羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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幕間蛇足編

蛇足編その8

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「いひゃい。」
 僕は頬を腫らしながら正座させられていた。勝ったのに・・・
 女騎士さんはお咎めなしだ。何これ?女尊男卑?まぁ、彼女は破損した小屋の片づけをしているんだけどね。

「先生ー!質問がありまーす!」

「なんじゃ?言うてみい。」

「僕はあの”フォーチュン”に”勝った”のに何で正座させられているんでしょうか?」
 これでもかというくらい勝ったの所を強調して言う。たっぷりとニヤニヤしながら。

「それはな。」

「それは・・・」

「お主が年長者に対する敬意がなっとらんからじゃ!!!あと勝手にタロット盗みおってからに!」
 タロットの方がついでなのかよ・・・それでいいのか?フォーチュンさん。

「いえ!敬意は示しました!ちゃんとお姫様抱っこしましたもん!僕、凄く紳士!それに清く正しい年長者は不意打ちなんて汚い真似しないと思いまーs・・・ふごぉ!!!」
 言ってる途中で水魔法を食らった脇腹を木剣で叩かれる。

「ちょ・・・そこは駄目・・・まじで・・・」
 正座しながら悶える。おばあちゃんは悪びれもなく

「おお?そっちがケガしてた方か?すまんな~、年取ると物覚えが悪くなるんじゃ。」

「・・・ここ年取らないじゃん。」
 絶対わざとな嫌がらせに耐えながら小声でぼそりと呟く。

「それで。いつから盗んどったんじゃ?手癖の悪いガキめ。他のも使うたんか?」
 睨まれ低い声で詰められ気圧される。

(ま・・・当たり前か・・・危険物だもんな。正直に話そう。)

「実は・・・」

「・・・」
 無言の圧力。フォーチュンさんの表情から返答次第では無事では済まないだろう、なので

「放浪者さんに『きっと必要だろう』と渡されました。他のは使ってません。」
 本当は二人で忍び込んで盗んだとか、数枚候補があって夜な夜な二人で実験したとか、二人で相談してタワーのカードに決めたとかをすっ飛ばして、僕が迷っているときにお声がけしてくれた暖かいシーンをチョイスしましたぞ。決して怒られるのが怖くて、端折って責任転嫁したとかでは断じてない。他のカードも”今は”使ってない。ちょっとお試しで使ったのはあれはサンプルみたいなもんだ。ノーカンよね、ノーカン。うん。

 フォーチュンさんは僕の言葉を聞き、ワナワナ震えだし、
「あの禿げーーーーー!!!!出てこい!!!半殺しで許してやる!!!」
 と、喚きながら放浪者さんが眠っていた自分の小屋にすっ飛んでいった。
 因みにすでにもぬけの殻で置手紙が置かれていた。

『しばらく旅に出ます。探さないでください。』

 だってさ。あの逃げ足技術はいつか伝授して欲しいものだ。僕に一番必要な能力はきっとあれだな。うん。
 というわけで、ヘイトが放浪者さんに言ってる間に僕もとんずらしよう。

「女騎士さん、女騎士さん。」

 いつものようにフォーチュンさんを宥めに向かおうとしていた女騎士さんを呼ぶ。

「剣士君!また何かやったのか!?」

「いやいや。今は放浪者さんを探してるでしょ?僕はむしろこれからっていうか・・・。なので、あとお願いします。僕、外泊しますので。・・・あ、頭のアレ。教えてあげてください。まだ気付いてな・・・ぷ、くくく・・・」

「剣士君!頭のあれ。まだ言っていないのか!?というか、私が伝えるのか!?・・・あ、ちょ!剣士君!?」

 笑いを堪えながら女騎士さんに言うだけ言って返事も聞かず夜の森に消える。夜の森は寒いだろうが命には変えられないのだ。これにて、おさらば!







「くそう・・・相変わらず逃げ足の速い奴め!おい、女騎士よ。小僧はどこ行った?」

「あー・・・フォーチュン様・・・えーと、ですね。まずご自身のお召し物を確認していただいて・・・そしたら彼がどこに行ったか分かるかと・・・。」
 苦虫を潰したかのような表情で聞いてくるフォーチュン様に、私は奥歯に物が詰まった言い方で伝えると

「なんじゃ???」
 フォーチュン様がきょとんとして衣服を順に確認していき、ご自身の大きな魔女帽子を取り確認した瞬間、ワナワナ震えだし、

「小僧はどこじゃーーーーー!!!全殺しで許してやるから出てこいーーー!!!」

 また、再噴火した。先の戦闘、月明かりだけが頼りの薄暗い状態で剣士君が有利に戦闘を進められた理由が彼女の帽子の先にべっとりと付いていた。この森には蛍百合という夜に咲く百合の花があり、おしべが非常に発達して咲き、花粉が夜に美しく光るのだ。戦闘を始める前、彼がフォーチュン様を挑発したとき、頭に手をやってからかった時に彼は花粉をべったりとフォーチュン様のお気に入りの帽子に付着させていた。その花粉は今なお光を失わず発光している。

「流石に五月蝿いぞ・・・。喧嘩ならもう少し遠くでやれ・・・って・・・ぷっ、なんだよ、フォーチュンその頭。」
 私の小屋で泊っていただいていたトータルワークスさんが起きてきてフォーチュンさんの頭を見て吹き出す。
「おいおい、まるでチョウチンアンコウみたいだな、お前。」
 トータルワークスさんが笑いながらフォーチュン様をそう表現すると、フォーチュン様はぷるぷると震え、目に涙が溜まっていき、

「びえぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」
 ついに泣き出した。泣きながら手を広げていつものように私の胸に飛び込んでくるフォーチュン様をひょいっと躱す。

「え!?」
「あ・・・」
 私の回避が予想外だったのか、行き場の無い両手を広げながらこっちを向いてあっけに取られた顔でピタッと泣きやむフォーチュンさん。

「いや・・・その・・・。百合の花粉は服に付くと落ちにくいので・・・。」
 目を逸らしながら申し訳なさそうに言うと

「びえええええええんんんんんん!!!!お゛ん゛にゃ゛ぎじがつ゛め゛た゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!」

 余計悪化したフォーチュン様をようやく宥め、寝かしつけた頃、すでに日が登っていた。
 私は日中にそーっと帰ってきた彼を寝不足の目でこれでもかと言うくらい睨むのだった。
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