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幕間蛇足編
蛇足編その6
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その夜、僕らはフォーチュンさんを尋ねた。かび臭く埃っぽい部屋。三日月の淡い月明かりが窓から差し込む。その光が机に突っ伏しているフォーチュンさんを映し出す。いつもの騒がしさはなりを潜め、魔女っぽい帽子とマントにきのこが生えるのではないかと言う様子だった。
「なんじゃ、お前ら・・・良い子はもう寝る時間じゃぞ。」
力無く顔を上げ、冗談を飛ばすが、月明かりで照らされた力なく笑うその笑顔は酷かった。
「教えてください、フォーチュンさん。過去の事、ラバーズさんの事を。」
ラバーズさんの名を出すと無表情になり
「寝ろ。」
ただ短く、そう突っぱねるだけだった。
「フォーチュンさん!!!」
取り付く島もない。
隣に居た女騎士さんが前に出てフォーチュンさんに語りかける。
「フォーチュン様。あなたの望みはここからの帰還のはずです。それは強い望みだったはずだ。彼と初めて会った時、彼の力を使おうとしたそうですね・・・。それほど渇望していたのに・・・なのに何故行かないんです?ここよりも遥かに望みが高いはずです。何故躊躇しているんです!」
「別に躊躇など・・・」
女騎士さんに詰められてフォーチュンさんが目を泳がせる。
「だったら何故そんなに塔に対して消極的なのですか!?私達の事はいいですから行ってください。」
「それは・・・!!」
フォーチュンさんは何か言い返そうとして消沈してしまう。
「そんな臆病なあなたを見るのは初めてだ。教えてください。昔に何があったのかを・・・。大切な仲間だったんですよね?」
「トータルの奴・・・余計なことを・・・」
静けさが訪れる。誰も何も喋らない。夜の虫の鳴き声と風で揺れる木々の音がいやに大きく聞こえた。
「わし等は・・・この世界に最初に降り立った七人じゃった・・・。」
フォーチュンさんが昔を懐かしむような顔で話始める。
「今と同じじゃ。どっちに帰るんだ?どちらか一方に帰してやる、と。わし等の意見は割れた。現実世界を望むものと夢の世界を望むものと・・・。ラバーズはな・・・妹の様な存在じゃった。美しい容姿に体躯。しかし、言葉を交わせば愛らしい子じゃった。異世界でもあいつは『お姉ちゃん、お姉ちゃん!』と慕ってくれた。わしは異世界を旅しながら彼女に様々な事を教えた。素直な子で何でもよく聞いてくれたよ。だからこそ彼女とわしの意見が割れた時、わしは引かなんだ。いつもみたいに最後はわしの言うことを素直に聞き入れて味方をしてくれると思っておった。・・・傲慢じゃった。そんな日は来なかったというのに・・・。」
静かに語るフォーチュンさんはいつしか俯き、悲痛な面持ちとなっていた。
「次々と異世界からこの狭間世界に能力者が送り込まれた。瞬く間に人数は膨れ上がり僅か数年で異能者の集団が出来上がり、お互いに対立し、収拾の付かない事態へとなっていった。わしは焦った・・・このままじゃいつまでたっても帰れない。あの子を帰せない。」
言葉を区切ったフォーチュンさんは顔をあげ、椅子から立ち上がり、僕らを見つめて、
「なあ、お前たち。最初に殺した奴の事を覚えておるか?殺したときのことを思い出せるか?わしはな。なんも覚えとらん。見もしなかった。作業のように殺した。殺し続けた。帰るため。帰すために・・・!」
目を見開いて興奮気味にそう言った後、急速に気分が沈み込んだのか、ゆっくりと椅子に深々と腰かけ静かに話を続ける。
「ある時期から急に敵の攻勢が激しくなったんじゃ。皆、捨て身で襲いかかってくる様な激しさだった。非常に厄介じゃった。命を顧みない突撃があんなに強力だとは・・・わしの部隊の連中も負傷者や鬼気迫る突撃に恐怖して戦えないものが続出した。まずい状態じゃったが、反面手ごわかった玉無しの攻勢は鈍りおった。あやつの戦いに迷いがあった。ある時わしは玉無しに問いかけた。ここ最近の違和感を・・・。あいつは泣きそうな顔をして、何か言おうとして・・・でも結局何も言わずその場を去っていった。思えば人間らしいあいつを見た最後の瞬間じゃった。以来、戦場で玉無しと会うことは無くなった。」
あの人はその時に放浪者となったのだろう。いったい何があったのか・・・
「しばらくするとまた異変が起きた。敵側の、あの鬼気迫る捨て身の突撃が無くなったのじゃ。こちら側も被害が大きかったから内心ほっとした。戦闘は小康状態となり、しばらくは立て直しを優先していた、そんな時じゃった。トータルの奴がわしを呼びにきたのは・・・トータルの案内で相手陣営の拠点に入れてもらった。そこで久しぶりにわしはラバーズと再会できたんじゃ・・・」
フォーチュンさんがキセルを取り出し火を付けふかし始める。深く吸い込み、白い煙を吐き出すと窓から遠くを見つめて話を再開しだした。
「ラバーズは花を敷き詰めた棺に冷たくなって横たわっていた。綺麗に化粧を施してもらっていたが、あの誰もが息を吞むほどの美しい顔は痩せこけ、腕や足は折れそうなほど痩せこけておった。わしは叫んだ。あいつを・・・玉無しを!
