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塔内編
塔内編その35
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「へっ・・・嫌味なくらい晴れてやがるな。」
大男が大の字になって仰向けになり倒れている。彼の恵まれた体躯は砂と血と汗に塗れ、空から照らす光を受けてギラギラと鈍い光を放っていた。
その大男にスッと影が落ちる。その人物は大男上から覗き込み、ジッと見下ろしていた。
「なぜ反旗を翻したのです?」
「さっき言ったろ?道が違えたんだよ、アーカイブ。お前と俺とのな・・・。」
「違えた?まさか『昔の女に手を出したから』とか言いませんよね?」
「・・・へへへ・・・。」
大男は力無くだが満足そうに笑う。それで察したのか学者風の女は溜息をついた。
「呆れた・・・。あなた、あの女に殺されたのでしょう?それにもう百何十年も交流が無いはずですが?どうして今更・・・。」
「殺されたから思い出したのさ・・・。当初の目的をな。まだ、あいつ能力に呑まれず、しぶとく生きてやがったからな・・・。」
「悪人らしからぬ純情さですね。気持ち悪い・・・。」
「悪人が善事を行おうと、善人が悪事を行おうと、勝手だろう・・・?」
二人の会話を見守っていた、大男を切り伏せたであろう、血でぬれた剣を携えた騎士風の男が声を開く。
「何を言う!!人は善に生き、正しさを貫くべきだ!」
「く・・・はははははははは!!!」
「何故笑う!」
「何故って?これが笑わずにいられるか?お前には言われたくないぜ、ジャスティス。」
男が指を指す。その方角には血の池とその先に洞窟の入口があり、さながら地獄の門の様に見える。
「あれは・・・!・・・そう!正義の裁きを受けた罪人だ!」
「はははははははは!!」
「何が可笑しい!」
「『人が最も残酷になるのは悪に染まった時ではない。正義の側に立った時だ。』って聞いたことはねぇか?お前の事だよ、ジャスティス。・・・正義正義正義正義・・・。大層なこったなぁ?その正しさは誰が保証してくれるんだ?ええ?ここにいるアーカイブか?こいつの判断がどうして正しいと証明できるんだ?こんな奴の言いなりでよぉ・・・。自分で決められねぇ。判断出来ねぇ。いや・・・怖いんだろ?自分で判断するのが。もし違っていたら行使する力が正義ではなく、ただの暴力だもんなぁ!良かったなぁ~。決めてくれる奴がいてよぉ~?楽だろ~?人に任せたらよぉ。」
「だ、黙れ・・・。」
「正義だなんだ大層なもん掲げてもやってることはただの暴力だ。犯罪者と同じ穴のムジナだよ。その私刑の後があれってわけだ。ははははははははははは!!!」
大男は再び血の池を指さすと大声で嗤い出す。それを青ざめながらジャスティスは聞いていた。
「だ、黙れーーーー!!!!」
笑う大男に顔を歪ませながらジャスティスは剣を突き立てていく。その手をアーカイブが掴み、止める。
「待ちなさい!ジャスティス。まだ殺してはなりません。あなたはもう後方に下がってなさい!」
「ですが!!!」
「下がりなさい。」
「・・・はい・・・。」
ぴしゃりと言われるとジャスティスはフラフラと夢遊病患者のように去っていく。それを見送ってからアーカイブは再び大男に話しかけ始めた。
「私が間違っていると?」
「さあな、正誤は知らねぇよ。それこそ神にだって無理だろうよ、あいつ等、妙に人間くさいしな。そんなものきっと誰にも解らねえだろうよ。だが、これだけは言える。お前と俺の目的が一致しなかった、それは事実さ。それにお前には可能性を感じない。皆を導くようなカリスマを感じないのさ。・・・アーカイブ、どうして下層を隈なく調べなかった?」
「もう、あそこに用事は無いからです。」
「その盾とラバーズを見つけたからか?お前も気付いているだろう?下層の状況は異常だった。急に凶悪な原生生物が湧いたり、意図的だった。にも関わらずお前は下層から手を引いた。何故だ?」
「・・・言ったはずです。すでに用事は・・・」
アーカイブの言葉を遮り、大男が言葉を被せていく。
「いいや。俺様が言ってやる。アーカイブ。お前は失敗を恐れたんだ。失敗して”無能”と言われるのが怖くて、見ないふりをしたんだ。大方何か見つけたんだろ?なあ?でも調べる力が無かった・・・それがあの惨めな敗走だ。その上フォーチュンに罪を擦り付けて・・・。やる事が小っちゃいんだよ。お前は器じゃない。」
「黙れ。」
アーカイブは無能という言葉に反応して冷たい表情となり、能力で石剣を作ると大男にそれを突き立てる。
「ごふっ・・・。さし・・・ずめ・・・能力の高い原初の七祖に囲まれてコンプこじらせたか?」
「黙れ黙れ黙れ。」
ザクッザクッザクッザクッ
「・・そういう・・・ところだよ・・・。お前には・・・魅力が無い。お前のやり方じゃ早晩、みんな去るだろう・・・。お前は何物にもなれやしない・・・。」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」
ザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッ
「だから・・・無能・・・の原初・・・なんだよ・・・・・・・・・・。」
