羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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幕間蛇足編

蛇足編その7

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「せぇぇぇや!!!」
 背後から木剣で斬りつけてきたのは女騎士じゃった。
 月を背にしていたことで影が落ち、気付くことができた。咄嗟に愛用のキセルを取り出し、いなす。

「は!!!」

 切り返しで立て続けに連撃を繰り出してくるが余裕を持って氷の魔法で盾を作りガードする。
(距離を開けられると不利と見たかピッタリとくっついてきおるな。いい判断だ。)

 女騎士と至近距離で競り合う形になり表情が見える。
(辛そうな表情じゃ・・・。礼儀正しく真っすぐで聞き分けの良い、この子まで逆らってくるとは・・・わしが・・・わしが間違っておるんか?)

 女騎士に気を取られていると転がっていた小僧が立ち上がり死角になっている側面から斬りかかってくるのを後ろにステップを踏んで躱す。そのとき小僧の横顔が見えた。ほくそ笑んでいる表情が。

(何か仕込んでおるな。たわけが、そう言うのはポーカーフェイスでやるんじゃ。) 

 小僧の手が動く。手にはひも状の物が握られており、握ったそれを大きく引っ張るように腕を動かした。すると地面から何かがピンと張られていて、それに躓きバランスを崩してしまった。

(これは・・・瓢箪カズラのツルか!?)
 素早く見渡すと周囲の木の根本にカズラのツルを括りつけて、夜で視界の悪い地面に忍ばせていた。
(ちぃ!会話しながらこそこそ動いていたのは狙いを定めさせない為と思っておったが、これを用意するためであったか!・・・じゃが!!!)

「舐めるなよ!小僧!この程度、天秤で幾らでも修正可能じゃ!!」
 倒れながら、すかさず天秤を手に召喚する。

(あとはポケットに適当に入れてるものを対価に距離を稼ぎ、体勢を無理矢理立て直せば・・・いや・・・なんじゃこいつ!?・・・何かがおかしい!?)

 笑っていたのだ。天秤を召喚した瞬間。待っていたかのように・・・。そして先んじて小僧の手に変化が起きていた。

「先に切ったな!フォーチュン!切り札を!!」

(小僧の右手が光って・・・あの光は・・・!?)

「タロット!?既にセットしているじゃと!?」

「サンドストラクチャー!!!」

 小僧が光る右手を突き出すと立っている地面が勢いよく隆起して身体が押し上げられて空高く放り出される。その衝撃と予想もしていなかった不意打ちで天秤を手放してしまう。

「し、しまった!」
(これはタワーのカードか!?まずい!このままじゃ地面に叩きつけられる!)
 落下しながら、手から離れて空中を舞う天秤が目に入る。
(そうじゃ!天秤を再召喚して・・・いや、そうじゃない!風魔法でクッションを作れば・・・だ、駄目じゃ!もう地面が近い!間に合わん!!!ま、負け・・・)

 目を瞑り最後の瞬間を待つ。時間がゆっくりと感じられる。
(なぜこんなことに。最後なんてグダグダじゃ・・・完全にしてやられた。いつからじゃ・・・。いや、最初からじゃ・・・あの小僧、最初からタロットを身体にセットしておった。タロットを盗み出しておるなんて思わなんだ。
 わしを挑発して、怒らせて、油断させて、・・・いや、違う。わしが見くびっておったんじゃ、無能力者で戦闘経験も浅いガキだと。手加減しても勝てると、見くびっておった。
 話だって、なんだかんだで言うことを聞くお利口さんだと勝手に思っておったんじゃ・・・
 わしはこいつらと過ごして、ちゃんとこいつ等を見ていたのだろうか・・・負けて当然じゃ・・・)

 最後のときを待っているのだが、どうしたことだろう?いくら待っても地面に叩きつけられない。身体を縮めて硬く目を瞑っていた瞳をゆっくりと開く。目の前には小僧の顔が。わしは小僧にお姫様抱っこされる形になっていた。目が合うと小僧は『ニカッ』と笑い

「いや~。おばあちゃん軽いですね~。もっと食べたほうがいいですよ。」

 なんて言いおった。わしは微笑みながら小僧の顔に手を伸ばし・・・思いっきり頬をつねってやった。
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