トータルに『とっくの昔に出ていったよ』と聞いたとき探して出して殺してやる!と思ったよ。でもトータルに言われたんじゃ。『そんなお前は何していたんだ?』って、そう言われたとき、何も言えなんだ・・・。わしは彼女と対立して何もしていなかったのじゃから・・・
わしは、そのままトボトボと敵拠点を後にして、狭間世界を彷徨い続けた。生きる気力が全部無くなったようじゃったよ・・・。いよいよ力尽きて倒れ、そのまま死ぬと思っておったんじゃが・・・玉無しに拾われての。以来ここで生活しておる。死ぬほど悲しかったのに・・・無気力じゃったのに・・・時間は残酷じゃな・・・」
目じりに涙を溜めて、遠くを見る彼女は何を思っているのだろう。
その表情は色褪せた悲しみや後悔、様々な感情や思いが入り混じっているように思えた。
「フォーチュン様・・・私達は大丈夫ですから行ってください。私達はあなたの足枷にはなりたくありません。」
「駄目じゃ!わしはもうお主らと深く関わり合いすぎた!放ってなどおけん!」
「私達も鍛えてきましたし、ここにはフォーチュン様の張った認識阻害の結界もあります。大丈夫ですから・・・それに向こうに行ったらラバーズさんと会える可能性もあるんじゃないですか!?会って話すことがあるんじゃないですか!?行ってください!!会ってきてください!」
「そ、それは・・・いや・・・駄目じゃ。ラバーズはもう過去じゃ・・・過ぎ去ったんじゃ。お前達は”今”を生きてるじゃろ!?放っては行けない・・・もう二度とあんな想いは嫌なのじゃ・・・」
女騎士さんとフォーチュン様が互いの想いをぶつけ合うが、平行線だ。これじゃ言っても聞かなそうだ。それなら・・・
「わかりました。フォーチュンさん。なら・・・」
僕は二人の言い争いに口を挟む。
「僕らがトータルさんに付いて行きます!」
ニヤリと笑いながら言い放つ。一瞬その場が固まり、『はぁ!?』という顔をしたかと思うとフォーチュンさんは顔を赤くしてワナワナ震えだし、
「駄目に決まっておろう!!!!」
瞬間沸騰、烈火のごとく怒り出した。
「え~、でも~、僕はフォーチュンさんじゃないし~、フォーチュンさんは僕でもないですから、自分が”こう”だと決めたら止めようがないですよね~。」
極力たっぷりと挑発するように相手を舐めちらかした態度で言う。
「この・・・!クソガキが~~~!!表出い!!しばらく動けないようボコボコにしてやるわい!!!」
「やだ~、こわ~い。すぐ暴力に訴えるって大人としてどうなの~?」
言いながら、フォーチュンさんを頭の先から足の先まで舐めまわすように見る。
「えー・・・あー・・・んー・・・大人・・・大人・・・おとな???」
可愛らしく?首を傾げながら、上から見下ろすように幼児体型のフォーチュンさんの頭に乗っかってる魔女帽に手をやると、”ブチン!”と何かが切れる音がして、後方に吹っ飛ばされ、壁をぶち破りながら外へ放り出される。
何とか立ち上がり体勢を整える。木の影に素早く身を隠して距離を取る。
(ぐ・・・滅茶苦茶いてぇ・・・でも、身体は動くな・・・)
「無能力者相手に不意打ちとか恥ずかしくないんですか~?これで負けるようなことあったら赤っ恥じゃ済みませんよ?」
「潰す!!!!」
「フォーチュン様お止めください!剣士君も失礼な態度を取るんじゃない!」
「い~や!やめないね。こんな分からず屋はいっぺん伸してやったらいいのさ。」
「小僧ごときが!舐めおって!このフォーチュンに勝てる気でおるのか!半年はベッドで生活するんじゃな!」
僕は話しながらも、位置を特定されないために姿勢を低くして木々の間を駆け回る。そんな僕に対しフォーチュンさんは水の魔法を夜闇で視界の無い中、声のする方に的確に打ち込んでくる。
高圧水が木に当たると”メリメリメリ”と音を立ててへし折れた。
(おいおい・・・あれ当たったら半年で済まないんじゃないかな?)
