125 / 157
塔内編
塔内編その36
しおりを挟む
「ふぅ・・・確かこっちであってる・・・よな?」
自分で掘ったのだが、いかんせん光の届かぬ洞穴。カンテラの心もとない灯りを頼りに皆の後を追っているのだが・・・ダミーの脇道まで用意して、おまけに行きと帰りじゃ当然だけど逆だもんな。見え方が違う分、自信無くなってきた。
「・・・」
あれ~?右だっけ?左だっけ?上下にも道があるけど、こんなん掘ったっけ?自分で掘っておいて分かんなくなっちゃった!てへっ!
「オーマイガー!!どーすんの!!・・・あっ、そーだ!こんな時のための・・・てってれー!ケータイ電話~(盗品)。何を隠そう、これで地上でアーカイブの部隊を監視していたヴェスパ様とやりとりしてチャンスを伺い、今回の作戦を成功させたのだ!まさに今回のMVP!最後まで役立ってもらうよ~MVPちゃん」
トゥルルルルルルル・・・ピ
「なにかしら?」
「あ、ヴェスパ様~。今、掘った洞窟内に居るんですけど~。道に迷っちゃって~。上でしたっけ?下でしたっけ?右でしたっけ?左でしたっけ?」
「お前、馬鹿なの?死ね。」
プッ!
「oh・・・辛辣ぅ・・・。いやいやいやいや!そうじゃなくてぇ!ちょちょちょちょちょ!洒落にならんのよ!」
トゥルルルルルルル・・・ピ
「何?」
「いや、だから!迷ってるんですってば!ほら!掘り進めた時、何か・・・ワームの型の生物を使って僕ら誘導してくれたじゃないですか!?アレ、またやってくださいよ!」
「そんなのもうとっくに解除しましたわ。」
プッ!
う、うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!まずいまずいまずいまずい!!!!
と、とりあえず止まっていたら敵に追いつかれる!!動かないと!!!上上下下左右左右BA!
闇雲に進が、動けば動くほど道が違う気がしてきた・・・。お、終わったか・・・我が人生・・・。最後はこんな洞穴で一人寂しくなんて・・・うう・・・。最後にヴェスパ様に電話かけて死ぬまで話聞いてもらお・・・
涙ぐみながら携帯を取り出した時・・・後方から微かに物音がした。
「た、助けに来てくれたのか!?」
急いで来た道を戻ると、曲がり角付近に灯りが見える。
『やった!助かる!』と勢いよく曲がるとそこには見知らぬ陰鬱そうな男が。ぶつかりそうなくらいの距離で鉢合わせて、お互い後ろに飛んで距離を取った。
「あ、あぶねー・・・パン咥えてなくて良かったぜ・・・!」
「こっちこそ!ノンケだから出会いがしらラッキースケベは美少女希望だよ!」
「ともあれ!見つけたぜ!お前、ストラクチャーだな!しかも一人。へへへ・・・ラッキー!これで俺も昇進だ。」
「!?」
そう言って敵の男は腰の獲物を抜いて構えたのだが、その剣には見覚えがあったのだ。街で共闘したコレクターさんが使っていた炎剣に非常に似ていたのだ。
「ま、まて!!」
「命乞いは聞かねぇ!敵を燃やし尽くせ!レーヴァティン!!」
まずい!この洞穴じゃ炎を避けるスペースが無い!男との間に壁を作って防火壁にするか!?いや・・・でも、レーヴァティンの熱量だと中途半端な厚みじゃ防げないだろう。今から生成して間に合うか!?・・・迷ってる間は無い!やるしか!
