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双新星編
裏本編6 理想と現実
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あれからどれくらい時間が立ったのだろう。
あの時、部隊と完全にはぐれ、視界の悪い戦場を一人で彷徨って不安だったところに敵と対峙する剣士君と先輩を見つけたんだ。加勢しようと突っ込んだものの、うっそうとした木々で分からなかったが、敵だらけの所に走って飛び込むなんて・・・ぼくはなんてマヌケなんだ。
魔獣にやられた怪我の所為か、足の怪我のせいか、それとも一人でいる心細さからか、
熱があるみたいだ。考えも段々纏まらなくなり意識がぼんやりとする。
熱の所為で気が参っているのか、『ここで死ぬのかな?』そんなことを考えていた時、
「おや?誰かな?ここはとっておきの秘密の場所だったのですが。」
うっすら目を開ける。剣士君が来てくれたのかと思ったが、全く知らない禿げ頭の男が立ってぼくを覗き込んでいる。すぐさま、攻撃してこない所を見ると、敵では無いのか。それにその表情は困り顔で殺意が無い。
『助かった』心の中でそう安堵した。
『早くぼくを助けてください!』そう思っていたが、
「二人・・・た、たす・・・・け・・・・」
ぼくは最後の力をふり絞り、剣士君と先輩が去っていった方角を指さしていた。
意識が薄れていく。
「え?ちょっと?君!君!・・・うーん、参りましたね~。」
禿げさんが何か言っていたが意識が朦朧として何を言っているのか聞き取れなかった。
目が醒め辺りを見渡すとぼくはベッドに寝かされていた。
「ああ・・・ぼんぼんさん!良かった!気が付いたんですね!」
見覚えのあるピンク髪の子、聖女様がぼくを覗き込んでいた。
「聖女・・・様?」
「ここは後方の基地です。ぼんぼんさんは基地の入口で倒れていたんです。何があったんですか?作戦は?前方の挟撃作戦だったんじゃ・・・」
『はっ!』っとなり、身体を起こそうとするが、まだ痛みが残っていてベッドに倒れる。
「だ、駄目ですよ。まだ動いちゃ!応急処置しただけですから。」
「助けに・・・行かないと・・・」
「どういうことですか!?」
「作戦は・・・失敗しました。ぼくたちは敵騎兵の奇襲を受けて・・・先輩も剣士君も・・・どうなったか・・・」
「そ、そんな・・・!!」
聖女様が『すぅ』っと気を失って床に倒れる。
「せ、聖女様!?だ、誰か!誰かいませんか!!!」
ぼくは大声で叫び、人を呼ぶ。
ぼくの声に気が付いた女騎士さんがやってきて聖女様を運んで行った。
迂闊だった・・・伝えるべきでなかった・・・
どうしてぼくはいつも気が回らないんだ!
女騎士さんが帰ってきてぼくから事情を詳しく聞いた。
「そうか・・・君は気に病んでいるが、済んでしまったことは仕方ない。それに心配する君の気持ちもわかるさ。」
そう言ってぼくの肩に手を置いて慰めてくれる。
「それに、今の君の状態では、助けに出るのは難しい。まずはゆっくり身体を治すことに専念しないとな。」
女騎士さんは、そう優しく諭すようにぼくに言い、去っていった。
ぼくは・・・何をやっているんだ。先輩と剣士君の足を引っ張って、何もできずベッドの上に寝かされて、あげく友人に心配をかけ、そして慰められてる。
(何が、先輩を守りたいだ!この大馬鹿野郎。結局みんなに守られてるだけじゃないか!)
