65 / 157
黄金都市編
黄金都市編その4
しおりを挟む
先程の熱気が残る大広間のロビー。ずらりと沢山の窓口がありその上には巨大なディスプレイ。次も試合があるのだろう。オッズと賭けの締め切り時間が表示されていた。僕達は選手登録の為に窓口へやってきていた。
「すみませんー。登録をしたいのですが。」
「はいはい。・・・げっ!放浪者・・・」
「あなたは出禁ですから登録出来ません。」
「いやいや、私ではなくて後ろの二人ですよ。ジャッジメントから連絡来てるでしょ?」
職員さんは『少々お待ちくださいと』すごく嫌そうな顔をして確認を取りに行く。
しばらくしてから帰ってきた職員さんは
「確認が取れましたので後ろのお二人は登録します。あなたは駄目ですよ。」
滅茶苦茶念を押されてる。まぁ、この人出場させたらまともな試合組めそうにないもんな。
「さぁ、登録できましたし、しばらくはこの闘技場の選手宿舎を使いましょう。外で寝るよりマシ程度ですがね。」
「うわっ!狭っ!」
二階に上がり寝泊まりする部屋は荷物を置くと3人が横になったらもうスペースが無いくらいだった。
「ドアに鍵なんかも無いですから貴重品は置かないようにしてください。荷物を置いたら食事にしましょう。良い店があるんです。」
「放浪者殿。食事の前に詳しい説明をしていただけるでしょうか?私達が塔内部でやっていけるか実力を推し量ろうという事ですか?」
今まで成り行きを見守って口を挟まなかった女騎士さんが口を開く。
「ん~・・・まぁそれもあるんですがね~。もう一つ・・・おや?」
廊下の方から騒がしく近づいてくる足音、僕らの部屋の前で止まると勢いよくノックされる。僕と女騎士さんは立ち上がって警戒態勢に入り、剣に手をかけるが、そんな僕らに放浪者さんはのんびり座ったまま手を挙げて待つよう制す。
「どうぞ。鍵は開いてますので。」
放浪者さんがドア向こうの人に声を掛けると、ノックの主は勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んでくる。
飛び込んできたのは華奢な女で右目右腕には包帯が厳重に巻かれており、それらが使い物にならないことを物語っていた。
「あんた、あの”放浪者”でしょ!?た、助けて!お願い!お願いよ・・・死にたく・・・死にたくないよ・・・。」
女は放浪者さんに懇願し、跪く。
「さっきの試合の敗戦者ですか?」
静かに声を掛けると、女は躊躇いがちに首を縦に振った。
「私なんかに声を掛けるということは身の安全を買う金も無いのですね。解っていると思いますが、この街で金も無ければ、実力も無い者は死にます。あなたが命を落とすことは言わばこの街では自然な事です。」
「死にたく・・・死にたくないんです!お願いします!」
女は動く左腕で放浪者さんの足にしがみつき泣き叫んだ。
「剣士君、女騎士さん。話が途中でしたね。この闘技場はね。金の無い奴が行きつく場所なんですよ。勝てば大きくお金が入ります。それだけ人気のコンテンツなんですよ。その代わり試合で命を落とすことも多々あります。一応途中棄権が認められているんですがね。ただし途中棄権で負けてみなさい。負けて街に出た日には・・・・。」
賭け事の恐ろしいところだ。おまけに負傷していたら身を守ることも難しいだろう。
「さて、あなた。私達はこれから食事に行こうと考えておりましてね。ちょっとばかし路銀が心待たなくて幾らか恵んでくださいますなら街の入口まで送りますよ。」
女の人は慌てて左手で自分の体をまさぐり、
「も、もうこれだけしかないです・・・。」
そう言って硬貨を何枚か差し出した。
「ふむ・・・いいでしょう。私にピッタリとついて来なさい。・・・剣士君、女騎士さん、ちょっと送ってきますので待っててください。」
そう言って負傷した女性を連れて放浪者さんは出ていった。
「なるほど・・・」
先程、放浪者さんの話を聞いてから口に手を当てて考え事をしていた女騎士さんが口を開く。
「何がです?」
「つまりだ・・・私達は絶対に負けることが出来ない。負けてしまえば後ろ盾の無い私達はああして街の連中の逆恨みに怯え、逃げるようにして、この街を出なければならない。そうすれば私達は二度とこの街に足を踏み入れることが出来ず、登塔する日も来ないだろう。そもそも負けるようなら塔の内部で通用するか怪しいしな。」
「そうか・・・。つまり負けるようならフォーチュンさんの小屋で一生大人しくしておけ・・・と?」
「そういうことだ。」
気配無くドアが開き放浪者さんが帰ってくる。
「ふぅ・・・お待たせしました。では食事に行きましょう!」
「あの女性は無事送り届けれたのですか?」
「ええ、入口まではね。でも”無事”というのは難しいですね~。」
「え?どういうことです?」
「この狭間世界は”あんな逃げ”を許容してくれるほどの寛容さがありませんので。近い内にあの程度の人はどのみち死にますよ・・・。さっ!ごはんごはん~!何してるんです~。置いて行きますよ~。」
サラッと言ってウキウキで歩いて行く放浪者さんの背中を見ながらトータルワークスさんの僕は思い出していた。
あいつは何もかもが枯れている・・・と。
「すみませんー。登録をしたいのですが。」
「はいはい。・・・げっ!放浪者・・・」
「あなたは出禁ですから登録出来ません。」
「いやいや、私ではなくて後ろの二人ですよ。ジャッジメントから連絡来てるでしょ?」
職員さんは『少々お待ちくださいと』すごく嫌そうな顔をして確認を取りに行く。
しばらくしてから帰ってきた職員さんは
「確認が取れましたので後ろのお二人は登録します。あなたは駄目ですよ。」
