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アウストとのテレビ電話
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俺が先に部屋へと入ってベッドに腰掛けると、続いて入ってきたマナは昨日使った椅子に座る。ウサプーはマナの膝の上だ。
「メニューウィンドウ越しにアウストと話すんだから隣に座れよ」
「え? あ、うん」
ベッドに座るように言われたことが意外だったのか、マナは魔の抜けた声を出した。
「まあ、魔が抜けてるのはいつものことか」
「待って、なんで? なんで突然馬鹿にされたの?」
「すまん。心の声が漏れただけだ」
「心の声が漏れただけなら仕方がない。……ってこともないよね?!」
マナは相変わらずやかましい。
「ほら、くだらないこと言ってないでアウストを呼び出すぞ」
「待って。私が悪いの?」
俺は隣で騒がしくしているマナを無視してメニューウィンドウを開く。牧場のコマンドが増えているものの、変わらずヘルプの項目は存在している。コントローラーでマーカーを操作してヘルプコマンドに合わせてAボタンを押す。
「もしもーし」
俺はムービー通話の感覚で語りかける。しかしヘルプウィンドウに表示されたアウストが俺に気づかなかった。
そのアウスト自身も昨日話をした時と様子が違う。昨日は殺風景な部屋にキーボードと沢山のウィンドウが浮かんでいただけだったのだが、今は高級そうなデスクチェアに座り、機能性重視のワーキングデスクを使っていた。ヘルプウィンドウに映し出されているアウストの後ろ姿は相変わらず仕事中の親父を思い起こさせる。乱雑に後ろにまとめられた長い銀髪も神々しさからはかけ離れている。
「もしもーし!」
二度目の俺の声かけにも動じずにアウストはキーボードを叩き続ける。一瞬動きを止めたかと思うと、おもむろにデスクに置いてあったエナジードリンクを開けると一気飲みした。よく見るとデスクの上には空のエナジードリンクの缶がいくつも転がっている。神様でもエナジードリンクを飲むものなんだな。
「おーい! アウストー!」
俺が名前を呼んだことでアウストはようやくこちらを見る。アウストは慌てた様子で椅子ごと体をこちらに向けると姿勢を正した。
「すみません。てっきりいつもの幻聴かと」
「いつもの幻聴って、むしろ大丈夫なんですか?」
マナの感想には俺も全面的に同意だ。日常的に幻聴が聴こえるのはとてもじゃないけど正常とは言えない。
「大丈夫ですよ。いつものことなので!」
ウケ狙いの冗談なのか本気なのか分からなかった俺は、それ以上深く聞くことができなかった。それ以上深く聞いてはいけないのだろう。
「そんなことより、どうされたのですか? リロちゃんは元気にしてますか?」
「リロはぐっすり寝てますよ」
「怪我も病気もしてないのなら良かったです」
「ええ、好きなだけ食べて好きなだけ寝て……とても充実してるんじゃないですかね」
俺の言葉を聞いたアウストは少し難しそうな顔をすると頷いた。
「たまにはゆっくり過ごして世界をその身で感じるのも良いでしょう」
リロから聞いていた話と印象が違う。てっきりもっとスパルタな性格なのかと思っていただけに、呆気にとられてしまう。
「サボってないで働けとかは言わないんですか?」
「ん? どうしてですか? リロちゃんができない分は私がやればいいだけじゃないですか」
「は、はあ……」
さも当然かのように言って首をかしげるアウスト。そしてまたしても当然の流れのようにエナジードリンクを開けて一気飲みするアウスト。
「ちょっと、ちょっと待ってください。エナドリをそんなに一気に飲んで大丈夫なんですか?」
あまり大量に飲むと逆に体調を崩すと聞いたことがある。そんなエナジードリンクをアウストはほとんど間を空けずに二本も飲み干したのだ。
「こう見えて神さまですからね。毒は効きません。まあ栄養も必要ないんですけどね」
「じゃあなんで飲んでるんですか……」
「地球の人は仕事中に飲むと頑張れるそうなので。あと単純に美味しいです。特にこのハワイアンレゲエパンチ味は絶品です」
