羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編4 異世界203高地にピクニック♪ その2

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 後詰めの部隊が来るまで交代で見張りを立てることにした。
 灯りを使うと敵に察知されるかも知れないので、見張り役には暗視ゴーグルのようなものを渡される。
 こんなものなんでここにあるんだ?エレベーターやモニターもそうだが。配ってくれたアーセナルさんに聞くと、
「なんでも作ってくれる職人さんが居るのよ~。」
 だってさ。なんだそのチート野郎は!と思ったが、そういやここはチーターだらけの世界でした。

 時間が経つにつれて暗くなりさらに霧も濃くなってくる。

(まずいな。どんどん視界が無くなってくる。しかし、こんなに霧が濃くなるものなのか?・・・)

 この部隊で視界が奪われるのはかなりまずい。一番強力なヘッドシューターさんというアドバンテージが薄れてゆく。

(もしかしたら隊長が言っていたように白兵戦になるかもな。)
 僕はラウンドシールドを装備して気を張る。

「大丈夫?ルーキー君?そんなに気を張っていたら持たないよ。」
 隣にいた部隊員の人がちょっとでも緊張をほぐそうと話しかけてくれる。

「ありがとうございます。」
(この人昨日のダイアウルフ狩りの時に盾持って合図役やってた人だな。)

「まぁ緊張するなって言う方が難しいかなー?緊張が解れる様にお姉さんがぎゅーってしてあげようか?」
 ニヤニヤとからかう様に笑って両手を広げる。え?え?い、いいんですか?
 でも僕には聖女様がgggggg、でもちょっとだけなら・・・
 その時、弓矢が近くに数本飛んできて一本はおねえさんの肩口に刺さった。そこら中で『敵襲ー!!』という怒号が飛んでいる。
 僕はおねえさんに被さるようにラウンドシールドを上空に向け防御する。すると
「いいから!ルーキーは後方に下がりな!」

「で、でも!」

「もう大丈夫。たいしたことない。お前は中心部に行き隊長と合流しな!」
 部隊の中心部へと背中を蹴られる。ここまでされて居残るわけにはいかない。後ろ髪を引かれる思いだったが言う通りに中心部を目指し走り出す。
 中心部では隊長が戦いながら指揮を取っていた。

「隊長!」

「あんた!よかった、無事だったのね。」
 凛々しい隊長から、お姉ちゃんの顔が覗くが、
「新入り!盾を構えて私を守れ!」
 すぐ隊長の顔になり、命令を下した。

(霧が濃くて弓が全く機能しない。殆ど白兵戦だ。)

 そんな不安を読み取ったのか、隊長は、
「大丈夫だ。この程度の練度の兵士なら近接でも私の部下は負けない。」
 と励ましてくれる。

 徐々に乱戦になり中心部も敵がなだれ込んでくる。
 そんな中「わああああああ!!!」と叫び声を上げながら一人の敵兵が突っ込んできた。
 しかしその姿にとてつもない違和感を感じる。
(なんだ?この違和感は?)
 敵が剣を振りかぶる。その違和感が確信に変わる。
 僕は敵の斬撃を簡単にシールドでいなし、敵を・・・・刺殺・・・できなかった。
 直前で寸止めのようになってしまったが、そのまま敵は勢いあまって自ら剣に突き刺さった。

「●●●●●」

 そのまま被さるように倒れてきた兵士が女性の名前を言って事切れた。
 僕はそのままの状態で小刻みに震えていた。相手の首から下げていたロケットペンダントが命を奪った剣にあたり、僕の震えに合わせて”カタカタ”と音を鳴らす。
 突き破った敵の腹部から生暖かい血が剣を伝い、僕の手を染めあげた。

 「ぼーっとするな新人!!!」
 隊長の叱咤しったで我にかえる。

 まずい!次の敵兵が来てる!!!!素早く剣を引き抜き体勢を整える。

(大丈夫。タイミング的にまだ余裕が・・・)

 しかし、そう思ったのも束の間、敵が『ギュンッ』と縮地のごとく瞬間移動してきた。

(ぐっ!敵の能力か!?)

 かなり不利な体勢で斬撃をガードする羽目になった。

「もらったあああああ!!!!」敵兵が肉薄してくる!!!

