転移した先はバグだらけのモンスター育成ゲーム世界でした

色部耀

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鍛冶屋解禁

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 カンドの町に戻った頃には日もほとんど落ちていた。午後六時ぴったりに夜になるのは原作通り。もしかすると本当にこの世界には季節がないかもしれない。

「さっさと鍛冶屋に行って装備を解放しちゃおう」

「……」

 普段通り後方で寝ているリロはともかく、マナまでも返事をしなくなった。

「そんなにパイ毛ビームが嫌だったのか? あんなに楽しみにしてたっていうのに」

「あの見た目のスキルを喜ぶ女の子がいると思う? ねえ、いると思う?」

「女の子の友達とかいなかったし、分からないけど喜ぶ女の子もいるんじゃない?」

「本当にいると思う? しかも名前まで変えられて喜ぶ女の子がいると思う? 本当にいると思う?」

「さあ?」

「だから女の子の友達がいなかったんでしょ」

「おい。ちょっとそれ以上言うな」

 否定はできないけどクリティカルヒットだ。どうしてマナはクリティカルヒット率がこうも高いのだ。

「なんで私にはこんなに酷いことばっかり……」

「俺は巨乳派だからな」

「待って。やめて。これ以上追い討ちかけないで」

 理由を明確に示したというのにマナは不服のようだ。女の子というのは難しい。
 なんだかんだでマナも話をしてくれるようになったので鍛冶屋に向かった。営業時間は夜七時までのはずなのでギリギリ間に合った感じだ。

「鉄鉱石取ってきましたよー」

 鍛冶屋の中にはカウンターで居眠りをする店主。俺は店内に入って店主のそばに立つとそう言ってカウンターに鉄鉱石を置いた。一つあたり五キロほどの塊だろうか。そんなものを置いて衝撃でカウンターは揺れ、店主は飛び起きる羽目になった。

「お、おお? 本当に採ってきやがったのか!」

 寝起きにもかかわらず、店主は寝ぼけた様子もなく目を見開いて驚いた。そして鑑定するように俺が置いた鉄鉱石をまじまじと見る。しばらく確認したところで本物だと納得してくれたのか、店主は満足げな顔を俺に向ける。

「間違いねぇ。こいつはカンドの森で採れる鉄鉱石だ。約束通りこいつで作れる武器を作ってやろう。何が欲しいんだ?」

 何が欲しいか。そう聞かれた俺は迷わず答えた。

「杖でお願いします」

「杖か。分かった。明日取りに来るといい」

「楽しみにしてますね」

 俺はそれだけ言って鍛冶屋を後にした。鍛冶屋を出てすぐ。店内で黙っていたマナが不思議そうに口を開いた。

「なんで杖なの? 剣とか槍の方が強そうじゃない?」

「確かに攻撃力とか覚えるスキルを考えると剣が一番強い」

「剣が一番強いなら剣にした方がいいんじゃないの?」

 単純に自分の強さを求めるなら間違いなく剣だ。実際、育成を極めると最終的に装備は剣になる。しかし、直近の目的は最強ではない。

「サトリの町を壊滅させるバハムートを倒すために必要なスキルがある。それを覚えるのに杖が必要なだけだ」

 武器スキルを覚えるためには該当の武器を装備した状態でレベルを上げることが必要だ。レベルを上げた時にそのレベルより低いレベルで覚えるスキルを全て覚えることができる。杖スキルは味方の能力を上げるバフスキルや敵の能力を下げるデバフスキルが豊富に存在する。その中でも今回は相手の炎属性耐性を下げるダウンフレアというスキルが必要となる。

「サトリの町が壊滅……。本当にそんなことになるのかな……」

 マナは心配そうに呟く。俺だってそうならないのならそれに越したことはないと思う。なぜなら、このタイミングでバハムートを撃退してしまえば今後バハムートを捕獲して仲間にすることができなくなるのだから。
 最強モンスターの一角でありレジェンドモンスターのバハムート。原作でも今回のイベントバトルではどうしても捕獲はできないのだが、倒してしまったとしても強制的にバハムートに負けたことになってイベントは進む。その結果バハムートは死んだことにならず、終盤のダンジョンで再戦時に捕獲が可能になるのだ。この世界が必然性によって回るというのであれば、バハムートを倒すことで完全に消滅してしまう可能性もある。

 消滅しない可能性を考慮するならば、それこそサトリの町も壊滅してしまうし俺たちも全滅することになる。どちらも考えられる可能性だ。

「可能性だけの話なら、そうならない可能性だってある。でもそうなってしまう可能性は高いと思う」

「リロに聞いても分かんないしね」

 本当なら今後どうなるかは女神であるリロに分かるはずだが、残念なことに今のリロにそんな能力はない。ちゃんとした女神なら……

「そうだ。アウストに聞いてみようか。あの女神なら神域にいるし神の力でどうなるか調べて貰えるかもしれない」

「リロの上司って女神?」

「そうそう。ヘルプ画面でいつでも話せるはずだし。宿に戻って夕飯を済ませたら聞いてみるよ」

「私も聞いてて良い?」

 マナはなぜか不安げな表情でそう聞いてきた。

「良いけど、なんで?」

「えっとね……。リョウとリロと一緒にいて、私だけ何も知らないみたいなのが嫌っていうか……。なんか寂しいっていうか……」

「マナだけが何も知らないってのも確かだしな……。うん。今後の動きにも関わってくる可能性もゼロではないし、聞くだけ聞いててみるか?」

 俺がそう答えると、マナはパッと明るい顔になった。

「うん!」

 元気よく返事をしたマナはウサプーを抱きしめたまま飛び跳ねるように前に出ると宿を指さす。

「そうと決まれば早く行こ! お腹もすいたし!」

「私も今日は働き過ぎてお腹すいた」

「お前は寝てばっかりだったろ」

 便乗してきたリロにそう言ったものの、俺も空腹だ。早く宿に戻りたい気持ちも同じ。

「ほら行くぞ! 飯だ飯!」


 宿に到着し、食事の席に着くとリロは相変わらず嘘のようにおかわりをしまくる。その小さな体のどこに入っているのか不思議なほど食べる食べる。
 マナも一人前をペロリと平らげた。今日は長時間森を歩いた上に戦闘までこなしたのだから腹が減っていたのもうなづける。

「私は立ち会わないから。もしアウストが私を呼んでも寝たって言っといて」

 食事を終えて二階の部屋に移動中。リロは念を押すようにそう言った。

「実際寝てるんだろ? それに、会いたくないのにわざわざ呼んだりしないって」

「もし呼んだら分かってるでしょ?」

 リロはデコピンの素振りをする。

「分かってる! 分かってるからそれはやめろ」

「分かってるならよろしい。それじゃあおやすみ」

 リロはヒラヒラと手を振って隣の部屋に入る。俺とマナ、そしてマナに抱きかかえられたウサプーは昨日俺が泊まった部屋に入ったのだった。
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