アウストは飲み干したばかりのエナジードリンクの缶を頬に当てて微笑む。CMの依頼が来てもおかしくない良い表情と胸だ。
「ところでどうなさったのですか? ここからそちらの様子を観測だけは出来るようになったので何度か見ていましたが、特に変わったことはなさそうに思いましたが……」
こちらの様子を観測できているというのであれば話が早い。
「この世界が俺の元いた世界にある『モンスターうぃず』というゲームをベースに作られていることは知っていますか?」
「ええ。世界開発ログに残ってました。色々と杜撰な作り方になってしまってますね。構造が無茶苦茶に絡まり合ってスパゲッティみたいです」
「まあ……元のゲーム自体も杜撰な作りでバグだらけでしたからね……。俺が聞きたかったのはそのゲームでの今後とこの世界での今後がどれだけ違うものになってしまうかということなんです」
バハムートの復活。そしてサトリの町の崩壊。原作通りであれば今進めている準備でどうにかすることができる。流石にバハムートを倒しても強制的に俺たちが全滅扱いになるということはないと思うが、そこも確証が得られるのならば知りたいところ。
「なるほど。リョウさんにはリロちゃんの面倒を見てもらっている恩もありますし……。少々お待ちください。計算して解析してみますので」
アウストはそう言ってくるりと椅子を回転させると素早くキーボードを叩いて無数に浮かぶウィンドウを見る。俺の目からは理解できない文字の羅列が高速で流れていた。その文字の内容を理解し、使いこなせることは神の力の一端なのだろう。
アウストの後ろ姿を見て待つこと三分ほど。アウストはまたしてもエナジードリンクを一本飲み干すと俺の方に向き返った。
「モンスターうぃずのストーリーとそちらの世界はすでに大きな乖離を始めています。どれだけの変化があるかを口頭で説明すると時間がいくらあっても足りません。ですのでリョウさんが聞きたいポイントについてのみ端的に答える形で構わないでしょうか?」
リロとは大違いの働きっぷりは間違いなく神々しかった。心なしか背後でウィンドウの光を反射するエナジードリンクの空き缶も後光のように思える。
「では今後のターニングポイントになるバハムート復活について」
俺がそう切り出すと、アウストは浮いていたウィンドウの一つを目の前に移動させる。俺の視点からは裏面なので見えないが、バハムート復活に関するデータが映っているのだろう。
「原作だとカンド苔を取りに行った際に長い眠りから覚めて戦闘。実際の戦闘の勝敗に関わらず、プレイヤーは死亡扱いになってカンドに強制移動。バハムートはそのまま飛び去ってサトリの町を滅ぼす……。そんな流れですけど、この世界ではバハムートが本当に目覚めるのでしょうか? そして、実際に討伐できた際はどのような結果になるのでしょうか?」
俺が長々と説明している間もアウストはウィンドウに視線を向けて頷いていた。
「うーん」
アウストは腕を組んで少しの間目を瞑るとそう唸った。何か難しいことでもあるのだろうか。
「バハムートとは戦うことになると思います。元となったゲームと同じようにバハムートには寝ぐらに侵入者が現れると目を覚ます習性があるようです」
「それなら戦闘は避けられないか……」
でも考え方によっては都合が良いかもしれない。バハムートとの戦闘が確定事項ならば、ここで倒すと今後を安心して過ごすことができる。
「バハムートがサトリ山へ行く道中にサトリの町を滅ぼすこともまず間違いないでしょう。サトリ山はバハムートのもう一つの寝ぐらですし。そして戦闘の結果がどうなるかですが……」
アウストはそこで溜めを作る。俺も息を飲んで待つ。
「討伐に成功すればバハムートはそこで消えることになります。リョウさん達が強制的に死亡扱いになることもサトリの町が滅ぼされることもないと断言します」
「おお……。良かったです」
それなら俺の予定が狂うことなく上手くいきそうだ。
「リョウさんの懸念は晴れましたか? なら私も安心です」
アウストはそう言うとまたウィンドウに視線を戻した。その様子を見て俺は少し不安が戻る。安心したと言いながらもウィンドウを消さずに視線を戻す……。その動きが気になった。