 くそっ!!刺される!!!
 そのとき誰かに押された。倒れこみながら景色がスローモーションになる。押したのは隊長だった。そのまま敵の剣が隊長の肩口を射貫く。
 瞬間、僕は能力を使ってしまっていた。隊長が刺されて無我夢中だったのだ。身体のばねを使い一瞬で起き上がり水平切りで敵を上半身と下半身に分断した。
 僕の動きを見た隊長の目が見開いている。

「な・・・に?今の動・・・き」

「隊長!傷を見せてください!!」
 目を見開いて呆けている隊長をそっちのけに、急いで傷を見る。どうやら致命傷にはなっておらず、ホッとした。
「隊長!後退しますので。付いてきてください」

「う、うん。」
 隊長は驚愕のあまりお姉ちゃんの顔になっていた。

 後退して、隊長の傷を見てもらう頃には戦闘は落ち着きを見せつつあった。



「隊長!!大丈夫ですか!!!!」
 ライブラリーさんが慌てた様子で仮設の医療テントに入ってくる。
 隊長はすでに止血して包帯で応急処置を済ませていた。

「どけ!!!」
 ライブラリーさんが僕を押しのけて隊長の怪我を見る。怪我を見てほっと胸を撫でおろした後、見る見るうちに表情が険しくなってゆき、

「お前!!!自分の面倒も見れないのか!!!この方に万一のことがあったらどれだけの損失になると思っているんだ!!!!」
 鬼のような形相で烈火のごとく怒りだした。
 当然だ。反論の余地がない。僕はただ黙ってその怒りを受け止めるしかできなかった。

「ねえ、もういいよ。」

「よくありません!こいつが来てからこの部隊はおかしくなってしまった!!こいつがいなければ・・・」

「ライブラリー・・・」

「どうしてお前のような新入りの雑魚がこの第一連隊に・・・」

「ライブラリー!!!」
 眼鏡さんが、隊長の強い言葉に『ビクッ』っとする。

「お願いだからもうやめて・・・」
 隊長としてではなく、みんなのお姉ちゃんとして、泣きそうな顔でそうお願いした。

 ライブラリーさんは「くそ!」と簡易椅子を蹴とばしテントから出ていった。

 少しの間沈黙が続いた後ヘッドシューターさんが聞いてきた。

「ねえ。一つだけ聞いていい?あの時どうして棒立ちになったの?」
 しかし、聞いてきた後すぐにハッとなって、
「・・・いや、待ってごめん。今の忘れて。軽率だった。そう・・・だよね。初めて・・・殺したんだよね。当り前よね・・・ごめん。」
 バツが悪そうにうなだれた。

 初めての人殺しだった。寸前で迷いが出た。肉を破る感触が今でも手から離れず小刻みに震える。それに加え・・・
「あの人・・・僕が殺した人・・・」

「戦闘員じゃありませんでした。」

 ヘッドシューターさんが目を伏せる。
 そう、僕が殺した一人目の違和感。ど素人丸出し、しかもとても戦闘職とは思えないほど緩慢なスピードだったのだ。剣の振りかぶり方も鍬を振るそれだった。

 暫くの沈黙の後、隊長が口を開く。
「向こうとこっちの戦力比知ってる?」

「いいえ。」

「1:3よ。」
 唖然とした・・・そんなに差があるのか。

「人が多ければ住居も食料も水も物資もいる。だからね・・・」
 その先は言われなくともわかった。
 口減らしに肉壁にしたり、或いは原生生物がうじゃうじゃしている所に放り出すのだろう。
 それも能力が弱い奴から・・・。

「特に生産職の人の扱いは酷いわ。医者や薬師はいくらでも重宝されるけども。なにせ戦闘職の人は日々戦闘で命を落とすけども拠点に居る生産職の人は増えていく一方だから・・・。私たちの所だって生産職の人は飽和気味で後方支援のための雑用に駆り出したりしてるの・・・。最初に召喚されたときの原生生物と戦うのだって口減らし目的よ。」

