羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その10

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 身支度を済ませて部屋のベッドにお互い腰かけて話をする。本当はテーブルがあればよかったのだが、そこは安宿。部屋にベッドが二台で容量はパンパンだ。

「それで?私達を尋ねてきたってことは何か進展が?」

「ええ。フォーチュンさんとかつて共に行動したことがある人を見つけまして。今日会ってくれるそうなんです。」

「本当ですか!?ありがとうございます!それでどういった人なんですか?」

「コレクターと呼ばれている人みたいですね。結構顔が広いみたいで人当たり良く、悪い噂は聞きませんでした。ただ・・・。」

「ただ・・・?」

「フォーチュンと行動を共にしていたと言うのは周りに隠しているみたいですね・・・。そのせいで今まで時間がかかってしまいました。」

「いえ、分かっただけでもありがたいです。それにアポイントメントまで取ってくださるなんて・・・。」

「では、早速向かいましょうか。」

「はい!・・・あ。」
 隣のカルディアさんが静かだな、と思ったらうつらうつら船を漕いで頭が私の肩に載る。見れば幸せそうな顔で夢の中だった。

「彼女、だいぶお疲れのようですね。」

「ええ・・・。純粋な彼女には、あのお店の仕事は心身に負担が大きいと思うんです。」

「・・・申し訳ない・・・。」

「いえ、こちらから言い出した事ですから。しょうがない彼女は置いて行きましょう。」

 私はカルディアさんを抱えてベッドに寝かせて、静かに部屋を出てそっと扉を閉じた。





 かなりの距離を歩きチェイサーさんに連れられてやって来たのは街はずれの、のどかだが少し寂しい場所。大通りの喧噪からは遠く開墾された畑が広がり農作物がみずみずしく育っている。
 その畑の奥にポツンと二階建ての一軒家が見えた。

「ここです。コレクターさん?いらっしゃいますか?」
 チェイサーさんがノックすると家の中から『はーい!』と元気で明るい声が聞こえてくる。扉が開くと・・・

「あー、あなたね~。私に会いたいって人は~。さっ!入って入って~。結構歩いたでしょ~?お茶飲む?あっ、お茶でよかったっけ?言ってもお茶しか無いんだけどね~。まー、いいからそこの椅子にかけて~。」

「あ、いや・・・俺はこれからまだ配達の仕事があるのでここで失礼しますよ。それじゃ!」
 言うや否や、ぴゅーっと走り去ってゆく。その背中に私はお礼を言ったが聞こえているかどうか・・・

「せわしない人ね~。そいじゃ、あなたどーぞ!あ、暑くない?寒くない?・・・って聞いても室温調節なんて出来ないんだけどね。あははー。」

「あ、ありがとうございます・・・。お構いなく。」

 せわしないってあなたが言うのか・・・。
 綺麗な燃えるような赤色の長髪に赤色の瞳。そして明るくはきはきとした性格。その次から次へと湧く怒涛の言葉に気圧されながら椅子についた。部屋の中は急いで片づけたのか、物がとにかく上へ上へと積み上げているだけの乱雑な整頓だった。

「で~。お姉さんに何用かな~?」
 2人分のマグカップを持ってコレクターさんが席に着く。

「あ、あの・・・あなたはこの塔でフォーチュン様と共に活動していたと聞きました。彼女が今どこにいるのか・・・手がかりでもいいのです!教えてください。」
 フォーチュンさんの名を出すと見る見るうちに表情が硬くなる。