ぼくはかつての毛布玉のように布団を被った。
くやしい・・・
自分が嫌になる・・・・
まるで逃げる様に無理矢理眠る。
そんなことをしても、どこにも逃げれないというのに・・・
それからぼくは暫くたった後、拠点に戻され、療養することになった。
先輩の部隊もぼくの部隊もまだ行方不明のままだった。
聖女様と女騎士さんも拠点に帰ってきていた。
聖女様は、あれ以来まともに活動出来なくなってしまったらしい。
本当は見舞いに行きたかったが、顔を見せる勇気がなかった。
廊下で女騎士さんに様子を伺ったりしたが、
「大丈夫だから、君は気にするな。」だけで詳細は聞けなったが、女騎士さんの顔が日に日にやつれていっているあたり、いい状態で無いのは伝わった。
ぼくは罪悪感でいっぱいだった。
そして運命の日がやってきたんだ・・・ぼくたちをバラバラに引き裂いた運命の日が。
その日は月初めだった。
部屋に4枚のカードが届いた。それぞれの名前が書いてある。
どうやらカードに基本給プラス貢献度によるポイントが加算されているらしい。
(そう言えば先輩もこんなカードを持っていたな・・・)
そんな事を思っていたら、廊下が騒がしい。
出てみると、女騎士さんと聖女様の部屋だった。
部屋の中にはガラの悪い男が数人やってきていて、女騎士さんを拘束し無理やり聖女様を連れて行こうとしていた。
「やめろ!その人は体調が悪いんだ!」
女騎士さんが止めようとするが、
「このピンクちゃんはベルセルクさんが買ったんだよ!なんなら自分の貢献度ポイント使って自分を守ってもいいんだぜ?出来ねぇよな?足りねぇのは知ってるんだぜ!」
そう言って無理やり外に連れ出す。
「お、おい!や、やめ・・・・」
ぼくはなけなしの勇気をふり絞り止めようとするが、
「あーん!何だこのデブ!!どけ!!殴られてぇのか!!!!!」
「ひっ・・・・」
ぼくは情けなくへたり込む。
そのまま女騎士さんと聖女様は連れていかれてしまった。
しばらくして騒ぎを聞きつけた木こりがやってきて、ぼくを問いただした。
ぼくは事情を説明すると、木こりは
「俺は追いかける。お前はどうするんだ?」
木こりが手を伸ばす。
ぼくは恐る恐る手を伸ばし、小さい声で、
「ぼ、ぼくも追いかけたい・・・」
そう言うと、力強く手を掴み引っ張り上げてくれる。
「よし!行こう。」
木こりはそう言ってぼくの手を引き走り出した。
螺旋階段あるの大空間に出ると最下層でベルセルクが聖女様を拘束し下品な演説をしていた。
聖女様を庇い、女騎士さんが辱めを受けていた。
隣の木こりは『限界だ!』と言わんばかりに青筋がたっていた。
女騎士さんが足蹴にされ、ベルセルクが聖女様を手にかけようとしたとき、
上層から剣士君が降ってきた。
(剣士君!無事だったのか!)
そして着地と共にベルセルクの右腕を斬り飛ばした。
僕にはその光景がピンチに現れるヒーローのように思えた。
剣士君は、あっという間にベルセルクを戦闘不能にしてしまった。
(す、すごい・・・剣士君。あんなに強かったのか!)
遅れて先輩が上空から降ってくる。
(よかった!先輩も無事だ)
しかし次の瞬間、
「そいつらを捕らえろ!!!殺すな!!!いいか!!!絶対殺すなよ!!!!!生きて捕らえたものは、なんでも褒美を取らせる!!!」
代表の号令。
(そんな・・・)
呆然となる。
(もうここで・・・生きていけないじゃないか!)
「ど、どいてくれ!!」
ぼくは先輩たちの元へ行こうと野次馬を押しのけようとする。
「なんだぁ!こいつ、あいつらの仲間か!?やっちまえ!」
周りにいたやつらがぼくを羽交い絞めにしてボコボコにリンチしだした。
(痛い!!痛い!!!・・・怖い!!!・・・誰か!助けてくれ!!)
木こりは能力で手すりや近くのドアなど木製の物を能力で分解し、結合させ一本の太い丸太を作りだし、振り回しながらぼくを助けに周りに居たやつを追い払おうした。
しかし、生産職である彼と戦闘職では実力に差がありすぎて簡単に躱され逆に殴られる。
(無茶だ。木こり!生産職のお前が勝てるわけないよ!)