地面に手をついて能力を発動させようとしたときだった・・・。
「どーーーーーーーん!!!」
「へぶしッ!!!」
男の真横の壁が割れて大量の水が押し流されてくる。その所為で男は吹っ飛ばされて奥の壁に激突した。そして大量の水の奥から出てきたのは・・・
「み、ミナモさーーーーん!!!・・・へぶしッ!」
「抱きつこうとすな!金取るわよ!」
涙を流しながら感動の再会にと抱擁しようと思っただけなのに・・・。手で押しやるなんて酷い・・・。
「おいおい・・・。冷たいじゃないの。俺たちもいるってのに。」
「あーはいはい。ありがとね。てか、チェイサーは分かるけど、おっさんはなんで来たの?」
「何でって・・・お前、酷くない?」
「はは・・・剣士君。素晴らしいくらい分かりやすいね、君。まぁ、無事でよかったよ。」
肩を落とすおっさんと苦笑いするチェイサーに軽口を叩きながら一応礼を伝え、笑い合っていると、後ろから怒鳴られる。
「おい・・・。お前ら!俺を無視するんじゃねぇ!!」
後ろには水浸しの敵の男が。改めて見てもパッとしない根暗そうな奴だな。人のこと言えんが・・・。
「あ、生きてたの?」
「勝手に殺すんじゃねぇ!・・・お前ら見てろよ。この炎剣の力を・・・って」
男が改めて剣を構えながら喋っていると、ミナモさんが姿勢を低くして手に水を纏わせながら一気に距離を詰めていく。
(速い!!)
「ひ、ひいぃ・・・!!まだセリフのとちゅ・・・」
男がその勢いに気圧されて、後ろにバランスを崩す。ミナモさんが横薙ぎに腕を振ると、手に溜めていた水が形取り剣となって男を襲った。
その一閃は本来、男の首を捉えていたが、男が後ろにバランスを崩したために、空を切ったのだが、代わりに
キンッ!!!
男の炎剣を真っ二つにしてしまった。剣の刀身が空中の舞い”カラン”と乾いた音を立てて地面に落ちるとともに
「あ・・・・。あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
男の叫び声が洞穴内に響き渡った。
「お、俺の給料半年分ーーーーー!!!!!!!!!今までコツコツ溜めた全財産がーーーーーーーーーーーーー!!!!」
膝を付き涙を流す男。全財産は敵ながら気の毒な・・・。しかも一度も使えずに叩き折られるとは。
「す、すごい・・・!剣が完全に真っ二つに。」
「どうなってんの?それ?」
既に勝ったつもりか、チェイサーとおっさんがミナモさんに駆け寄り質問している。
「ん~?これね。インパクト時に刃が高速振動、高速回転してるのよ。切ればチェーンソー、突けばカシナートね。形成させれる水量があれば形状や長さも自在に変えれるから状況に応じて変化させれるし。まぁ、ここに来てる奴等って身体能力バケモンだからギリギリまで情報は見せないようにしてるんだけどね。ここまで能力を突き詰めるの結構時間かかったんだから。」
とんでもない隠し玉を持ってたな、この人。何がダイアウルフ程度だよ。あのキリングバイトって虎型生物もこの人、一人で勝てるだろ。実力を低く見積もってるな、食えない人だ。
戦い方も洗練されている。さっきの一合だってギリギリまで手に水を溜めたままで、相手に攻撃の情報を与えないようにしていた。相手の出方を見てから形成していたし、アレを対処するのは至難の技だろう。
遠距離も近距離も出来るなんて、キャバ嬢のねーちゃんやらせておくには勿体ないくらいの戦闘職の人材だぞ。
「・・・お、お前らもう許さないからな!俺の真の能力!嵌る奴には嵌る、無敵の力を!」
敵が折れた剣を握りしめながら立ちあがり、僕達に向かって何かを仕掛けようとしていた。
「ストラクチャー!」
彼を囲むように土壁を作り拘束するが、
「無駄だ!こんなんじゃ俺の能力は阻止できないぜ!隠者の茨‐ハーミットソーン‐!」
土壁で覆われた中からの攻撃。地面から無色透明の茨が伸びてくる!
(か、絡め捕られる!!)
