羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その9

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「カルディアちゃーん、バニラちゃーん!準備できたかしら~。」

「も、もう少しお待ちくださーい!・・・カルディアさん、まだですか!?」
 お店を任されているというママのミナモさんに急かされる。

「うう・・・だってこの服生地が・・・胸は出てるし、下だってスカートが短くてパンツ見えちゃいそうで・・・」

「あなたがやるって言ったんでしょ!諦めてください。アイスエイジはそれくらいのスカート履いてましたよ!」

「あんな痴女みたいな恰好普通は出来ませんよ!・・・うう・・・女騎士さーん・・・。」
 本人が居ないとはいえ痴女扱いされる彼女に少し同情の念を感じる。あの格好に思うところがあるのは私だけじゃ無かったんだな。

「そんな情けない声出してもダメです。覚悟を決めてください。」

「うう・・・いつもみたいに優しくない・・・。」

 諦めてスカートを抑えつつ更衣室から出てくるカルディアさん。化粧を施し、その橙色の髪と目に会うように明るい黄色いドレスに身をつつまれている。
 腰に手を当て仁王立ちしている私を彼女の視線が上から下までなぞる。

「女騎士さんは恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしいですよ!誰かさんのせいで・・・。」

「・・・待ってくれてても良かったのに・・・。」

「何かあったら戦えるんですか?」

「うッ・・・戦えません・・・」

「あなたに何かあればてっちゃんに申し訳がたたない。」

「女騎士さん・・・ごめんなさい・・・。」

「よし、それじゃ!気を取り直して行きましょうか!」
 私はカルディアさんの後ろに回って大きく肌が露出した背中を押す。

「わー!まだ心の準備が・・・。」

「準備できたかしら?あらぁ!二人とも綺麗だわ~!さっそくお酒の作り方教えるからこっちこっち。」
 ミナモさんはカルディアさんの手を握り、スタッフルームからお店の方に引っ張っていく。カルディアさんは涙目になっていたが、もうあれくらい強引じゃないと彼女はお店に出れないだろう。私も二人に続いてお店のホールに向かった。
 




「二人とも良いわ~。接客のコツはお客様を好きになること、愛すことよ♪」

「あたし・・・まだ自身が・・・」

「大丈夫よ~。カルディアちゃん!バニラちゃんと一緒になるようにするし、私もつくから心配いらないわぁ~。」

「ミナモさん。ちょっといいですか?」

「はい~、何かしら?バニラちゃん?何か分からない事あったかしらぁ~。」

「ここにブリッツラインという女性は働いていますか?」

「あ~、えーと・・・ライカちゃんね~。今日は来ないわ~。あの子オーナーのお気に入りだから~。あの子に何か用事~?」

「あ~・・・えーっと・・・昔お強かったと聞いて話が聞けたらなーと・・・あはは。」

「ふーん、バニラちゃん。なんの目的かはこれ以上詮索しないけど、あの子に近寄るのはやめておきなさい。」

「どういう・・・ことです?」

「あなた達みたいな良い子たちが関わるような女じゃないってこと~。・・・さ!そろそろ開店よ~。二人とも頑張ってね!」



 開店して暫く経つとミナモさんに呼ばれて私達は太った男の隣に着く。

「バニラです。」

「か、カルディアって言います。」

「お~。か、可愛いね~。狭間世界に来て何年?この業界初めて ?初々しいね~。」

「は、初めてです・・・優しく教えてください。」

「うんうん。教えちゃう、教えちゃう♪」
 男はカルディアさんを気に入ったようで話しながら肩に手を回す。そしてもう片方の手を太ももにやり、嫌らしく撫でまわし始めた。これにはカルディアさんも放心状態で固まってしまっている。

(ああ・・・青い顔して震えて泣いちゃいそうだ。しょうがない!)

「お客様!私も居るのに放っておかれると寂しいです。」
 男性の腕に手を絡めグイっと私の方へ引っ張る。やりたくはないが、その腕を胸に押し当て気を引くことにした。

「おお?勿論放ってなんてお・か・な・い・さ~、ハニー。」
 素敵な気持ち悪い事を言いながら今度は私の胸を躊躇なく揉みしだいてくる。あまりの豪快さ不快さ惚れそうキレそうだ。そしてもう片方の手は私の太ももを嫌らしく触り、スススス…と私の秘部に滑らせてくる。下着の中に大胆に無遠慮に指を入れた客は私の耳元で囁く。

「結構毛深いね~。俺好みだ。」

 よーし、愛そう殺そう。こいつ絶対愛す殺す素敵な一時を過ごしてもらおう生きて帰さん
 私は内心ニッコニコの笑顔で顔を引きつらせながら酒を作り、差し出した。

「はい!どうぞ。男らしい所、見せていただきたいですわ~。」

「ふっ・・・任せな!・・・・ゴクゴク・・・ブボォッ!!!」
 男はかっこつけて勢いよくグラスを煽るとお酒を吹き出し、泡を吹いて机に突っ伏した。

「ふんっ! ・・・・あ!ミナモさ~ん。お客さん倒れちゃったみたいですぅー。」

 ミナモさんがやってきて客とグラスを確認する。彼女は溜息をつき困り顔で

「バニラちゃん・・・ムカついてもお客さん潰さないで~。売り上げにならないからー。」

 とは言われたもののムカつく客はあの手この手で潰して躱し、上品な人だけまともに相手にした。
 ひと月程働いた頃、私達が逗留しているミナモさんから紹介された安宿にノックが響く。時刻はまだ昼過ぎ。夜職の昼夜逆転で完全に寝ぼけてしまっている私はフラフラとしながらおぼつかない足取りでドアまで行き開けると、そこには顔を真っ赤にしたチェイサーさんが立っていた。

「??? おひひゃしぶりです。ろうかしました??」

「あ・・・いや・・・何か羽織ってもらえると・・・」
 目線を逸らしながら言われて今の私の姿を確認する。薄いベビードール一枚だけしか着ていない。おまけに肩ひもが外れて乳首が見えてしまっている。顔がみるみるうちに熱くなるのを感じ、一気に意識が覚醒する。

「す、すぐ用意してきます。少々お待ちを!!!」

 胸を隠しながら勢いよく扉を閉め、ずるずるとへたり込む。

「なんです~。まだ昼じゃないですかぁ~。・・・って寒い~布団返して~。」

「か、カルディアさん準備して!チェイサーさんですよ!」
 
 けたたましい音で寝ぼけながら起きたカルディアさんを私は恥ずかしさを隠すように布団を引っぺがして起こす。
 ううう・・・何たること!淑女として一生不覚・・・このことは墓まで隠し通そう!
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