その時だった。
「おーい、俺も混ぜてくれよ。その小太りと丸太の兄ちゃんに加勢するからよぉ。やりあおうぜ?な?」
浪人風の男がやってきてそう言った。
「じ、次元斬・・・いや・・・アンタとはやれねぇよ・・・」
僕らを殴っていた奴らが『ピタッ』と固まる。
「いや、だからさぁ!俺もヘッドシューター側に付くって言ってんだよ。だから~、な?やろうぜ?今、俺一人だぜ?ほら?ほらほら?」
やる気満々だった奴らはばつが悪そうに下を向き急に大人しくなり、僕らを解放して道を開ける。
「なんだよ?お前ら?寄ってたかって確実に勝てる新人や生産職にはイキれるのに、自分より強い奴には複数人居てもいけねぇのかよ?どーせ、戦いに出ても今みたいにコソコソと自分より弱いやつ見つけては集団でリンチにして、みみっちくポイント稼いでるんだろ?つまんねぇ奴らだなぁ。最近、敵さん側にもお前らナメクジみたいな奴ら増えてよぉ。つまんねぇから戦もやる気でねぇんだわ~。」
次元斬と呼ばれた侍は『はぁ~』と大きいため息をついてから、僕らの方を向き、
「おう、今ならヘッドシューターのところまでいけるぞ。」
と言った。
木こりは丸太を持って走り出すが、ぼくは震えて動けないでいた。
怖かったんだ。集団で囲まれて、殴られて、傷ついて、怖くなってしまっていた。
木こりはぼくが止まっているのに気が付き、振り向くと
「いい。お前はそれでいい!残っているから出来ることもある!」
そう言い残して、僕を置いて行ってしまった。
次元斬さんは床に転がる僕の傍に来てしゃがみ込むと、
「小太りの兄ちゃんよぉ。恥ずかしいか?でも、それが普通の反応だな。ま、それの度が過ぎるとアイツらみたいになるんだがよぉ。」
そう言って後ろに居る、さっきぼくらを殴っていた奴らを指した。
ぼくは先輩達を見る。
(きっと、ぼくはあちら側にはなれない。後ろで俯いて地面を見つめるナメクジ達のようになるんだろう・・・)
結局ぼくはその後も飛び出すことは出来ず、先輩の指が飛ばされ、引きずって連れていかれるのをただじっと見ていた。
ぼくはぼくが好きになりたいのに・・・いつも嫌いになる。
好きな姿、なりたい姿を想像する。
空から降ってきてベルセルクを切り伏せた剣士君のような、
みんなを助けるために、羽をもぎ取られた女神様のような、
しかし・・・自身とあまりの違いに自己嫌悪になりながら、ぼくはただひっそり立ち尽くした。
あの時、部隊と完全にはぐれ、視界の悪い戦場を一人で彷徨って不安だったところに敵と対峙する剣士君と先輩を見つけたんだ。加勢しようと突っ込んだものの、うっそうとした木々で分からなかったが、敵だらけの所に走って飛び込むなんて・・・ぼくはなんてマヌケなんだ。
魔獣にやられた怪我の所為か、足の怪我のせいか、それとも一人でいる心細さからか、
熱があるみたいだ。考えも段々纏まらなくなり意識がぼんやりとする。
熱の所為で気が参っているのか、『ここで死ぬのかな?』そんなことを考えていた時、
「おや?誰かな?ここはとっておきの秘密の場所だったのですが。」
うっすら目を開ける。剣士君が来てくれたのかと思ったが、全く知らない禿げ頭の男が立ってぼくを覗き込んでいる。すぐさま、攻撃してこない所を見ると、敵では無いのか。それにその表情は困り顔で殺意が無い。
『助かった』心の中でそう安堵した。
『早くぼくを助けてください!』そう思っていたが、
「二人・・・た、たす・・・・け・・・・」
ぼくは最後の力をふり絞り、剣士君と先輩が去っていった方角を指さしていた。
意識が薄れていく。
「え?ちょっと?君!君!・・・うーん、参りましたね~。」
禿げさんが何か言っていたが意識が朦朧として何を言っているのか聞き取れなかった。
目が醒め辺りを見渡すとぼくはベッドに寝かされていた。
「ああ・・・ぼんぼんさん!良かった!気が付いたんですね!」
見覚えのあるピンク髪の子、聖女様がぼくを覗き込んでいた。
「聖女・・・様?」
「ここは後方の基地です。ぼんぼんさんは基地の入口で倒れていたんです。何があったんですか?作戦は?前方の挟撃作戦だったんじゃ・・・」
『はっ!』っとなり、身体を起こそうとするが、まだ痛みが残っていてベッドに倒れる。
「だ、駄目ですよ。まだ動いちゃ!応急処置しただけですから。」
「助けに・・・行かないと・・・」
「どういうことですか!?」
「作戦は・・・失敗しました。ぼくたちは敵騎兵の奇襲を受けて・・・先輩も剣士君も・・・どうなったか・・・」
「そ、そんな・・・!!」
聖女様が『すぅ』っと気を失って床に倒れる。
「せ、聖女様!?だ、誰か!誰かいませんか!!!」
ぼくは大声で叫び、人を呼ぶ。
ぼくの声に気が付いた女騎士さんがやってきて聖女様を運んで行った。
迂闊だった・・・伝えるべきでなかった・・・
どうしてぼくはいつも気が回らないんだ!