「女騎士さん!あなたはどうするんです!?」
僕は戦いながら女騎士さんに突きつける。
「な、何を・・・」
「保護者の言うこと聞いて庇護されながら暮らします?その保護者の自由を奪って。」
「わ、私はそんなつもりは無い!」
「だったら!!!・・・だったら、力を示すべきだ!自分たちは大丈夫だと!力を示して安心させるべきだ!!今がその時さ!!!」
木陰から飛び出し、訓練用の木剣を抜刀し、フォーチュンさん目掛けて突撃する。
「口だけは立派じゃな!小僧!甘いわ!!!」
スピードの乗った刺突を簡単に躱され、視界の端にカウンターの魔法の魔法陣が見える。
(まずい!!!)
無理矢理身体を捻って回避しようとしたが、どてっぱらに水魔法を食らって吹き飛ばされ、泥まみれになりながら地面を転がって倒れる。
「カハ・・・。・・・げほ・・・げほ・・・」
吸い込んでいた息が押し出され、上手く呼吸が出来ず空気を求めてむせる。霞む視界でフォーチュンさんを見ると勝利を確信してか無防備にゆっくりと歩いてこちらに寄ってきていた。
(へ・・・へへ・・・そこなんだよな・・・)
「終わりじゃ・・・小僧。」
「どう・・・か・・・な?」
月明かりを遮るように影が落ちる。
いつもは見下ろしている顔が高い位置にある。
逆光で見難いが、いつもの気怠さそうな、それでいて優しい顔はなりを潜め、硬く冷たい表情が暗がりから覗いた。
そんな普段と違う顔を僕はいつもの調子で下から見返す。生意気な顔で笑って見返してやる。
『ふぅ・・・』と小さいため息が聞こえ、止めのため手をこちらにかざした瞬間、新たな影が落ちた。
「遅い・・・よ、全・・・く。本当にベッド行きを覚悟したじゃん・・・か。」
「なんじゃ、お前ら・・・良い子はもう寝る時間じゃぞ。」
力無く顔を上げ、冗談を飛ばすが、月明かりで照らされた力なく笑うその笑顔は酷かった。
「教えてください、フォーチュンさん。過去の事、ラバーズさんの事を。」
ラバーズさんの名を出すと無表情になり
「寝ろ。」
ただ短く、そう突っぱねるだけだった。
「フォーチュンさん!!!」
取り付く島もない。
隣に居た女騎士さんが前に出てフォーチュンさんに語りかける。
「フォーチュン様。あなたの望みはここからの帰還のはずです。それは強い望みだったはずだ。彼と初めて会った時、彼の力を使おうとしたそうですね・・・。それほど渇望していたのに・・・なのに何故行かないんです?ここよりも遥かに望みが高いはずです。何故躊躇しているんです!」
「別に躊躇など・・・」
女騎士さんに詰められてフォーチュンさんが目を泳がせる。
「だったら何故そんなに塔に対して消極的なのですか!?私達の事はいいですから行ってください。」
「それは・・・!!」
フォーチュンさんは何か言い返そうとして消沈してしまう。
「そんな臆病なあなたを見るのは初めてだ。教えてください。昔に何があったのかを・・・。大切な仲間だったんですよね?」
「トータルの奴・・・余計なことを・・・」
静けさが訪れる。誰も何も喋らない。夜の虫の鳴き声と風で揺れる木々の音がいやに大きく聞こえた。
「わし等は・・・この世界に最初に降り立った七人じゃった・・・。」
フォーチュンさんが昔を懐かしむような顔で話始める。
「今と同じじゃ。どっちに帰るんだ?どちらか一方に帰してやる、と。わし等の意見は割れた。現実世界を望むものと夢の世界を望むものと・・・。ラバーズはな・・・妹の様な存在じゃった。美しい容姿に体躯。しかし、言葉を交わせば愛らしい子じゃった。異世界でもあいつは『お姉ちゃん、お姉ちゃん!』と慕ってくれた。わしは異世界を旅しながら彼女に様々な事を教えた。素直な子で何でもよく聞いてくれたよ。だからこそ彼女とわしの意見が割れた時、わしは引かなんだ。いつもみたいに最後はわしの言うことを素直に聞き入れて味方をしてくれると思っておった。・・・傲慢じゃった。そんな日は来なかったというのに・・・。」
静かに語るフォーチュンさんはいつしか俯き、悲痛な面持ちとなっていた。
