32 / 65
31.見た目
しおりを挟む
それから家を出ると六時半を過ぎていた。寮の門限に間に合わせるためにはこれ以上のんびりすることはできないラインだった。
「お時間お掛けして申し訳ありませんでした」
勢いよく頭を下げた美波さん。その機敏な謝罪に俺は驚きつつも頭を上げるように伝える。
「大丈夫だから頭上げて。次の電車に乗ればギリギリ門限には間に合うから」
俺がそう伝えても美波さんはまだ申し訳なさそうにしていた。そして申し訳なさそうにしながらもおどおどと話し始めた。
「あの……その……。追加報酬の件なんですけど……。今から駅までというのはどうでしょうか。いえ、もちろん記憶喪失なんて頭のおかしい女なんか触れたくもないというのであれば仕方ないですし、代わりのものを請求していただければお応えしますので」
美波さんは挙動不審な様子で視線をあちこちに彷徨わせ、両手を顔の前でぶんぶんと振りながらそう言った。
「え……」
その様子が見ていられなかった俺は美波さんの手を握って駅の方へと歩きだす。美波さんは間の抜けた声を出すと慌てて俺の隣に並ぶ。隣に並んでくれた方が俺も手を繋いで歩きやすい。
「えっと、その……。追加報酬の件は承諾いただけたということでしょうか? 私の中身に価値は無くなっても、見た目にはまだ最低限報酬と呼べるだけの価値が残っていると思っていいのでしょうか?」
「俺は記憶失くす前の美波さんのことを知らない。だから俺にとっての美波さんは今の美波さんでしかない。それに俺だって昔のこととか覚えてないしね。小学校より前のこととか通ってた幼稚園の名前すら覚えてないくらいだし」
「ありがとう……ございます……」
美波さんはそう言って俯いてしまった。繋いだ手を通して震えが伝わってくる。俺の手を握り返す力は強く、決して離さないという意思でもあるかのようだった。そのまま握り続けられると少し痛いけれど、これで美波さんが少しでも安心できるなら安いものだ。
「真壁君の好みの見た目に産まれて本当に良かったです……」
「そうだな」
照れ隠しなのかなんなのか美波さんが言った的外れな言葉に俺は適当に返す。それから俺たちは駅に着くまで手を繋いだまま無言で歩くことになった。女の子と手を繋ぐのなんて初めてだし、緊張しないわけがない。緊張しないわけがないのだが、なぜか妙な懐かしさを感じる。俺から手を取ったのに、逆に力一杯握り返してきている美波さんの手を、俺は何故だか知っているような気がした。そんな不思議な感覚を俺は抱いていた。
「お時間お掛けして申し訳ありませんでした」
勢いよく頭を下げた美波さん。その機敏な謝罪に俺は驚きつつも頭を上げるように伝える。
「大丈夫だから頭上げて。次の電車に乗ればギリギリ門限には間に合うから」
俺がそう伝えても美波さんはまだ申し訳なさそうにしていた。そして申し訳なさそうにしながらもおどおどと話し始めた。
「あの……その……。追加報酬の件なんですけど……。今から駅までというのはどうでしょうか。いえ、もちろん記憶喪失なんて頭のおかしい女なんか触れたくもないというのであれば仕方ないですし、代わりのものを請求していただければお応えしますので」
美波さんは挙動不審な様子で視線をあちこちに彷徨わせ、両手を顔の前でぶんぶんと振りながらそう言った。
「え……」
その様子が見ていられなかった俺は美波さんの手を握って駅の方へと歩きだす。美波さんは間の抜けた声を出すと慌てて俺の隣に並ぶ。隣に並んでくれた方が俺も手を繋いで歩きやすい。
「えっと、その……。追加報酬の件は承諾いただけたということでしょうか? 私の中身に価値は無くなっても、見た目にはまだ最低限報酬と呼べるだけの価値が残っていると思っていいのでしょうか?」
「俺は記憶失くす前の美波さんのことを知らない。だから俺にとっての美波さんは今の美波さんでしかない。それに俺だって昔のこととか覚えてないしね。小学校より前のこととか通ってた幼稚園の名前すら覚えてないくらいだし」
「ありがとう……ございます……」
美波さんはそう言って俯いてしまった。繋いだ手を通して震えが伝わってくる。俺の手を握り返す力は強く、決して離さないという意思でもあるかのようだった。そのまま握り続けられると少し痛いけれど、これで美波さんが少しでも安心できるなら安いものだ。
「真壁君の好みの見た目に産まれて本当に良かったです……」
「そうだな」
照れ隠しなのかなんなのか美波さんが言った的外れな言葉に俺は適当に返す。それから俺たちは駅に着くまで手を繋いだまま無言で歩くことになった。女の子と手を繋ぐのなんて初めてだし、緊張しないわけがない。緊張しないわけがないのだが、なぜか妙な懐かしさを感じる。俺から手を取ったのに、逆に力一杯握り返してきている美波さんの手を、俺は何故だか知っているような気がした。そんな不思議な感覚を俺は抱いていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる