羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編3 ひと狩り行こうぜ!一乙もできないけどさ

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 朝4時前、素早く身支度を整えて階段を昇りはじめる。これ入口に着くと生まれたての小鹿になってそう・・・。
 螺旋階段の前後を見ると僕と似たようなルーキー達がゾンビのように階段を昇っている。その姿はまるで古代の奴隷みたいだ。


 階段を昇りきるとだだっ広いエントランスとなっていた。

(時刻は…4時58分。ギリっギリ!…)

 膝に手をつき肩で息をしてるとピタッと冷たいものが頬に当たった。

「おはよ~。おつかれ~。まあ水飲んで落ち着きなよ~」
 顔を上げると冷たい容器を頬に差し出すヘッドシューターのお姉さまがはにかんでいた。
 天使かな?天使だな。ちょっと肉付きが悪いけど天使ですな。

「ありがとう、天使さま。」

「誰が天使よ。調子いいんだから。」

 キンッキンッに冷えた水を受け取り勢いよく煽る。犯罪的だ!うますぎる!思わず顔と顎が尖がった…ような気がする。
 水を飲みながら見回すと大勢の人が集まる中、天使なお姉さまと同じ外套を纏う人が20人ほど集まっていた。
(この人たちが部隊メンバーかな?)

「隊長。新人をあまり甘やかさないで下さい。」
 後ろを見ると黒髪の神経質そうなイケメン眼鏡が立っていた。いかにも規律に厳しそうなタイプだ。呼び名は風紀委員長がいいか生徒会長がいいだろうか?下らないこと考えてると、

「おい、お前。ここは栄えある第一だ。ルーキーだからと言ってお前に合わせることはしない。足引っ張ったら置いていくからな。分かったら死ぬ気でついてこい。だいたい、五分前には集合場所についておけ。」

 うわー。エリート気質~。想像通りのキャラだ。
 前からまた新たな人が来る。今度は栗色のロング髪のお姉さん。尚、天使様と違って胸部装甲はチョモランマである。素晴らしい!見てるだけで疲れも吹き飛ぶね!

「ライブラリー、初日だからそんなに言わないであげて。」

「アーセナル。君も隊長と一緒に甘やかさないでくれ。」

 この二人はランカーなのか・・・。てか、図書委員のほうだったか~。

「君が厳しいからバランス取ってるだけだよ~。」
 天使なお姉さまは冗談めかして言うと、手をヒラヒラと振りながら行ってしまった。
 ライブラリーさんは『はぁ…』とため息を付き、

「おい、お前。これを持て。」
 荷物を渡してきた。結構重い。

「これ、何です?」

「組み立て式の簡易魔法陣ポータルと、そのポータルの起動に魔力を込めるための魔力結晶だ。あらかじめポータルの転移先が貯蔵庫に設定されているから獲物はこれで拠点に送る。」

『それって僕おいていったら駄目ですやん。』と突っ込みたかったが小言を言われそうなのでやめておいた。

 アーセナルと呼ばれたおっとりお姉さんは「頑張ってね~」とエールを送ってくれてから部隊の中に消えていった。
 うん可愛い。今日は弁慶の泣き所を蹴ってくるピンクさんが居ないので好きなだけ眺められますね!




 ポータルと魔力結晶を背嚢に固定して部隊に混ざろうとしたその時、

(前方が騒がしい)

 人をかき分けて、騒動の中心を見に行くとそこにはヘッドシューターさんと、背丈がヘッドシューターさんの1.5倍はありそうなガタイの良い大男が対峙していた。

「よおー。チンチクリン。今日は新人のお守か~?そんなことしてて今月のポイントいけんのか?」

「あんたに心配されなくても今月も私がちぎってやるわ。」

「悪いけど今月は貰いに行くぜ~。昨日入荷したあのピンク髪。ありゃ処女だな。ひと月たっぷり楽しんでボロ雑巾みたいにしてやるよ。どんな声で泣くんだろうなー。楽しみだぜ。」

 周りからゲス!女の敵!死ねばいいのに!等ヤジが飛ぶ。大男は両手を広げ「喝采ありがとう。雑魚の諸君。」と周りを挑発する。

「おあいにく様、あの子は私が予約済みよ、あんたは一人寂しくマスかいてな。」

「相変わらず目障りなガキだぜ。」

 両者にらみ合う。因縁の関係なのだろうか?僕が覗いていることに大男がこちらに気づくと、

「よおー!ルーキー!墓穴掘りのスコップ忘れてるぞ!お前が死んだあとはピンクちゃんとパツ金ねーちゃんは俺が面倒見てやるからよぉ。心配するなよな。」
 下卑た笑いを残して自分の部隊へ帰っていった。

