転移した先はバグだらけのモンスター育成ゲーム世界でした

色部耀

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ボスモンスター玄武

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「酷くない?!」

 マナは蘇生の巻物で生き返ってすぐにそう言って地面をバンバンと叩く。マナなりの猛抗議なのだろう。ウサプーが背中をさすって宥めてくれている。

「これ以外にマナを助け出して進む方法が無かったんだ」

「でも! でも。でも……あ!」

 マナはでもでもと言いながら何かに気付いたかのように台車を指さした。

「ベリルちゃん乗せて走ってた! 私も初めからそうしてくれてたらあんなことにならなかったんじゃないの!?」

 言われてみればそうだったかもしれない。しかし……うーん……。素直にマナの指摘に従うのも癪だ。

「自分より素早さの低いモンスターを輸送する際に自分も遅くなる可能性があった。俺が捕まるとその時点で全滅確定。それだけは防ぎたかったんだ」

「そ、それは……」

 自分で言いながら言い訳臭い。リロはため息をつきながら俺をジト目で見ている。ベリルちゃんは素直に納得している様子で可愛い。

「これからはこんな危険がないように注意するからそんなに怒るな。町に帰ったらマナを抱えて走っても大丈夫か検証するから」

「……分かった。その言葉信じるからね」

 マナからの疑惑の目はどうにか誤魔化すことができた。しかし今回は想定をできていなかった俺にも責任がある。リロやアウストに聞くなりしていれば予測できていたはずだ。

「リロ。これもやっぱり必然性ってやつか」

「だろうね。群れるモンスターが洞窟内でわざわざ一体ずつ戦いを挑んでくるなんてこと不自然極まりないもんね」

 クモマンもマキマキもアンダーションもモンスター辞典には群れて生活すると書かれている。フレイバーテキストもしっかりと世界に反映されているのだろう。

「これからは戦闘前にフレイバーテキストも確認しておいた方が良いな」

 俺はそう言ってすぐにこの後戦うボスモンスターのフレイバーテキストを調べた。初期化バグを使ったお陰でモンスター辞典のデータだけは消えていない。だから過去に戦ったモンスターの全情報を見ることができる。

「何見てるの?」

 俺が開いたメニューを覗き込んだベリルちゃんがそうやって尋ねてくる。表示されているのはボスモンスターの玄武。

「この先に行くとボスモンスターの玄武がいるはず。だから先に想定外の出来事が起こらないか調べてるんだ」

 モンスター辞典には群れるとは書かれておらず、他の弱いモンスターは近付かないとまで書かれていた。一安心といったところか。

「問題なさそうだ。普通に倒してしまおう」

 ボスモンスターは捕獲できない処理がされているので倒すしかない。捕獲不可の処理ができるのであればマナと女神にも同じ処理をしておけば良いのに、なぜ開発はそこをサボったのか小一時間ほど問いただしたいところだ。

「レベル六もあれば余裕を持って倒せるだろうし、マナとリスボールにはちょうどいい敵って感じだけどどうする?」

 ウサプーと食い込みヒップキャットで瞬殺なんてこともできるだろうが、今のうちから楽ばかりしていると後々苦労では済まなくなる可能性もある。そう思って聞いてみたところ、ベリルちゃんとマナは目を合わせて笑った。

「それなら私とリスボールでどうにかしてみせるわ」

「私もリスボールに指示して上手く立ち回ってみせる」

「そうか。なら頼んだ。俺はマナにバフかけたら後ろで見守りながら戦闘のアドバイスを飛ばすよ」

「任せて!」

 マナは力強く答えると握りこぶしを突き出した。俺はイレギュラーなことが起こらないかだけ注意していよう。


 セーフエリアから真っ直ぐに小道を進むと天井の裂け目からほのかに日光が差し込む広間に出た。そここそが玄武が現れる場所だ。今まで歩いてきた場所とは違う柔らかい地面。その地面の一部が山のように盛り上がっている。大きさは軽自動車が半分地面に埋まってる感じだろうか。

「マナ、ベリルちゃん。あの地面が盛り上がってるところに玄武が潜ってる。近付くと襲いかかってくるはずだ」

 フレイバーテキストにも書かれており、アニメ化された際にも同様の演出があったから間違いないだろう。原作だと広間に入ってすぐに中央にある岩が動き出すという内容だった。

「分かった。注意して近付くわ。他に注意しといた方がいいことってある?」

「そうだな……。HPが一割を切ると『地潜り』ってスキルを使ってくる。一ターン……いや一定時間か。一定時間地面に潜って攻撃が効かない状態になった後、不可避の攻撃が来る。地潜りをされる前に一気に削れなかったら、唯一ダメージが通るスキルでどうにかするから俺に任せてくれ」

「要するにガンガン攻撃してればいいってことね!」

 マナはそう言うと目を輝かせて玄武の背中を睨みつける。

「ああ、行ってこい。『アタックバイン』『ガードバイン』」

 俺はマナに二種類のバフをかけて送り出す。これでマナの攻撃力と防御力はレベル十相当にはなっている。スキルがほとんど使えない分与えられるダメージはレベル十相当とは言えないが、十二分に戦える。
 俺がバフをかけ終わったところでリスボールを連れたベリルちゃんとマナが玄武に近付いていく。俺もマナが自由に動けるようにできるだけ近付く。そして、マナとリスボールが玄武の背中に触れられるかといったところで地面が揺れる。

