羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

本編14 僕とぼく その2

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 僕らは放浪者さんに任せ目的の地に向かって走り出した。










 開けた場所に出る。









 いるんじゃないか・・・そんな予感がしていたんだ。







 それはいつかの滝つぼだ。
 女騎士さんは後ろで控え、僕だけ前に出る。








「遅かったじゃないか・・・」

「ぼんぼん・・・」

 ゆっくりとこちらを振り向くぼんぼん。
 僕の記憶にあるぼんぼんはまるでペットで可愛がられてる小型犬のような愛くるしさがある奴だった。しかし今目の前に居るのは、飼い主に捨てられ何年も彷徨ったような、身も心も傷だらけの野犬の様だった。

「迎えにずいぶん時間がかかったな。」

「すまない・・・」

 ぼんぼんが無言で僕との間に袋を投げ、それは『ガシャッ』と音を立てて地面に落ちた。
「何かわかるか?」

「い、いや・・・」

「先輩だよ。お前を守って死んだ・・・な。」
 代表が生かしておくわけがない。それは分かっていた。
 だが、こうして突きつけられるとガツンと鈍器で頭を殴られたような衝撃があった。

「木こりはサド女に買われて嬲り殺されたよ。
 アーセナルさんは先輩を庇いダイアウルフに生きたまま肉を引き裂かれ死んだ。
 先輩の部隊はお前の一件でベルセルクの恨みを買い、戦場で嵌められて全滅したよ。」

 僕は下を向き、目線を合わせられない。

「下向くんじゃねぇ!!!!!!!!!!」
 『ビクッ』となって顔をあげる。僕はきっと今、物凄く情けない顔をしている。
「もう、拠点に居るお前の関係者はぼくくらいだ。他は・・・みんな死んだ!!!」

 何も・・・言えない・・・何を言えばいいんだ・・・

「何だよ・・・その情けない顔。言葉を探しているのか?なあ?言葉を探すくらいなら・・・」















「返してくれよ!!!!!!!!あの日々を!!!!!!!!!!!」





 そう言ってぼんぼんは魔法で氷の剣を作る。

「お前が・・・お前が殺したんだ・・・お前さえ居なければ・・・。
 ・・・抜けよ。」
 その表情はこの世に絶望しきったような顔だった。

「い、いや・・・」
 僕は言い淀み、目が泳ぐ。

 すると問答無用でジェットのようにぼんぼんが飛んできて斬りかかってくる。それを既の所で抜剣し受ける。

「や、やめろ、ぼんぼん。お前と戦いたくない。そんな気はない!」

「お前に無くても!ぼくにはある!!!」
 ぼんぼんの猛攻を後ろに下がりながら何とか捌く。
 ある程度後ろに下がった時だった。

 『ズボッ!』

 足が、取られる。
 『さっ』と見ると地面をぬかるみに変えられていた。

「貰った!!!」
 ぼんぼんの氷の剣が迫る。

(くそ!やるしかない!!!)

「ライブラー!!!!コンサルティングだ!!!」
 時が止まり、世界から色が消える。

『久しぶりね。だいぶ、ピンチじゃない。ま、アンタが死んでも別にいいんだけど。』
 ライブラ神はいつもと違い姿が見えず声だけで、その声も少し素っ気ない声だった。

「調整してくれ・・・」

『ふぅ・・・。あいつを斬り殺せるくらいにすればいいのね。』

「違う・・・殺さないよう。でも勝てるくらいにはしてくれ・・・」

『はぁ?あんた?なにその注文。あの子の命惜しいならアンタが斬られなさいよ!自分の命も、あの子の命も欲しいなんて厚かましいわ!選択には犠牲よ。犠牲を払いなさい!』
 姿が見えない分、声に怒気が含まれているのがよく分かった。

「犠牲なら僕の身体と寿命で頼む・・・」

『・・・・・道理を弁えない出来損ないめ。これが”最後”だ。バカ息子。』
 ライブラ神は心底ガッカリしたような声で僕を突き放す。
 この時の僕には気持ちに余裕が無く、なぜ姿が見えないのか?最後とはどういうことなのか?追及する気力が僕には無かった。