 僕はヘッドシューターさんもとい天使さんに近寄り「今の奴は?」と尋ねた。

「あいつはランカーのベルセルク。かなり強いけど素行不良の問題児よ。特にその…女癖が悪くてランカーの貢献度の褒美で女の子を性奴隷のように扱ってる。ここにはああいうやつも少なくはない。だから私はポイントを稼いでちょっとでも私が傍付きとして権利を買ってるの。」
「全てを救うのは無理なんだけどね…」と寂しく笑う。
 本物の天使だった。

(だからか、この部隊には女の子が多い。もしかしたら彼女を慕って志願するのかもな)

 そして転移のときにメイドさんが説明してくれた意味と憐れみの目がようやくわかった。貢献者は全てを得て、そうでないものは全てを失う、か。想像以上の地獄だったな。

「ああ、因みにあんたも頑張んなさいよ。」

「ファ!?それはどういう意味デス!?アーーー!!!なやつでしょうか?」

「いや、そういうやつも居ないわけじゃないけど。女の方でも居るのよ。」

「え!?やだ、ちょっと買われてみたい。」

「はぁ…あんた…その期待は彼女の二つ名知ってからにしなさい。」

「えっと…なんて言う?」

「サディスティッククイーン」

 玉ひゅんした。





 エントランスから地上に出ると、うっそうとした森が広がっている。かなり深い。原生林って感じだ。

「勝手に動いて迷子になるなよ。狭間世界の長い歴史の中この森は今も全て踏破されてないくらい広い。」
 エリート眼鏡さんが刺々しく言ってくる。

「狭間世界ってそんなに長く存在するんですか?」

「数百年続いていると言われている。」

「えっ!?でも拠点にはそんな年いった人居ませんでしたよ。」

「ここじゃ死ぬことはできても年は取らない。そんなことも知らないのか。」
 知らないに決まってるでしょ。昨日来たんですよ。馬鹿なんじゃないですか?という言葉は飲み込んだ。言ったら超怒りそうだもん、この人。

「因みにルーキーの一年以内の自殺率は3割を超えている。戦死と合わせると7割を超える。お前も死ぬなら外で死ねよ。部屋で死なれると同室の奴が後片付けするんだ。」

 なんで僕が死ぬ前提なんすか。失礼眼鏡さん。
 嫌味眼鏡さんと話しながら歩いていると前を歩いていた、天使なお姉さまが僕たちの位置まで下がってくる。

「結構余裕あるわね。ペースあげちゃおうかしら?」

「はい。大丈夫です。隊長。こいつも余裕だと言っていました。」

 ちょ!?何勝手なこと言ってんの!?このトンチキ眼鏡さん。

「へー。じゃあ少し本気で移動しようか。」

 お姉さまは『にやり』と笑うと物凄いスピードで原生林の坂を駆け上がっていく。部隊の皆はそれに合わせ加速していく。

「おい、遅れるなよ、ルーキー。」

 眼鏡さんはニヒルに笑い、加速して駆け上がっていった。
 ちょちょちょちょちょ!!!!置いてかないで~~~。こんなとこで一人にしないで~~~~。チビっちゃう。
 僕は必死で足場の悪い森を駆け上がっていった。





「よーし、確かこのあたりからね。」

「はい、隊長この先が未踏破になっています。」

「じゃー。ライブラリー、マッピングよろしく。」

 お姉さまが眼鏡さんに指示を飛ばす。
 さすがランカーだなー。指示が出るとテキパキ動くなぁー。
 僕は何とか離されずついていったが、もう肺が潰れて、足が砕けそう。
 ぜーはぜーは、と激しく息をしていた、僕だけが…。
 周りの人は全く息が上がっていない。なにこの野生児たち。可愛い子までブラ●カに見えてきたわ。