が、しかし茨は僕の手前で止まり動かなくなってしまった。
「あれ?」
ちょんちょんと手で触っても特に反応もなく、ジッと止まっている。しかし僕以外はそうでは無かったようで・・・
「ちょっと!何よこれ!」
「なんで俺たちだけ!」
周りを見渡すとミナモさんとおっさんが水色の茨に巻かれて地面を転がっていた。
「こんなもの!・・・あれ?の、能力が出ない!?」
ミナモさんから驚愕の声が漏れる。恐らく能力で茨を切ろうとしたのだろうが能力が発動できないようだった。その様子に土壁の中から声が聞こえる。
「ははははは!!その様子じゃ何人かは茨に巻かれたな!我が最強の能力!ハーミットソーンはリア充だけを拘束し無力化する。仲間の拘束を解いて欲しくば、俺をここから出すんだな!」
「な、なんて恐ろしい能力なんだ!」
「そうだろうそうだろう!フハハハハハハ!」
僕と敵の馬鹿っぽいやり取りの中、チェイサーさんは真剣な表情で僕に話しかけてくる。
「あ、あの・・・剣士さん。危険を承知でお願いしたいのですが、彼の拘束を解いてくれませんか?聞きたいことがあるんです・・・。」
「そうだぞ!早く出せ!ストラクチャー。お前、この中、暗すぎて怖いんだよ!俺は昔から夏のホラー番組見たら寝れないくらい怖がり屋さんだったんだぞ!」
滅茶苦茶効いとるやん。正直、このまま面堂よろしく暗闇攻めでいい気もするが・・・
「まぁ、他に武器もなさそうだし、この能力とさっき見た基礎能力なら10回やって10回僕が勝つだろうからいいけど・・・。」
「何?ストラクチャー。お前、そんなに強いのか!聞いてないぞ。」
「・・・鬼教官にしこたましごかれてるから・・・。」
「なんか・・・ごめん・・・。」
テンション駄々下がりで呟きながら能力を解除すると、出てきた敵の視線が妙に優しく、争ってるはずなのに不思議な空気が流れる。
「で?何が聞きたいんだ?」
「ちょっと!先に私達を解放しなさいよ!」
「そうだそうだ!」
「ちょっと、リア充組黙っといてくれます?」
陰キャはリア充に厳しいんだよ。
「すみません・・・ミナモさん、ギャンブラーさん。すぐ済みますから・・・。・・・あの聞きたいことは、その能力は恋人が居ると発動するってことですか?」
「その通りだ。リア充爆発しろ。」
「それは・・・恋人同士の距離とかが関係しますか?」
「?・・・いや?能力を掛ける相手は近くに居ないといけないが、その相手の恋人がどんなに離れていても、能力は発動する。因みに茨の色で分かるんだ。恋人同士が近くに居ると同色のペアの色になる。そこに転がってる二人みたいに。恋人がその場に居ない場合は色の薄い無色の茨で拘束される。」
「そ、それじゃ俺って・・・。」
「非リア充だな。なんだ?意中の相手でもいるのか?だが、それは残念だが片思いってやつだぜ。フヒヒ・・・。」
ハーミットソーンの言葉を聞いてチェイサーはショックを受けて項垂れている。
あー・・・意外なところで現実突きつけられちゃったなー。これが諦めるきっかけになればいいが・・・。
「なあ。ちょっといいか。陰キャの茨だっけ?」
「隠者の茨だ!で、なんだ?ストラクチャー。さっさと俺の昇進のために死んでくれ。」
「いや、おかしいでしょ?それで死ぬ奴いないからな。・・・で、これってどういう事なの?」
僕は途中まで襲ってきて固まってる茨を陰キャに見せる。
「いや・・・これは俺も初めて見たぞ?なんだこれ?どういうことだ?お前彼女居たりしないのか?」
「居ない居ない!居たら簀巻きになって転がってるってことだろ?あそこの二人みたいに。てか、あの二人はそういうことで間違いない?」
僕は水色の茨で拘束され転がっている二人を指す。
「ああ・・・まあ、そうだな。」