「まだ何か俺が気付いていない問題でもあったんですか?」
ウィンドウに何か他のイレギュラーが表示されている可能性。俺はそれが気になって聞いたのだった。
「え? 何故ですか?」
「まだウィンドウを見ていたのでもしかして……と」
「ああ、これですか」
アウストはそう言って視線を向けていたウィンドウを俺の方に向けた。するとそこには――
「リロちゃんの寝顔です。さっきからずっと見ていたのです。可愛いです。癒しです」
アウストは産まれたばかりの我が子の写真を自慢する母親のような顔でそう伝えてきた。隣の部屋で大の字になっているリロの映像。盗撮というやつではないのだろうか? これはリロには言えない。
「は、はあ」
「リロちゃんは産まれたときから本当に可愛くて、ずっと可愛くて、今も可愛くて。尊い……」
可愛いと連呼するアウスト。リロが嫌がっていたのは仕事の件だけではないのかもしれない。うっとりとした顔をしていたアウストだったが、すぐにハッと我に返って咳払いをした。
「他には何か聞きたいこととかありますか?」
そう言われても直近で困ったことなどは思い浮かばない。しかし、これで淡白にお別れするのも寂しい。アウストは貴重な目の保養でもある。もう少し話をしていたい。
「あの……。俺がヘルプで呼び出す前に集中して何か作業をしていたみたいですけど、何をされてたんですか?」
三度目の名前を呼ぶまで振り返らずに集中していた作業。何か重要なことなのだろう。
「不甲斐ない話ですが、私は今こうして隔離された空間に閉じ込められてしまったわけじゃないですか?」
アウストは恥ずかしがるような仕草を見せながら目を逸らして言う。悪いのはリロなのだからアウストが申し訳なさそうにする必要はないのだけど。
「いつまでこうして隔離されたままなのか分かりませんが、その間に宇宙世界の管理ができないわけですよ。だからですね。神様業に復帰してすぐに遅れを取り戻せるようにプログラムを組んでいたんです」
「あ、やっぱり仕事ですか」
「宇宙に迷惑かけたら悪いですからね」
「宇宙に迷惑とか規模がデカすぎる」
「それにリロちゃんも頑張ってるんです。私一人が快適な部屋でダラダラしてるわけにいきません」
リロのやつはダラダラしてるんだけどな!
「あとはそちらの世界との接続を試みたり、この隔離空間から出る方法を探したりですね」
「その出る方法なんですが……」
俺がリロとの妥協点として話をしたことを伝えようと口を開くと、アウストが被せるようにして言ってきた。
「大変申し訳ないのですが、リョウさんにお願いがあるのです。そちらの世界から封印の扉を開けてはくれないでしょうか? サポートはもちろんのこと、報酬に私に出来ることなら何でもいたしましょう」
「ん? 今何でもって言いました?」
「ええ、私に出来ることなら何でも」
神様から言質を取った俺に出来ないことはない。
「分かりました。その願いを聞き届けました」
「これではどちらが神か分かりませんね。それでは頼りにしていますよ」
「任せてください!」
俺がぐっと握り拳を見せるとアウストはふふふっと笑ってみせた。笑いに伴って胸も揺れてみせる。ああ、とても大きい。見ていて幸せになれる。
「ところでもう一つ質問いいですか?」
「はい。何でもどうぞ」
「胸のサイズはいくつですか?」
そう聞いている途中でヘルプウィンドウは消えてしまった。隣を見ると俺のコントローラーでBを連打してウィンドウを消した犯人がいる。
「何するんだよ」
「お願いだから……。もう私の目の前で胸の話はしないで……」
悲痛な叫びだった。
アウストとの話を終えて時計を確認すると夜九時を過ぎていた。翌朝も早いため、マナを追い出してすぐにでも寝たいくらいだ。
「明日は六時から動きたいから早めに起きて準備しといてくれ」
ベッドから立ち上がって背伸びをしつつそう言う。マナは先ほどのことをまだ根に持っているのか、ジト目で睨みつけてきながらも自分の部屋に帰るべく扉へと一歩足を踏み出す。
「私だって……」
「ん?」
マナはそう言うと真っ直ぐに俺を睨みつけて、グーで俺の胸に一発パンチを繰り出した。ダメージはない。