「アレに勝てないようじゃ育成しても犬死にするだけだと?」
 
 ヘッドシューターさんは僕の問いに静かに首を縦に振った。どちらに居てもあまりにも命が軽い。糞みたいな世界だと改めて認識させられる。暗い表情で沈黙していると、
 
「ねえ!そういえば、私を助けてくれた時のあれ何?どういうこと?」
 ヘッドシューターさんは重苦しい空気を吹き飛ばすかのように明るく聞いてくる。

「お姉さま。それじゃ二つ目ですよ。」
『あっ』という顔になって「いいじゃん教えてよ。ケチー」と子供みたいに駄々をこねだした。
 教えません(ニッコリ)
 少し暗い雰囲気になりそうになったけど、いつものヘッドシューターさんと僕との軽いノリに戻りつつあり、内心ほっとした。この人の明るい雰囲気が、このどうしようもない現実で心を守るのに必要になりつつあった。それはきっと他の部隊員の人たちにとってもそうなんだろう・・・なぜかそう確信があった。
 お姉さまと軽い感じでじゃれていると、
 
「失礼します!あの・・・」
 突然天幕に入ってきた部隊員の人は固い表情で隊長を見つめ、隊長もそれで察したようでかなり固い表情になっていった。

「わかった、行こう。」
 部隊員の人に短くそう言って、立ち上がりテントを出ていく。
 僕は何も言われてはいないが付いて行くことにした。



 着いたのは元々僕が居た付近の場所。
 そこには僕を後方に下がらせてくれた血まみれのおねえさんが居た。
 周りにはおびただしい敵兵の死体がころがっていた。

「ああ・・・お姉さま・・・来て・・・くれたんですね。」
 息が荒い。どうみても致命傷だった。

「来るに決まっているじゃない。無茶しちゃって。」

「・・・どう・・・ですか?・・・今月は・・・きっと最高記録ですよ・・・お姉さまより稼いだかもしれません・・・」

「ええ・・・きっと私の負けね。」
 ヘッドシューターさんは無理に明るくふるまう。

「へへ・・・じゃあ、ご褒美欲しいな・・・」

「いいわよ。なんでも・・・なんでも言って・・・」
 なるべく普段通りに・・・明るく接していた隊長の声が震えてくる。

「最近・・・お姉さま・・・新人君ばかり・・・構うから・・・デートがいいなぁ・・・」

「ええ・・・ええ!今度のお休みに行きましょう!」

「お姉さまが・・・好きだった・・・アクセサリーショップ・・・新作出したんですよ・・・」

「ええ・・・一緒に見に行きましょう!その後はあなたの好きな服屋さんにも行こう。」

「楽しみだなぁ・・・待ち遠しいなぁ・・・」

「うん・・・・・・・・・・うん・・・・・」
 ヘッドシューターさんはボロボロ泣いていた。

「お姉さ・・・・ま?居ます…か?暗いや・・・なん・・・で・・・こんなにくら・・・・い」

「居るよ!!ここだよ!!!!」
 ぎゅっと手が白くなるくらい固く握る。

「お・・・・ねえさ・・・・だ・・・い・・・す・・・・」
 最後にヘッドシューターさんを呼んで事切れた・・・
 彼女は声を上げず静かに泣いていた。





 亡くなった隊員を埋葬し全員で黙祷を捧げる。

 暫くして後詰めの部隊が到着し引継ぎをして高地を降りた。


 高地のふもとに降りた時、ヘッドシューターさんは振り返り静かに手を合わせる。
(そういえば昨日の狩りの時にも行っていたな・・・)

「彼女に・・・・ですか?」

「うん。・・・それと、殺してしまった人達に・・・・。だって、本当は誰も殺したくないもの・・・」

 僕もヘッドシューターさんに倣って静かに手を合わせ、頭を下げる。その時、身体がぐらつく。
(ああもう・・・こんなときに・・・・ちくしょう・・・・ほんと恨むぜ・・・・こののうりょ・・・・く)
 受け身もとれず倒れる。
 倒れるとき真っ青な顔をしたお姉ちゃんが救護班を大声で呼んでいた。
(駄目だって・・・・姉さん・・・大声出しちゃ・・・・敵がいたらどうする・・・・の)
 僕は意識を手放した。
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