その言葉を聞いて僕はニッコニコの笑顔で簀巻きになっている二人の元へ行き、しゃがみ込む。
「ねえねえ。僕がカルディアさん達の救出に全力を注いでいる、このひと月に君たちは何してるのかな~?」
「い、いやぁ~。ひと月もありゃ男と女なんてそんなもんだろ?なあ?」
「そ、そうよねぇ~。あ、あははは~・・・。」
僕はゆっくり両手をついて能力を発動させると二人の転がっている地面がサラサラの砂に変化していく。その結果、徐々に身体が沈んでいく二人は芋虫のようにわたわたともがく。
「ちょ!おま・・・洒落になって・・・わぷっ・・・。」
「す、砂が口に・・・」
「・・・どこまでしましたか?」
「は、はぁ?」
「どこまでしましたか!?A or B or C?」
「ABCっておま・・・古・・・。」
「早く答えないと身体が沈み切って窒息しちゃうよ~。」
「C!Cよ!さあ!言ったわ!早く助けて!」
「C!?Cですって奥さん!許せませんよ、これは!」
僕は振り返り、本来敵であるハーミットソーンに向かって同意を求めると
「ん~・・・ギルティ♪」
ハーミットソーンもノリノリで笑顔で親指を逆さまに向ける。それを見てから僕はより力を込めて地面を砂地に変えていく。
「だー、お前!助けに来てやったのに、裏切者~~~!!!」
「そーよ!ここまで手伝った恩を仇で返す気!?」
「ふははははははは、怖かろ・・・へぶしッ!」
突然現れた誰かに殴打され僕は吹っ飛び潰れたカエルのような声で鳴く。
「・・・何をやってるんだ、お前は~~~~~!!!!」
見上げるとそこには薄暗い洞窟の中、カンテラの光に照らされた金髪の夜叉の顔が浮かび上がっておりました。
「あ、あははー・・・冗談!冗談に決まってるじゃないですかー、やだなー、もう!びっくりした?イエーイ!どっきり成功!・・・じゃ、だめ・・・?」
「処刑」
「い、いやああああああああああああああああああああああああああ!!!」
哀れ洞窟内に儚き非リア充の絶叫が木霊するのであった。
自分で掘ったのだが、いかんせん光の届かぬ洞穴。カンテラの心もとない灯りを頼りに皆の後を追っているのだが・・・ダミーの脇道まで用意して、おまけに行きと帰りじゃ当然だけど逆だもんな。見え方が違う分、自信無くなってきた。
「・・・」
あれ~?右だっけ?左だっけ?上下にも道があるけど、こんなん掘ったっけ?自分で掘っておいて分かんなくなっちゃった!てへっ!
「オーマイガー!!どーすんの!!・・・あっ、そーだ!こんな時のための・・・てってれー!ケータイ電話~(盗品)。何を隠そう、これで地上でアーカイブの部隊を監視していたヴェスパ様とやりとりしてチャンスを伺い、今回の作戦を成功させたのだ!まさに今回のMVP!最後まで役立ってもらうよ~MVPちゃん」
トゥルルルルルルル・・・ピ
「なにかしら?」
「あ、ヴェスパ様~。今、掘った洞窟内に居るんですけど~。道に迷っちゃって~。上でしたっけ?下でしたっけ?右でしたっけ?左でしたっけ?」
「お前、馬鹿なの?死ね。」
プッ!
「oh・・・辛辣ぅ・・・。いやいやいやいや!そうじゃなくてぇ!ちょちょちょちょちょ!洒落にならんのよ!」
トゥルルルルルルル・・・ピ
「何?」
「いや、だから!迷ってるんですってば!ほら!掘り進めた時、何か・・・ワームの型の生物を使って僕ら誘導してくれたじゃないですか!?アレ、またやってくださいよ!」
「そんなのもうとっくに解除しましたわ。」
プッ!
う、うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!まずいまずいまずいまずい!!!!
と、とりあえず止まっていたら敵に追いつかれる!!動かないと!!!上上下下左右左右BA!
