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双新星編
裏本編5 おもひでぽろぽろ
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明日は先輩とのデートの日、ここ数日は興奮して寝つきが悪かった。
ぼくは明日に向けてチェックをする。
(服も身だしなみもOKだ。)
財布を確認する。
(剣士君がお金を貸してくれてまだ結構あるけど・・・備えあればなんとやら、と言うし・・・)
「あ、あの、木こりちょっといいか?」
ぼくは自身のベッドに腰かけ作業をしている木こりに話しかける。
「俺もお前に用事があるんだが、ちょっと待ってくれ。」
「いや・・・邪魔して悪い。待たせて貰うよ。」
暫く、脳内でデートのシュミレーションを行っていると、
「待たせて悪かったな。それで、どうした?」
「木こり、悪いんだがお金を貸してくれないか?」
「構わないが、どうした?」
「い、いや・・・その・・・」
恥ずかしくてデートとは言いづらかった。
木こりはじっとぼくを見つめてから、
「まあ、いい。それと、これを。」
渡してくれたのは、お金と木彫りのペンダント。
「これって・・・」
「約束の品だ。でも前も言ったがあくまで保険として使ってくれ。相手が気に入るかどうか分からないしな。」
「ありがとう。木こり。大切に・・・大切に使わせてもらうよ。」
デート当日、ぼくは第一モールで先輩と待ち合わせる。
「ご、ごめん!まっt・・・・え!?」
「え?」
「い、いえ、待たせたわね。」
「いえ!大丈夫です。今来たところです!」
今、一瞬あれ?なんだろ?
ともあれ、くぅぅ!!童貞が夢見るシチュエーショントップ3に入るであろう待ち合わせのこのやり取り!素晴らしい!記念日にしないと!
二人でモールを並んで歩く、もうそれだけで幸せだった。
(今日がもう最後でもいいや・・・)
「あ・・・」
先輩がトテトテとモールのアパレルショップのウインドウに張り付く。
ガラスに手を当てじっとディスプレイされてる服を無表情で見つめてる。
(見つめる先輩の目・・・なんだか違和感が。う、う~ん、欲しいの・・・かな?よ、よし!!!)
ぼくは値段を確認すると・・・・
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
ぼくの視線が財布の中身と値段表とを行き来する。
(嘘だろ!?なんだこの値段!?第二モールと全然違う!)
そんなぼくに先輩が気づき、
「あ、ち、違うの!ご、ごめんね。次行こう。あっちあっち!」
肩を落とすぼくを引っ張っていく先輩。
しかし、その後も第一モールの価格にぼくは心を折られ続けた。
あらかじめ第一モールをチェックしておくべきだった。
ぼくは自分の詰めの甘さに徐々に自己嫌悪に陥っていった。
幾つか店を回った後、先輩は少し困った顔してうなだれるぼくの肩を優しく叩いて、
「ねぇ。行きたいお店あるんだけどいいかな?」
そう言って第一モールを後にし、長い階段を降りて第二モールへ移動する。
第二モールのありふれた喫茶店に入り、
お互い向かい合わせで座る。
先輩はぼくに過去の話をしてくれた。
貧しかったこと。
些細な時間が幸せだったこと。
なんてことない時間が大切なこと。
それを聞いて、ぼくは恥ずかしくなって泣いてしまった。
ぼくは本当にこの人のことをちゃんと見ていたのだろうか、と。
今日のデートを振り返りあまりに幼稚で独りよがりで、恥ずかしさのあまり泣いてしまった。
(これだからクソ童貞は・・・どうしようもないな、ぼくは!)
そんなどうしようもないぼくを優しく慰めてくれる。
大失敗をしたばかりなのに、今日の出来事でぼくは、よりこの人に惹かれていた。
ぼくがぐずっていると先輩が後ろの席を覗き込んで何かを言っている。
覗くとそこには剣士君たち4人の姿があった。
ずっとぼくたちを尾行していたらしい。
流石に腹が立ったが、ぼくを心配してくれたらしい。
そう言われると悪い気はしなかった。
剣士君がカメラを持っていてずっと写真を取っていたらしい。
今日の記念にみんなで撮ろう、と提案してくれて、
まず、ぼくと先輩の二人で撮ってくれた。
その際、木こりが作ってくれたプレゼントを渡す。
「あ、ありがとう。大切にするね。」
頬を赤らめ、渡したネックレスをグッと胸に引き寄せ受け取ってくれる。
(ありがとう。木こり。ようやく納得のいくプレゼントができたよ。)
最後にみんなで写真を撮る。
ぼくは先輩の隣で緊張しすぎて、変な体勢、変な顔になってしまった。
これも月日が経てば良い思い出になるのかな?
ぼくは、こんなどうしようもない世界で出会えた素晴らしい良縁に感謝した。
騒ぐみんなから少し離れて剣士君がこの時間を愛しく、大切にしているような、そんな表情で眺めている。ポツリと、
「どうか・・・またみんなで・・・」
その、呟きは懇願のようにも思えた。
______________________________________
色褪せた写真を撫でながら思う。
剣士君は知っていたのだろう。
必ずしも次があるわけではないと、
その時が最後のチャンスかもしれないのだと・・・
今なら思う。
彼はずっと大人で、
私はあまりに無邪気で幼稚だった。
知らないことはなんて愚かで残酷なのだろう。
もし、そのことにあの当時気づけていたら、きっと別のことが出来ただろう。
今となって後悔しているなんて、この年になっても、まだまだ私は幼稚なのだろうな。
そんな幼稚な私が彼と張り合っていたなんて・・・実に滑稽だ。
だが、そんな幼稚さもみっともなさも、今では懐かしく思えるのだから少しは成長出来たのだろうか?
ぼくは明日に向けてチェックをする。
(服も身だしなみもOKだ。)
財布を確認する。
(剣士君がお金を貸してくれてまだ結構あるけど・・・備えあればなんとやら、と言うし・・・)
「あ、あの、木こりちょっといいか?」
ぼくは自身のベッドに腰かけ作業をしている木こりに話しかける。
「俺もお前に用事があるんだが、ちょっと待ってくれ。」
「いや・・・邪魔して悪い。待たせて貰うよ。」
暫く、脳内でデートのシュミレーションを行っていると、
「待たせて悪かったな。それで、どうした?」
「木こり、悪いんだがお金を貸してくれないか?」
「構わないが、どうした?」
「い、いや・・・その・・・」
恥ずかしくてデートとは言いづらかった。
木こりはじっとぼくを見つめてから、
「まあ、いい。それと、これを。」
渡してくれたのは、お金と木彫りのペンダント。
「これって・・・」
「約束の品だ。でも前も言ったがあくまで保険として使ってくれ。相手が気に入るかどうか分からないしな。」
「ありがとう。木こり。大切に・・・大切に使わせてもらうよ。」
デート当日、ぼくは第一モールで先輩と待ち合わせる。
「ご、ごめん!まっt・・・・え!?」
「え?」
「い、いえ、待たせたわね。」
「いえ!大丈夫です。今来たところです!」
今、一瞬あれ?なんだろ?
ともあれ、くぅぅ!!童貞が夢見るシチュエーショントップ3に入るであろう待ち合わせのこのやり取り!素晴らしい!記念日にしないと!
二人でモールを並んで歩く、もうそれだけで幸せだった。
(今日がもう最後でもいいや・・・)
「あ・・・」
先輩がトテトテとモールのアパレルショップのウインドウに張り付く。
ガラスに手を当てじっとディスプレイされてる服を無表情で見つめてる。
(見つめる先輩の目・・・なんだか違和感が。う、う~ん、欲しいの・・・かな?よ、よし!!!)
ぼくは値段を確認すると・・・・
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
ぼくの視線が財布の中身と値段表とを行き来する。
(嘘だろ!?なんだこの値段!?第二モールと全然違う!)
そんなぼくに先輩が気づき、
「あ、ち、違うの!ご、ごめんね。次行こう。あっちあっち!」
肩を落とすぼくを引っ張っていく先輩。
しかし、その後も第一モールの価格にぼくは心を折られ続けた。
あらかじめ第一モールをチェックしておくべきだった。
ぼくは自分の詰めの甘さに徐々に自己嫌悪に陥っていった。
幾つか店を回った後、先輩は少し困った顔してうなだれるぼくの肩を優しく叩いて、
「ねぇ。行きたいお店あるんだけどいいかな?」
そう言って第一モールを後にし、長い階段を降りて第二モールへ移動する。
第二モールのありふれた喫茶店に入り、
お互い向かい合わせで座る。
先輩はぼくに過去の話をしてくれた。
貧しかったこと。
些細な時間が幸せだったこと。
なんてことない時間が大切なこと。
それを聞いて、ぼくは恥ずかしくなって泣いてしまった。
ぼくは本当にこの人のことをちゃんと見ていたのだろうか、と。
今日のデートを振り返りあまりに幼稚で独りよがりで、恥ずかしさのあまり泣いてしまった。
(これだからクソ童貞は・・・どうしようもないな、ぼくは!)
そんなどうしようもないぼくを優しく慰めてくれる。
大失敗をしたばかりなのに、今日の出来事でぼくは、よりこの人に惹かれていた。
ぼくがぐずっていると先輩が後ろの席を覗き込んで何かを言っている。
覗くとそこには剣士君たち4人の姿があった。
ずっとぼくたちを尾行していたらしい。
流石に腹が立ったが、ぼくを心配してくれたらしい。
そう言われると悪い気はしなかった。
剣士君がカメラを持っていてずっと写真を取っていたらしい。
今日の記念にみんなで撮ろう、と提案してくれて、
まず、ぼくと先輩の二人で撮ってくれた。
その際、木こりが作ってくれたプレゼントを渡す。
「あ、ありがとう。大切にするね。」
頬を赤らめ、渡したネックレスをグッと胸に引き寄せ受け取ってくれる。
(ありがとう。木こり。ようやく納得のいくプレゼントができたよ。)
最後にみんなで写真を撮る。
ぼくは先輩の隣で緊張しすぎて、変な体勢、変な顔になってしまった。
これも月日が経てば良い思い出になるのかな?
ぼくは、こんなどうしようもない世界で出会えた素晴らしい良縁に感謝した。
騒ぐみんなから少し離れて剣士君がこの時間を愛しく、大切にしているような、そんな表情で眺めている。ポツリと、
「どうか・・・またみんなで・・・」
その、呟きは懇願のようにも思えた。
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色褪せた写真を撫でながら思う。
剣士君は知っていたのだろう。
必ずしも次があるわけではないと、
その時が最後のチャンスかもしれないのだと・・・
今なら思う。
彼はずっと大人で、
私はあまりに無邪気で幼稚だった。
知らないことはなんて愚かで残酷なのだろう。
もし、そのことにあの当時気づけていたら、きっと別のことが出来ただろう。
今となって後悔しているなんて、この年になっても、まだまだ私は幼稚なのだろうな。
そんな幼稚な私が彼と張り合っていたなんて・・・実に滑稽だ。
だが、そんな幼稚さもみっともなさも、今では懐かしく思えるのだから少しは成長出来たのだろうか?
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