羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編10 九死に一生を得た・・・?

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 転移が完了する。
 折角、姉さんと木こりがつないでくれた命。前を見据え涙を拭う。
 切り替えて・・・必ず生き延びなければ・・・。
 すぐさま走って逃げなければならないのに身体に力が入らず、よろけて倒れる。

「剣士君!」
 女騎士さんが抱きとめてくれる。
 二回目だね、相変わらずかっこいい。
 僕が女騎士さんを抱きとめるときは来るんだろうか。

「私がおぶさって走ります。聖女様は彼の剣を。」

「わかりました。」

 ああもう・・・完全に足引っ張ってるよ・・・僕。


 闘技場から出ると、そこはうっそうとした森。
 いったいどの辺りかわからない・・・
 覚悟を決めて3人で森に入っていく。
 女騎士さんが僕を担ぎながら、僕の剣で木に目印を付けて歩いていく。
 僕はただ負ぶさられてるだけでなく注意深くあたりを観察する。

「止まってください。」
 僕は背中から女騎士さんに指示を出す。

「どうした?剣士君。」

「あそこのに見える。黒い石を二つ拾って下さい。それと向こうに見える瓢箪に似た実と、そのツルを持ってきて下さい。」

「石はわかるが、瓢箪とは?」
 そうか・・・聖女様も女騎士さんの異世界人だった。聖女さまの世界では見なかったな。女騎士さんのところでも瓢箪は無いのか・・・
 
「あのヘンテコな聖女様の控えめなおっぱいと女騎士さんのグラマラスおっぱいを連結させたような実です。」

「おおおおお前はなんて例え方するんだ!!」
 顔を真っ赤にして怒られてしまった。しまった乳房と言うべきだったか?今度は気を付けよう。

 聖女様は「むー」と膨れて僕の剣の鞘で脛を殴ってくる。
 懐かしいなこれ。でも僕、満身創痍だからね?今はよそう?

 僕を一旦下ろし、聖女様と女騎士さんが拾ってくる。

「これは何に使うんでしょう?」
 聖女様が拾ってきた石やツルを不思議そうに弄りながらつぶやく。

「黒い石の方は勢いよく打ち合わせると火を起こせます。実の方は上の部分を切り取れば中は水分が溜まっていて飲料水になります。少し青臭いですが、貴重な水分源です。ツルは軽くて丈夫なのでロープ代わりに使えます。」

「勇者様、お詳しいですね。」

「みんな・・・みんな、あの人が教えてくれました。」

「そう・・・ですか。」
 聖女様が目を伏せる。
 暫く沈黙が続いたが、

「さあ、先を急ごう。まだ落ち着けたわけじゃないからね。」
 女騎士さんが暗くなる空気を吹き飛ばすかのように明るく言うと僕らは再び歩き出した。




 あれから3時間ほど歩くと、ぽっかりと開いた小空間に出た。

「ここを中心に探索してみようか?」
 女騎士さんが提案する。
 ずっと負ぶさってもらっているし、聖女様も体力が持たないだろう。

「そうしましょう。先ずは火を起こすために枯れ枝を集めてきてほしいです。」
「わかった」と、そのまま行こうとする女騎士さんと聖女様。

「待って!そこでこいつが役に立つんですよ。」
 僕はツルを指す。

「それを、ここにある木と自分に括りつけ。探索してください。僕がツルを管理して張った状態を維持します。時折女騎士さんは『グイー』っと大きく1回引っ張って下さい。あまりにツルに感覚が無ければ途中で切れてるかもしれませんので、その時点で探索は中止してください。
何か発見した場合は2回引っ張って下さい。
緊急事態の場合は3回以上引っ張って下さい。」

「わかった準備して行ってくる。」
 女騎士さんはロープを準備して、僕の剣を腰に携え、聖女様を連れて探索に行った。


 僕はロープを張って番をする。暫く歩いただろう地点で『グイー、グイー』と二回感触が伝わってくる。
(何か見つけたな。)
 暫くすると聖女様と女騎士さんが枯れ枝を抱えて帰ってきた。
 ツルは向こう側で結んだようで、二人で往復して燃やせそうな枝をせっせと運んでくる。
 僕は完全にニート状態だ。何も出来ずに美女二人に仕事させてるって、”ヒモ”じゃないか・・・ん?いや・・・あってるのか?今、僕ツルの管理してるもんな。うん。
 何もしないのは気持ち的に辛いので、痛みで千切れそうな重い身体を何とか動かし、火打石で焚火を作った。

(ふぅ・・・僕も仕事出来たぞ・・・って、まだ二人とも作業してるから火にあたってるの僕だけじゃん。なんかクズ度が余計悪化した気がする。)
 そこに二人が帰ってくる。

「まぁ、勇者様、火を起こしてくださったんですね!ありがとうございます。」
 聖女様が屈託のない笑顔を向けてお礼を言ってくる。
 やめて~。その笑顔は普通の心の人は清らかに回復するかもだけど、心がアンデッドの僕には浄化されダメージになります!