「私だって頑張ってるんだからちょっとは認めてよね! じゃ、おやすみ!」
そう言ったマナは俺に返答する時間も与えずに走って部屋へと戻っていった。
「別に認めてないってことはないんだけどな……」
俺の言葉はマナには届かず、ただの独り言で終わる。今日は一日中動き回って疲れた。もう寝よう。明日もスケジュールは詰まっているのだから。
「メニューウィンドウ越しにアウストと話すんだから隣に座れよ」
「え? あ、うん」
ベッドに座るように言われたことが意外だったのか、マナは魔の抜けた声を出した。
「まあ、魔が抜けてるのはいつものことか」
「待って、なんで? なんで突然馬鹿にされたの?」
「すまん。心の声が漏れただけだ」
「心の声が漏れただけなら仕方がない。……ってこともないよね?!」
マナは相変わらずやかましい。
「ほら、くだらないこと言ってないでアウストを呼び出すぞ」
「待って。私が悪いの?」
俺は隣で騒がしくしているマナを無視してメニューウィンドウを開く。牧場のコマンドが増えているものの、変わらずヘルプの項目は存在している。コントローラーでマーカーを操作してヘルプコマンドに合わせてAボタンを押す。
「もしもーし」
俺はムービー通話の感覚で語りかける。しかしヘルプウィンドウに表示されたアウストが俺に気づかなかった。
そのアウスト自身も昨日話をした時と様子が違う。昨日は殺風景な部屋にキーボードと沢山のウィンドウが浮かんでいただけだったのだが、今は高級そうなデスクチェアに座り、機能性重視のワーキングデスクを使っていた。ヘルプウィンドウに映し出されているアウストの後ろ姿は相変わらず仕事中の親父を思い起こさせる。乱雑に後ろにまとめられた長い銀髪も神々しさからはかけ離れている。
「もしもーし!」
二度目の俺の声かけにも動じずにアウストはキーボードを叩き続ける。一瞬動きを止めたかと思うと、おもむろにデスクに置いてあったエナジードリンクを開けると一気飲みした。よく見るとデスクの上には空のエナジードリンクの缶がいくつも転がっている。神様でもエナジードリンクを飲むものなんだな。
「おーい! アウストー!」
俺が名前を呼んだことでアウストはようやくこちらを見る。アウストは慌てた様子で椅子ごと体をこちらに向けると姿勢を正した。
「すみません。てっきりいつもの幻聴かと」
「いつもの幻聴って、むしろ大丈夫なんですか?」
マナの感想には俺も全面的に同意だ。日常的に幻聴が聴こえるのはとてもじゃないけど正常とは言えない。
「大丈夫ですよ。いつものことなので!」
ウケ狙いの冗談なのか本気なのか分からなかった俺は、それ以上深く聞くことができなかった。それ以上深く聞いてはいけないのだろう。
「そんなことより、どうされたのですか? リロちゃんは元気にしてますか?」
「リロはぐっすり寝てますよ」
「怪我も病気もしてないのなら良かったです」
「ええ、好きなだけ食べて好きなだけ寝て……とても充実してるんじゃないですかね」
俺の言葉を聞いたアウストは少し難しそうな顔をすると頷いた。
「たまにはゆっくり過ごして世界をその身で感じるのも良いでしょう」
リロから聞いていた話と印象が違う。てっきりもっとスパルタな性格なのかと思っていただけに、呆気にとられてしまう。
「サボってないで働けとかは言わないんですか?」
「ん? どうしてですか? リロちゃんができない分は私がやればいいだけじゃないですか」
「は、はあ……」
さも当然かのように言って首をかしげるアウスト。そしてまたしても当然の流れのようにエナジードリンクを開けて一気飲みするアウスト。
「ちょっと、ちょっと待ってください。エナドリをそんなに一気に飲んで大丈夫なんですか?」
あまり大量に飲むと逆に体調を崩すと聞いたことがある。そんなエナジードリンクをアウストはほとんど間を空けずに二本も飲み干したのだ。
「こう見えて神さまですからね。毒は効きません。まあ栄養も必要ないんですけどね」
「じゃあなんで飲んでるんですか……」
「地球の人は仕事中に飲むと頑張れるそうなので。あと単純に美味しいです。特にこのハワイアンレゲエパンチ味は絶品です」