 そして神様は締結の言葉を一方的に始める。

『報酬には』

「対価を」

『選択には』

「犠牲を」

『借りものには』

「返済を」

『共に締結の言葉を』

『「レバレッジ」』

『本当につまらない奴だったよ・・・お前は。』
 神様の最後の声は完全に興味を失った無機質な声だった。

 世界に色が戻る。
 振り降ろされる氷剣を片手剣で受け止め、もう片方の手で腰に差してある剣の鞘を引き抜き、それでぼんぼんの腹を殴り飛ばす。

 吹っ飛び、倒れたぼんぼんに追い打ちをかけに、剣の鞘で殴りにかかるが、
 ぼんぼんは地面についた手で土を掴み、僕の顔面に目掛けて投げ、目つぶしをしてくる。

 僕の一瞬の怯みを見逃さず、斬りにかかるぼんぼんの氷剣を受け止めるが、倒れてしまう。

 ぼんぼんは僕に伸し掛かり、勝利を確信し、
「終わりだーーーー!!!」

 氷剣を突き立てようと振り降ろす。

 僕は自身に降りてくる氷剣の横っ腹目掛けて剣で叩き、

 へし折った。

 あっけに取られるぼんぼん。

 僕は剣を捨て、その顔に拳を叩き込む。
 そこからは能力も糞もない。
 互いにつかみ合い、殴り合う、ガキの喧嘩だった。



 互いに殴り疲れ、顔をパンパンに腫らし、地面に転がった頃。
 僕らを上から覗き込む2つの影。
 一つは女騎士さんでもう一つは浪人風の人だった。

 ぼんぼんが浪人風の男を見て、
「じ、次元斬さん・・・どうしてここに・・・」

「おめぇもまだまだだなぁ。最初からだよ。ぼんが戦場から離脱したときから、ずっとつけていたのに気づかないとはな。」
 そう言って次元斬と呼ばれた侍さんは笑った。

 女騎士さんが、
「先ずは二人とも手当てしよう。この次元斬さんが医療キットを持っていたんだ。」

 二人して女騎士さんから手当てを受ける。
 次元斬さんは何故だか嬉しそうにキセルを吹かしていた。



 その後、ぼんぼんと二人、川辺に並んで座る。
 無言の時間が続いたが、僕の方から沈黙を破った。

「・・・殺す気なんて無かったろ?」
 そう・・・あれだけ激しく襲いかかってきたが、本質的な所で殺意を感じられなかった。
 何故なら、あそこまで属性の魔法を圧縮して武器化出来るなら火を圧縮していれば、僕の剣ごと真っ二つに出来たはずだからだ。
 それに遠距離の魔法も全く使っていなかった。せいぜい移動に風魔法を使っていたくらいだ。

「・・・君に勝ちたかった・・・からだと思う。」

「え・・・?」

「ぼくは、剣士君。君に憧れていたんだと思う。男として・・・。」

「僕なんてそんな・・・」
 そんなたいそうな奴じゃない。

 僕は俯いたが、ぼんぼんは首を振り、
「ぼくにとっては憧れだったんだ。先輩を甲殻竜から守った時も。
 ぼくを守るため、先輩を担いで森に消えた時も。
 ベルセルクから女騎士さんと、そう・・・あれは・・・」

 ぼんぼんが顔をしかめる。
 ぼんぼんもやはり思い出せないのか・・・

「あのベルセルクを切り伏せた時だって・・・まるでピンチに現れるヒーローのようだった。
 ぼくもああなりたかった。
 大切な人を守るために強大な敵に立ち向かえる”勇者”になりたかった・・・
 でも・・・ぼくはなれなかった・・・
 ぼくは・・・ぼくが求める好きな姿になれなかった・・・
 本当はさ・・・分かっていたんだ。
 そんな情けないぼくがみんなを見殺したんだ。
 でも、甘ちゃんなぼくは、それを受け入れられず、周りの、誰かの所為にしたくて・・・
 自分の罪から目を背けたくて・・・勝手に君の所為にしていたんだ・・・」

