羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編13 罪と罰 その1

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 儀式の翌日、僕達は野外で彼女を送ってあげた。
 フォーチュンさんが魔法で火葬してくれる。
 パチパチと燃えていく彼女・・・
 彼女のことは何もわからないのに燃えてゆく彼女を見ていると、
 苦しくて涙が溢れ止まらない。
 彼女との記憶も想い出も何も無いというのに、
 胸の奥が締め付けられるようで、
 その場でへたり込み嗚咽をあげて泣いた。
 そんな僕の背中を女騎士さんはいつまでもさすってくれた。

 優しく

 母が子にしてあげる様に

 そっといつまでも・・・



 あの儀式から何日が経ったろう・・・

 僕は小屋の外でしゃがみ込み佇んでいる。
 服のポケットから一枚の写真を手に取る。

 それは仲間達と撮った幸せだったころの記録・・・・

 前列にぼんぼんとヘッドシューターの姉さんが、
 後ろの列に僕と女騎士さんと木こりが写っている。
 しかし、僕と女騎士さんの間に不自然なくらい空間があるのだ・・・

 この写真を撮った時のことを詳しく思い出そうとすると、頭が割れそうなくらい痛む。
(呪いだな・・・これはもう)

 しかも、この写真の持ち主は僕でも女騎士さんでも無い。
 きっとこの不自然な空間の持ち主の物なんだろう・・・
 誰なんだ・・・誰のなんだ!!!また頭が痛くなってくる。

「その辺にしておけ。」

 後ろでそう言ったのは女騎士さんだった。

「まだ、病み上がりなんだ。無茶はするな。」

「そう言う女騎士さんも無茶しないでくださいよ。また剣を振ってたんでしょ?」

「片腕でも素振りくらいできるさ。・・・それに」

「それに?」

「そうでもしないと私もこの腕の怪我のことを考えてしまう。侍に切られたのは覚えてる。でも・・・なんで私はあの侍と戦うことになったのか・・・思い出そうとしても靄がかかって・・・頭痛がするんだ。
だから、考えないように身体を動かしているんだ。」
どうもしようがない、もどかしさに苛まれながら二人して佇んでいると、

「お?ちょうど良かったです。」
 森の奥から儀式の翌日から姿が見えなかった放浪者さんが帰ってくる。
 背中には一人の男性を担いで。

「やれやれ・・・おい、禿げ。出張料金貰うからな。」

「えー。昔のよしみで負けてください。」

「お前・・・ツケだらけのくせによく言えるな。俺も支払いには五月蝿いがお前の厚顔さには驚きを隠せないよ。」

「えへへ~・・・そうですか?」

「褒めてねぇよ!!・・・ったく分かってて言ってるから余計タチが悪い。」

 大昔からの知り合いなのだろうか?ずいぶん親しげにやり取りをしている二人。

「あ、あの・・・放浪者さん。こちらの御方は?」
このままだと置いてけぼりなので聞いてみた。

「おお!すみません。この方はですねー。【一切工房】トータルワークスさんです。君たちも間接的に知っていますよ。拠点に様々なものを卸していたりしますから。」

「ん?と言うことは、この小僧とねーちゃんは抜けてきたのか?」

「えっと・・・拠点には居られなくなりました・・・僕のせいで。」

「そうか・・・。それで。俺を呼んだ理由はなんだ?」

「彼女の腕を作ってくれませんか?」
 放浪者さんはそう言って女騎士さんの切り飛ばされた左腕を指す。

「わ、私のですか?そもそも腕なんて作れるのですか!?」

 トータルワークスさんは『むっ』として、
「女。俺を誰だと思っている。俺に作れない物は無い。それに元居た世界でも義手はあったろ!?」

 どうやら職人のプライドを傷つけたようで、
「と、トータルワークスさん・・・彼女は転移世界の住人でして・・・」
 と、フォローする。

「む?それは悪いことをした。すまないな、女騎士さん。」

「い、いえ・・・私の方こそ知らぬこととは言え、失礼なことを・・・まるで魔法のような話でしたので・・・」

「ふっ・・・俺なんてまだまだだ。昔は欠損部分を生やす治癒の使い手の転移者が居たぐらいだ。」

「”マーベラス”ですか。懐かしいですね。何百年前の決戦だったか・・・行方不明になって、それ以来ですね。」
 放浪者さんが目を閉じて回想していた。

 トータルワークスさんは女騎士さんの腕などのサイズを図り、
 背中の背嚢から素材を取り出し、作業していく。
 作業を進めながらトータルワークスさんは、

「そう言えば禿げよ。決戦と言えば・・・近いぞ。」

「なんですって?」
 放浪者さんの顔が固くなる。

「ああ。間違いない。両者から大量の物資の発注があって納品したからな。近い内にあの青二才どもやりあうぞ。」

「そう・・・ですか・・・」

 僕は薄々気づきながらも確認をする。
「それって・・・つまり両軍同士の全面対決ってことですか!?」

 トータルワークスさんは、
「拠点に仲間を残してきたのなら気持ちの整理をつけておけ。間違っても加勢に、とか考えるなよ?お前ら二人が行ったところで結果は変わらん。死体が二つ増えるだけだ。」
 平坦な声でそう言った。

「わかり・・・ました。」
 そう言ったものの気持ちの整理など、どうすればいいのか皆目見当がつかなかった。



 夜・・・小屋の外で夜空を見ながら考え事をしていると、

「昼間のことか?」

 そう言って肩を叩かれる。

「うひゃあ!!」

「す、すまない。そんなに驚くとは・・・」
 女騎士さんだった。いきなり声をかけられたのもあったが、今日取り付けた金属製の義手が夜の冷え込みであまりにも冷たくなっていてびっくりしてしまったのだ。

「その義手、もう使いこなしているんですね。」

「ああ・・・彼の仕事は素晴らしい。魔法のような、と形容したが、本当に魔法だったよ!」
 興奮しながらそう話す女騎士さん。
「ぱいるばんかー?という機能もついているそうだ!」と目を輝かせながら話す。
 生身の腕の頃より喜んでない?あなた。

「それで・・・どうするんだ?」
 真剣な表情に戻り、そう聞いてくる。

「加勢は・・・無理でも。せめて・・・せめて見届けたい。」

「そうか・・・そうだな。明日、フォーチュン様達に相談してみよう。・・・さ!冷えてきたし、もう寝よう。」
 そう言って義手で『ポンッ』と僕の肩を叩く。

「あひゃあ!」
 また、変な声が出てしまった。

「???」
 女騎士さんが怪訝そうに義手を眺め、おもむろに義手で自分の胸元を触る。
「ああん♡」

「ぶっ!」
 あまりにエロティックな声と表情に吹き出してしまう。
 お互い変な空気が流れ、顔をリンゴみたいに赤らめた女騎士さんが、
「おおおおおおおやすみ!」
 と、足早に小屋に帰って行った。

 僕も寝よう。

 ・・・・寝れるかな?これ・・・

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