「おー、偉い偉い。離されずについて来たね。」
 そう言って汗だくの頭を天使の…いや、悪魔のお姉さまが撫でてくる。

「何…時間…走らされたと…思って…いるんですか、普通…の人なら死んで…ますよ。」

「え~これでも近場の未踏破区域何だけどなぁ。それに私たち転移者は普通の人じゃないでしょ。」

 ハイ、ソウデスネ…ソウデシタ。

「じゃーみんな、ここからマッピングしつつ原生生物の群れを探すよ!」

 走っている途中お姉さまが気配に寄ってきた原生生物を走りながら射貫いていたが、回収しなかったのは群れを探すためか…
 因みに一つも打ち漏らさず全て頭を射貫いていたし、周りの部下も絶対倒してくれるという信頼なのか、原生生物が出てきても見向きもしなかった。

(【百発百中】ヘッドシューター…か。確かに二つ名を頂くだけあるな。)




「なに!?本当か!?」

 眼鏡さんが騒がしい、どうやら通信が入ったらしい。
 眼鏡さんがヘッドシューターさんに近寄ってきて報告する。

「隊長、ここから2時間ほど北に進んだ場所で小部隊同士が遭遇。にらみ合いになっているそうです。」

「緊急の案件?」

「いえ…緊急の案件では無いのですが…」

「そう。それじゃあ予定通り原生生物狩りを…」

「隊長、チャンスなんですよ。我々との位置関係からすると敵の背面をつけます。原生生物なんて狩ってる場合じゃないです!元々今日だって前線の偵察…」

「ライブラリー!」
 全部言い切る前にそう呼ばれてビクッとなる眼鏡さん。

「我々は物資も必要量しか持ってきてはいないし、2時間もすれば戦況がどうなっているかわからない。
それに今日は部隊を半分に割っている。リスクは冒さない。」
 お姉さまにしては珍しい平坦な口調。

「し、しかし…」

「二度は言わないぞ、ライブラリー。」

「は、はい…」
 うなだれる眼鏡さんは『キッ』とこちらを睨んでから元の位置に戻っていった。
 やだ、怖い。またいじめられそう。その時はヘッドシュータさんの後ろに逃げ込もう、と誓った。男のプライド?知らん!そんなもの!あれだ、昨今言うジェンダー論ってやつだ、たぶん。知らんけど。

「それじゃー、行こっかー!」

 もうすでにいつもの口調だ。昨日のミーティングもおそらく今みたいな感じで揉めたのだろうな・・・。今日の狩りだって僕に合わせてくれたに違いない。ヘッドシューターさんは言わないがそれくらいは解る。そう思うとライブラリーさんや他の隊員にも申し訳がなかった。

(早く皆に付いて行けるようにならないとな・・・)





 未踏破地域に入ってからはゆっくりと歩いて探索となった。
 ヘッドシューターさんは僕について歩き、食べれる草やきのこ、原生生物の痕跡の見つけ方や遭遇した原生生物の生態や戦い方、弱点、やり過ごし方など、様々なことを事細かに教えてくれた。

(先生かな?いや…保母さんという線も…いやでも僕の保母さん像はあっちで警戒してるアーセナルさんのようなグラマラスな女性なのだ。すまない!お姉さま!)

 などと考えてるとアーセナルさんはこっちに気づき『ニコッ』っと笑顔を見せて手を振ってくれる。
ああ~↑癒されるぅ~↑。僕も手を振り返す。
『ちゃんと聞きなさい!』とヘッドシューターさんに頭をどつかれた。先生!暴力はいけないと思います!
 しばらく先生から狭間世界の歩き方のレクチャーを受けていると前方からアーセナルさんが走ってきた。

「なにかあった?」

「ダイアウルフの痕跡です。それと真新しいエルクの痕跡が…」

「エルクにダイアウルフか…よし、やってみるかな。」

「全員、消臭剤を振りかけろ!あ、君はだめだよ。」
 ニッコリと消臭剤を禁止された。何故に?






 ひどい…部隊のメンバーやヘッドシューターさんが僕から距離を取る。
 ダイアウルフは鼻の良い原生生物で、人間の臭いを消すために消臭剤を使うそうなのだが、ヘッドシューターさんに『消臭剤が無い時だってあるんだからその時のために覚えておきなさい!』と生き物の糞尿と香草をすり潰して混ぜた物を身体に塗りたくられた。そのせいで皆と距離がある。やった本人であるヘッドシューターさんが距離とるのは納得いかない今日この頃です。
 ボッチで皆に付いて行っていると静かにヘッドシューターさんが手を挙げ合図する。傍に行き目を凝らすと、角が鉱石で出来たデカい鹿がいた。

(戦車よりデカいんじゃないか?)

