羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編11 廃神毀秤 その1

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 ある日シスターが提案を持ちかけてきた。
「そうだ、皆さん。剣士さんもずいぶん回復なさって来ましたし、ここで生活している皆さんと一緒に食事を取りませんか?」
 今まで、僕の身体のこともあり、食事は部屋に運んで食べていたのだが、僕がある程度回復したので、そのような提案がなされた。

「え・・・でも・・・」
 聖女様はあまり乗り気ではない。
 僕も聖女様ともちろん同意見だ。

「聖女様を襲った人物がわからない以上、不用意なことはしたくないが・・・」
 女騎士さんもあまり乗り気では無い様子でシスターに聞こえないよう僕らにそっと耳打ちした。

(それもあるが僕ら二人には別の理由もあるんだよな・・・)

「是非、ここの人達も皆さんと会いたがっているのです。まだもう少し剣士さんの療養もありますし、ここの方たちとコミュニケーションを取りませんか?」

 かなり、断りづらい状況になってしまった。聖女様も僕も懸念しているのは恐らく一緒だろう。それはここが”宗教施設”を模していることだ。果たして・・・

 僕は聖女様とアイコンタクトを取り、「・・・わかり・・・ました。」と、しぶしぶ承諾した。

 その日の晩、一階の広間を使い僕たちの歓迎会兼交流会が行われた。

「いや~外から人が尋ねて来るなんて、久しぶりだなぁ。」
「前に移ってきた人は、もう何年前だったかなぁ。」
「ここに外部から来る人言うたら、定期的に尋ねに来る、あのつるっ禿げの人ぐらいだもんな。」
「あなた達ボケたんじゃないの?ほら、最近あの人、来たじゃない。」
「あーあの兄ちゃん。そっかそっか・・・もう馴染んでるからすっかり忘れてた。」

 皆が『ざわざわ』と談笑している。

 シスターが『パンパンッ!』と手を叩き、注目を集め挨拶を始める。
「皆さん今日はお集まり頂きありがとうございます。知っての通り、新しい仲間が増えました。皆さん暖かく迎えましょう。では挨拶はこの辺にして、それでは皆様、今日、糧を頂けることに感謝を込めてお祈りしましょう。」
 
 シスターのその言葉に僕と聖女様が固まる。
 皆が祈りの印を結ぶ。女騎士さんもやっていた。しかし・・・僕らはできない・・・
 ぼくが転移した世界において本来、食事の際や教会などで神様の印を結びお祈りするのが一般的だった。
 この部屋の皆もきっと飛ばされた転移世界でそのような習慣があったのだろう。この施設に来てからなのかもしれないが・・・。
 聖女様も元居た世界では毎食の前に熱心にお祈りをしていた。しかし、それは誰にも見られないところでだ。
 この狭間世界は元々現世世界に暮らしていた転移者が大多数を占めていたので、あまり真剣にお祈りをする人は居なかったので今まで助かっていた。
 でも、ここは宗教施設を模してるので、もしかしたらと思っていた。

 固まっている僕らを怪訝に思ったのか、シスターが、
「えーと・・・大丈夫ですか?あ・・・もしかして。大丈夫ですよ。ここでは『すべての神様』を敬愛している多神教で多信仰ですので、特定の神様をのけ者にしたり、その使徒を攻撃したりとかしていませんので安心してください。」

 それを聞いた聖女様が顔を明るくして、
「本当ですか?ああ・・・良かった。久しぶりに堂々とお祈りができます。」
 そう言ってライブラ神の印を結び始める。

「だ、だめ!」
 僕は急いでその手を止めようとしたが間に合わない。
 何故、止めるのか。
 それは僕が先ほどのお祈りを見渡す限り、ここに居た人の中でライブラの印を結んだ人は誰も居なかったからだ。


 空気が・・・・固まった。
 シスターも固まっている。

「え、えーと・・・初めて見ました。どちらの神様なのですか?」

「天秤の神様、ライブラ神様です。」
 聖女様がニッコニコの笑顔で言ってしまう。そう・・・ライブラの神様は聖女様の居た世界でも認知されていないような神様だった。この狭間世界でも案の定ライブラ神の使途は見たことが無かった。

 長い沈黙・・・聖女様もその状況に段々と不安な表情になっていく。

「いや~!珍しいだすな~!わたしも何十年とここにいますが、初めてだ~。」
 一人のずんぐりとした男が聖女様にニコニコしながら話しかける。それを皮切りに、

「聖女様、ライブラ様とはどんな御方なのですか?」とか、
「新しい神様も増えてめでたいなぁ~。」
「新しい信仰の為に御神体をこさえないとな。」
 と、聖女様を取り囲み『ワイワイ』と破顔して話しかける住民。

 聖女様は突然の事に「あ、あの・・・えっと・・・」と困惑しっぱなしだが、すごく嬉しそうだった。
(良かった。本当に・・・。取り越し苦労だったかな。)
 そう思った時だった。

『バン!』とテーブルを叩き、神経質そうなノッポの男が立ち上がる。
「何を言っているんだ!この”神の間”は過去数百年前からずっと元来の6神を祀ってきたのだ!
 それをどこの誰だかわからない外来の神なんぞ取り入れようとするな!!!
 それはこの集団に対する冒涜だ!!!」
 僕らに対して嫌悪感を露わにし糾弾しだした。

「おやめなさい!この”神の間”は多信仰、多神教ですよ!?お忘れですか?」

 シスターがノッポさんを諫めるが、しかしノッポさんは引かなかった。

「それは元ある、ここに過去より根付いている元来の神の範囲での話だ!!!外からの外来種なんぞ入れるな!!!最も古株で皆を導く存在の導師シスターがそのような事でどうするのです!!!」
 そして、「気分が悪い!!帰らせてもらう!!!」と、言って立ち上がり、出て行ってしまう。
 なんと、その場にいた数十人がノッポさんに続いて出て行ってしまった。

 残ったのは半数の数十人。
 聖女様はすっかり落ち込んでしまって、俯いて泣いてしまう。
 聖女様を歓迎してくれた人達は、「あんなの気にすることないよ。」と慰め、
「気を取り直してパーティーにしよう!」と、聖女様を励ますためか、どんちゃん騒ぎを始めた。
 明るくふるまってくれる残った人達のおかげで段々と聖女様に笑顔が戻ってくれた。
 その日の夜は遅くまで宴会が続いた。
 だが、離席した人達のぽっかりとした空間を見ると、不安感が湧き、払拭できずにいた。
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