目から光が失われ、物言わぬ肉塊になり果てたソレを見て彼女は満足そうに微笑む。まるで自身を認めさせ、正しさを証明したかのように・・・
大男が大の字になって仰向けになり倒れている。彼の恵まれた体躯は砂と血と汗に塗れ、空から照らす光を受けてギラギラと鈍い光を放っていた。
その大男にスッと影が落ちる。その人物は大男上から覗き込み、ジッと見下ろしていた。
「なぜ反旗を翻したのです?」
「さっき言ったろ?道が違えたんだよ、アーカイブ。お前と俺とのな・・・。」
「違えた?まさか『昔の女に手を出したから』とか言いませんよね?」
「・・・へへへ・・・。」
大男は力無くだが満足そうに笑う。それで察したのか学者風の女は溜息をついた。
「呆れた・・・。あなた、あの女に殺されたのでしょう?それにもう百何十年も交流が無いはずですが?どうして今更・・・。」
「殺されたから思い出したのさ・・・。当初の目的をな。まだ、あいつ能力に呑まれず、しぶとく生きてやがったからな・・・。」
「悪人らしからぬ純情さですね。気持ち悪い・・・。」
「悪人が善事を行おうと、善人が悪事を行おうと、勝手だろう・・・?」
二人の会話を見守っていた、大男を切り伏せたであろう、血でぬれた剣を携えた騎士風の男が声を開く。
「何を言う!!人は善に生き、正しさを貫くべきだ!」
「く・・・はははははははは!!!」
「何故笑う!」
「何故って?これが笑わずにいられるか?お前には言われたくないぜ、ジャスティス。」
男が指を指す。その方角には血の池とその先に洞窟の入口があり、さながら地獄の門の様に見える。
「あれは・・・!・・・そう!正義の裁きを受けた罪人だ!」
「はははははははは!!」
「何が可笑しい!」
「『人が最も残酷になるのは悪に染まった時ではない。正義の側に立った時だ。』って聞いたことはねぇか?お前の事だよ、ジャスティス。・・・正義正義正義正義・・・。大層なこったなぁ?その正しさは誰が保証してくれるんだ?ええ?ここにいるアーカイブか?こいつの判断がどうして正しいと証明できるんだ?こんな奴の言いなりでよぉ・・・。自分で決められねぇ。判断出来ねぇ。いや・・・怖いんだろ?自分で判断するのが。もし違っていたら行使する力が正義ではなく、ただの暴力だもんなぁ!良かったなぁ~。決めてくれる奴がいてよぉ~?楽だろ~?人に任せたらよぉ。」
「だ、黙れ・・・。」
「正義だなんだ大層なもん掲げてもやってることはただの暴力だ。犯罪者と同じ穴のムジナだよ。その私刑の後があれってわけだ。ははははははははははは!!!」
大男は再び血の池を指さすと大声で嗤い出す。それを青ざめながらジャスティスは聞いていた。
「だ、黙れーーーー!!!!」
笑う大男に顔を歪ませながらジャスティスは剣を突き立てていく。その手をアーカイブが掴み、止める。
「待ちなさい!ジャスティス。まだ殺してはなりません。あなたはもう後方に下がってなさい!」
「ですが!!!」
「下がりなさい。」
「・・・はい・・・。」
ぴしゃりと言われるとジャスティスはフラフラと夢遊病患者のように去っていく。それを見送ってからアーカイブは再び大男に話しかけ始めた。
「私が間違っていると?」
「さあな、正誤は知らねぇよ。それこそ神にだって無理だろうよ、あいつ等、妙に人間くさいしな。そんなものきっと誰にも解らねえだろうよ。だが、これだけは言える。お前と俺の目的が一致しなかった、それは事実さ。それにお前には可能性を感じない。皆を導くようなカリスマを感じないのさ。・・・アーカイブ、どうして下層を隈なく調べなかった?」
「もう、あそこに用事は無いからです。」
「その盾とラバーズを見つけたからか?お前も気付いているだろう?下層の状況は異常だった。急に凶悪な原生生物が湧いたり、意図的だった。にも関わらずお前は下層から手を引いた。何故だ?」
「・・・言ったはずです。すでに用事は・・・」
アーカイブの言葉を遮り、大男が言葉を被せていく。
「いいや。俺様が言ってやる。アーカイブ。お前は失敗を恐れたんだ。失敗して”無能”と言われるのが怖くて、見ないふりをしたんだ。大方何か見つけたんだろ?なあ?でも調べる力が無かった・・・それがあの惨めな敗走だ。その上フォーチュンに罪を擦り付けて・・・。やる事が小っちゃいんだよ。お前は器じゃない。」
「黙れ。」
アーカイブは無能という言葉に反応して冷たい表情となり、能力で石剣を作ると大男にそれを突き立てる。
「ごふっ・・・。さし・・・ずめ・・・能力の高い原初の七祖に囲まれてコンプこじらせたか?」
「黙れ黙れ黙れ。」
ザクッザクッザクッザクッ
「・・そういう・・・ところだよ・・・。お前には・・・魅力が無い。お前のやり方じゃ早晩、みんな去るだろう・・・。お前は何物にもなれやしない・・・。」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」
ザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッ
「だから・・・無能・・・の原初・・・なんだよ・・・・・・・・・・。」
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