「フォーチュンに何用なの?あなた、フォーチュンの何?何を探っているの?」

「いえ・・・私は、ただフォーチュン様にお会いしたくて・・・。」

「会ってどうするの?彼女に口汚く罵詈雑言でも浴びせる気?街の奴等みたいに人殺しって!」

「そんな!彼女は私の恩師ですよ!そんな彼女に向かってその様な言葉吐くなど恩知らずなことは出来ません!」

「恩師?もしかして・・・あなたが女騎士さん?」

「私を知っているのですか?」

「一緒に同行していた時、よく話してくれたわ・・・。それじゃ、さっきの慌ただしいのが問題児の剣士さん?ではなさそう・・・ね?」

「彼とは塔に入った時にはぐれてしまって・・・。」

「そう・・・。」
 彼女はマグカップに口を付け喉を潤すとゆっくりと語りだした。
「私がフォーチュンと出会ったのはアーカイブの塔攻略部隊に参加したときよ。彼女は優秀だった。指揮能力、判断力、個人の戦闘力、どれを取っても一級品だったわ。正直何故フォーチュンではなくアーカイブがリーダーをやっているのか不思議なくらいだったよ。」

 彼女はそこで言葉を区切り、立ち上がって窓際へ行き外を・・・いや彼女の過去の記憶を眺めているのかもしれない。そんな目をしていた。

「あの日・・・事件は下層で起きたんだ。そう・・・黄金器を探して探索していた時だった・・・。」

「黄金器とはなんなのですか?」

「この塔にある遺物よ。最初に見つけたのはゴールドラッシュ・・・この街の統治者よ。私達もある筋の情報でその黄金器が下層にあるという話を聞いて下層に来ていたのよ。そしてそれは見つかった。私は直接見つけた場面に出くわしては居ないのだけれど・・・。黄金に輝く盾をアーカイブ達は見つけてきた。その盾は何物も通さず、手に持つだけで力が溢れてくるようだった。最初に発見したとき、これがきっと塔の脱出のキーアイテムに違いないと誰もが思った。今もそう思っている奴が大半だろう。だけどフォーチュンは黄金器に関してはなにか思うことがあるみたいだったわ。」

「話が逸れたわね。今、私達がいる所が中層よ。下層は降りると全体に森が広がっている。そこは最初は穏やかなただの深い森だったわ。迷子に注意するくらいのものだった。しかし、黄金器が見つかった後だった。無茶苦茶強い原生生物がどこからともなく湧いて出てきたのよ。しかも大量にね。それまで全然気配も無かったのに・・・あまりに不自然すぎる、何かを隠すように・・・それ以上その場に居ることを拒んでいるみたいに・・・。」

「まさか・・・そこで行方不明になったのですか!?」

「ええ・・・そうよ。多くの戦士が死んだ。・・・けれども!」

 彼女は言葉を区切り悔しそうな顔をする。

「あの全滅劇はフォーチュンのせいじゃない!!フォーチュンは最後まで踏みとどまって指揮を取り戦っていた!崩れたのは別の部隊が背を向けて敗走したからだ!持ち場を放棄して・・・そのせいで戦闘は大混乱に陥った。・・・誰かは分からない。いや・・・本当は薄々見当はついているの・・・。そいつがフォーチュンに罪をなすりつけたんだ。私もフォーチュンを見失い、命からがら逃げ出すしか無かった!!・・・軽蔑してくれていいよ。君の恩師を見捨ててのうのうと生きてるんだから・・・。」
 
 彼女は天井を見上げた。

「上にはね。その時フォーチュンの傍で戦っていた戦士が眠っているんだ。あの時以来目を覚まさない。私も彼みたいに最後まで傍で戦えればどんなに良かったか・・・。」

「フォーチュン様は・・・」

「え?」
 天井を見て悲しそうにする彼女に声をかけると驚くような顔をして私を見る。

「フォーチュン様はそう簡単に死んだりしません。数十年一緒に暮らした私が言うんです。絶対に生きてます!」

「そうか・・・そうだね!・・・実は私も諦めきれなくてね・・・。救出隊メンバーを集めているのよ。表向きはトレジャーハントって事にしてるんだけどね。命知らずの奴等が結構参加してくれてる。女騎士さん、あなたも是非加わってほしい。」

「勿論です!」

「~~~~。やっぱフォーチュンに聞いてた通りいい子だわ~~~。あなた異世界人で無能力者なんでしょ?聞いてるわよ。実は私もそうなのよ!ここにあるのはみーんな転生者の持っていた武器や道具でね。私がコレクターと言われる所以、わかったでしょ?」

