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幕間蛇足編
蛇足編その9
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「お気をつけてフォーチュン様、トータルワークスさん。」
「うむ、行ってくるぞ・・・」
女騎士さんとフォーチュンさんが互いに抱き合う。女騎士さんもフォーチュンさんも目が潤んでいた。
「フォーチュン様・・・健康に気を付けて、好き嫌いしちゃだめですよ。」
「うん。」
「本に熱中しすぎて夜更かししないように。」
「うん。」
「あんまり泣かないでくださいよ・・・泣いても・・・もう抱っこしてあげられませんからね。」
「・・・うん・・・」
これもうどっちが保護者か分かんねぇな。
二人の長い抱擁が終わり、互いに離れるとフォーチュンさんは僕の方を向き
「よいか?訓練を怠るでないぞ!小僧はもっと表情を隠すようにしろ!あれでは行動が読まれる。」
「だー!もー!何回目ですか!?”無”能力者に負けたフォーチュンさん。あなたこそ慢心はやめてくださいね。それと怒りっぽいのも!それで負けたんですから。」
嫌味ったらしく”無”の所を思いっきり強調してやる。
「ううううううるさいわい。最初から全力なら負けておらんかったわ!!」
「はいはい。言い訳言い訳~。」
「きーーーーー!!!」
僕に対しては最後まで小言だ。それに対して生意気言って返す。まぁ僕らはそれぐらいの方がいい。湿っぽいのは苦手だ。だから馬鹿みたいに明るく別れよう。その方が僕ららしいしね。
「ふぅ・・・いつまでやってるんだ、フォーチュン。出発するぞ。」
「わかっておる。今行く。ではな、お前たち。達者でな・・・。」
先に行くトータルワークスさんが急かすと、フォーチュンさんは少し進んで、それから何かを思い出したかのように振り返り、並んで見送る僕らに向かって走ってきて抱きつき
「それと・・・●●●●●。」
「え?それって・・・」
「まぁ、要らぬ心配じゃ。」
聞き返すも矢継ぎ早にそう言ってパッと離れて行ってしまう。
「大丈夫じゃーーー。わしに任せて、そこで大人しくしておれーーー。元気でなーーー。」
振り返りながら手を振って小さくなってゆく背中を僕らは静かに見送る。ちらりと隣に立つ女騎士さんの顔を見ると少し不安げな表情をしていた。完全に姿が見えなくなってから女騎士さんに尋ねる。
「最後の・・・聞こえました・・・よね?」
「あ・・・ああ・・・。聞こえた。」
どういうことなんだよ・・・トータルワークスは信用するなって・・・。
フォーチュンさんが旅立って数か月が経った。フォーチュンさんの小屋に入ると埃とカビの匂いがして、そこら中に本やよくわからない道具が散乱したまま、壁には謎のメモ書きが大量に貼り付けられていて、今にもこの小屋の家主が散乱した道具の物陰からヌッと出てきそうだった。そんなことは無いのだが・・・。
「剣士君・・・」
後ろから声が掛けられる。誰かは見なくても分かる・・・もうここには僕に声を掛ける人は一人しか居ないのだから・・・
「まるで灯が落ちたみたいですね。」
「ああ、この数十年本当に楽しかった・・・あの人が居てくれたおかげで・・・」
「・・・このままで良いのかな・・・ここに居て・・・良いのかな?」
僕は迷いながら呟く。それは女騎士さんに向けていった言葉なのか?それとも自身に言い聞かせたものなのか・・・
僕の呟きに呼応して女騎士さんが語りだした。
「元居た世界では家族はみんな死んだ・・・仲間だってもう・・・。実を言うとね・・・元居た世界に帰りたいかと言われるとはっきりと帰りたいって言えないんだ。ここよりもずっと安全な世界だよ、今となっては・・・平和な世界だ。でも・・・。」
女騎士さんは歩きながら手で壁のメモを積み上げられている本を、そして窓際に置いてあるソレをなぞっていく。
「あそこにはもう想い出しかない。ここも・・・。」
「きっと・・・」
「ん?」
「きっと、大切な人が去ってしまったから想い出が必要なんです。その人と過ごした想い出が無ければ生きることが空虚なものとなってしまうから・・・だからみんな故郷を求めるのかもしれません。でも・・・」
僕はポケットの中に仕舞っている色褪せた写真を取り出す。ヘッドシューターさん、ぼんぼん、木こり、僕、女騎士さん、そしてぽっかりと不自然に開いた空間・・・僕らの失われた過去。半分は去ってしまった。でも、まだ残っている。
「ああ・・・まだ私達の大切な人は生きている、そうだな?剣士君。」
「ええ!行きましょう。滅茶苦茶怒られると思いますけど。」
「その時は私も一緒だ。」
そう言って彼女は微笑んだ。
「へ・・・じゃあ言い訳はソイツにして貰いましょう。」
僕はニヤリと笑い女騎士さんが撫でている物を指した。