闇雲に進が、動けば動くほど道が違う気がしてきた・・・。お、終わったか・・・我が人生・・・。最後はこんな洞穴で一人寂しくなんて・・・うう・・・。最後にヴェスパ様に電話かけて死ぬまで話聞いてもらお・・・
涙ぐみながら携帯を取り出した時・・・後方から微かに物音がした。
「た、助けに来てくれたのか!?」
急いで来た道を戻ると、曲がり角付近に灯りが見える。
『やった!助かる!』と勢いよく曲がるとそこには見知らぬ陰鬱そうな男が。ぶつかりそうなくらいの距離で鉢合わせて、お互い後ろに飛んで距離を取った。
「あ、あぶねー・・・パン咥えてなくて良かったぜ・・・!」
「こっちこそ!ノンケだから出会いがしらラッキースケベは美少女希望だよ!」
「ともあれ!見つけたぜ!お前、ストラクチャーだな!しかも一人。へへへ・・・ラッキー!これで俺も昇進だ。」
「!?」
そう言って敵の男は腰の獲物を抜いて構えたのだが、その剣には見覚えがあったのだ。街で共闘したコレクターさんが使っていた炎剣に非常に似ていたのだ。
「ま、まて!!」
「命乞いは聞かねぇ!敵を燃やし尽くせ!レーヴァティン!!」
まずい!この洞穴じゃ炎を避けるスペースが無い!男との間に壁を作って防火壁にするか!?いや・・・でも、レーヴァティンの熱量だと中途半端な厚みじゃ防げないだろう。今から生成して間に合うか!?・・・迷ってる間は無い!やるしか!
地面に手をついて能力を発動させようとしたときだった・・・。
「どーーーーーーーん!!!」
「へぶしッ!!!」
男の真横の壁が割れて大量の水が押し流されてくる。その所為で男は吹っ飛ばされて奥の壁に激突した。そして大量の水の奥から出てきたのは・・・
「み、ミナモさーーーーん!!!・・・へぶしッ!」
「抱きつこうとすな!金取るわよ!」
涙を流しながら感動の再会にと抱擁しようと思っただけなのに・・・。手で押しやるなんて酷い・・・。
「おいおい・・・。冷たいじゃないの。俺たちもいるってのに。」
「あーはいはい。ありがとね。てか、チェイサーは分かるけど、おっさんはなんで来たの?」
「何でって・・・お前、酷くない?」
「はは・・・剣士君。素晴らしいくらい分かりやすいね、君。まぁ、無事でよかったよ。」
肩を落とすおっさんと苦笑いするチェイサーに軽口を叩きながら一応礼を伝え、笑い合っていると、後ろから怒鳴られる。
「おい・・・。お前ら!俺を無視するんじゃねぇ!!」
後ろには水浸しの敵の男が。改めて見てもパッとしない根暗そうな奴だな。人のこと言えんが・・・。
「あ、生きてたの?」
「勝手に殺すんじゃねぇ!・・・お前ら見てろよ。この炎剣の力を・・・って」
男が改めて剣を構えながら喋っていると、ミナモさんが姿勢を低くして手に水を纏わせながら一気に距離を詰めていく。
(速い!!)
「ひ、ひいぃ・・・!!まだセリフのとちゅ・・・」
男がその勢いに気圧されて、後ろにバランスを崩す。ミナモさんが横薙ぎに腕を振ると、手に溜めていた水が形取り剣となって男を襲った。
その一閃は本来、男の首を捉えていたが、男が後ろにバランスを崩したために、空を切ったのだが、代わりに
キンッ!!!
