サイコミステリー

色部耀

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6.欲求

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 一年生で二人しか居ないという未確定能力者。そのことについてだろう。呼び出すほどの何かがあるのかもしれないが、そこまでは分からない。

「本来ならばPGを持つ人間は第二次性徴が訪れる中学までに能力を開花させるものなんだ。強い欲求と感情に伴うPGの活性化だと言われている。十五歳までが最も感情の高まりが強いとも言われている。まあ、一パーセント以下の確率ではあるがそれ以上の年齢でも能力の開花は行われるんだが……」

 そこで小西先生は少し間を開けた。

「何か問題でもあるんですか?」

「歳を重ねてから開花する能力は社会的に危険なものになる可能性が高いんだよ。そうなると一生苦労させてしまうことになる。だからメンタルケアと言ったら仰々しいが、こうして本人と話をする機会を設ける決まりになってる」

 危険だから管理を強化するということだろう。正直に話をしてくれてありがたい。疑ってかかる必要がない分精神的に楽だ。

「先に話した通りだが、特殊能力の開花には強い欲求と感情が鍵になって来る。端的に聞くが、今二人は何か強い欲求があったり大きく感情を揺さぶられたりすることがあったりしないか?」

 欲求と強い感情……そう言われてもピンとくるもの……。

「俺は……」

 そう口を開いたところで小西先生と美波さんが俺に視線を集中させる。少し緊張してしまう。

「普通に過ごしたいって欲求が強いと思います」

 それ以外に欲求らしい欲求は特に思い浮かばない。しかしその返事を聞いて小西先生はため息をついた。

「つまらん」

「つまらんってなんですか」

 社会的に危険な能力を身に付けようとしていないから安心して欲しいくらいだ。

「今まではそうやって過ごしていたかもしれないが、この高校だとみんながみんな強い個性を持っている分そう言ったことも言ってられなくなるかもしれないな。定期的にこうやって面談させてもらうから素直に自分がやりたいこととか欲しいものについて話してくれ」

「善処します」

 とはいえ、俺が普通でありたいと願っているのは幼い頃からだ。それ以上に求めるものがほいほい現れるとは思えない。これは長い戦いになりそうだ。

「美波は何かあるか?」

 話を振られた美波さんは俯いて目を瞑るとしばらく考え込んでいた。女の子の欲求と言えばなんだろうか。可愛くなりたい? スタイルが良くなりたい? 美波さんの体型だとスタイルが良くなりたいとかあり得るな。失礼だから口には出さないけれど。あとは普通にお金が欲しいとか服が欲しいとか、成績が良くなりたいとか。それとも病気の話をしていたから健康に関する欲求だろうか。普通に考えるならその可能性が高い。病気に関わること。それならば小西先生が心配する犯罪的な特殊能力が発現する危険も少なそうだ。
 しかし美波さんはそんな俺の予想とは違う答えを出したのだった。

「特に……思いつきません」
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