滅茶苦茶念を押されてる。まぁ、この人出場させたらまともな試合組めそうにないもんな。
「さぁ、登録できましたし、しばらくはこの闘技場の選手宿舎を使いましょう。外で寝るよりマシ程度ですがね。」
「うわっ!狭っ!」
二階に上がり寝泊まりする部屋は荷物を置くと3人が横になったらもうスペースが無いくらいだった。
「ドアに鍵なんかも無いですから貴重品は置かないようにしてください。荷物を置いたら食事にしましょう。良い店があるんです。」
「放浪者殿。食事の前に詳しい説明をしていただけるでしょうか?私達が塔内部でやっていけるか実力を推し量ろうという事ですか?」
今まで成り行きを見守って口を挟まなかった女騎士さんが口を開く。
「ん~・・・まぁそれもあるんですがね~。もう一つ・・・おや?」
廊下の方から騒がしく近づいてくる足音、僕らの部屋の前で止まると勢いよくノックされる。僕と女騎士さんは立ち上がって警戒態勢に入り、剣に手をかけるが、そんな僕らに放浪者さんはのんびり座ったまま手を挙げて待つよう制す。
「どうぞ。鍵は開いてますので。」
放浪者さんがドア向こうの人に声を掛けると、ノックの主は勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んでくる。
飛び込んできたのは華奢な女で右目右腕には包帯が厳重に巻かれており、それらが使い物にならないことを物語っていた。
「あんた、あの”放浪者”でしょ!?た、助けて!お願い!お願いよ・・・死にたく・・・死にたくないよ・・・。」
女は放浪者さんに懇願し、跪く。
「さっきの試合の敗戦者ですか?」
静かに声を掛けると、女は躊躇いがちに首を縦に振った。
「私なんかに声を掛けるということは身の安全を買う金も無いのですね。解っていると思いますが、この街で金も無ければ、実力も無い者は死にます。あなたが命を落とすことは言わばこの街では自然な事です。」
「死にたく・・・死にたくないんです!お願いします!」
女は動く左腕で放浪者さんの足にしがみつき泣き叫んだ。
「剣士君、女騎士さん。話が途中でしたね。この闘技場はね。金の無い奴が行きつく場所なんですよ。勝てば大きくお金が入ります。それだけ人気のコンテンツなんですよ。その代わり試合で命を落とすことも多々あります。一応途中棄権が認められているんですがね。ただし途中棄権で負けてみなさい。負けて街に出た日には・・・・。」
賭け事の恐ろしいところだ。おまけに負傷していたら身を守ることも難しいだろう。
「さて、あなた。私達はこれから食事に行こうと考えておりましてね。ちょっとばかし路銀が心待たなくて幾らか恵んでくださいますなら街の入口まで送りますよ。」
女の人は慌てて左手で自分の体をまさぐり、
「も、もうこれだけしかないです・・・。」
そう言って硬貨を何枚か差し出した。
「ふむ・・・いいでしょう。私にピッタリとついて来なさい。・・・剣士君、女騎士さん、ちょっと送ってきますので待っててください。」
そう言って負傷した女性を連れて放浪者さんは出ていった。
「なるほど・・・」
先程、放浪者さんの話を聞いてから口に手を当てて考え事をしていた女騎士さんが口を開く。
「何がです?」
「つまりだ・・・私達は絶対に負けることが出来ない。負けてしまえば後ろ盾の無い私達はああして街の連中の逆恨みに怯え、逃げるようにして、この街を出なければならない。そうすれば私達は二度とこの街に足を踏み入れることが出来ず、登塔する日も来ないだろう。そもそも負けるようなら塔の内部で通用するか怪しいしな。」
「そうか・・・。つまり負けるようならフォーチュンさんの小屋で一生大人しくしておけ・・・と?」
「そういうことだ。」
気配無くドアが開き放浪者さんが帰ってくる。
「ふぅ・・・お待たせしました。では食事に行きましょう!」
「あの女性は無事送り届けれたのですか?」
「ええ、入口まではね。でも”無事”というのは難しいですね~。」
「え?どういうことです?」
「この狭間世界は”あんな逃げ”を許容してくれるほどの寛容さがありませんので。近い内にあの程度の人はどのみち死にますよ・・・。さっ!ごはんごはん~!何してるんです~。置いて行きますよ~。」
サラッと言ってウキウキで歩いて行く放浪者さんの背中を見ながらトータルワークスさんの僕は思い出していた。
あいつは何もかもが枯れている・・・と。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる
ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。
「運命の番が現れたから」
その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。
傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。
夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。
しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。
「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」
*狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話
*オメガバース設定ですが、独自の解釈があります
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる