羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編4 異世界203高地にピクニック♪ その1

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「おっきろー!朝だぞー!・・・・・・え・・・・わっ!ごめんなさい!間違えました!」

 何やら騒がしい。徐々に意識が覚醒してきて『むくっ』と欠伸をしながら起きると、ちょっと顔が引きつったヘッドシューターさんが僕のベッドの傍に立っていた。

「や、やあ!ルーキー、いい朝だね。」


「・・・おはようございます。何かありました?」
 僕は半分寝ぼけながら聞くと「な、なんでもないよ!」と誤魔化された。

「それよりも、君!その恰好!昨日そのまま寝たでしょ!もう!泥だらけのまんまじゃない!ほら!さっさと服脱いで!お風呂と、あと歯磨きもしてきなさい!」
 そう言って僕の服を脱がし始めるお姉さま。

「やだー!えっちー!」

「つべこべ言わずはよせえ!」

 着替えをもって浴場に行くとき、「お母んみたい。」と小声で言ったら「君みたいな手のかかる子いらんわ!」と歯ブラシが後頭部に飛んできた。やっぱお母んじゃん。



 風呂と歯磨きを済ませて部屋に戻ると、何か違和感があった。

「あ?上がった?ちゃんと歯も磨いた?」

「磨きましたよ!もぅ!」

「よし。それじゃご飯行こう。」

 「ちょっと待ってください。」と食堂に移動するため洗面用具を置きに自分の机に荷物を置くとき、何が違うか気づいた。泥んこのベッドシーツが綺麗になってるとかもそうなんだが、

「毛布玉が逆になってるーーーー!!!」

 何と軽戦士が毛布玉になってガタついていて、代わりに初めて見る顔、おデブちゃんがベッドに正座して目をキラキラさせて呆けた顔で座っていた。

 「何があったの?」と斧の手入れをしている木こりに聞くと、目線でヘッドシューターさんを指し
「その人に聞いてくれ」と言った。

 お姉さまを見ると「あははー」と言いながら、あからさまに目線を左上に逸らした。
 僕はジト目で『今度は何やってん。この人』と訴えた。因みに後で問いただしても絶対吐かなかった。


 食堂に移動して一緒に話をしながら食事をする。
 僕は朝の定番オーソドックスな焼き魚定食を選択。そしてお姉さまは個別注文。
 (で、これか・・・)
 お姉さまのトレイには牛乳、異界の目刺し、納豆、大豆のスープ、ひじきご飯。
 僕は天を仰ぐ。そうしないとあまりにも涙ぐましくて、目から心の汗が零れてきそうだから。
 お姉さまは「何やってるのよ?」と不思議そうに尋ねてきたが、「朝のルーティーンです」と誤魔化しておいた。

「で、どうして来てくれたんですか?」
 食事が粗方済んだころ僕は本題を聞いてみた。
 まさか、マッマをやりに来たのが目的じゃないだろう。

「実は今日はね・・・うん・・・」

 歯切れが悪い。なんとなくだけど予想がつく。

「当てていいですか?」

「え!?」

「前線の任務じゃないんですか?」

「そう・・・なのよ・・・」
 ヘッドシューターさんは固い顔しながら視線を落としながら言い、続けて、
「あ、でもね!ルーキーだしお休みでも・・・」
 と顔を上げて言ったが、

「隊長!!!」
 僕はヘッドシューターさんが全部言い終わる前に鋭く呼んだ。
 食堂で大声を出したので、周りから視線を集めてしまう。
 周囲の目を気にしながら今度は優しく諭すような声で語りかけた。
「ヘッドシューターさん。隊長のあなたが決まりを守らなきゃ、みんなに示しがつかないでしょう?」

 ヘッドシューターさんは自分の頬を『バチンッ!』と叩き、力強い目をして
「ごめん!そう・・・そうだよね!大丈夫!あなたは絶対守るから!」
 
 ここにきて3日目、この人との付き合いはほんのちょっとだけど、会ったばかりの新人の僕を心の底から気遣ってくれている。最初第一連隊に選ばれて運の悪い奴と周りに言われたが、僕は本当に恵まれている。こんなに良い人に出会えるなんて。もしかしたら今日が僕の命日になるかもしれない。でも何かこの人に返せたら・・・そうありたい。