男の炎剣を真っ二つにしてしまった。剣の刀身が空中の舞い”カラン”と乾いた音を立てて地面に落ちるとともに
「あ・・・・。あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
男の叫び声が洞穴内に響き渡った。
「お、俺の給料半年分ーーーーー!!!!!!!!!今までコツコツ溜めた全財産がーーーーーーーーーーーーー!!!!」
膝を付き涙を流す男。全財産は敵ながら気の毒な・・・。しかも一度も使えずに叩き折られるとは。
「す、すごい・・・!剣が完全に真っ二つに。」
「どうなってんの?それ?」
既に勝ったつもりか、チェイサーとおっさんがミナモさんに駆け寄り質問している。
「ん~?これね。インパクト時に刃が高速振動、高速回転してるのよ。切ればチェーンソー、突けばカシナートね。形成させれる水量があれば形状や長さも自在に変えれるから状況に応じて変化させれるし。まぁ、ここに来てる奴等って身体能力バケモンだからギリギリまで情報は見せないようにしてるんだけどね。ここまで能力を突き詰めるの結構時間かかったんだから。」
とんでもない隠し玉を持ってたな、この人。何がダイアウルフ程度だよ。あのキリングバイトって虎型生物もこの人、一人で勝てるだろ。実力を低く見積もってるな、食えない人だ。
戦い方も洗練されている。さっきの一合だってギリギリまで手に水を溜めたままで、相手に攻撃の情報を与えないようにしていた。相手の出方を見てから形成していたし、アレを対処するのは至難の技だろう。
遠距離も近距離も出来るなんて、キャバ嬢のねーちゃんやらせておくには勿体ないくらいの戦闘職の人材だぞ。
「・・・お、お前らもう許さないからな!俺の真の能力!嵌る奴には嵌る、無敵の力を!」
敵が折れた剣を握りしめながら立ちあがり、僕達に向かって何かを仕掛けようとしていた。
「ストラクチャー!」
彼を囲むように土壁を作り拘束するが、
「無駄だ!こんなんじゃ俺の能力は阻止できないぜ!隠者の茨‐ハーミットソーン‐!」
土壁で覆われた中からの攻撃。地面から無色透明の茨が伸びてくる!
(か、絡め捕られる!!)
が、しかし茨は僕の手前で止まり動かなくなってしまった。
「あれ?」
ちょんちょんと手で触っても特に反応もなく、ジッと止まっている。しかし僕以外はそうでは無かったようで・・・
「ちょっと!何よこれ!」
「なんで俺たちだけ!」
周りを見渡すとミナモさんとおっさんが水色の茨に巻かれて地面を転がっていた。
「こんなもの!・・・あれ?の、能力が出ない!?」
ミナモさんから驚愕の声が漏れる。恐らく能力で茨を切ろうとしたのだろうが能力が発動できないようだった。その様子に土壁の中から声が聞こえる。
「ははははは!!その様子じゃ何人かは茨に巻かれたな!我が最強の能力!ハーミットソーンはリア充だけを拘束し無力化する。仲間の拘束を解いて欲しくば、俺をここから出すんだな!」
「な、なんて恐ろしい能力なんだ!」
「そうだろうそうだろう!フハハハハハハ!」
僕と敵の馬鹿っぽいやり取りの中、チェイサーさんは真剣な表情で僕に話しかけてくる。
「あ、あの・・・剣士さん。危険を承知でお願いしたいのですが、彼の拘束を解いてくれませんか?聞きたいことがあるんです・・・。」
「そうだぞ!早く出せ!ストラクチャー。お前、この中、暗すぎて怖いんだよ!俺は昔から夏のホラー番組見たら寝れないくらい怖がり屋さんだったんだぞ!」
滅茶苦茶効いとるやん。正直、このまま面堂よろしく暗闇攻めでいい気もするが・・・
「まぁ、他に武器もなさそうだし、この能力とさっき見た基礎能力なら10回やって10回僕が勝つだろうからいいけど・・・。」
「何?ストラクチャー。お前、そんなに強いのか!聞いてないぞ。」
「・・・鬼教官にしこたましごかれてるから・・・。」
「なんか・・・ごめん・・・。」
テンション駄々下がりで呟きながら能力を解除すると、出てきた敵の視線が妙に優しく、争ってるはずなのに不思議な空気が流れる。
「で?何が聞きたいんだ?」
「ちょっと!先に私達を解放しなさいよ!」
「そうだそうだ!」
「ちょっと、リア充組黙っといてくれます?」
陰キャはリア充に厳しいんだよ。
「すみません・・・ミナモさん、ギャンブラーさん。すぐ済みますから・・・。・・・あの聞きたいことは、その能力は恋人が居ると発動するってことですか?」
「その通りだ。リア充爆発しろ。」
「それは・・・恋人同士の距離とかが関係しますか?」
