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塔内編
塔内編その8
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「そんな・・・。」
治療の為に来たアーセナルの集落は絶滅していた。遺体は腐敗し始めているのもあり、集落の中は異臭が立ち込めていた。
「酷いわね・・・。」
「キラリ!シオン!オトナシ!!」
アーセナルが村中を走り、仲間の名前を呼びながら生存者を探す。私とてっちゃんはそれを静かに見送った。
「アーセナルには悪いがこの状況だ、生存者は居ないだろうな・・・。」
「ええ・・・でも、それが飲み込めるまで時間が必要かもね・・・。」
「悪いが、こちらは待っていられる状態じゃない。アイスエイジ、先に我々だけで解毒薬や使えるものを探そう。」
「そうね・・・そうさせてもらいましょう。」
背中にアドミラルさんを乗せたてっちゃんと二人で村の中を歩く。
「酷いわね・・・。」
「全くだ・・・。反吐が出る。これが出来る奴は人間をやめているな。」
「魔獣のアンタが言うと何とも言えない気持ちになるわね・・・。ん?」
「どうした?」
「あれ・・・お墓じゃない?」
「確かに・・・」
二人で近寄ってみると何かを埋めたような痕に石で作った墓標が立てられている。
「『第七独立部隊の勇士、ここに眠る』か・・・。」
私が墓標を読み上げるとてっちゃんの背中から声がした。
「だ・・・第七独立は・・・。」
「アドミラルさん!良かった!意識が戻ったのね。」
「第七独立部隊は・・・私が居た拠点の部隊名・・・です。ヘッドシューター率いる・・・隠密性の高い・・・中遠距離と機動性に優れた・・・軽装歩兵隊でした・・・。」
彼女はしんどそうに途切れ途切れに言葉を発していく。
「無理しないで・・・。」
「その・・・部隊には、アーセナル様や・・・剣士さんも所属して・・・ました。」
「ってことはこの石・・・墓を建てたのって・・・。」
「剣士さん・・・の可能性はあると思います・・・。恐らく昔の・・・仲間が惨殺されていたのを・・・見過ごせなかったのでは・・・ないでしょうか・・・。それに・・・」
彼女は腕をあげて近くの芝生をゆび指す。私達が近づき座り込んで調べると・・・
「これ・・・毛かしら?何の体毛?」
「キング・・・ボアです・・・。」
「え!?原生生物の!?やばい奴じゃない!」
「おおよそ・・・こんな村で・・・飼育していた・・・とは思えません・・・。そしてキングボアを連れた・・・残忍な人物に・・・心当たりが・・・あり・・・ます・・・。」
「サディスティッククイーン・・・」
私達の後方から声がして振り向くとそこには優し気な雰囲気はなりを潜め、憤怒を纏ったアーセナルが立っていた。
「あいつが!あいつがこれを!!!」
アーセナルが迫り、アドミラルさんを揺さぶる。
「落ち着け!彼女は毒に侵されているんだぞ!」
「ご、ごめんなさい・・・私・・・。」
彼女はてっちゃんの言葉にハッとしてしおらしくなり、バツが悪そうに俯いた。
「遺体が、少ないんです。きっと攫われたんだと思います。まだ助けられる人がいるかも・・・。」
「・・・こんな状況でアーセナルには悪いんだけど、アドミラルさんの解毒を優先してもらえるかしら。」
「・・・分かったわ・・・こっちよ。」
まだしこりが感じられる表情を浮かべる彼女だったが、優先順位が分からないほど冷静さを欠いているわけでは無さそうだ。私達は彼女の案内の元、集落のとある家屋に入る。
「荒らされているな・・・。」
中は家具や食器が無残に割られていて、死体がそのまま放置されていて蛆が湧き始めていた。
不思議なことにまとまった土くれが部屋にあったことだ・・・。これは一体何のために運び込んだのだろうか?この荒らされよう果たして薬は無事なのだろうか?
「薬はどこに・・・?」
「待ってください、確かここに・・・あった!・・・あ・・・」
彼女は低い位置の棚を調べ出す。そして小さく声を発したかと思うと固まてしまった。私は彼女の背中越しに様子を伺うと、そこには幾つもの小さい容器が収められた箱、しかし中身は無残に破壊され、液体が漏れてしまっていた。
「そんな・・・」
すでにアドミラルさんはてっちゃんの背中で荒い息をするだけで最早意識も胡乱な状態だ・・・。このままじゃ・・・。
「いや、まだ諦めるのは早い!割れた容器に残った薬をかき集めて不純物を濾過しよう。一回分くらい集められるかもしれない。」
「そ、そうね!」
私達は僅かに残っている薬を集め、割れた破片やゴミを取り除いてから彼女に呑ませた。暫くすると、意識は戻らなかったが、それまで荒い息をしていた彼女が少しずつ落ち着いた呼吸になっていった。
「効いた・・・のかしら?」
「分かりません・・・。ですので、念の為に街に出ましょう。かなり移動しますが・・・。もう・・・ここに居ても・・・何もしてあげられませんから・・・。」
彼女のその言葉は誰に向けての言葉だったのだろう・・・。苦しんで逝った仲間に対してなのか、攫われて今なお苦しんでいる仲間に対してなのか・・・。その悲しそうな表情を癒せるほど私は気の利いた言葉を持ち合わせていなかった・・・。いや・・・何を言っても気休めだろう。私と一匹はただ静かにその提案に対して首を縦に振り、移動を開始したのだった。
治療の為に来たアーセナルの集落は絶滅していた。遺体は腐敗し始めているのもあり、集落の中は異臭が立ち込めていた。
「酷いわね・・・。」
「キラリ!シオン!オトナシ!!」
アーセナルが村中を走り、仲間の名前を呼びながら生存者を探す。私とてっちゃんはそれを静かに見送った。
「アーセナルには悪いがこの状況だ、生存者は居ないだろうな・・・。」
「ええ・・・でも、それが飲み込めるまで時間が必要かもね・・・。」
「悪いが、こちらは待っていられる状態じゃない。アイスエイジ、先に我々だけで解毒薬や使えるものを探そう。」
「そうね・・・そうさせてもらいましょう。」
背中にアドミラルさんを乗せたてっちゃんと二人で村の中を歩く。
「酷いわね・・・。」
「全くだ・・・。反吐が出る。これが出来る奴は人間をやめているな。」
「魔獣のアンタが言うと何とも言えない気持ちになるわね・・・。ん?」
「どうした?」
「あれ・・・お墓じゃない?」
「確かに・・・」
二人で近寄ってみると何かを埋めたような痕に石で作った墓標が立てられている。
「『第七独立部隊の勇士、ここに眠る』か・・・。」
私が墓標を読み上げるとてっちゃんの背中から声がした。
「だ・・・第七独立は・・・。」
「アドミラルさん!良かった!意識が戻ったのね。」
「第七独立部隊は・・・私が居た拠点の部隊名・・・です。ヘッドシューター率いる・・・隠密性の高い・・・中遠距離と機動性に優れた・・・軽装歩兵隊でした・・・。」
彼女はしんどそうに途切れ途切れに言葉を発していく。
「無理しないで・・・。」
「その・・・部隊には、アーセナル様や・・・剣士さんも所属して・・・ました。」
「ってことはこの石・・・墓を建てたのって・・・。」
「剣士さん・・・の可能性はあると思います・・・。恐らく昔の・・・仲間が惨殺されていたのを・・・見過ごせなかったのでは・・・ないでしょうか・・・。それに・・・」
彼女は腕をあげて近くの芝生をゆび指す。私達が近づき座り込んで調べると・・・
「これ・・・毛かしら?何の体毛?」
「キング・・・ボアです・・・。」
「え!?原生生物の!?やばい奴じゃない!」
「おおよそ・・・こんな村で・・・飼育していた・・・とは思えません・・・。そしてキングボアを連れた・・・残忍な人物に・・・心当たりが・・・あり・・・ます・・・。」
「サディスティッククイーン・・・」
私達の後方から声がして振り向くとそこには優し気な雰囲気はなりを潜め、憤怒を纏ったアーセナルが立っていた。
「あいつが!あいつがこれを!!!」
アーセナルが迫り、アドミラルさんを揺さぶる。
「落ち着け!彼女は毒に侵されているんだぞ!」
「ご、ごめんなさい・・・私・・・。」
彼女はてっちゃんの言葉にハッとしてしおらしくなり、バツが悪そうに俯いた。
「遺体が、少ないんです。きっと攫われたんだと思います。まだ助けられる人がいるかも・・・。」
「・・・こんな状況でアーセナルには悪いんだけど、アドミラルさんの解毒を優先してもらえるかしら。」
「・・・分かったわ・・・こっちよ。」
まだしこりが感じられる表情を浮かべる彼女だったが、優先順位が分からないほど冷静さを欠いているわけでは無さそうだ。私達は彼女の案内の元、集落のとある家屋に入る。
「荒らされているな・・・。」
中は家具や食器が無残に割られていて、死体がそのまま放置されていて蛆が湧き始めていた。
不思議なことにまとまった土くれが部屋にあったことだ・・・。これは一体何のために運び込んだのだろうか?この荒らされよう果たして薬は無事なのだろうか?
「薬はどこに・・・?」
「待ってください、確かここに・・・あった!・・・あ・・・」
彼女は低い位置の棚を調べ出す。そして小さく声を発したかと思うと固まてしまった。私は彼女の背中越しに様子を伺うと、そこには幾つもの小さい容器が収められた箱、しかし中身は無残に破壊され、液体が漏れてしまっていた。
「そんな・・・」
すでにアドミラルさんはてっちゃんの背中で荒い息をするだけで最早意識も胡乱な状態だ・・・。このままじゃ・・・。
「いや、まだ諦めるのは早い!割れた容器に残った薬をかき集めて不純物を濾過しよう。一回分くらい集められるかもしれない。」
「そ、そうね!」
私達は僅かに残っている薬を集め、割れた破片やゴミを取り除いてから彼女に呑ませた。暫くすると、意識は戻らなかったが、それまで荒い息をしていた彼女が少しずつ落ち着いた呼吸になっていった。
「効いた・・・のかしら?」
「分かりません・・・。ですので、念の為に街に出ましょう。かなり移動しますが・・・。もう・・・ここに居ても・・・何もしてあげられませんから・・・。」
彼女のその言葉は誰に向けての言葉だったのだろう・・・。苦しんで逝った仲間に対してなのか、攫われて今なお苦しんでいる仲間に対してなのか・・・。その悲しそうな表情を癒せるほど私は気の利いた言葉を持ち合わせていなかった・・・。いや・・・何を言っても気休めだろう。私と一匹はただ静かにその提案に対して首を縦に振り、移動を開始したのだった。
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