アウストは飲み干したばかりのエナジードリンクの缶を頬に当てて微笑む。CMの依頼が来てもおかしくない良い表情と胸だ。
「ところでどうなさったのですか? ここからそちらの様子を観測だけは出来るようになったので何度か見ていましたが、特に変わったことはなさそうに思いましたが……」
こちらの様子を観測できているというのであれば話が早い。
「この世界が俺の元いた世界にある『モンスターうぃず』というゲームをベースに作られていることは知っていますか?」
「ええ。世界開発ログに残ってました。色々と杜撰な作り方になってしまってますね。構造が無茶苦茶に絡まり合ってスパゲッティみたいです」
「まあ……元のゲーム自体も杜撰な作りでバグだらけでしたからね……。俺が聞きたかったのはそのゲームでの今後とこの世界での今後がどれだけ違うものになってしまうかということなんです」
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「なるほど。リョウさんにはリロちゃんの面倒を見てもらっている恩もありますし……。少々お待ちください。計算して解析してみますので」
アウストはそう言ってくるりと椅子を回転させると素早くキーボードを叩いて無数に浮かぶウィンドウを見る。俺の目からは理解できない文字の羅列が高速で流れていた。その文字の内容を理解し、使いこなせることは神の力の一端なのだろう。
アウストの後ろ姿を見て待つこと三分ほど。アウストはまたしてもエナジードリンクを一本飲み干すと俺の方に向き返った。
「モンスターうぃずのストーリーとそちらの世界はすでに大きな乖離を始めています。どれだけの変化があるかを口頭で説明すると時間がいくらあっても足りません。ですのでリョウさんが聞きたいポイントについてのみ端的に答える形で構わないでしょうか?」
リロとは大違いの働きっぷりは間違いなく神々しかった。心なしか背後でウィンドウの光を反射するエナジードリンクの空き缶も後光のように思える。
「では今後のターニングポイントになるバハムート復活について」
俺がそう切り出すと、アウストは浮いていたウィンドウの一つを目の前に移動させる。俺の視点からは裏面なので見えないが、バハムート復活に関するデータが映っているのだろう。
「原作だとカンド苔を取りに行った際に長い眠りから覚めて戦闘。実際の戦闘の勝敗に関わらず、プレイヤーは死亡扱いになってカンドに強制移動。バハムートはそのまま飛び去ってサトリの町を滅ぼす……。そんな流れですけど、この世界ではバハムートが本当に目覚めるのでしょうか? そして、実際に討伐できた際はどのような結果になるのでしょうか?」
俺が長々と説明している間もアウストはウィンドウに視線を向けて頷いていた。
「うーん」
アウストは腕を組んで少しの間目を瞑るとそう唸った。何か難しいことでもあるのだろうか。
「バハムートとは戦うことになると思います。元となったゲームと同じようにバハムートには寝ぐらに侵入者が現れると目を覚ます習性があるようです」
「それなら戦闘は避けられないか……」
でも考え方によっては都合が良いかもしれない。バハムートとの戦闘が確定事項ならば、ここで倒すと今後を安心して過ごすことができる。
「バハムートがサトリ山へ行く道中にサトリの町を滅ぼすこともまず間違いないでしょう。サトリ山はバハムートのもう一つの寝ぐらですし。そして戦闘の結果がどうなるかですが……」
アウストはそこで溜めを作る。俺も息を飲んで待つ。
「討伐に成功すればバハムートはそこで消えることになります。リョウさん達が強制的に死亡扱いになることもサトリの町が滅ぼされることもないと断言します」
「おお……。良かったです」
それなら俺の予定が狂うことなく上手くいきそうだ。
「リョウさんの懸念は晴れましたか? なら私も安心です」
アウストはそう言うとまたウィンドウに視線を戻した。その様子を見て俺は少し不安が戻る。安心したと言いながらもウィンドウを消さずに視線を戻す……。その動きが気になった。
「まだ何か俺が気付いていない問題でもあったんですか?」
ウィンドウに何か他のイレギュラーが表示されている可能性。俺はそれが気になって聞いたのだった。