 
「ちゃんとした水源は確保するべきだろう。」
 少し休憩した後、そう提案したのは女騎士さんだった。
 これには僕も同意見だ。

「お願いできますか?川なら良いですが、池はダメです。池や沼を見つけたら、浅く呼吸して、すぐ離れて下さい。カエルが居ます。」

「わかった。」
 もう一度ツルを巻きつけ探索に女騎士さんは出た。

 聖女様と僕は留守番をして待つことに。
 聖女様に「休んでください」と、言ったが、
 「大丈夫です」と僕の治療を始めだした。

「絶対無理しないでくださいよ、聖女様。まだ歩くことになりそうですから。」

「ええ。自分の身体ですもの。動けなくなるまでは絶対しませんから。」
 真剣な表情で治療を続ける聖女様。

「生きていてくれて・・・」

「え?」

「生きていてくれて、良かった。」
 聖女様の目に涙が溜まっていた。

「ご心配お掛けしました・・・。」
 僕は真摯な気持ちでそう答えた。

「そうだ。勇者様。さっきヘッドシューターさんの袋に”あるもの”が入っていまして・・・勇者様が持っていてくれますか?」
 そう言って姉さんの袋を渡してくる。
 僕が中身を確認した、その時だった。
 木の上から何者かが降ってきて聖女様を襲い、伸し掛かる。

「いや!いや!やめて!!」

 その者は深いフード付きの外套を深くかぶっており、誰だかわからない。

「クソ!!!」
 僕は急いで女騎士さんに3回ロープを引っ張り合図する。
 続いて僕は悲鳴をあげる身体に鞭を打ち、なけなしの力をふり絞って外套の奴に飛び掛かかった。
 しかし、簡単にはねのけられてしまい、みっともなく転がる。
 聖女様は必死で抵抗して手で顔を押しのけるが、
 変質者はその手を掴み、そいつは聖女様の手を舐めまわしだす。

 そこに女騎士さんが猛スピードで帰ってきて不審者に切りにかかった。
 ・・・が、高い身体能力で、その一撃を避け、走り去って行った。

「待て!!!!!」
 女騎士さんが逃げた犯人を追って走ってゆく。

「大丈夫ですか。聖女様!」
 僕は聖女様を抱き起こし怪我が無いか確認する。

「胸を・・・触られました。あと手も舐められて・・・」
『ぽろぽろ』と涙を流す聖女様。

「すみません。僕が居たのに守れなくて・・・」
(こんな・・・怖い思いをさせるくらいなら無理を押して使うべきだったか・・・)
 僕は能力を出し惜しみしたことを後悔していた。


 
「すまない・・・途中で見失った・・・」
 女騎士さんが帰って来て悔しそうに言った。

 震える聖女様を二人で慰めて、落ち着いたとき、

「どう・・・思いますか。」

「私も気になっていた。」
 どうやら女騎士さんも同じことを思ったらしい。

「あのフード付きの外套・・・比較的綺麗でしたね。」

「ああ・・・人の営みがなされてなければ、あんなに綺麗にはいかないだろう。」

「女騎士さんが追いかけた先に人の気配はありましたか?」

「いや・・・私が見てきた分には無かった。」

「探索・・・すべきなのでしょうか。」
 かなり迷って発言する。

「・・・水源も見つかっていない。手がかりがないこの状態ではあの男の逃げた先が一番の手がかりかもしれない。」
 女騎士さんもかなり迷って発言した。
 その言葉に聖女様が『ビクッ』となる。

「すみません。聖女様。」
 聖女様の手を握り落ち着かせる。

「いえ・・・私も・・・お二人の意見に賛成です。明日あちらの方を探しましょう。」
 恐いだろうに気丈に振る舞いそう言った。


 翌日、不審者が逃げた先を進んでいく。
 今日も女騎士さんのお荷物状態だ。
(やはり・・・何もないのか・・・)
 2時間ほど歩き、諦めかけたその時、

「みんな、あれは建造物じゃないのか!?」
 女騎士さんが森の一方を指す。

 木々の隙間から僅かに石造りの何かが見える。

「確かに、それらしき物に見えます。行ってみましょう。」
 僕はそう言ってから聖女様を見る。
「大丈夫ですか?聖女様。」
 
「大丈夫です・・・行きましょう。」
 聖女様はぎゅっと手を固く握って歩き出した。

 近づくと、よりはっきりと建造物だとわかる。
 木々を抜けると開拓された土地が広がっており、
 建物が数件立っていた。

 僕らが森で見つけたのはその中でも一際大きい宗教施設のような建物だった。
 その施設の前で洗濯物を干す、眼鏡をかけた地味なシスターと目が合う。

「あらぁ?あなた達どうしたのです!?まさか森を抜けてきたの?」

「はい・・・行く当てなく、彷徨っていました。背中の彼はけが人で・・・」
 女騎士さんが説明する。

「まあ!大変!ここで良ければ身体を休めていってください。」

「ご厚意に感謝します。シスター。」
 聖女様がお礼を言う。

『ぐううううううううう~~~』
 僕もお礼を言おうとしたのに、おなかが勝手に返事しちゃった。
 恥ずかしい。

 シスターが『クスクス』笑って
「さあ、お部屋に案内します。その後食事にしましょう。」
 宗教施設の二階の一室に通され、
「ここを使ってください。」と言われる。

 部屋は簡単な壁で二つの部屋に仕切られており、ベッドがそれぞれの部屋にあり、行き来の部分にはカーテンが引かれてある。
 またベッドの周りもカーテンが引けるようになっていた。
 僕は出入のドアに近い部屋を使うことにした。
 女騎士さんがベッドに座らせてくれる。
 半介護状態だ・・・
 「ありがとう」とお礼を言うと「気にするな」と言って向こうの部屋に荷物を置きに行った。

 その後さっきのシスターが食事や簡単な着替えを持ってきてくれて、
 ようやく僕らは拠点逃亡後、ひと心地つくことができた。

 それから数日・・・聖女様と女騎士さんは一宿一飯の礼を返すためシスターの手伝いをし、合間に僕の治療や世話をしてくれた。

 その甲斐あって一先ず、自分のことは自分で出来るくらいには回復しつつあった。
 この時、そのことが原因で事件につながってしまうとは、僕ら3人共つゆにも思わなかった・・・。

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