「あれがエルクよ。魔法が得意だから気づかれないで。アーセナルお願い。」
 小声でそう言って、お姉さまはアーセナルさんに指示を出す。

「はい、隊長。もうできてます。」
 阿吽の呼吸とはこんなことを言うのだろう。アーセナルさんはすでに手から特殊矢を生み出しているところだった。

(弾薬がつくれるのか。この人それで”アーセナル”なんだな)

 ヘッドシュータさんはアーセナルさんから特殊な矢を受け取り、ハンドサインを出す。すると全員忍者のように音もなく木の上に潜伏した。

(みんなの気配が完全に無い)

 ヘッドシューターさんが特殊矢をつがえ弓を引き絞りエルクの足を連続で射る。矢は当たった瞬間爆発しエルクの巨大な足の肉を抉った。
 いきなりの攻撃にエルクは狂乱し無闇矢鱈に雷の魔法をまき散らす。

「ま、まずくないですか!?」

「私たちも木の上に隠れるよ。」
 くっさい僕を抱えてひょいっと手近な樹の枝にジャンプして乗り、僕を太い樹の枝に座らせた。

「見てなさい。」

 するとどこからともなく遠吠えがして、あっという間に真っ白な白銀の毛並みを持つ狼が40匹程集まってきてエルクを襲い始める。

「あいつらは群れで行動し、血の匂いに敏感なのよ。痕跡があるとこで怪我をしたら素早く止血して臭いを消すのよ。」
 ダイアウルフに気付かれないよう小声で説明してくれる。

 エルクが多勢に無勢で狩られ、ダイアウルフが弱ったエルクに夢中になり始めたころ、
 ヘッドシュータさんがダイアウルフの頭を立て続けに射貫く。
 するとそれを合図にそこら中の樹から矢が放たれエルクに群がっていたダイアウルフの群れは瞬く間に全滅させられた。

 部隊員数人がラウンドシールドを構えながらエルクとダイアウルフの亡骸に近づく。
 少し調べてから手で『〇』の合図を送ってきて全員が亡骸に寄った。

「やりましたね~!隊長~!」
 おっとりチョモランマさんがはしゃぐ。

「ええ!うまくいったわね!さあ!みんな、後始末するわよ!あんたは転移ポータルの準備して。」
 ツンデレ天保山さんもご機嫌だ。
 ただ・・・部隊の大半が喜ぶ中、眼鏡さんだけ表情が暗いのが気になった。

 折り畳み式の転移ポータルを展開し魔法陣の上に魔力結晶をガラガラと乗せていく。
 すると「あっ!ちょっと!」とヘッドシューターさんが駆け寄ってきた。
 え?何だろう?何か間違えた?付属のマニュアル通りなんだけど?
 駆け寄ってきたヘッドシューターさんは幾つか魔力結晶を拾い上げポーチへ収めた。

「ごめんねー。あってるから大丈夫だよ!」
 と言い、部下に指示を出すために、また元の場所に戻っていった。

(何だったんだ?)





 ポータルの上の魔力結晶は最初青白く強く光り輝いていたが、ポータルに魔力が吸われているのか徐々に光が弱くなり、完全に失われる頃に『シュッ』と音を立てて転送された。

「隊長ー。準備できたみたいです。」

「あんたが『隊長』って呼ぶの何気に初めてね。よし、それじゃ、どんどんこの上に獲物運んで行って。」

 言われた通りダイアウルフを運んでいく。ダイアウルフは毛皮が取れ、肉はファーマーの畜産部や農業部で餌や肥料になるらしい。

「隊長なお姉さま!質問があります!」

「はい!何かなルーキー君!」

「ダイアウルフは運べるサイズですけど。このエルクみたい奴はどうしてるんですか?」

 そろそろダイアウルフが転送し終わる。

「それはね。このポータルに取っ手があるでしょ?取っ手の部分は持っても転送されません。」

「そっち持って」、とお姉さまと一緒にポータルを持ち上げる。お姉さまと一緒にエルクのとこまで運びお姉さまに合わせてポータルを動かす。お姉さまはポータルをエルクに押し当てるとエルクは『シュッ』と言って転送された。
 おおー、あの巨体が!あの小さなポータルで!そしてそのための取っ手!なるほど!
 お姉さまは『むふー』と、なぜか勝ち誇った顔をしている。でも新たな疑問が、