「次々と異世界からこの狭間世界に能力者が送り込まれた。瞬く間に人数は膨れ上がり僅か数年で異能者の集団が出来上がり、お互いに対立し、収拾の付かない事態へとなっていった。わしは焦った・・・このままじゃいつまでたっても帰れない。あの子を帰せない。」
言葉を区切ったフォーチュンさんは顔をあげ、椅子から立ち上がり、僕らを見つめて、
「なあ、お前たち。最初に殺した奴の事を覚えておるか?殺したときのことを思い出せるか?わしはな。なんも覚えとらん。見もしなかった。作業のように殺した。殺し続けた。帰るため。帰すために・・・!」
目を見開いて興奮気味にそう言った後、急速に気分が沈み込んだのか、ゆっくりと椅子に深々と腰かけ静かに話を続ける。
「ある時期から急に敵の攻勢が激しくなったんじゃ。皆、捨て身で襲いかかってくる様な激しさだった。非常に厄介じゃった。命を顧みない突撃があんなに強力だとは・・・わしの部隊の連中も負傷者や鬼気迫る突撃に恐怖して戦えないものが続出した。まずい状態じゃったが、反面手ごわかった玉無しの攻勢は鈍りおった。あやつの戦いに迷いがあった。ある時わしは玉無しに問いかけた。ここ最近の違和感を・・・。あいつは泣きそうな顔をして、何か言おうとして・・・でも結局何も言わずその場を去っていった。思えば人間らしいあいつを見た最後の瞬間じゃった。以来、戦場で玉無しと会うことは無くなった。」
あの人はその時に放浪者となったのだろう。いったい何があったのか・・・
「しばらくするとまた異変が起きた。敵側の、あの鬼気迫る捨て身の突撃が無くなったのじゃ。こちら側も被害が大きかったから内心ほっとした。戦闘は小康状態となり、しばらくは立て直しを優先していた、そんな時じゃった。トータルの奴がわしを呼びにきたのは・・・トータルの案内で相手陣営の拠点に入れてもらった。そこで久しぶりにわしはラバーズと再会できたんじゃ・・・」
フォーチュンさんがキセルを取り出し火を付けふかし始める。深く吸い込み、白い煙を吐き出すと窓から遠くを見つめて話を再開しだした。
「ラバーズは花を敷き詰めた棺に冷たくなって横たわっていた。綺麗に化粧を施してもらっていたが、あの誰もが息を吞むほどの美しい顔は痩せこけ、腕や足は折れそうなほど痩せこけておった。わしは叫んだ。あいつを・・・玉無しを!
トータルに『とっくの昔に出ていったよ』と聞いたとき探して出して殺してやる!と思ったよ。でもトータルに言われたんじゃ。『そんなお前は何していたんだ?』って、そう言われたとき、何も言えなんだ・・・。わしは彼女と対立して何もしていなかったのじゃから・・・
わしは、そのままトボトボと敵拠点を後にして、狭間世界を彷徨い続けた。生きる気力が全部無くなったようじゃったよ・・・。いよいよ力尽きて倒れ、そのまま死ぬと思っておったんじゃが・・・玉無しに拾われての。以来ここで生活しておる。死ぬほど悲しかったのに・・・無気力じゃったのに・・・時間は残酷じゃな・・・」
目じりに涙を溜めて、遠くを見る彼女は何を思っているのだろう。
その表情は色褪せた悲しみや後悔、様々な感情や思いが入り混じっているように思えた。
「フォーチュン様・・・私達は大丈夫ですから行ってください。私達はあなたの足枷にはなりたくありません。」
「駄目じゃ!わしはもうお主らと深く関わり合いすぎた!放ってなどおけん!」
「私達も鍛えてきましたし、ここにはフォーチュン様の張った認識阻害の結界もあります。大丈夫ですから・・・それに向こうに行ったらラバーズさんと会える可能性もあるんじゃないですか!?会って話すことがあるんじゃないですか!?行ってください!!会ってきてください!」
「そ、それは・・・いや・・・駄目じゃ。ラバーズはもう過去じゃ・・・過ぎ去ったんじゃ。お前達は”今”を生きてるじゃろ!?放っては行けない・・・もう二度とあんな想いは嫌なのじゃ・・・」
女騎士さんとフォーチュン様が互いの想いをぶつけ合うが、平行線だ。これじゃ言っても聞かなそうだ。それなら・・・