「姉さん。」

「ふぇ!?」
 姉さんと言われ素っ頓狂な声を上げるヘッドシューターさん。ちょっと顔が赤い。

「ありがとう。」
 
「ばか、はやいわよ。」

 目の前の姉さんは穏やかな顔している。きっと僕もそうだ。時間がゆっくりと流れているみたいだった。
 ああ・・・どうして。こんなにも穏やかな時間が流れているのに、これから僕たちは殺し合いの現場に行かなくてはならない。どうして・・・どうして。顔に悲しみが出ないように必死で隠す。
 だって目の前にいる人を心配させたくないから。
 ああ・・・もしもまともな神様が居るなら・・・どうかみんなを守ろうとするこの人を、この人の身体と心をお守りください。
 壊れてしまわないように・・・運命が彼女をさらってしまわないように・・・




 昨日のように準備をしてエントランスに集まる。
 昨日より倍以上増えて50人は集まっていた。
 ライブラリーさんとアーセナルさんとヘッドシュータさんが皆が並んでる前に出てきて
 ライブラリーさんが「全員傾注!!!」と、大声で気を引く。
 続けてヘッドシュータさんが皆に訓示を話始めた。

「皆、よく集まってくれた。今日の我々の任務は砲兵の着弾観測ができる地点の調査及び陣地構築、その後連絡を受けた後詰め部隊に引き渡すまでの確保にある。ポイントは敵も利用を考えてる可能性があり接敵の可能性は十分にある。また高所で時間によっては霧が発生するとの事だ。最悪我々が不得手にしている白兵戦の可能性もある。皆そのつもりで事に当たってほしい。以上だ。」
 「あ、それと・・・」とヘッドシューターさんはこっちを向き、

「おい、新入り。ラウンドシールドを使った経験はあるか?」

「えっと・・・中型ぐらいまでの物なら。」

「なら今日は準備しておけ。」
 ちょっとでも死亡率を下げようと思ってくれているのか、僕は部隊の方に余っているのが無いか聞いて借りてきた。



 前線近くにポータルを設置しているらしく、エントランスの近くのポータルでそこまで飛ぶ。
 そこからは昨日のようにまた現地までマラソンなのだが、今日は昨日と違い部隊に緊張が走っている。
 昨日もみんな勿論警戒していたのだが、今日と比べたら昨日のはピクニックだ。
 それだけに、(みんな昨日は合わせてくれていたんだな)と走りながら心の中で感謝する。

 すると、部隊員の一人が近寄ってきて
 (あ、昨日も一緒だった結構可愛い人だ。何かな?エールかな?)
「もっと静かに走れ。」
 と言い残し、加速して行った。

 しゅんましぇん。

 なんでみんなこんなに静かに速く走れるの?
 アーセナルさんとか、あんなに無駄な・・・いや決して男子にとっては無駄ではないのだが、バルンバルンな二つのメロンをぶら下げてなんであんなに静かなんだ?と見つめながら走っていたら、

「ルーキーくーん。そういう視線って女の人分かるんですよ~。」
 と怒気を含んだおっとり声で言われた。

 他の女部隊員からもゴミを見る目で見られた。ごめんなさい。だって男の子だもん。
 因みに前を走っているヘッドシューターさんが僕の方を見ながら口パクで、
『 あ と で ぶ っ こ ろ す 』だってさ。
 運転中は前見なきゃ駄目って習わなかったのかな?この人。
 前見てください前!顔が超怖いので。ちびっちゃいそう。

 幸いにも接敵せずに目的の高地付近までやってこれた。
 ヘッドシューターさんが小声で、でも皆に聞こえるように通る声で
「ここから登りだ。滑落は一人以外大丈夫だろう。心当たりある一人は注意してあたれ。」

 はーい。僕ですよね。わかってます、わかってます。

「アーセナル。ライブラリー。数人見繕って尖兵を頼む。それとすまん、アーセナル。アレの生成をを頼めるか?」

 アーセナルさんは『あー』と言う顔をしてから敬礼で了承し、隊長に何か特殊矢を数本渡していた。
 ライブラリーさんは「はぁ~」と大きなため息をついてしぶしぶ引き受けていた。
 ヘッドシューターさんはと言うと僕に先に行かせて、後ろからぴったりついてきた。
 足引っ張ってばかりでごめんなさい。出世払いしますから!