そこには先っぽの無くなったあの人のお気に入り。
会いに行こう。彼女の宝物を携えて・・・。忘れ物を届けに。
「うむ、行ってくるぞ・・・」
女騎士さんとフォーチュンさんが互いに抱き合う。女騎士さんもフォーチュンさんも目が潤んでいた。
「フォーチュン様・・・健康に気を付けて、好き嫌いしちゃだめですよ。」
「うん。」
「本に熱中しすぎて夜更かししないように。」
「うん。」
「あんまり泣かないでくださいよ・・・泣いても・・・もう抱っこしてあげられませんからね。」
「・・・うん・・・」
これもうどっちが保護者か分かんねぇな。
二人の長い抱擁が終わり、互いに離れるとフォーチュンさんは僕の方を向き
「よいか?訓練を怠るでないぞ!小僧はもっと表情を隠すようにしろ!あれでは行動が読まれる。」
「だー!もー!何回目ですか!?”無”能力者に負けたフォーチュンさん。あなたこそ慢心はやめてくださいね。それと怒りっぽいのも!それで負けたんですから。」
嫌味ったらしく”無”の所を思いっきり強調してやる。
「ううううううるさいわい。最初から全力なら負けておらんかったわ!!」
「はいはい。言い訳言い訳~。」
「きーーーーー!!!」
僕に対しては最後まで小言だ。それに対して生意気言って返す。まぁ僕らはそれぐらいの方がいい。湿っぽいのは苦手だ。だから馬鹿みたいに明るく別れよう。その方が僕ららしいしね。
「ふぅ・・・いつまでやってるんだ、フォーチュン。出発するぞ。」
「わかっておる。今行く。ではな、お前たち。達者でな・・・。」
先に行くトータルワークスさんが急かすと、フォーチュンさんは少し進んで、それから何かを思い出したかのように振り返り、並んで見送る僕らに向かって走ってきて抱きつき
「それと・・・●●●●●。」
「え?それって・・・」
「まぁ、要らぬ心配じゃ。」
聞き返すも矢継ぎ早にそう言ってパッと離れて行ってしまう。
「大丈夫じゃーーー。わしに任せて、そこで大人しくしておれーーー。元気でなーーー。」
振り返りながら手を振って小さくなってゆく背中を僕らは静かに見送る。ちらりと隣に立つ女騎士さんの顔を見ると少し不安げな表情をしていた。完全に姿が見えなくなってから女騎士さんに尋ねる。
「最後の・・・聞こえました・・・よね?」
「あ・・・ああ・・・。聞こえた。」
どういうことなんだよ・・・トータルワークスは信用するなって・・・。
フォーチュンさんが旅立って数か月が経った。フォーチュンさんの小屋に入ると埃とカビの匂いがして、そこら中に本やよくわからない道具が散乱したまま、壁には謎のメモ書きが大量に貼り付けられていて、今にもこの小屋の家主が散乱した道具の物陰からヌッと出てきそうだった。そんなことは無いのだが・・・。
「剣士君・・・」
後ろから声が掛けられる。誰かは見なくても分かる・・・もうここには僕に声を掛ける人は一人しか居ないのだから・・・
「まるで灯が落ちたみたいですね。」
「ああ、この数十年本当に楽しかった・・・あの人が居てくれたおかげで・・・」
「・・・このままで良いのかな・・・ここに居て・・・良いのかな?」
僕は迷いながら呟く。それは女騎士さんに向けていった言葉なのか?それとも自身に言い聞かせたものなのか・・・
僕の呟きに呼応して女騎士さんが語りだした。
「元居た世界では家族はみんな死んだ・・・仲間だってもう・・・。実を言うとね・・・元居た世界に帰りたいかと言われるとはっきりと帰りたいって言えないんだ。ここよりもずっと安全な世界だよ、今となっては・・・平和な世界だ。でも・・・。」
女騎士さんは歩きながら手で壁のメモを積み上げられている本を、そして窓際に置いてあるソレをなぞっていく。
「あそこにはもう想い出しかない。ここも・・・。」
「きっと・・・」
「ん?」
「きっと、大切な人が去ってしまったから想い出が必要なんです。その人と過ごした想い出が無ければ生きることが空虚なものとなってしまうから・・・だからみんな故郷を求めるのかもしれません。でも・・・」
僕はポケットの中に仕舞っている色褪せた写真を取り出す。ヘッドシューターさん、ぼんぼん、木こり、僕、女騎士さん、そしてぽっかりと不自然に開いた空間・・・僕らの失われた過去。半分は去ってしまった。でも、まだ残っている。
「ああ・・・まだ私達の大切な人は生きている、そうだな?剣士君。」
「ええ!行きましょう。滅茶苦茶怒られると思いますけど。」
「その時は私も一緒だ。」
そう言って彼女は微笑んだ。
「へ・・・じゃあ言い訳はソイツにして貰いましょう。」
僕はニヤリと笑い女騎士さんが撫でている物を指した。
そこには先っぽの無くなったあの人のお気に入り。
会いに行こう。彼女の宝物を携えて・・・。忘れ物を届けに。
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