「?・・・いや?能力を掛ける相手は近くに居ないといけないが、その相手の恋人がどんなに離れていても、能力は発動する。因みに茨の色で分かるんだ。恋人同士が近くに居ると同色のペアの色になる。そこに転がってる二人みたいに。恋人がその場に居ない場合は色の薄い無色の茨で拘束される。」
「そ、それじゃ俺って・・・。」
「非リア充だな。なんだ?意中の相手でもいるのか?だが、それは残念だが片思いってやつだぜ。フヒヒ・・・。」
ハーミットソーンの言葉を聞いてチェイサーはショックを受けて項垂れている。
あー・・・意外なところで現実突きつけられちゃったなー。これが諦めるきっかけになればいいが・・・。
「なあ。ちょっといいか。陰キャの茨だっけ?」
「隠者の茨だ!で、なんだ?ストラクチャー。さっさと俺の昇進のために死んでくれ。」
「いや、おかしいでしょ?それで死ぬ奴いないからな。・・・で、これってどういう事なの?」
僕は途中まで襲ってきて固まってる茨を陰キャに見せる。
「いや・・・これは俺も初めて見たぞ?なんだこれ?どういうことだ?お前彼女居たりしないのか?」
「居ない居ない!居たら簀巻きになって転がってるってことだろ?あそこの二人みたいに。てか、あの二人はそういうことで間違いない?」
僕は水色の茨で拘束され転がっている二人を指す。
「ああ・・・まあ、そうだな。」
その言葉を聞いて僕はニッコニコの笑顔で簀巻きになっている二人の元へ行き、しゃがみ込む。
「ねえねえ。僕がカルディアさん達の救出に全力を注いでいる、このひと月に君たちは何してるのかな~?」
「い、いやぁ~。ひと月もありゃ男と女なんてそんなもんだろ?なあ?」
「そ、そうよねぇ~。あ、あははは~・・・。」
僕はゆっくり両手をついて能力を発動させると二人の転がっている地面がサラサラの砂に変化していく。その結果、徐々に身体が沈んでいく二人は芋虫のようにわたわたともがく。
「ちょ!おま・・・洒落になって・・・わぷっ・・・。」
「す、砂が口に・・・」
「・・・どこまでしましたか?」
「は、はぁ?」
「どこまでしましたか!?A or B or C?」
「ABCっておま・・・古・・・。」
「早く答えないと身体が沈み切って窒息しちゃうよ~。」
「C!Cよ!さあ!言ったわ!早く助けて!」
「C!?Cですって奥さん!許せませんよ、これは!」
僕は振り返り、本来敵であるハーミットソーンに向かって同意を求めると
「ん~・・・ギルティ♪」
ハーミットソーンもノリノリで笑顔で親指を逆さまに向ける。それを見てから僕はより力を込めて地面を砂地に変えていく。
「だー、お前!助けに来てやったのに、裏切者~~~!!!」
「そーよ!ここまで手伝った恩を仇で返す気!?」
「ふははははははは、怖かろ・・・へぶしッ!」
突然現れた誰かに殴打され僕は吹っ飛び潰れたカエルのような声で鳴く。
「・・・何をやってるんだ、お前は~~~~~!!!!」
見上げるとそこには薄暗い洞窟の中、カンテラの光に照らされた金髪の夜叉の顔が浮かび上がっておりました。
「あ、あははー・・・冗談!冗談に決まってるじゃないですかー、やだなー、もう!びっくりした?イエーイ!どっきり成功!・・・じゃ、だめ・・・?」
「処刑」
「い、いやああああああああああああああああああああああああああ!!!」
哀れ洞窟内に儚き非リア充の絶叫が木霊するのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる
ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。
「運命の番が現れたから」
その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。
傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。
夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。
しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。
「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」
*狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話
*オメガバース設定ですが、独自の解釈があります
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる