ、これから部隊ミーティングだけど、あんた初めてだし、ちょっと部隊の方もさ、ルーキーが入るっていうのでその・・・」
サバサバしているお姉さまにしては歯切れが悪い。それで、なんとなく分かってしまった。
「あー・・・とりあえず明日どうしたらいいかだけ教えてもらえますか?」
「ごめんね。明日はドンパチの予定入ってないわ。まぁ、向こうさんが攻めてこなければの話。
それで、うちの部隊は狩りの予定なのよ。もともと私の部隊は第一連隊の中でも特殊独立部隊だしね。」
特殊とは諜報や斥候が任務なのだろうか?
「というわけで明日は楽しい原生生物狩りに出かけまーす。イエイイエイ!」
全っ然楽しくない。げんなりしたのが顔に出てたみたいだ。
「だ、大丈夫よ!今まで狩りで死人出してないし。」
それは普通ちょっとづつ昇進して猛者になった者しか第一に所属できないからでは?
「ま、まぁ。明日そんなわけで朝の5時に最上階地上出入口に集合ね!・・・あっ!言っとけど4時には昇り始めないと間に合わないわよ。」
「え?エレベーターあるじゃないですか?」
そう、壁際にエレベーターらしきものが何基か備わっているのを事前に確認済みなのだ。
ヘッドシューターさんは悪い笑みを浮かべながら
「エレベーターは常に長蛇の列よ。新人に使用権が回ってくると思う?新人は皆、朝から階段ダッシュしてるわ。ま、体力作りの一環と思って頑張んなさい。」
まじかよ・・・
手をヒラヒラ振りながら去っていくお姉さま。
因みに可愛い子は優しくお願いすると譲ってくれる人も多いそうだ。何だ、このルッキズム!反逆したい。
最後に『寝る前に事務所で野戦装備貰っときなさいよ。朝に回したら遅刻するわよ』と言われたので言われた通り事務所で野戦装備一式を受け取っておく。あの人おかんかな?
応援ありがとうございます!
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