羊頭狗肉のベルゼブブ

双新星編

サブストーリー９ 女神の丸焼き イチゴソースを添えて

　彼との出会いは偶然だった。

　私の間違いから彼に迷惑をかけた。

　彼はとても繊細だった。

　でも、心はとても優しく、

　いつも一生懸命だった。

　そんな、彼が泣いている。

　彼は笑うと凄く可愛いの。

　彼に笑って欲しくて、私は笑いかける。

　でも、それが余計に彼を悲しませた。

　それもそうか・・・

　私は今更ながらとても申し訳なく思った。

　彼は私のことが好きだった。

　私も彼が好きだった。でも・・・

　私の好きと彼の好きは同一では無かった・・・と思う。

　だから・・・彼の気持ちに答えてあげられなかった。

　いや・・・本当のところは自分の気持ちが分からなかったのだ。

　そんな中途半端さが、

　彼を侮辱し、傷つけた。

　中途半端な気持ちのまま、彼に答えてしまった。

　彼に心は渡さず、身体だけ渡した。

　彼を馬鹿にする行為だ。

　結果、彼を傷つけた。

　彼に謝ることも、もうできない。

　せめて笑って欲しかったのだけれど、

　こんな私じゃ無理よね。

　『ぱちぱち』と火が私を包む。

　私は昔、小さい頃におかあさんが呼んでくれた絵本を思い出していた。

　うさぎさんと、おさるさんと、カワウソさんと、犬さんが、

　神様に善いことをしようとする話だ。

　おさるさんと、カワウソさんと、犬さんは、神様へのお供え物を用意出来たけど、

　うさぎさんは貧しくて何も用意できなかった。

　だから、神様に火を起こしてもらい、自分の身を捧げて食べてもらおうと、そこに飛び込むの。

　でも、その火は全く熱くなく、うさぎさんは火傷一つ負わなかった。

　神様はうさぎさんの行動を讃えて、お月様にうさぎさんの絵を描いてあげた。

　そんなお話。

　今、私を包む火は熱いのだろうか？冷たいのだろうか？

　もう私は感じることができないのだけれども、

　うさぎさんの飛び込んだ火と違って、きっと熱いのだろう。

　彼を見る・・・泣いている・・・ずっと・・・ずっと・・・泣いている。

　（ああ・・・ごめんなさい・・・泣かないで・・・）

　彼の涙を止めたくて私は精一杯微笑みかける。
　
　微笑み続ける・・・



　ぱちぱちと燃えていく。

　私の苦しみが。

　ぱちぱちと燃えていく。

　私の想いが。

　ぱちぱちと燃えていく。

　後悔の気持ちと共に・・・。



　意識が離れるその時まで、

　ずっと・・・ずっと・・・想っていた。