「え? 何故ですか?」
「まだウィンドウを見ていたのでもしかして……と」
「ああ、これですか」
アウストはそう言って視線を向けていたウィンドウを俺の方に向けた。するとそこには――
「リロちゃんの寝顔です。さっきからずっと見ていたのです。可愛いです。癒しです」
アウストは産まれたばかりの我が子の写真を自慢する母親のような顔でそう伝えてきた。隣の部屋で大の字になっているリロの映像。盗撮というやつではないのだろうか? これはリロには言えない。
「は、はあ」
「リロちゃんは産まれたときから本当に可愛くて、ずっと可愛くて、今も可愛くて。尊い……」
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「他には何か聞きたいこととかありますか?」
そう言われても直近で困ったことなどは思い浮かばない。しかし、これで淡白にお別れするのも寂しい。アウストは貴重な目の保養でもある。もう少し話をしていたい。
「あの……。俺がヘルプで呼び出す前に集中して何か作業をしていたみたいですけど、何をされてたんですか?」
三度目の名前を呼ぶまで振り返らずに集中していた作業。何か重要なことなのだろう。
「不甲斐ない話ですが、私は今こうして隔離された空間に閉じ込められてしまったわけじゃないですか?」
アウストは恥ずかしがるような仕草を見せながら目を逸らして言う。悪いのはリロなのだからアウストが申し訳なさそうにする必要はないのだけど。
「いつまでこうして隔離されたままなのか分かりませんが、その間に宇宙世界の管理ができないわけですよ。だからですね。神様業に復帰してすぐに遅れを取り戻せるようにプログラムを組んでいたんです」
「あ、やっぱり仕事ですか」
「宇宙に迷惑かけたら悪いですからね」
「宇宙に迷惑とか規模がデカすぎる」
「それにリロちゃんも頑張ってるんです。私一人が快適な部屋でダラダラしてるわけにいきません」
リロのやつはダラダラしてるんだけどな!
「あとはそちらの世界との接続を試みたり、この隔離空間から出る方法を探したりですね」
「その出る方法なんですが……」
俺がリロとの妥協点として話をしたことを伝えようと口を開くと、アウストが被せるようにして言ってきた。
「大変申し訳ないのですが、リョウさんにお願いがあるのです。そちらの世界から封印の扉を開けてはくれないでしょうか? サポートはもちろんのこと、報酬に私に出来ることなら何でもいたしましょう」
「ん? 今何でもって言いました?」
「ええ、私に出来ることなら何でも」
神様から言質を取った俺に出来ないことはない。
「分かりました。その願いを聞き届けました」
「これではどちらが神か分かりませんね。それでは頼りにしていますよ」
「任せてください!」
俺がぐっと握り拳を見せるとアウストはふふふっと笑ってみせた。笑いに伴って胸も揺れてみせる。ああ、とても大きい。見ていて幸せになれる。
「ところでもう一つ質問いいですか?」
「はい。何でもどうぞ」
「胸のサイズはいくつですか?」
そう聞いている途中でヘルプウィンドウは消えてしまった。隣を見ると俺のコントローラーでBを連打してウィンドウを消した犯人がいる。
「何するんだよ」
「お願いだから……。もう私の目の前で胸の話はしないで……」
悲痛な叫びだった。
アウストとの話を終えて時計を確認すると夜九時を過ぎていた。翌朝も早いため、マナを追い出してすぐにでも寝たいくらいだ。
「明日は六時から動きたいから早めに起きて準備しといてくれ」
ベッドから立ち上がって背伸びをしつつそう言う。マナは先ほどのことをまだ根に持っているのか、ジト目で睨みつけてきながらも自分の部屋に帰るべく扉へと一歩足を踏み出す。
「私だって……」
「ん?」
マナはそう言うと真っ直ぐに俺を睨みつけて、グーで俺の胸に一発パンチを繰り出した。ダメージはない。
「私だって頑張ってるんだからちょっとは認めてよね! じゃ、おやすみ!」
そう言ったマナは俺に返答する時間も与えずに走って部屋へと戻っていった。
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