羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その37

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「がぼぼぼぼぼぼぼ・・・み゛、ミナモさ・・・がぼがぼがぼ・・・か、かんべんして・・・・がぼぼぼぼぼ。」

「・・・」

「ひえ~。恐ろし~。ま、自業自得だわな。」
 
 生かさず殺さず、只今僕は簀巻きにされた上、水攻めの拷問を喰らっている所なのだ。仲間であるミナモさんから・・・。助けを乞うても絶賛ガン無視中である。この人、火付盗賊改方か何かかな?
 その様子を見ておっさんはご満悦で、助けてもくれない。全く男の友情はどこへ行ったのか?リア充はやはり悪。

「ミナモさん、気が済むまでやってくださいね。」

「うん、わかった。ありがとう、バニラちゃん。」

「そんな!女騎士さん、たす・・・がぼぼぼぼぼ。」

「さて・・・こいつをどうするか・・・だな。」

「命ばかりは・・・命ばかりはおだずげぐだざい~。」

 チラリと女騎士さんが視線を送った先には、簀巻きにされ、腫れあがった顔面を鼻水と涙で濡らした陰キャが命乞いをしていた。

「そうだな・・・うん・・・うん・・・殺すか♪」

 何時から不思議ちゃんになったのだろう?女騎士さんは剣に向かってウンウンと頷くとニッコリ笑顔で抜剣して陰キャに向かって歩いて行く。

「ちょ!・・・がぼがぼ・・・待って!!・・・ごぼごぼ・・・」

「君は口出さないの。」

「いや、ほんと!・・・ごぼごぼ・・・真面目な話なんですって!」

「ミナモさん。ちょっと待ってあげてください。剣士君、真面目な話とは?”一応”聞いてやる。」

「そいつの使っていた剣について聞きたいことがあるんですって!」

「それってーと、こいつか?」

 おっさんが落ちている折れた剣を拾い上げて持ってくる。

「そう!それ!・・・やっぱり・・・。」

「この剣がなんだと言うんだ?剣士君。」

「これ・・・コレクターさんがヴェスパ様と戦った時に使ってた剣だと思います。ヴェスパ様に見て貰えばより確実だと思いますが・・・。」

「なに!?お前、これをどこで手に入れた!」

 女騎士さんが胸ぐらを掴んで問いただすと陰キャが特有の早口で答えた。

「な、殴んないで。か、買ったんだよ!キツネからだ!」

 その名には覚えがあった。ここに来てすぐ、シャークさんとヴェスパ様に二足歩行するサイ顔の生物から助けてもらい、アーカイブのキャンプに来たときに会った妙に胡散臭い女だ。

「キツネって言うと、あのアーカイブの所を出入りしてる糸目の胡散臭い女か?」

「そうだ。あいつはいつもどこからともなく現れて部隊に商品を売ってくれるんだ。・・・ぼったくりだがな。俺もその剣買うのに給料の半年分が~・・・しくしく。」

「まーた、泣き出したよ。てか敵に捕まって簀巻きにされて転がされてる時点で金の心配してる場合じゃないんだぞ!・・・がぼがぼ。」

「君も人のこと言えないけどね!」

 再開される拷問。僕の様子を見て『スン・・・』と落ち着く陰キャ。とても失礼な気がする。

「・・・なんだろう。俺・・・絶望的な状態なのにあいつ見てると妙に落ち着くんだけど。」

「うちの恥部だからあまり見ないでくれ・・・。」

 女騎士さんが目を伏せながら陰キャにそう言っていた。敵の陰キャ君以外誰も僕と目を合わせてくれないんだけど?なんだろう?・・・とても失礼な気がする。



________________________________




「てか、女騎士さん。よく場所が分かりましたね。」 ズルズル・・・

「ん?ああ、こいつだ。」

 女騎士さんが自分の左肩を指すと小さな蜘蛛が乗っていた。

「んもぅ・・・。あの人、ツンデレなんだから~。」 ズルズル・・・

「なあ、ストラクチャー?お前、何で平気なの?」 ズルズル・・・

「え?何が?」 ズルズル・・・

「いや!こうして簀巻きで荷物みたいに引きずられていることだよ!」 ズルズル・・・

「現在、皆と合流のため洞窟内をチェイサーさんの案内で進んでいる所だ。尚、僕と捕虜の陰キャの茨君は歩かなくても運んでくれるVIP待遇さ。」

「どこに向かって説明してるの?・・・なあ、ストラクチャー?俺は敵だからいいんだけどよぉ・・・。お前、言ってて悲しくならないか?」

「え?」

「いや・・・きょとんとされても困るんだけど・・・。まぁいいや。お前が普段どういう扱いされてるか、だいたい分かったわ。」

 溜息をついて悲しそうな目をする陰キャ君。負けて捕虜になれば当然か・・・。君は妙に親近感有るから命だけは助けてもらえるよう嘆願してあげるからな。希望を捨てるなよ!