女騎士さんが帰ってきてぼくから事情を詳しく聞いた。
「そうか・・・君は気に病んでいるが、済んでしまったことは仕方ない。それに心配する君の気持ちもわかるさ。」
そう言ってぼくの肩に手を置いて慰めてくれる。
「それに、今の君の状態では、助けに出るのは難しい。まずはゆっくり身体を治すことに専念しないとな。」
女騎士さんは、そう優しく諭すようにぼくに言い、去っていった。
ぼくは・・・何をやっているんだ。先輩と剣士君の足を引っ張って、何もできずベッドの上に寝かされて、あげく友人に心配をかけ、そして慰められてる。
(何が、先輩を守りたいだ!この大馬鹿野郎。結局みんなに守られてるだけじゃないか!)
ぼくはかつての毛布玉のように布団を被った。
くやしい・・・
自分が嫌になる・・・・
まるで逃げる様に無理矢理眠る。
そんなことをしても、どこにも逃げれないというのに・・・
それからぼくは暫くたった後、拠点に戻され、療養することになった。
先輩の部隊もぼくの部隊もまだ行方不明のままだった。
聖女様と女騎士さんも拠点に帰ってきていた。
聖女様は、あれ以来まともに活動出来なくなってしまったらしい。
本当は見舞いに行きたかったが、顔を見せる勇気がなかった。
廊下で女騎士さんに様子を伺ったりしたが、
「大丈夫だから、君は気にするな。」だけで詳細は聞けなったが、女騎士さんの顔が日に日にやつれていっているあたり、いい状態で無いのは伝わった。
ぼくは罪悪感でいっぱいだった。
そして運命の日がやってきたんだ・・・ぼくたちをバラバラに引き裂いた運命の日が。
その日は月初めだった。
部屋に4枚のカードが届いた。それぞれの名前が書いてある。
どうやらカードに基本給プラス貢献度によるポイントが加算されているらしい。
(そう言えば先輩もこんなカードを持っていたな・・・)
そんな事を思っていたら、廊下が騒がしい。
出てみると、女騎士さんと聖女様の部屋だった。
部屋の中にはガラの悪い男が数人やってきていて、女騎士さんを拘束し無理やり聖女様を連れて行こうとしていた。
「やめろ!その人は体調が悪いんだ!」
女騎士さんが止めようとするが、
「このピンクちゃんはベルセルクさんが買ったんだよ!なんなら自分の貢献度ポイント使って自分を守ってもいいんだぜ?出来ねぇよな?足りねぇのは知ってるんだぜ!」
そう言って無理やり外に連れ出す。
「お、おい!や、やめ・・・・」
ぼくはなけなしの勇気をふり絞り止めようとするが、
「あーん!何だこのデブ!!どけ!!殴られてぇのか!!!!!」
「ひっ・・・・」
ぼくは情けなくへたり込む。
そのまま女騎士さんと聖女様は連れていかれてしまった。
しばらくして騒ぎを聞きつけた木こりがやってきて、ぼくを問いただした。
ぼくは事情を説明すると、木こりは
「俺は追いかける。お前はどうするんだ?」
木こりが手を伸ばす。
ぼくは恐る恐る手を伸ばし、小さい声で、
「ぼ、ぼくも追いかけたい・・・」
そう言うと、力強く手を掴み引っ張り上げてくれる。
「よし!行こう。」
木こりはそう言ってぼくの手を引き走り出した。
螺旋階段あるの大空間に出ると最下層でベルセルクが聖女様を拘束し下品な演説をしていた。
聖女様を庇い、女騎士さんが辱めを受けていた。
隣の木こりは『限界だ!』と言わんばかりに青筋がたっていた。
女騎士さんが足蹴にされ、ベルセルクが聖女様を手にかけようとしたとき、
上層から剣士君が降ってきた。
(剣士君!無事だったのか!)
そして着地と共にベルセルクの右腕を斬り飛ばした。
僕にはその光景がピンチに現れるヒーローのように思えた。
剣士君は、あっという間にベルセルクを戦闘不能にしてしまった。
(す、すごい・・・剣士君。あんなに強かったのか!)
遅れて先輩が上空から降ってくる。
(よかった!先輩も無事だ)
しかし次の瞬間、
「そいつらを捕らえろ!!!殺すな!!!いいか!!!絶対殺すなよ!!!!!生きて捕らえたものは、なんでも褒美を取らせる!!!」
代表の号令。
(そんな・・・)
呆然となる。
(もうここで・・・生きていけないじゃないか!)
「ど、どいてくれ!!」
ぼくは先輩たちの元へ行こうと野次馬を押しのけようとする。
「なんだぁ!こいつ、あいつらの仲間か!?やっちまえ!」
周りにいたやつらがぼくを羽交い絞めにしてボコボコにリンチしだした。
(痛い!!痛い!!!・・・怖い!!!・・・誰か!助けてくれ!!)
木こりは能力で手すりや近くのドアなど木製の物を能力で分解し、結合させ一本の太い丸太を作りだし、振り回しながらぼくを助けに周りに居たやつを追い払おうした。
しかし、生産職である彼と戦闘職では実力に差がありすぎて簡単に躱され逆に殴られる。
(無茶だ。木こり!生産職のお前が勝てるわけないよ!)
その時だった。
「おーい、俺も混ぜてくれよ。その小太りと丸太の兄ちゃんに加勢するからよぉ。やりあおうぜ?な?」
浪人風の男がやってきてそう言った。
「じ、次元斬・・・いや・・・アンタとはやれねぇよ・・・」
僕らを殴っていた奴らが『ピタッ』と固まる。
「いや、だからさぁ!俺もヘッドシューター側に付くって言ってんだよ。だから~、な?やろうぜ?今、俺一人だぜ?ほら?ほらほら?」
やる気満々だった奴らはばつが悪そうに下を向き急に大人しくなり、僕らを解放して道を開ける。
「なんだよ?お前ら?寄ってたかって確実に勝てる新人や生産職にはイキれるのに、自分より強い奴には複数人居てもいけねぇのかよ?どーせ、戦いに出ても今みたいにコソコソと自分より弱いやつ見つけては集団でリンチにして、みみっちくポイント稼いでるんだろ?つまんねぇ奴らだなぁ。最近、敵さん側にもお前らナメクジみたいな奴ら増えてよぉ。つまんねぇから戦もやる気でねぇんだわ~。」
次元斬と呼ばれた侍は『はぁ~』と大きいため息をついてから、僕らの方を向き、
「おう、今ならヘッドシューターのところまでいけるぞ。」
と言った。
木こりは丸太を持って走り出すが、ぼくは震えて動けないでいた。
怖かったんだ。集団で囲まれて、殴られて、傷ついて、怖くなってしまっていた。
木こりはぼくが止まっているのに気が付き、振り向くと
「いい。お前はそれでいい!残っているから出来ることもある!」
そう言い残して、僕を置いて行ってしまった。
次元斬さんは床に転がる僕の傍に来てしゃがみ込むと、
「小太りの兄ちゃんよぉ。恥ずかしいか?でも、それが普通の反応だな。ま、それの度が過ぎるとアイツらみたいになるんだがよぉ。」
そう言って後ろに居る、さっきぼくらを殴っていた奴らを指した。
ぼくは先輩達を見る。
(きっと、ぼくはあちら側にはなれない。後ろで俯いて地面を見つめるナメクジ達のようになるんだろう・・・)
結局ぼくはその後も飛び出すことは出来ず、先輩の指が飛ばされ、引きずって連れていかれるのをただじっと見ていた。
ぼくはぼくが好きになりたいのに・・・いつも嫌いになる。
好きな姿、なりたい姿を想像する。
空から降ってきてベルセルクを切り伏せた剣士君のような、
みんなを助けるために、羽をもぎ取られた女神様のような、
しかし・・・自身とあまりの違いに自己嫌悪になりながら、ぼくはただひっそり立ち尽くした。
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