「リスボール! 下がって!」

 ベリルちゃんの指示に合わせてリスボールは後方に飛び退く。マナも同様に後ろに下がる。すると玄武は地響きと共にその巨体を地上に現して咆哮を上げた。その見た目は巨大な亀に他ならない。亀と言っても陸亀のように立体感のある亀。歯は無いが口は鋭く、尖った鼻先は地面を掘るために特化しているかのように平たく硬そうだ。

「さて、行くわよ!」

 そう言って勇敢に玄武の顔の横に接近したのはマナ。玄武の素早さもマナと同じ一。マナが先に攻撃をしたのならば余程の経験差が無ければ避けられることはない。
 マナの拳が玄武の横っ面に突き刺さると一瞬玄武が怯む。しかしすぐさま持ち直すとマナに鼻先を横振りに叩きつけようとする。

「あっぶなっ!」

 マナは地面に伏せるようにして避けるとそう言って目を見開いた。マナは今まで自分よりも素早さの高いバックキャットの攻撃さえ避けていたのだ。回避能力だけは飛び抜けて高い。これだけは才能があったと言える。

「リスボール! リスカットよ!」

 玄武の注意がマナに向いたところでベリルちゃんがリスボールに指示を出す。リスボールは玄武の左前足に向かって駆け寄ると何度か前転を挟んで飛びかかる。リスカット……やはり執拗に手首を狙っていく。
 リスカットが玄武にヒットすると玄武のHPバーが目に見えて減る。バフをかけたマナの通常攻撃の倍近い威力だ。二人合わせて一割ほどのダメージ。思ったより早く討伐できるかもしれない。
 それからも危なげなくマナとリスボールは玄武にダメージを与えていく。とはいえ、玄武もスキル「地鳴らし」を使って動きを止めにかかってくる場面もあったのでそのたびに少しずつダメージを受けていた。

「ヒール!」

「ありがとうリョウ!」

 俺はマナのHPが半分くらいまで減るたびにヒールをかける。俺の今の魔力ではマナの最大HPの半分程度しかヒールで回復させることができない。だからと言ってハイヒールはMP消費が多すぎるので使いたくない。

「マナ、次に攻撃をしたらリスボールのリスカットを待て」

「え? なんで?」

 しばらく戦い続けたところで俺はマナに口頭で指示を出した。

「玄武のHPが一割を切るタイミングは一番ダメージが通る技が良い。できればその直後に畳み掛けて倒せたらベストだ」

「分かった!」

「じゃあリスボール行くよ! リスカット!」

 俺の話を聞いてくれていたベリルちゃんはすぐさまリスボールに指示を出してくれた。またもやリスボールは玄武の左前足に飛びかかる。クリティカルヒットしたリスカットによって玄武のHPは五パーセントほどまで減る。

「マナ! 今だ! 叩き込め!」

「くらえ! って、あれ?!」

 意気込んで踏み込んだマナだったが、玄武が地面に潜ることで発生した地震で態勢を崩す。行動阻害スキルの地鳴らしと同じ効果だ。そのままマナもリスボールも追撃することができず、玄武に地面に身を隠されてしまった。

「リョウ! こうなったら任せるって話だったわよね?」

「ああ。任せろ」

 俺はそう言ってメニューウィンドウからマナのステータスを開く。

「マナ! 行くぞ!」

「え? え? 私?」

「パイ毛……」

「待って。え、待って!」

 俺はターゲットを玄武に合わせてAボタンをタッチする。

「ビーーーーム!!!!」

「なんでーーーー!!!!」

 マナは十字架に貼り付けられたかのように硬直すると、真っ直ぐに地面に向けてパイ毛ビームを放った。防御力無視、属性耐性無視でレベル依存の固定ダメージが入るスキル『パイ毛ビーム』。玄武の地潜りは物理、魔法全ての耐性を百パーセントにすることでダメージを受けない仕様になっていた。モンスターうぃずでは炎属性や氷属性だけでなく物理攻撃や無属性魔法もそれぞれ独立した『属性』として扱われている。そしてパイ毛ビームことダークスパイラルはそれら全ての属性耐性を無効化して固定ダメージを与える。つまり……

「パイ毛ビームならどんな状態の敵にもダメージを与えることができるからな」

「そのスキルだけは嫌って言ったじゃん……」

 膝をついてこうべを垂れるマナが文句を垂れる。その真下からは玄武が消滅したエフェクトが立ち上っていてとても幻想的だ。

「モノタウンに戻ったら自分の力でトドメを刺したって自慢して良いから元気出せよ」

「どの口がそんなこと言えるわけ?!」

 マナはそう言って俺を睨みつける。そんなに言うほどパイ毛ビームが嫌なのか……。強いスキルなのに。
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