「凄いですね・・・これ全部ですか?」
 まさか、ガラクタのように積み上げているのが、転生者の強力なアイテムとは思わなかった。

「そうだ!えーとね・・・」
 彼女は積み上げている道具を『あーでもないこーでもない』と漁り始める。
「あったあった!お近づきの印に~これど~ぞ。」

 そう言って出してきたのは一振りの剣。片手で使えそうなグラディウスだ。

「護剣アパラージタ。私がこうしてあの森から生きて帰ってこれたのもその子のおかげなのよ。」

 その割には今、積み上げてるところから探し出したよな・・・と言うのは黙っておこう。

「ありがとうございます。でも・・・良いんですか?こんな貴重なもの・・・」

「いいのいいの!無能力者がやっていくには道具に頼ることも必要だわ。いつか転移者との決定的な差に泣かされる。その差をちょっとでも埋めるためにこれらは必要になってくる。あなたみたいな子、他人事の様には思えないしね。それに・・・」
 凄く優しい顔で諭すように語りかけてくるコレクターさん。

「それに・・・?」

「それにここにあるのって誰でも使える実はチート道具の中でも弱小のコモンなのよ!強力なのは専用武器になってて他人には使えないのよ!酷いと思わな~い?」

「あ、あはは・・・。」
 頬を膨らませプンスカ怒る。急にシリアスからコミカルな顔へと変貌する。忙しい人だ。

「あなたに会えて・・・話せて良かった・・・。もう諦めようかって思ってた。でも・・・うん!やろう!フォーチュンを助けに行くぞ~。おー!!!」

「お、おー?」
 また、コロコロとテンションが変わる。ついて行くのに大変だ・・・

「おやおや~?元気がないぞ~?おーーーー!!!」

「お、おーーーー!!!」

 いい人なんだけど・・・このノリだけはついて行けそうになかった。





「色々とありがとうございました。」

「うん。こっちこそありがとー。あ、そうだ!ちょっと待って・・・これも持っていって。」

 そろそろお暇しようと出入口で挨拶をしていた時だった。
 呼び止められ、奥から持ってきた古ぼけたものを渡される。

「これは・・・鞄ですか?」
 
「転移者御用達・・・なんでもはいるバッグ~。テッテレー。」

「な、なんです?その濁声と謎の音は?」

「ふっふっふ・・・。」

「・・・ゴクリ・・・」

「実は私もよく知らな~い。」
 
 ズコーッ!! 

「なんなんですか!?もう!」

「いや~この鞄持ってた奴がさ~。さっきの声真似よくしたんだよ~。もうだいぶ昔に死んだけどね。見てたら思い出しちゃって・・・懐かしいなー。」
 目を細めて鞄を見つめながら優しく撫でる。

「いいんですか?そんな物貰ってしまって。」

「いいのいいの!似たような性能のバッグいっぱいあるしね。」

「いやそうじゃなくて!想い出が詰まってるんじゃ・・・」

「なんでも入る。想い出も入る。・・・なんかキャッチコピーが出来そうだね。」

「茶化さないでください!」

「ごめんごめん!・・・ありがとう。気を使ってくれて。でもね埃を被らせておくよりも使ってくれた方が良いよ。元の持ち主にとっても・・・。」

「コレクターさん・・・。」

 良い人だ。フォーチュン様はこんな良い方と共に行動できていたのか。どうしようもない人間が多いこの世界でこういう人は貴重だ。
 フォーチュン様が引き合わせてくれた出会いに私は心から感謝した。
 
「あ・・・そうそう。アパラージタは今日にでも必ず一度は抜いてね。それと鞄なんだけど、何入ってるか分からないから一度暇なとき確認してね♪その中じゃ食べ物とかも~・・・劣化しないと思うから・・・たぶん?おそらく?メイビー?」

「コレクターさん???」
 良い人であってる・・・んだよな????
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