「ぼんぼん・・・」
 僕の友人は苦悩していた。なりたい自分の理想と、命を守ろうとする自分の理性。相反する二つに挟まれて、すり潰されて、ぐちゃぐちゃに、粉になるまですり減っていた。
 周りに原因を求めたのは、そんな摩耗した自分を守るためだったのかもしれない。

「そして君に勝つことで、情けないぼくが、強大な敵に立ち向かえる君のようになれると、君を超えれると勝手に思っていたんだ。そんなことあるわけないのにな・・・」

 首を動かし、ぼんぼんが後ろを向く。
 その視線の先にはヘッドシューターの・・・姉さんの骨が入った袋。

「先輩はきっと君の事が好きだったんだと思う。だから、君が持っていてくれないか?」

 それを聞き、僕は腰に下げていた姉さんの袋を取り出す。
 そして中身をぼんぼんに渡し、

「そんなことないと思うぞ?ぼんぼん。僕はお前だったと思うんだけどな。」

 それはラッピングされた、男性用のミニハンドタオル。
 そこにはメッセージカードがあり
『プレゼントありがとう。今度また二人で出掛けましょう。次はあなたも楽しむこと!』
 そう書かれてあった。

 ぼんぼんはそれを両手で強く持つ。

 見開いた瞳に見る見るうちに涙が溜まり、

 鼻水を垂らしながら咽び泣いた。

 僕は丸まったその背中を落ち着くまで撫でていた。





 僕、女騎士さんの二人と、ぼんぼん、次元斬さんの二人で向かいあう。

「やっぱり・・・剣士君が持っていてくれないか?」
 そう言って姉さんのお骨を渡してくる。

「いいのか?」

「僕がそうして欲しいんだ。」
 ぼんぼんの瞳を見据える。
 迷いのない瞳で僕を見てる。

「・・・分かった。」
 僕は姉さんのお骨を受け取った。

「じゃあ、ぼんはこれを持っていけ。」
 次元斬さんがそう言って懐から、お菓子の缶をぼんぼんに渡した。

「次元斬さん・・・これは?」
 困惑しているぼんぼんに「開けりゃわかるぜ」と言う次元斬さん。
 ぼんぼんが蓋を開け女騎士さん僕とで3人で覗き込む。
 中身を覗き、みんなの顔が綻んだ。

「先輩らしいや・・・」
 目じりに涙を溜め、穏やかな顔でそう言うぼんぼん。

「本当ですね・・・これはヘッドシューターのお姉さまそのものだ・・・」
 女騎士さんも穏やかに微笑み、目が潤んでいる。

 その中身は隊員や慕ってくれた子からのプレゼントだったんだろう。
 安物のネックレスや指輪、イヤリング、ヘアピンなどの様々な小物が大切そうに入っていて、
 一番上にぼんぼんがプレゼントした木彫りのペンダントとデートの時の2ショット写真とみんなとの集合写真が入っていた。

「良かったな・・・ぼんぼん。」
 そう声をかけると、

「ありがとう。剣士君。」
 そう・・・お礼を言われた。


 ぼんぼんは大切に姉さんの形見の缶をしまうと、
「じゃあね・・・剣士君。さよならだ。」

そう言って次元斬さんと去っていこうとする。

「・・・・・・待てよ!ぼんぼん。僕たちと一緒に暮らさないか?」
 僕は迷ってからぼんぼんを引き留める。

 しかし、ぼんぼんはゆっくり首を横に振り、
「ぼくは本当に情けないんだ・・・。君の近くに居ると君が眩しすぎて、比べてしまって、自分が嫌になる。だから君とは行けないよ。・・・ここでお別れだ。」

 ぼんぼんの意思は固かった。
 ならばせめて彼の憧れた人らしく振舞おう。彼の理想を崩さないように・・・情けない泣き顔を見せないように・・・

「わかった・・・。じゃあな!ぼんぼん!僕の親友!」

「さよなら!女騎士さん!・・・それと、ぼくのヒーロー!」

 お互い手を振り別れる。
 きっと彼とはもう二度と会えないだろう。
 そんな確信があった。
 僕は友人の姿を目に焼き付ける。
 忘れないように・・・焼き付ける。
 その姿が見えなくなるその時まで、その後ろ姿を見据え続けた。
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