「ところでお姉さま?」

「何かな?ルーキー君」

 その薄い胸を張って勝ち誇った顔をしてるところ申しわけないのですが。

「エルク…ダイアウルフに襲われてボロボロでしたけど、よかったんですか?」

 勝ち誇った体勢のまま固まった。あっ!ちょっと冷汗でてる。
 奥でアーセナルさんが額に手を当てて『あちゃー』みたいなジェスチャーしている。 やっぱ駄目だったんですね。



 ポータルを片づけて、拠点への帰路に就く。遠征中にあった小競り合いもあれから結局音沙汰無しだった。
(もし緊急性が高ければ、そう言った信号弾や連絡があると言ってたし、何とかなったのかな?)
 帰りのマラソン中お姉さまはげんなりとして口数が少なかった。

 拠点の入口エントランスで「みんな!今日はお疲れ様!解さーん。」滅茶苦茶早口でそう告げ、そそくさと部屋に戻ろうとするお姉さまを事務の人が「ちょっとお話が」と引きずって連れて行ってしまった。
 お姉さまはチワワみたいに目に涙を溜め「あ・・・あ・・・・」と声にならない声で部隊員に助けを求めていたが、作戦中忠誠心が高かった部隊員も、この時は全員明後日の方角を見ていた。
 僕も目が合った時「あ、ちょうちょ~♪」と誤魔化しておいた。強く生きてお姉さま!







 さて…とりあえずお風呂とご飯かなーと着替えに自室に戻ろうとしたら聖女様達の部屋の前で女騎士が壁に背中を預けて立っていた。ちゃんと騎士モードだ。

「帰ってきたか。」

「何かあったんですか?」

「実は今日、遭遇戦が勃発したのは知っているな?ちょうど演習に出ていた我々の部隊が救援に駆け付けたんだ。」

「まさか!怪我を!?」

「いや、聖女様は無傷だ。」

 一先ず『ほっ』と胸を撫でおろす。であるならば後は一つしかない。

「何人やったんですか?」

「15、いや20だろうか?」

「そんなに!?やりすぎですよ!」

「能力を見るためというのもあって多めに任されたみたいだ。」
 なんてことだ。倒れて当然だ。

「ちょっと看ていいですか?」

「ああ、同室の者には説明して外してもらっているし、見てやってくれ。」
 許可を得て部屋に入らせてもらう。聖女様ベッドに寝かされ荒く呼吸していた。

「聖女様、お加減は如何ですか?」

 優しく声を掛けると、 薄っすら目が開き、

「ああ…勇者様。来て…下さったのですね…」
 細い声で迎えてくれた。

「女騎士さんから聞きました。駄目ですよ!無茶したら。」

「すみません。助けたくて…でもちゃんと重症の方は『できません』と代わってもらいましたから…」
 手を取りさすり、焼け石に水かもしれないが能力をそっと使う。

「あなたに何かあれば国王陛下に申し訳が立ちません。どうかご無理なさいませんよう。」

「ごめんなさい…心配かけて…」

「今はゆっくり休んでください。」

「そう…します…」

 ゆっくりと瞼が落ち、先ほどより落ち着いた寝息でお休みになられた。僕は静かに退室し、女騎士さんにもお礼を言った。

「もういいのか?」

「ええ。女騎士さん本当にありがとうございました。本当なら僕が彼女を守らなければならないのに…」

「なに。気にするな。私にとっても彼女はもう妹みたいなものだ。私は一人っ子だったから負担どころか嬉しく思っているよ。」

 本当にイケメンだな。堕ちちゃいそう。いつものようにそう心の声を思っていると身体がぐらつく。女騎士さんがとっさに抱きとめてくれた。やだ、恥ずかしい。これ逆の立場でやりたいのに。

「大丈夫か?疲れが出たんだろう。剣士君も休んだ方がいい。」
 柔らかく微笑んだ口から真っ白な歯が少し見え『キランッ!』という擬音が聞こえましたよ。うん。

 僕はメスの顔をしながら「ありがとうございます。騎士様///」と言ったら、「頼むからその顔はやめてくれ」と言われてしまった。ああ!お許しください騎士様!暫く元に戻りそうにありません。

 部屋に戻ると軽戦士や毛布君が何か喚いていたが疲れすぎて、ベットに倒れこむとそのまま眠ってしまった。
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