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幕間蛇足編
蛇足編その4
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「で?話ならそこのガキ共を下がらせい。」
フォーチュンさんが本に視線を落とし、誰とも目を合わせず、すこぶる機嫌の悪い声色で短く威圧するように言う。僕と女騎士さんがフォーチュンさんの小屋に来てから彼女はずっとそんな調子だ。
「過保護が過ぎるぞ?フォーチュン。こいつらももう狭間世界にきて数十年経つ。ガキじゃない。話を聞かせてやれ。」
トータルワークスさんの言い分に不機嫌さを微塵も隠すことなくフォーチュンさんが言い返す。
「わ・し・は・!ガキども下がらせろ!と言うとるんじゃ!話はそれからじゃ!」
「そんなに甘やかしていたら、お前が居なくなった後、どのみちこいつ等死ぬぞ?」
「ちょっと待ってください!フォーチュンさんまで居なくなるんですか!?」
トータルワークスさんの衝撃の事実につい口が出る。
「おい、トータル。」
「おっと!すまない。口が滑った。」
冷たい声で怖いくらいトータルワークスさんを睨みつけるフォーチュンさん。トータルワークスさんはそれを気にもせず飄々とわざとらしくおどけてみせる。
壁に身体を預けて静かに耳を傾けていた女騎士さんが口を開いた。
「フォーチュン様、私達はあなたのことを親同然だと思っています。その方が居なくなるかもしれないというのに、話にすら加わらせていただけないのは納得しかねます。」
女騎士さんの真っすぐな瞳と言葉にフォーチュンさんは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「いいか?絶対駄目じゃからな!絶対じゃぞ!」
フォーチュンさんは僕らに向かって口酸っぱくそう言った後、トータルワークスさんに「進めていいぞ」と短く告げ、トータルワークスさんは『やれやれ』といった表情で話始めた。
「知っていると思うが、狭間世界からの脱出方法が見つかった。」
「ちょちょちょちょちょっと待ってください!?知りませんよ!?そんな重要情報!」
「だから過保護だって言ってるんだ。結構噂になってきている。拠点でドンパチしてるやつらは知らんだろうがな。」
噂だって?つまりこの間の次元斬さんの話って・・・
「この間、次元斬さんが来た話もそうだったんでしょ!?次元斬さん達が旅立ったのもそういうことでしょう!?」
「信憑性の無い話じゃて。眉唾じゃ、眉唾。」
僕はフォーチュンさんに詰めると彼女はそう言いながら口笛拭くような仕草で明後日の方向を見た。
「はぁ・・・ガキがガキ育ててんのか・・・」
「おい。誰がガキじゃと?表出るか?」
「話の腰を折るな、続けるぞ。信憑性に関しては俺も最初は眉唾だと思っていたさ。だがこれが届いた。」
トータルワークスさんが懐から取り出したのは分厚い手紙束。
「アーカイブからの手紙だ。手紙の最初には黄金都市に塔が出現したこと、その塔の中に脱出の鍵があることが記されている。ここまでは巷の噂通りだ。また、禿げに確認してもらったが実際に黄金都市の中央に塔が出来ていたそうだ。」
話に参加せず、静かにお茶を飲んでいた放浪者さんに視線を送ると、その視線に気付いたのか、どや顔しながらブイサインをする。『なんで得意げなんだこの人?』全員の視線がそう言っていた。
「こほんっ・・・でだ。ここからが重要だ。この間、禿げに塔を確認しに行って貰った時に受け取った新しい手紙がこれだ。」
トータルワークスさんが指したのは少し膨らみのある手紙。
「ここには塔内部の出来事が記されてある。救援を求める声も・・・そして何よりこれを見てくれ。」
そう言って取り出したのは魔力結晶らしきもの。しかし・・・
「と、トータルワークスさん、これはなんです?魔力結晶のようにも見えますが・・・。」
この狭間世界で動力や燃料の代わりを務めている魔力結晶の色は青白い色。しかし目の前にあるものは淡い緑色だ。
「魔力結晶であっているぞ。ただし、従来の魔力結晶のおよそ10倍もの力を秘めている。こんなものは今まで見たことがない。これが塔内部で発見されたものだというのだ。塔の内部は未知で溢れている。脱出の可能性も0じゃない・・・」
「無理かもしれんぞ?」
興奮気味に話すトータルワークスさんの言葉に被せるようにフォーチュンさんが否定する。その様子にカチンときたのかトータルワークスさんもぶっきらぼうに言い放つ。
「ここで研究してても何にもならんさ。」
「なんじゃと?」
互いに睨みつけ、二人の間の空気が一気に険悪になっていく。
「お、お二方、落ち着いてください。放浪者さんも止めてください!」
女騎士さんが二人の間に割って入り、脇でのんきに茶をすすっている放浪者さんに助けを求めるが、当の本人は、
「あ~、やらせておけばいいですよ~、たまには。」
だめだ、全く役に立つ様子が無い。この人は本当に変わらない。
「アーカイブが見つけたことが気に入らないのか?”無能”に先を越されたのがそんなに嫌か?フォーチュン。」
「そんなこと言っておらんじゃろ!」
「じゃあ良いじゃないか!あっちなら新たな研究材料も見つかるかもしれない!救援だって求められている!ここに留まる理由ってなんだよ!?」
「そ、それは・・・」
一瞬ちらりと視線を送ってくるフォーチュンさん。
「おい、ちょっと待てよ。まさか帰還よりこいつ等の方が大事だっていうのか?」
「・・・」
言われてフォーチュンさんがバツが悪そうに俯く。
「おいおい・・・まじかよ・・・。ラバーズが死んで変わったのはそこの禿げだけじゃなかったってことか。」
”ラバーズ”という言葉を出した瞬間空気が変わった。フォーチュンさんはビクッと肩を震わせ、小刻みに震えだした。あの放浪者さんもさっきまでの呑気な雰囲気はなりを潜め、静まり返っている。辺りに長い沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのはトータルワークスさんだった。
「・・・女騎士。義手の調子を見るからついてきてくれ。」
トータルワークスさんが一瞥をくれて出てゆく。女騎士さんも後ろ髪を引かれるように、不安げにその後に続いた。ドアを閉める時、女騎士さんは黙って俯くフォーチュンさんに心配そうな目を送っていた。
「フォ・・・」
そんな彼女に僕は声を掛けようとしたが、俯く彼女の表情を見た瞬間、言葉が飛んでしまい、静かに小屋を後にすることしかできなかった。
(なんだよ・・・あれ・・・まるで十代の少女の泣き顔じゃないか・・・)
フォーチュンさんが本に視線を落とし、誰とも目を合わせず、すこぶる機嫌の悪い声色で短く威圧するように言う。僕と女騎士さんがフォーチュンさんの小屋に来てから彼女はずっとそんな調子だ。
「過保護が過ぎるぞ?フォーチュン。こいつらももう狭間世界にきて数十年経つ。ガキじゃない。話を聞かせてやれ。」
トータルワークスさんの言い分に不機嫌さを微塵も隠すことなくフォーチュンさんが言い返す。
「わ・し・は・!ガキども下がらせろ!と言うとるんじゃ!話はそれからじゃ!」
「そんなに甘やかしていたら、お前が居なくなった後、どのみちこいつ等死ぬぞ?」
「ちょっと待ってください!フォーチュンさんまで居なくなるんですか!?」
トータルワークスさんの衝撃の事実につい口が出る。
「おい、トータル。」
「おっと!すまない。口が滑った。」
冷たい声で怖いくらいトータルワークスさんを睨みつけるフォーチュンさん。トータルワークスさんはそれを気にもせず飄々とわざとらしくおどけてみせる。
壁に身体を預けて静かに耳を傾けていた女騎士さんが口を開いた。
「フォーチュン様、私達はあなたのことを親同然だと思っています。その方が居なくなるかもしれないというのに、話にすら加わらせていただけないのは納得しかねます。」
女騎士さんの真っすぐな瞳と言葉にフォーチュンさんは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「いいか?絶対駄目じゃからな!絶対じゃぞ!」
フォーチュンさんは僕らに向かって口酸っぱくそう言った後、トータルワークスさんに「進めていいぞ」と短く告げ、トータルワークスさんは『やれやれ』といった表情で話始めた。
「知っていると思うが、狭間世界からの脱出方法が見つかった。」
「ちょちょちょちょちょっと待ってください!?知りませんよ!?そんな重要情報!」
「だから過保護だって言ってるんだ。結構噂になってきている。拠点でドンパチしてるやつらは知らんだろうがな。」
