羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その4

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「シャークさーん・・・どこまで歩くんです~?」

「まだ、歩き始めて一時間とちょっとだぞ?リペアの嬢ちゃんを見て見ろよ?鼻歌歌いながら歩いてるぞ?」

「そんなこと言ったって・・・。さっきの戦闘の疲れもあるんですってば~。」

「もうちょっとしたら集落があるからそこで一息つける。もうちょい頑張れ。」

「もうちょっとって後どれくらい・・・です・・・か?何時何分何十秒?地球が何回回った時です?」

「小学生か!お前は!あとちょっとだから頑張れ。」

 そう言ってスタスタとリペアさんと共に軽い足取りで僕を置いていく。
 ズン…ズン…ズン…ズン…
 後ろから優雅に日傘をさし、どこから取り出したのか椅子とティーカップで優雅にアフタヌーンティーを楽しみながら巨大サソリに乗って僕を追い越していくヴェスパお嬢様。僕はそれを打ち捨てられた子犬の様に見上げて訴えかける。

「あなた、プライドはなくて?わたくしであればその様な無様な姿を晒す様なら自害しますわ。」

 ゴミを見るような目を頂けました。ふっ・・・解ってないな・・・我々の業界ではそれはご褒美と言うんだ。よし・・・これでもう少し頑張れそうだ!



 それから剣を杖代わりにして歩くこと数十分。周りを岩に囲まれて外からは分かりにくくなっている場所に僕は三人に遅れて集落に到着する。しかし、どうしたことだろう?三人は中に入らず立ち止まったまま、ただ静かにジッと立っていた。

「どうしたんです~。折角だから休みましょうよ~。」

 僕は声をかけながら三人に歩み寄ると、何故三人が静かにただ突っ立っていたのか理解した。

「これ・・・どういう・・・ことです?」

「ま、ここも外と大して変わらないのさ・・・。」
 シャークさんが少し疲れた顔をして言う。

「折角です。使えそうな民家があれば休ませて頂きましょう。」
 そう提案したのはヴェスパ様だ。顔色一つ変えずに・・・

「ちょっと待ってくださいよ!この状況で!?先ずは生存者を・・・。」

「居ねぇよ・・・そんなもの・・・。これだけ入念にやってりゃな。探すだけ無駄だ。」

「なら!!・・・ならせめて弔いを・・・。こんなの人の死に方じゃない!!」

「お前さん・・・こういうの初めてか?珍しい奴だな。気持ちは分かるけどダメだ。俺たちは先を急いでいる。それにここには身体を休めに来たんだ。疲れるために来たんじゃない。悪いがそれは出来ない。」

「一先ずは手分けして辺りを探索しましょう、シャーク。あなた方も、何か見つけたら大声で呼びなさい。」
 そう言ってヴェスパ様はシャークさんと共に家々を回って調べるために集落へと入って行った。

「う~ん・・・ぼーっとしていても仕方ありませんし、私達も参りましょうか~。」

 リペアさんに促され、僕らも集落へと足を踏み入れた。
 集落の中をゆっくりと歩く。
 互いに殺し合わされた男達の亡骸。相手に止めをさした所で殺されたのだろう。剣を突き立てたまま事切れている。背中には投擲槍が貫いていた。
 仲間の首を絞めて殺す様に強要されただろう。男が女を馬乗りになって首を絞めたまま二人とも死んでいる。女は苦悶の表情を浮かべ事切れていて、口端には涎の後が残っていた。男の後頭部にはレイピアが刺さり、貫通し、口からその刀身が出ていた。
 他にも糞尿を食べさせられながら絶命している男、殺されてから自身の性器を口に突っ込まれている男・・・”ただ雑に殺された者”はこの中ではマシな部類だった。しかしこの死体たちは全体的に男が多く、女の死体は少ない・・・。歩きながらそんな事を考えていて、ちょうど集落の中央に差し掛かった。

「ああ・・・そういうことか・・・。」

 多くの女性の死体があった。
 中央の開けた場所にわざわざ絞首台を作って・・・一つ一つ丁寧に吊り上げて並べていた。凌辱されてから殺されたのだろう。その死体の股には男の乾いた体液がこびりついていた。
 その中で一際拷問をかけられて殺されている女性がいる。全身痣だらけ、全ての足と手の指が丁寧に折られて明後日の方向を向き、肘や膝も折られて骨が皮膚を破り、飛び出している。控えめな両乳房は鈍い獲物で切り取られて無くなっており。半開きに覗く口には折り取られたのだろう、歯が一つも無かった。僕がその死体に注意が向いたのは一層酷かったのもあったが、彼女が・・・

「もしかしてぇ~。お知り合いですか~?」

「ええ・・・。」

「あらぁ~。それは残念ですね~。」
 そんな事一切、一欠けらも思ってない癖に!!白々しいリペアさんの態度に僕は苛立ちを募らせた。

「向こうの大きい倉庫で激しくやり合った痕跡があったな・・・。恐らく立てこもったんだろう。死体が無かったんだが・・・。ああ・・・今、解ったよ・・・・。」
 後ろからシャークさんが僕に話しかけながらやってきて、広場を見て納得している。
「死体の具合から見て、襲われたのは数時間前からつい昨日ぐらいだ。死人もまだ判別つかない状態だしな。これだけ入念に殺ってりゃ、一先ず襲撃者は戻っては来ないと思うが・・・ってどうした?」

 僕の様子に気付いた彼が視線を一番損傷の酷い彼女に移す。

「もしかして・・・知り合いか?」

「ええ・・・。拠点に居た頃、同じ部隊だったんです。彼女によく叱られました。もっと静かに動けって・・・。」

「そうか・・・。じゃあ、ここから降ろしてやって弔ってやろう。」

「いいんですか?」

「俺もそこまで鬼じゃない。先を急ぐって言っても知り合いくらいはな。さ、降ろしてやろう。」

「私も微力ながらお手伝いします~」

 僕はシャークさんと協力して彼女を降ろす。中央の広場から離れ草が茂っている柔らかい土壌を探して、能力で石のスコップを作って三人で穴を掘った。

「これさ・・・!能力で・・・!穴を作ったら・・・!いいんじゃ・・・!ないのか!?」
 穴を掘る作業をしながらシャークさんが尋ねてくる。

「作ることは・・・!出来ます・・・!でも、被せる土を作るのは難しいんですよ。能力でやってしまったら石で蓋をする形なので石棺みたいになっちゃいますね。」

「仕方ない。穴掘りでいくか・・・。」

「あら~。意外と応用が効かないのですね~。」

「すみませんね!」

「おい。カッカするなよ?仲良くやろうぜ?」

「・・・。」

 その後は黙々と穴を掘ってから彼女を埋めた。能力を使って墓標を生成する。少し歪だが墓標が形作られていく。屈んで文字を刻もうとして手が止まる。少し迷ってから墓標に文字を刻み、静かに手を合わせる。
 少しの間祈りを捧げた後、立ち上がって、後ろで待つシャークさん達の元へ行った。

「もういいのか?」

「ええ・・・。」

「そうか。」
 多くは聞かない。静かな受け答え。そこに彼なりの気遣いが見て取れた。

「皆さん。あちらでさほど荒れていない建物がありましたわ。少し身体が休めそうですわよ。」

 どうやらヴェスパ様が使える建物を見つけたらしく、僕らはそこで小一時間ほど身体を休めた。身体はクタクタのはずなのに横になっても眠ることは出来そうにもなかった・・・。
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