 急な斜面を昇っていくが、道なんてものは無い。完全なけもの道だ。
 こんなの人が通る道じゃない。後詰めの部隊ってここ登ってこれるの?
 疑問に思いながら登っていると・・・
 あああああああああああ!!!!!!

「このバカ!!!」

 やってしまいました。見事にフラグ回収し、滑落する僕!すみません皆、僕の冒険はここまでのようです、ってあれ?止まってる?見ると僕の背嚢にキューピッドの矢みたいに吸盤式の矢が引っ付いていてる。
 その矢から魔力の鎖が伸びていて上ではお姉さまと数人がそれを持って僕を支えていた。
 おー、さっきの特殊矢はこれかー、なるほどなるほど!と顎に手を当て思ってたら上から殺気が。支えている全員が目で(はやく自分で立て!このくそボケ!!!)と言っていた。ごめんなさい。

 その後「考え事して登るな!」と超怒られた。
 上ではライブラリーさんが、もう我慢ならないような目でこっちを見ていた。睨まれて当然なんだけど怖い。

 なんとか無事?目的地の高地頂上に着くとそこは気温も低く若干霧も出ているせいで見通しが悪い。

「どうだ?ライブラリー。観測は可能か?」
 ヘッドシューターさんが眼鏡さんに確認をとる。

「薄く霧がかかっており、はっきりとしませんが、おそらく可能です。」

 今度は栗色髪のおっとりお姉さんに向き直り、
「よし!アーセナル通信はどうだ?」

「若干、ノイズがありますが可能です。」

「よし送れ『我、目を得たり』」

 テキパキと皆仕事をこなしている。迷惑かけた分、僕も手伝いをしたかったので、近くにいたあの辛辣なエールをくれた、可愛い子さんに仕事を聞いたら、
「あなたに下手に指示を出して”また”滑落されたら私が隊長に殺されるでしょ。」
 だってさ。辛辣ぅ!人によってはご褒美ですな!
 でも、僕にはそっちの気は無いので、座り込んで地面のアリらしき虫でも数えていじけておこう。イジイジ。

「なーに、いじけてんのよ。」

 隣を見たら、どアップで凛々しい隊長ではなく、いつもの気さくな、お姉ちゃんの顔があった。
 びっくりしてスっ転びそうになって『あぶなっ!』と支えられる。
 二人で『ほっ』としてクスクス笑う。

「いや、僕も一応転移世界救ったんですがね、もうね自信バキバキに折れました。買い出しで自転車の買い物かごの一番下になったプリ●ツみたいにバキバキです。いや一番下のうま●棒かもしれません。もう粉々です。」

「なにそのわかりにくい例え」とヘッドシューターさんがケラケラ笑いながら「懐かしー」と言う。

「大丈夫だよ。ここまでついて来ただけでもすごいよ、君。」

「最初からできる人なんてほんの一部の天才しか居ないよ。大半の人は教えてもらって、失敗して、
学習して、それで出来ていくんだよ。そのスピードも早い子、遅い子、様々だよ。だからここにいる人見てよ。殆どの人が君に対してイライラなんかしてない。みんな君が昔の自分だってわかっているんだよ。」
 優しい顔で慰めてくれる。ここに来てから馬車馬のように働かされてるけど本質的にはこの人、凄く優しいんだよなぁ。

「一部違う人もいるようですが・・・」
 眼鏡さんとか、眼鏡さんとか、眼鏡さんとか!

「あー、不思議な事に人はね。昔の事を忘れちゃう生き物でもあるんだ。」
 しどろもどろになって視線が泳ぐ。

「眼鏡さんにもそんな時期があったんですね・・・。そう言えばお姉さまってここに何年居るんですか?年取らないんですよね?ここ」

「・・・絶対に言いません。」
 なんでよ?いいじゃない?老けないんだから。と思ったが、お姉さまも女の子、年齢には敏感なんですよね。わかってます、わかってます。フォローしておくか。

「お姉さま!僕ストライクゾーン広いんで大丈夫です!高めでも打てます!自信もって!」

 おもいっきり蹴とばされて二回目の滑落!慌てて特殊矢で救出という騒ぎになって、隊長と僕がアーセナルさんに怒られるという謎の光景が見られた。
 だが少し部隊の雰囲気が和らいだようにも思えた。
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