噂だって?つまりこの間の次元斬さんの話って・・・
「この間、次元斬さんが来た話もそうだったんでしょ!?次元斬さん達が旅立ったのもそういうことでしょう!?」
「信憑性の無い話じゃて。眉唾じゃ、眉唾。」
僕はフォーチュンさんに詰めると彼女はそう言いながら口笛拭くような仕草で明後日の方向を見た。
「はぁ・・・ガキがガキ育ててんのか・・・」
「おい。誰がガキじゃと?表出るか?」
「話の腰を折るな、続けるぞ。信憑性に関しては俺も最初は眉唾だと思っていたさ。だがこれが届いた。」
トータルワークスさんが懐から取り出したのは分厚い手紙束。
「アーカイブからの手紙だ。手紙の最初には黄金都市に塔が出現したこと、その塔の中に脱出の鍵があることが記されている。ここまでは巷の噂通りだ。また、禿げに確認してもらったが実際に黄金都市の中央に塔が出来ていたそうだ。」
話に参加せず、静かにお茶を飲んでいた放浪者さんに視線を送ると、その視線に気付いたのか、どや顔しながらブイサインをする。『なんで得意げなんだこの人?』全員の視線がそう言っていた。
「こほんっ・・・でだ。ここからが重要だ。この間、禿げに塔を確認しに行って貰った時に受け取った新しい手紙がこれだ。」
トータルワークスさんが指したのは少し膨らみのある手紙。
「ここには塔内部の出来事が記されてある。救援を求める声も・・・そして何よりこれを見てくれ。」
そう言って取り出したのは魔力結晶らしきもの。しかし・・・
「と、トータルワークスさん、これはなんです?魔力結晶のようにも見えますが・・・。」
この狭間世界で動力や燃料の代わりを務めている魔力結晶の色は青白い色。しかし目の前にあるものは淡い緑色だ。
「魔力結晶であっているぞ。ただし、従来の魔力結晶のおよそ10倍もの力を秘めている。こんなものは今まで見たことがない。これが塔内部で発見されたものだというのだ。塔の内部は未知で溢れている。脱出の可能性も0じゃない・・・」
「無理かもしれんぞ?」
興奮気味に話すトータルワークスさんの言葉に被せるようにフォーチュンさんが否定する。その様子にカチンときたのかトータルワークスさんもぶっきらぼうに言い放つ。
「ここで研究してても何にもならんさ。」
「なんじゃと?」
互いに睨みつけ、二人の間の空気が一気に険悪になっていく。
「お、お二方、落ち着いてください。放浪者さんも止めてください!」
女騎士さんが二人の間に割って入り、脇でのんきに茶をすすっている放浪者さんに助けを求めるが、当の本人は、
「あ~、やらせておけばいいですよ~、たまには。」
だめだ、全く役に立つ様子が無い。この人は本当に変わらない。
「アーカイブが見つけたことが気に入らないのか?”無能”に先を越されたのがそんなに嫌か?フォーチュン。」
「そんなこと言っておらんじゃろ!」
「じゃあ良いじゃないか!あっちなら新たな研究材料も見つかるかもしれない!救援だって求められている!ここに留まる理由ってなんだよ!?」
「そ、それは・・・」
一瞬ちらりと視線を送ってくるフォーチュンさん。
「おい、ちょっと待てよ。まさか帰還よりこいつ等の方が大事だっていうのか?」
「・・・」
言われてフォーチュンさんがバツが悪そうに俯く。
「おいおい・・・まじかよ・・・。ラバーズが死んで変わったのはそこの禿げだけじゃなかったってことか。」
”ラバーズ”という言葉を出した瞬間空気が変わった。フォーチュンさんはビクッと肩を震わせ、小刻みに震えだした。あの放浪者さんもさっきまでの呑気な雰囲気はなりを潜め、静まり返っている。辺りに長い沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのはトータルワークスさんだった。
「・・・女騎士。義手の調子を見るからついてきてくれ。」
トータルワークスさんが一瞥をくれて出てゆく。女騎士さんも後ろ髪を引かれるように、不安げにその後に続いた。ドアを閉める時、女騎士さんは黙って俯くフォーチュンさんに心配そうな目を送っていた。
「フォ・・・」
そんな彼女に僕は声を掛けようとしたが、俯く彼女の表情を見た瞬間、言葉が飛んでしまい、静かに小屋を後にすることしかできなかった。
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