「匂いが濃くなってきたよ。そろそろ付くと思う。」

「かー、やっとか~。無事救出も済んだことだし一杯やりたいねぇ~。」

「帰ってからにしなさい、ノブ。まだ追手が来るかもしれないし油断できないわよ。」

「堅いこと言うなよ~、ミナモ~。」

 先行するチェイサーさんの言葉に気を抜いていちゃつきだすリア充ども。てか、おっさん、”ノブ”って名前なのか・・・知らなかった。まー、野郎の名前なんざに脳のメモリーを使うこと自体勿体ないからどうでもいいか。

「陰キャさん、陰キャさん!」

「隠者だ!ボケ!やっぱりワザと言ってるだろ、お前!」

「リア充がウザいんであいつらもっかい簀巻きにしてくださいよ。」

「気持ちはわかるが駄目だ。」

「どうして?」

「俺たちを引っ張ってる金髪ゴリラの鉄拳がクソ痛いからだ。」

「あー・・・痛いよね~、アレ。でも、慣れてくるから。」

 『ええ~・・・』というような目で見られて引かれる。なんか変なこと言ったかな?

「聞こえてるぞ、お前たち。そら、着いたぞ。」

 洞窟の暗さもあって明るい日差しが刺すように視界を照らす。それを遮るように上から覗きこむ不満げな顔。

「何をしてますの?」

 その問いは僕の簀巻きに関してではないだろう。自慢じゃないが簀巻きにされるようなことをするのはこの人も織り込み済みだろう。であれば、『なんで敵を連れてきたのか』だろう。
 それに関してはチェイサーさんきっての頼みというのもあったんだけどね・・・。このハーミットソーンに何をさせたいのか、だいたい予想つくけど、良い事にはならないよなぁ~・・・。ヴェスパ様も反対しそう・・・。ああ・・・でも、ここでやめさせればしこりになりそうだし・・・うーん・・・うーん・・・。
 とりあえずテキトーに誤魔化しておくか。

「太陽が・・・眩しかったから・・・かな?」

「よし、死ね、異邦人。」

「判断が早すぎます、ヴェスパ様。裁判くらい開いてください。」

 鱗●さんもニッコリの早さで殺さんでください。

「あ、あの!俺がお願いしたんです・・・連れていきたいって・・・。」

「何故?」

「それは・・・。」
 
 処されかけた僕をチェイサーさんが止めに入ってくれるが、そのチェイサーさんが連れてきたと知ると、ヴェスパ様は彼を厳しく睨みつけた。

「この世界には色んな奴が居ますのよ?連れまわすだけでもリスクになりますの。こんな風にね!」

 そう言って彼女は簀巻きのハーミットソーンを持ち上げると彼の影になっている所に閃光弾を投げつける。
 一瞬の激しい光にハーミットソーンの影が無くなると、影があった場所に現れたのはしゃがみ込んでいるシャドウシャークさんだった。
 急に現れた新たな敵に僕以外の全員が身構えるが、ヴェスパ様はそれを軽く手を挙げて『大丈夫だ』と言わんばかりに制止する。

「・・・なんで解った、ヴェスパ。」

「長い付き合いですもの。勘って奴ですわ。逆に聞きますけど、何故殺らなかった?」

「合流してから一網打尽に仕様と思ったのさ。寝静まった後にでもな。」

「嘘ばっかり。見張りも無しに呑気に寝こけるわけないでしょ?そこの簀巻きにされている馬鹿じゃないのですから。戦力が分散してる間に殺った方が勝ち筋がありましたわ。どうせ迷っているのでしょう?シャーク。アーカイブのあの虐殺を見て。」

「ぷぷぷ・・・言われてるぞ、陰キャ君。」

「いや、お前のことだぞストラクチャー。何『うそーん』みたいな顔してんだよ。当り前だろ。」

 シリアスな場面で芋虫二人組がコソコソと話ししてると女王蜂様からガンを飛ばされる。眼光だけでも毒蜂の一刺しのようだ。

「それは・・・!!・・・いや・・・そうだよ、迷ってる。だが、あの人に助けてもらったのも事実だ。だから・・・」

「裏切れないと?でも、彼女に言われるがまま殺すことも出来ないのでしょう?」

「ああ・・・わからないんだ・・・このまま彼女に付いて行くべきか否か・・・。」

 そう言うとシャークさんは俯いて押し黙ってしまった。

「・・・ま、”おまけ”があなたで良かったわ、シャーク。帰路に着く間、暫く一緒なさいな。どうせわたくしとあなた、手の内を知りすぎて勝負になりませんわよ。」

 ヴェスパ様はシャークさんに縄も何もかけずに行ってしまう。女騎士さんは彼女を追いかけて異議を唱えた。

「ヴェスパ様。彼の能力は危険です!また攫われるやも・・・。」

「心配いりませんわ。確かに警戒すべき能力に違いありませんが、使う人間が警戒すべき人間じゃない。あんな迷いに満ちた目で何が出来るって言うのかしら。彼はわたくしが見ておきますから、あなたはカルディアのお守りでもしていらして。」

「わかり・・・ました・・・。」

 少し納得いかない様子だったが、女騎士さんはカルディアさんにぴったりくっ付いて行ってしまった。

「まあ、なんだ・・・。シャークさん、ゆっくりしていってくださいよ。あと、すみませんが僕らを運んでくれると嬉しいです。」

「あのさぁ・・・まぁ、いいや。お前って馬鹿か大物、どっちなんだろうな。」

 優しき影鰐さんは僕の言葉を聞いて少しだけ暗い顔が解れ、軽く笑ってから僕らを引っ張って行ってくれるのだった。
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