サイコミステリー

色部耀

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13.二者面談

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 少しの沈黙の後に美波さんが言ったのはそれだった。美波さんはここから自分の通っていた母校への行き方が分からない様子。地図アプリで調べれば簡単に行けると思うのだが、ここで聞く必要があったのだろうか。

「やっぱり探しものはそういうことか……」

 美波さんのお父さんは伏し目がちにそう呟くとしばらくの間黙って目を瞑った。美波さんと同じく何か言いにくいものなのだろうか。気にはなるものの、美波さんからも待つように言われているし今聞くべきではない。そう俺は結論付けた。

「口頭で伝えるよりも文章で伝えた方が調べるのにも良いだろう。メールで送るよ」

 そう言うと枕元に置いていたスマートフォンでメールを打ち始めた。確かに口頭で伝えるよりは読み返したりできる分効率的だ。社会人としてはそちらの方が普通なのかもしれない。

「手伝ってくれる真壁君に何も出さないのは悪いし……。そうだ聖奈。下の売店でジュースか何か買ってきてあげなさい」

 メールを打ちながら美波さんのお父さんは財布を手に取ると、美波さんに渡すために手を伸ばした。上体を動かすことすら辛そうで、ベッドから降りて手渡すまではできない様子だった。美波さんは椅子から立ち上がると財布を受け取る。

「はい。行ってきます」

「廊下は走らずゆっくり歩くんだよ。聖奈もこの前まで体が悪かったんだから」

「はい」

 礼儀正しく返事をした美波さんは、お辞儀をして病室から出て行く。よくよく考えると美波さんが戻ってくるまでお父さんと二人きりじゃないか。そもそも美波さん自身ともあまり仲良くなったとも言い難い間柄だというのに、この状況は気まずいにも程がある。何か話題を振った方が良いのだろうか。なんてことを考えていると、美波さんのお父さんの方から話し掛けてくれた。

「まだ登校初日だけど、聖奈は元気そうにしてるかい?」

「そうですね。初対面から俺に話しかけてきたくらいですし、すぐに友達もたくさんできると思います」

 当たり障りのない。それこそテンプレートのような回答だったが美波さんのお父さんは安心したような柔らかい表情を浮かべた。心配なのも当然だ。普通なら娘が日本に二つしかない全寮制の特別な高校に通うとなれば気が気ではないだろう。

「そうか。それなら良かった。聖奈には俺のせいで苦労かけているからね。今までも、これからも」

 美波さんのお父さんは柔らかい表情のままだったが、まるで諦めたような悟ったような感じにも見えた。メールを送り終えたのか、スマートフォンを見つめたまま小さく溜息を吐く。

「美波さんは全く苦労をかけられているような素振りはありませんでしたし、あまり気にしすぎなくても大丈夫じゃないですか? ってこんなガキが言ってもなんですが」

「真壁君は優しいんだね。あの子が頼りにした理由が分かるよ。俺も元気なら君とも仲良くなれたかもしれないと思うとこの身体が恨めしいよ」

 美波さんのお父さんはそう言うと両の掌を見つめて悲しそうな顔をする。やはり体の調子は相当に悪いのだろう。聞いて良いのか分からない。とてもセンシティブな内容だ。

「俺はね。もう宣告されていた余命を過ぎているんだ。いつ死んでもおかしくない末期癌で病院から出ることもできない。毎日顔を見せてくれる聖奈が幸せに過ごしてくれる……それだけが今の俺の望みなんだ。だから真壁君には聖奈と最後まで仲良くしてやって欲しい」

 俺なんかが聞いて良いような話だったのだろうか。そんなことすら思うほどに重たい話だった。いつ亡くなるか分からない状態だとは前もって聞いていたが、直接本人の口から聞くと違った感覚になる。間違った反応をしたくないという強い感覚。そのせいかどういう顔をしたらいいのか分からない。けれどもどういう答えをするべきかだけは決まっている。

「俺で良ければ仲良くさせていただきます」

 ほぼ反射的にそう答えはしたものの、美波さんのお父さんの言葉で一つだけ気にかかるところがあった。最後まで仲良くしてやって欲しいという言葉。これからもずっと仲良くして欲しいなら分かる。それなら普通だ。しかし美波さんのお父さんはこう言ったのだ。最後まで――と。美波さんが俺をここに連れてきた理由。それはお父さんと話をして探しもののヒントを得ること。大雑把に解釈をするとすればそんなところだ。会話の中に含まれる違和感。それがヒントに繋がる可能性は高い。それならば少し探りを入れてみるべきかもしれない。いや、むしろ美波さんがいない今ここで本題を聞くのが早い。

「あの……美波さんの探しものについてなんですけど……」

「聖奈は何を探していると言っていたんだ?」
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