「わかりました。フォーチュンさん。なら・・・」
僕は二人の言い争いに口を挟む。
「僕らがトータルさんに付いて行きます!」
ニヤリと笑いながら言い放つ。一瞬その場が固まり、『はぁ!?』という顔をしたかと思うとフォーチュンさんは顔を赤くしてワナワナ震えだし、
「駄目に決まっておろう!!!!」
瞬間沸騰、烈火のごとく怒り出した。
「え~、でも~、僕はフォーチュンさんじゃないし~、フォーチュンさんは僕でもないですから、自分が”こう”だと決めたら止めようがないですよね~。」
極力たっぷりと挑発するように相手を舐めちらかした態度で言う。
「この・・・!クソガキが~~~!!表出い!!しばらく動けないようボコボコにしてやるわい!!!」
「やだ~、こわ~い。すぐ暴力に訴えるって大人としてどうなの~?」
言いながら、フォーチュンさんを頭の先から足の先まで舐めまわすように見る。
「えー・・・あー・・・んー・・・大人・・・大人・・・おとな???」
可愛らしく?首を傾げながら、上から見下ろすように幼児体型のフォーチュンさんの頭に乗っかってる魔女帽に手をやると、”ブチン!”と何かが切れる音がして、後方に吹っ飛ばされ、壁をぶち破りながら外へ放り出される。
何とか立ち上がり体勢を整える。木の影に素早く身を隠して距離を取る。
(ぐ・・・滅茶苦茶いてぇ・・・でも、身体は動くな・・・)
「無能力者相手に不意打ちとか恥ずかしくないんですか~?これで負けるようなことあったら赤っ恥じゃ済みませんよ?」
「潰す!!!!」
「フォーチュン様お止めください!剣士君も失礼な態度を取るんじゃない!」
「い~や!やめないね。こんな分からず屋はいっぺん伸してやったらいいのさ。」
「小僧ごときが!舐めおって!このフォーチュンに勝てる気でおるのか!半年はベッドで生活するんじゃな!」
僕は話しながらも、位置を特定されないために姿勢を低くして木々の間を駆け回る。そんな僕に対しフォーチュンさんは水の魔法を夜闇で視界の無い中、声のする方に的確に打ち込んでくる。
高圧水が木に当たると”メリメリメリ”と音を立ててへし折れた。
(おいおい・・・あれ当たったら半年で済まないんじゃないかな?)
「女騎士さん!あなたはどうするんです!?」
僕は戦いながら女騎士さんに突きつける。
「な、何を・・・」
「保護者の言うこと聞いて庇護されながら暮らします?その保護者の自由を奪って。」
「わ、私はそんなつもりは無い!」
「だったら!!!・・・だったら、力を示すべきだ!自分たちは大丈夫だと!力を示して安心させるべきだ!!今がその時さ!!!」
木陰から飛び出し、訓練用の木剣を抜刀し、フォーチュンさん目掛けて突撃する。
「口だけは立派じゃな!小僧!甘いわ!!!」
スピードの乗った刺突を簡単に躱され、視界の端にカウンターの魔法の魔法陣が見える。
(まずい!!!)
無理矢理身体を捻って回避しようとしたが、どてっぱらに水魔法を食らって吹き飛ばされ、泥まみれになりながら地面を転がって倒れる。
「カハ・・・。・・・げほ・・・げほ・・・」
吸い込んでいた息が押し出され、上手く呼吸が出来ず空気を求めてむせる。霞む視界でフォーチュンさんを見ると勝利を確信してか無防備にゆっくりと歩いてこちらに寄ってきていた。
(へ・・・へへ・・・そこなんだよな・・・)
「終わりじゃ・・・小僧。」
「どう・・・か・・・な?」
月明かりを遮るように影が落ちる。
いつもは見下ろしている顔が高い位置にある。
逆光で見難いが、いつもの気怠さそうな、それでいて優しい顔はなりを潜め、硬く冷たい表情が暗がりから覗いた。
そんな普段と違う顔を僕はいつもの調子で下から見返す。生意気な顔で笑って見返してやる。
『ふぅ・・・』と小さいため息が聞こえ、止めのため手をこちらにかざした瞬間、新たな影が落ちた。
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